1月1日〜1月4日のメモ

ポカポカ陽気に何となく気が緩んでいる間に、終わってしまった感がある三が日。
今年の休みはそうでなくても短かった上に、昨年末いろいろバタバタしていたこともあってほとんど休んだ気はしないのだが、それでも新しい一年は無情にも始まってしまう。

ということで、自分の頭の中はまだまだお休みムードではあるのだが、新年からネタを溜めこむのも縁起が悪いので、この辺で今年最初のメモを。

「経営者が占う」シリーズ今年も・・・。

毎年、新年の日経新聞紙面を飾っているのが、経営者による一年の株価、為替等の予想記事なのだが、これが恐ろしいほど当たらない。

例えば、昨年の株価の予想を見ると、大方、高値が22,000円〜23,000円くらい、安値が17,000円〜19,000円くらいのレンジに収まっているのだが、実際には、高値が19,592.9円(12月)、安値が14,864.01円(6月)ということで、まぁ外れに外れている(笑)。

為替の方は、12月末時点の116円台、というレンジを予想している人はそれなりにいるからまだマシなのだが、6月末時点の102円台、という水準は当然誰も予想できていないわけで・・・。

もちろん、競馬の予想でもプロ野球の順位予想でも、メディアに出てくる予想が百発百中になることなどあるはずがないので、予想を外す分には構わないのだが、この企画が嫌らしいのは、どれだけ外しても懲りずに同じ面々が名前を連ねている、ということ。しかも前年の予想が外れたことについての弁解はなし・・・。

2016年に関しては、メディアも含めて、多くの有識者が予想できなかったBrexitショックだの、トランプフィーバーだのがあった関係で、例年以上に予想しづらい展開だったのは事実だし、あまり目立つ予想をして自社の株主に変な懸念を抱かせてはいけない、という周囲の深謀遠慮なども当然含めての「予想」なのは理解できるが、それでも、今年、株価の高値が21000〜23000円くらいのレンジで、しかも年後半にピークが来る、といったような予想が並んでいるのを見てしまうと*1、もう少し本気で当てに行ってほしいなぁ・・・と思わずにはいられない*2

給与所得者、ますますの負担増

これも、新年早々から景気の悪い話というかなんというか。

「年収1000万円超を超える給与所得者に対して、給与所得控除を縮小して所得税増税」、「年収1200万円を超える給与所得者を対象に、給与所得控除を縮小して住民税を増税」、「介護保険料の総報酬割導入」といった悲しい見出しが次々と並んでいる*3

そうでなくても、報酬比例で天引きされる金額は、一定の所得水準を超えると右肩上がりで増えていくし、自営業者とは違って「交際費」も「必要経費」も、自分の財布から出さないといけない(そして、その手の支出は地位が上がり、求められる能力が上がるほど増えていく)立場だけに、これ以上搾り取ってどうするのか・・・という感情しか湧いてこない*4

そして、国内消費を喚起しよう、と躍起になっている今の政府が、もっとも消費支出を牽引できるはずの層に税制、社会保障制度を通じて悪しきメッセージを送っている、という矛盾に、何とも言えない気持ちになるのである。

サッカー天皇杯フロンターレ、またしても無冠。

名将・風間八宏監督が率いる最後のシーズン、最後のカップ戦で初めての決勝進出を果たし、遂にこれで有終の美か!と期待させてくれた川崎フロンターレだが、またしても鹿島アントラーズの前に苦杯をなめる結果となってしまった。

石井監督が率いる今のアントラーズは、アンチの目から見ても掛け値なしに良いチームだけに、この結果自体は仕方ないと思うのだが、何で最後の最後にこうなっちゃうのか・・・という思いは残る。

勝戦でも、後半同点に追いついた時間帯は、小林選手も三好選手もキレキレで、一気呵成に押し切れるムード満点だったのに、あと一歩のところで流れを掴み切れない空しさ。

リーグ戦終了後に囁かれていたとおり、風間監督の次の職場は名古屋、ということになったようなので、そこで徹底的に勝ち切るチームが作れるようであれば、「日本代表監督」の座も近づいてくると思うのだけれど、そこはお手並み拝見、といったところだろうか。

実業団駅伝の流れがこれで変わるのか?

もう一つスポーツネタ、ということで、元旦のニューイヤー駅伝の話。

去年まで箱根のスターだった神野大地選手は今一つ見せ場を作れず、他の区間でもかつての箱根の花形選手の名前を芳しくないポジションで見かけるなど、例年同様の憂鬱感を味わいながら見ていたのだが、終わってみれば、外国人選手を起用しなかった旭化成が18年ぶりに優勝する、という快挙。

元々は、この大会の常勝チームで、18年前の優勝も、川嶋伸次選手や佐藤信之、小島兄弟といった実業団駅伝の顔となる選手たちを擁して3連覇(しかもその前は一度の2位を挟んで6連覇していた、という恐ろしい状況だった)した時だから、まさかそれ以来、こんなに長く優勝できない状況が続くとは思いもしなかったのだが、今回、ようやく復活を果たすことになった。

思えば、旭化成の名前が優勝チームの欄から消えていた時期は、他の実業団チームの外国人選手たちが猛威を奮っていた時期と重なるのだが、2009年の「ルール改正」で外国人選手を使える区間が限定されたことや、外国人選手の実力が必ずしもチームの総合力と比例しない傾向が強まってきたこと*5が、結果的に、長年外国人選手を使っていない旭化成の不利を打ち消したのだろう。

これが、“今年限り”の奇跡なのか、それとも、この流れで、あえて外国人に頼らないチーム作りを進めていく会社が増えていくことになるのかは分からないが、いずれにしてもエポックメーキングな出来事だったことは間違いない、と思うところである。

それでも、まだ見られている紅白。

出場歌手の発表の時も、曲順発表の時も、お騒がせSMAPはともかく、和田アキ子が出ない紅白なんて誰が見るんだよ、と思って、自分は完全にそっぽを向いてしまったのだが、それでも今年の紅白歌合戦の視聴率(関東)は、昨年を上回る40.2%、という数字になったそうである*6

視聴率の推移(歌手の中では、大トリの「嵐」が最高、全体では優勝決定場面、ということらしい*7)を見ると、「もしかしたら最後の最後にSMAPがサプライズで出てくるのでは?」的な願望が視聴率を押し上げたように思えなくもないのだが、いずれにしても、今年のコンテンツで「40%」という数字が出てしまう理由をどう考えればよいのか、自分にはよく分からない*8

「とりあえず大晦日にテレビを付けるなら紅白」という刷りこみに支配されている間は、永遠に昭和は終わらないぞ・・・と悪態をつきたくなるところなのだが、もしかすると、この状況は、「いい野党がいないから」という理由で支持される某政権と共通していたりもするのかもしれないな、と思い、余計に切なくなった。

*1:日本経済新聞2016年1月1日付朝刊・第30面、第31面。

*2:普通に考えれば、トランプ大統領の就任から1〜2カ月くらいの時期が山でにどでかいヤマが来て、何かと不確定要素が多い年後半には相場が崩れる、と予想するのが常識的だろう、と思うのであるが・・・。

*3:日本経済新聞2016年1月4日付朝刊・第3面。

*4:その結果、年収1000万円を少々超えたくらいでは、年収800万円台の時代と手元に残るお金がそんなに変わらないので、財布の紐は全然緩まない、ということになってしまう。自分の場合、それがそこからさらに飛び抜けるためのモチベーションになったから良かったものの、“手取り頭打ち”という現実がネガティブなモチベーションにつながるケースも時々見聞きするところではある。

*5:今年に関しては、DeNAのカロキ選手が抜群の走りを見せていたが、出だしが好調だった日清食品や、2連覇中だったトヨタの外国人選手はそこまでの力を発揮できていなかった。

*6:日本経済新聞2016年1月3日付朝刊・第34面。

*7:http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2017/01/04/kiji/20170104s00041000126000c.html

*8:恋ダンス」は自分も見たかったし、RADWIMPSの登場場面などは万難を排して自分も見たのは確かだが、それ以外に何かあったのか。そもそも、数少ない秀逸コンテンツのいずれもがNHKオリジナルのものではない、という点に、最近の紅白のどうしようもなさを感じるのだが・・・。

12月24日〜29日のメモ

夏場くらいから勢いよく始めたものの、何となく尻切れトンボ的に止まってしまっている「備忘メモ」シリーズ。
とはいえ、ネタを溜めたまま新しい年に突入するのは心苦しいので、少し遡りつつ書き残しておくことにする*1

21世紀の電通事件、遂にここまで。

昨年亡くなった社員が労災認定を受けた、というニュースをきっかけに、今年最後の3カ月、話題に上らない日がなかった「21世紀の電通事件」。
そして、年の瀬も押し迫った29日になって、とうとうこの種の事案としては極めて異例の展開であることを象徴するような記事が躍ることになってしまった。

電通の石井直社長(65)は28日、都内で開いた記者会見で2017年1月で辞任する意向を表明した。同社の女性新入社員、高橋まつりさん(当時24)が過労自殺した問題で厚生労働省東京労働局が同日、労働基準法違反容疑で上司と電通書類送検したことを受けて責任を取る。石井社長は記者会見の冒頭で「高橋さんのご冥福を祈るとともに、ご遺族をはじめ、社会のみなさまにおわびを申し上げる」と謝罪した。そのうえで「全ての責任を取り、来年1月の取締役会をもって社長執行役員を辞任したい」と話した。取締役に関しては3月の株主総会まで続ける。後任の社長については「まだ白紙」とした。東京労働局の書類送検容疑は、高橋さんともう1人の男性社員に15年10〜12月、労使協定の上限を超える違法な残業をさせた疑い。東京労働局は28日の会見で「全容はまだ解明されていない」と説明。電通本社の上層部や3支社の幹部らの立件を視野に年明け以降も捜査を続ける。早ければ今年度内に書類送検する方針だ。」(日本経済新聞2016年12月29日付朝刊・第1面、強調筆者)

見出しになっているのは「社長辞任」の方だが、法務関係者としては、むしろ、(前日から話題になっていた)電通ほどの大会社で「上司が労働基準法違反容疑で書類送検された」ことのインパクトの方が遥かに大きい。

本件で、「残業指示」がどのレベルの強度で行われていたのか、三六協定上限との関係で残業時間がどのような過程を経て過少に申告されたのか、といった点の事実関係がもう少し明らかにならないと、軽々しく論じることはできないのだが、身につまされる思いをしている管理職社員は多いはず。

もっとも、個人的には、このニュースが炎上し始めて以来、「労働時間が長かったことだけの問題ではないだろう」とずっと思い続けているし、「三六協定上限超過」という点だけがフォーカスされる形で「事件」化されることは、働く者の環境改善に何ら寄与するところはないと思っているのだが、この辺が労働局、そして、労働行政の限界なのかもしれない。

迷走する労働政策〜 政府、正社員の副業後押し?/違法残業、社名公表厳しく

電通の一件もあって、注目度が一気に上がっている感がある労働政策だが、政府サイドでも“具体的施策”をいろいろと打ち出してきている。

12月26日付で厚生労働省が公表した「「過労死等ゼロ」緊急対策」*2などは、まさに機を見るに敏、といった感じで、具体的なターゲットの設定の仕方等*3に疑問の余地はあるものの、方向性としては昨今の潮流に反するものではない。

だが、12月26日付の日経紙朝刊に掲載された「正社員の副業 後押し」というのはどうなのか。

具体的な中身としては、現在厚生労働省が公表しているモデル就業規則第11条第6号(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118959.pdf参照)を書き換える、ということのようで、そのこと自体は別に悪い話ではないのだが、元々「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」というのは、二重就業禁止の規定で、一般的な「副業」をすべからく禁止するものではない、というのが正しい読み方であるはず。

したがって、上記のような規定が就業規則に入っていようがいまいが、休みの時間を使って、フリーランスで物書きだとかWebサイトの製作だとか、地域の半分ボランティア的や農作業といった仕事をやっている人は今でもたくさんいるし、それが殊更に問題視されるようなこともなかったはずだ*4

政府が目指しているのが、そんな“小遣い稼ぎ”ではない本格的な「副業」を全ての労働者にやらせる、ということなのだとすれば、なるほどそれは高い志だ(苦笑)、ということになるが、本業ですら十分なパフォーマンスを発揮できずに四苦八苦している人が多い中で、「副業」まで手を出して力を発揮できる人間がどれだけいるのか、という素朴な疑問はあるし、そもそも「長時間労働是正」という話とどう両立させるつもりなのか、ということも全く理解できない。

「賃金水準の押し上げ」という話なら、労働者に「副業」という負担を負わせるのではなく、個々の企業の自助努力と労働市場の流動化を促進させる方向に舵を切るべきだし、「人手不足の解消」という話なら、IT化・自動化の促進でカバーするのが本来の形。
そして、「労働者の意識向上や、やり甲斐」などというものを掲げるのであれば、正直言ってそれは余計なお世話、だと思うのだが・・・。

まとめサイト問題

一部のネットベンチャー企業の今後のビジネスモデルに大きな影響を与えるかもしれない、と言われている「キュレーションサイト」問題。
日経新聞が「まとめサイト 不信の連鎖」というタイトルで27日から連載を始めているのだが、読み物としてはそこそこ面白いものの、何となく掘り下げ不足感は否めない。

「キュレーションサイト」の作り方の問題を指摘するためには、既存のメディアとの比較でどうなのか、という点をビシッと検証しないといけないはずなのだが、「インターネットの情報なんて所詮そんなもの」「何となくうさん臭いと思っていた」という表面的なイメージをベースに記事が構成されているから*5、問題意識が十分に伝わってこないのである。

個人的には、第三者委員会の報告書で、その辺についてどこまで突っ込んだ指摘がなされるのか、ということに期待してみたいと思っている。

法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムの審査結果発表。

昨年、初めて「補助金ゼロ」が出た、ということで話題となった「法科大学院への補助金配分」問題。
今年も9月の時点では、最低ランク(ゼロ)が7校、という状況になっていたのだが、その他のプログラム等を加味した最終結果が、文部科学省から公表された。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/1380774.htm

「各校が取り組む特色あるプログラムを評価した結果、10校が前年度から増額、31校が減額となり、このうち北海学園、明治、南山、近畿の4大学は補助金がゼロとなった。」(日本経済新聞2016年12月27日付朝刊・第34面)

昨年トップだった早稲田が145%→140%、東京も135%→125%となる一方で、慶応、京都などはアップ。
配分率100%を超えた学校は10校、補助金ゼロも4校*6、と昨年から変わっておらず、内訳で若干入れ替わりがあった程度なので、構造的には大きな変化なし、ということになるのだろう。

なお、文部科学省のHPに掲載されている各法科大学院の取組みとそれに対する評価を、どう読み解けばよいのか、という悩みは依然として残るものの*7、北海道で行われている知的財産分野の「サマーセミナー」が、「卓越した優れた取組」ベスト6に挙げられていることは実にまっとうで素晴らしいことだと思うだけに、他の法科大学院でも、これを見習ってスクールの「オープン化」の取組みを加速してほしいものだ、と心から思う。

将棋連盟調査委、コンピュータソフト不正使用疑惑に「証拠なし」

10月頃に突如として吹き出し三浦弘行九段による「対局中にコンピューターソフトを不正使用した」疑惑。
竜王戦の対戦相手は差し替えられた上に、一時は、現役棋士からも「クロ」を裏付けるような発言が出て、「疑惑」では済まない話なのだろうなぁ、と勝手に思っていたのだが、12月27日に第三者調査委員会が公表した報告書において、

「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」(日本経済新聞2016年12月27日付朝刊・第35面)

と認定されてしまう、という衝撃の結果に。

記事によれば、「将棋連盟が下した12月末までの出場停止処分は「非常事態でやむを得なかった」」としたものの、「ソフトの指し手との一致率」については、「計測のたびにばらつきがあり「不正を認定する根拠に用いることは著しく困難」、スマートフォンを解析しても「不正行為の痕跡は確認されなかった」(以上、前掲日経朝刊)と、完全にシロ一色。

そして、調査委員会の但木敬一委員長が「全体のために不利益を被った三浦九段を正当に遇し、一刻も早く将棋界を正常化するよう要望する」というコメントを出し、将棋連盟の謝罪を伝える翌日の記事に合わせて、木目田裕弁護士が

将棋連盟が科した出場停止処分は拙速な対応だったと言わざるをえない。」
「連名は第三者による調査結果がまとまるのを待って判断すべきだった。早急に三浦九段の名誉を回復する必要がある。連盟は損害賠償の責任を問われても仕方ないだろう。
日本経済新聞2016年12月28日付朝刊・第38面、強調筆者)

というコメントを載せるなど、一気に形勢が逆転してしまった感がある。

将棋連盟のホームページには、谷川浩司会長の会見要旨(http://www.shogi.or.jp/news/2016/12/post_1492.html)が掲載されているのみで、肝心の報告書全文が掲載されていないので何ともいえないところはあるのだが、どんなに風評が立とうと(週刊誌に報道されようが、インターネットで炎上しようが)「疑わしきは罰せず」という大原則を最後まで忘れるべきではない、ということを改めて思い知らされるトピックだな、とつくづく感じさせられた次第である。

「24時間営業」をめぐる論争

最近、電通の一件等もあって、とうとう「24時間営業」にまで矛先が向きつつあるようになっているのだが、そんな中、日経紙の日曜討論面で、「24時間営業取りやめ」を決めたロイヤルHDの黒須康宏社長と、吉野家HDの河村泰貴社長へのインタビューが掲載されていたのが、なかなか興味深かった*8

ランチ、ディナー用途がメインのファミレスと、小腹満たし需要も取り込める牛丼チェーンとでは、同じ外食でも置かれている立ち位置が全く違うから、この対比は本来ミスキャスティングだと自分は思うのだが、「24時間営業をしないこと」に対する前向き感が全開な黒須社長と、後ろ髪を引かれつつ24時間体制を維持することの厳しさを切々と語る河村社長のトーンの違いは、この業界にさほど馴染みのない読者にも伝わるだろうから、まぁよかったのかな、と。

個人的には、「高齢者は深夜帯に活動しない」という前提自体、今後は大きく変わってくると思っているし、「24時間営業の店がある」ということは社会の進歩の象徴だということを、世界中歩き回る中で痛切に感じているところもあるので、“24時間働かせるのはかわいそう”的な感情論でモノを言っている人々*9には、あえて、日本が世界の潮流から置いていかれるような選択をする意味についてもう一度考えてほしい、と思うところではあるのだけれど。

SMAP紅白出場辞退、そしてスマスマ最終回

めまぐるしくワイドショーの主役が入れ替わる今年一年の展開の中で、一年の最初から最後まで主役の座を下りなかったのが「SMAP」だったと自分は思っている*10

元々グループとしての消費期限はとっくに切れていたわけだし、1月の屈辱会見のままフェードアウトしてしまうことの空しさを考えれば、スッパリと「解散」という選択をしたことは自分は素晴らしいことだったと思っているのだが、年末になって「紅白歌合戦に出る、出ない」というところで騒動になったことにはうんざりさせられた。

そもそも、いつもなら、単なる“憶測”に過ぎない、「誰が辞退で、誰が不選出なのか」という話題が、堂々と表沙汰になって語られてしまうこと自体が今年はおかしかったし、一ヶ月引っ張った挙句、「そこまでネタにするなら当日サプライズで出てくるのか?」という意地悪な期待をあっさり裏切る、事務所側の空気読まないリアクションにもガッカリさせられたわけで・・・。

個人的には「SMAP×SMAP」という番組は、学生時代は前のドラマとのセットで、社会人になってからは憂鬱な月曜日を乗り切った開放感で*11、見ていることが多かったし、20年も続いているとなると、個々のメンバーに対する好き嫌いを離れて、「番組がなくなる」という事実に何となく寂しさを感じたこともあったのだけど、年末のゴタゴタで、何が何でも最終回を、という気分がすっかり失せてしまったのは言うまでもあるまい。

おそらく、今年の間は美談と惜別の声があちこちにあふれるのだろうけど、そういうのがすっかり冷めてしまった後に、この先誰がどうテレビの中で生き残っていくのか、というシビアな現実が待っている。そして、一年後、二年後、さらにその先、1月の屈辱会見や8月の内幕暴露報道の際には思いつきもしなかったような展開になっていたら、その時初めて、「(人生の面白さを教えてくれて)ありがとう」という言葉を、心の中で彼らに捧げることになるんじゃないか、と思っている。

*1:あくまで、自分の備忘用のメモ、でもあるので、バックデイトについてはご容赦を。

*2:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000147158.pdf

*3:日経紙の記事等にもあるとおり、今回、インパクトがありそうなものは「企業名公表制度の要件を月80時間超の長時間労働がある場合に拡大」という“時間数”のネタくらいしかなく、より重要なメンタルヘルス対策については、実効性に疑いを持たせるような中身になってしまっている。

*4:逆にその程度の「副業」に対して、就業規則を根拠に懲戒処分を課すようなことをすれば、それこそ裁判所で取り消されるのがオチである。

*5:それでも、他のテレビメディア等の分析に比べるとよほどマシなのだが。

*6:金沢、桐蔭横浜、青山学院については、プログラム評価で若干の加算が付いた結果「ゼロ」は脱出した。ただ、この3校は昨年60%台の支給率だったため、苦しいことに変わりはないだろうし、明治は60%→0%で、最後まで序列が変わらなかった。

*7:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/__icsFiles/afieldfile/2016/12/26/1380774_01.pdf参照。

*8:日本経済新聞2016年12月25日付朝刊・第9面。

*9:こういう連中に限って、深夜帯に仕事をするような経験を実はしたことがない、ということも多かったりする。自分の経験から言えば、「昼間休めるのであれば」深夜帯の仕事が殊更体にダメージを与える、ということはないと思っているし、そこで働く人かどうかにかかわらず「活動時間帯が日中帯に制限される」ことで、かえって苦しい思いをする人も世の中には多くいることに、もっと目を向けるべきではないかと思わずにはいられない。

*10:ゲスやら清原やで、忘れそうになった頃に、新しいネタが出てきて吹く、という展開になったこともあるが。

*11:月曜日は仕事がたまっておらず、飲み会が入ることも比較的少ない、ということで、他の曜日に比べると早い時間から家に戻っていることが多かったこともある。

2016年10月26日のメモ

月初めの頃は、まだまだ夏気分が抜けないな、と思っていたのに、あっという間に冷え込みがきつくなって冬の気配。
体調は管理するものじゃなくて、ありのまま付き合うもの、というのが自分の持論ではあるのだが、それでも、一年で一番業務負荷がキツくなるシーズンに、気候にまで揺さぶりをかけられてしまうと、だいぶ身構えてしまう。

TPP著作権、と言えばこの方。

TPP関連法案をめぐる与野党の議論がなかなか深まらないので・・・ということで、日経紙が「紙上参考人招致」という企画を行っている。

その中で、「農業」、「自動車」、「食・消費者」といったメジャーなカテゴリーと並んで取り上げられているのが「知的財産」で、登場するのはもちろん、福井健策弁護士である。

著作権の保護期間が50年から70年に延ばされることについてもっと議論があっていい。
著作権の保護期間が長くなれば処理が難しい著作物が増え、コンテンツの利活用には明らかにマイナスとなる。」
日本経済新聞2016年10月22日付朝刊・第4面、強調筆者、以下同じ。)

といったあたりは、すっかりおなじみになっているコメントで、読者の期待を裏切らない。

冒頭で「TPPに賛成する」という立場を明確にされているのは、“日本経済新聞”という媒体を強く意識してのことかな(あるいは記者の誘導?)、と思ったりもしたのだが、

「国会では様々なテーマを一括して審議するため、議論が全く深まっていない。米国の早期承認が危ぶまれるなか、日本だけが前のめりになって議論の機会を逃すのはもったいない気もする。」(同上)

と慎重審議を求めるスタンスも不動である。

個人的には、著作権一つとっても、保護期間以外に様々な論点があると思っているし、「知的財産」というテーマを掲げるのであれば、特許も商標も取り上げてナンボだろう、という気はするのだが、一般紙の記事にそこまで求めるのは酷だろう、と割り切ることにした。

「権利制限」、と言えばこの人たち

著作権つながりでもう一つ、日経紙の10月25日付朝刊(第38面)の片隅にひっそりと出ていたのが、「著作権制限に反対/新聞協会などが声明」という記事である。

10月24日付で公表された「『柔軟な権利制限規定』についての私たちの意見」という声明文*1はインターネット上でも見ることができるのだが、名を連ねている事業者団体の顔ぶれ*2といい、書かれている内容といい、いつか見たデジャブ、という感じで。

そもそも今は、批判の的になっている「柔軟な権利制限規定」が何なのか、ということもまだ定まっていない状況だし、その目的が「イノベーションを通じた新産業の創出」なのか?ということについては、推進派の中にも懐疑的な見方が多い状況だけに、仮定の上に仮定を重ねた批判、ということになってしまっているのだが、それでも年に一回くらいは声明を出しておかないと気が済まない、ということなのか。

いろいろと考えさせられることは多い。

興味深い「One Asia」の挑戦

海外法務、といえば、大抵、大手法律事務所の現地進出の記事ばかりが躍る日経紙だが、「大手の動きとは一線を画する」新しい試みが珍しく取り上げられた。

シンガポールやタイなど東南アジア諸国連合ASEAN)加盟国を拠点に活動している日本の弁護士らが連携し、11月に東京で法律事務所を開設する。現地の事情に精通した強みを生かし、日本企業のASEAN全域におけるM&A(合併・買収)など法務サービスの一括受託を狙う。」(日本経済新聞2016年10月22日付朝刊・第9面)

最近、ASEAN圏に進出している日本の大手事務所はだいぶ増えてきているが、元々国内で“上品”な仕事しかしていない事務所が現地にオフィスを開設したところで、現地に進出した企業が日常的に困っているあれこれにまで手が届くのか、という疑問はかねてから存在していた。

土地建物の賃貸借絡みの紛争や労働関係のトラブルの解決を日本国内で大手四大事務所に依頼するようなことは、合理的な会社ならまずしない。
海外も結局同じことで、小回りの利く事務所をどうやって捕まえるか、というのが、最近現地進出するようになった多くの会社にとっての課題になっていたのではないかと思う。

今回開設される弁護士法人と、そこを通じて連携する各国の法律事務所がどこまでそんなクライアントの切なるニーズを満たしてくれるのか、は分からないけど、「規模が小さい」というメリットを最大限生かして、有益かつリーズナブルなサービスを提供してくれる存在になってくれることを願っている。

狙われている「旅館業法」

「民泊」問題以来、すっかり狙われた感があるのが「旅館業法」である。
9月に審議を再開した規制改革会議でも、「抜本改正」に向けた検討を始める、という記事が10月24日付の日経朝刊に掲載された*3

確かに、昭和23年に制定された法律の中に「いつの時代だよ」と叫びたくなるような規制が長年残っていた、という事実は否定しようがないし、時代に合わせて“現代化”すること自体の意義を否定するつもりはないのだが、規制改革を行った効果として、

「室数を限定した『高級宿泊施設』の実現を念頭に置く。」
「原則として宿泊者の拒否を禁じる規制を改めれば『外国人専用』『女性専用』など多種多様な宿泊施設が実現する。」
日本経済新聞2016年10月24日付朝刊・第2面)

といったようなアドバルーンが打ち上げられてしまうと、何となく眉唾感も出てきてしまうわけで。

特に、旅館業法第5条が定める「宿泊拒否禁止」という原則は、施設側による宿泊者の選別を許さない、という点で、極めて重要な意義を持つ原則だと思うだけに、安易な議論に流されてくれるな、と思わずにはいられない。

サッカーU-19、5大会ぶりの快挙

長年、「アジアの壁」に阻まれてきたU-19世代が、10月24日、遂にワールドユースへの扉をこじ開けた。

タジキスタン相手に4-0、という結果だけを聞けば、組み合わせに恵まれたのか? とも思ってしまうが、グループリーグで中東勢相手に1位突破しての結果だから、堂々のベスト4入り、と言ってよいだろう。

前回ワールドユースに出場したのは2007年のカナダ大会だから、実に10年ぶりにこの世代が国際舞台に復帰する、ということになるし*4、先日のU-16のアジア選手権ベスト4と合わせて、若年世代の強化(復活)が順調に進んでいる、ということでここは純粋に喜んでおきたい。

そして、やれ「東京五輪世代」だ、と騒ぐ前に、まずは来年のワールドユースで、“小野伸司の時代”(気が付けばもう20年近くも前のことになる)を超える活躍を見せて、歴史を塗り替えてくれることを心の底から望んでいる。

スケートアメリカでの幸先良いスタート。

フィギュアスケートのGPシリーズ初戦のスケートアメリカアメリカGP)の男子シングルで、宇野昌磨選手が昨年のGPファイナルで出した自己ベストを更新し、幸先よく優勝を遂げた(10月23日)。
演技自体はほとんど見ていないのだが、4回転ジャンプ3本、という時代の波にもしっかりとついていけている、というのは心強い限り。

当初出場予定だった村上大介選手が欠場し、日本男子勢は宇野選手が一枚看板で戦う形になってしまったし、3選手が出場した女子は、チャレンジャーシリーズから這い上がってきた三原舞依選手が3位に入ったものの、浅田選手6位、村上選手10位、と少し心配な状況ではあるものの、シーズンが深まる頃には最強のメンバーが揃っていることを願うのみである。

ドラフト会議、外れ1位指名で5球団競合の罠。

日本シリーズ前(&社会人の日本選手権前)、というタイミングがすっかり定着してきた恒例のドラフト会議(20日)。
一番の目玉で、前日まで「史上最多の競合も」と散々騒がれていた創価大・田中正義投手に5球団しか1位指名をしてこなかったのも拍子抜けだったのだが、外れ1位で桜美林大の佐々木千隼投手に再び5球団競合、という話にも驚かされた。

同じ学生出身の本格化右腕で、今年の実績だけ見れば甲乙付けがたい(どちらかと言えば佐々木投手の方が上)という評価もあっただけに、田中、佐々木と立て続けにクジを外した球団としては臍をかむ思いだろうが、これも微妙な心理のアヤ、というべきか。

なお、タイガースが大物投手の競合を避けて、知名度は決して高くない白鴎大の大山悠輔選手を1位で取りに行ったことでブーイングも起きたらしいが、かのチームが今補強すべきは投手陣ではなく、明らかに(打てない)野手の方だからこれで良かったんじゃなかろうか*5
大山選手と5位の糸原健斗内野手が、北條選手あたりと熾烈なレギュラー争いをできるようになれば、今季全く援護に恵まれなかった投手陣も少しは楽にできるんじゃないかと。
あと、8位指名の藤谷投手(パナソニック)の素質開花にも期待、である。

平尾誠二氏逝去。

神戸製鋼のスター選手として日本ラグビー黄金期の看板を長く背負い、引退後も日本代表監督等で存在感を示していた平尾誠二氏が、20日、53歳の若さでこの世を去った。

自分は、他の例に漏れず、絶対王者的存在が大嫌いだったから、アンチ神鋼で、現役時代は“平尾”の名前を聞くにも顔を見るのも嫌い、という感じだったのだが*6ラグビーがすっかりマイナースポーツに成り下がってしまった今となっては、あれだけ憎ったらしいほどの存在感を発揮していた選手がいた、ということ自体が懐かしい。

個人的には、故人を礼賛する記事を眺めながら、1995年W杯ニュージーランド戦での出場回避とか(その結果の悪夢・・・)、1997年の日本代表監督就任後の迷走とかの記憶もおぼろげに蘇ってきて(何たって“アンチ”だったから)、あまりに偉大な選手だったゆえに、自らをアンタッチャブルな存在にしてしまった、それゆえに、その後の日本ラグビーそのものの長期低迷まで招いてしまった・・・というところにも触れてこその評伝だろう、という感想を抱いてしまったりもしたのだが、今は選手時代の功績を素直に称えて、故人を悼むのが先。

そして、2年後のW杯を何が何でも成功させなければいけない理由が、また一つ増えた。

*1:http://www.pressnet.or.jp/statement/2016.10.24.pdf

*2:一般社団法人日本映画製作者連盟、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本雑誌協会、一般社団法人日本書籍出版協会、一般社団法人日本新聞協会、一般社団法人日本民間放送連盟、一般社団法人日本レコード協会の7団体。

*3:規制改革推進会議での資料等は、http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20161024/agenda.html参照。

*4:もっとも2007年大会までは7大会連続で出場権を獲得していた、という事実も忘れてはならない。

*5:投手の場合、どんなに評価が高くても野手に比べて故障のリスクが高い、という現実があるし、去年の高山俊選手のように、???と言われても結果的には成功した、という例もある。育成が決して得意ではない球団だけに、即戦力野手を狙っていく、というのは悪い選択ではない。

*6:当時の贔屓は、大学は早稲田、社会人は三洋電機、といった感じだったか。社会人に関しては相手がどこだろうが神鋼が勝たなければそれでいい、という感じではあったのだが。

2016年10月20日のメモ

日本を振り回すIOC会長のしたたかさ

18日に来日したIOCのバッハ会長。
IOCの視点でみれば一種の“反乱”とも言える東京都の会場計画見直しの動きを鎮圧すべく、実に周到な動きと言動でうぶな日本関係者を翻弄しているように見える。

何と言っても強烈だったのが、会長の日本到着のタイミングでリーク情報として流された「ボート会場を韓国に」という攪乱球で、(会長自身のアイデアかどうかは知らないが)日本人が一番嫌がる球をここで投げてくる、というのが、交渉に長けた欧州の組織らしい対応だな、と妙に感心させられた。

最終的には“復興五輪”のコンセプトに沿うようなリップサービスまでして颯爽と引き揚げていった*1このドイツの弁護士の姿を見て、日本がグローバルな競争で苦戦する理由も、改めて良く分かった気がしたのである。

世界相手にどんなにエエカッコしても、最終的に“レガシー”のツケを背負うのは東京都民であり、日本国民なのだから、日本の政治家も、組織委員会関係者も、「開催返上」の切り札をチラつかせながらタフな交渉を乗り切るくらいのことはしてほしい、と思ってしまうのであるが、それは所詮ないものねだりなのだろうか。

19日に、日本人(渡辺守成・日本体操協会専務理事)が国際体操連盟会長に大差で選出され、そのままIOC委員を目指すのでは?という報道もなされているところではあるが、競技団体としての立場でも、誘致国・参加国の立場でも、「2020」&「ポスト2020」を見据えて魅魍魎渦巻く利権の殿堂で互角に渡り合える日本人が一人でも多く出てきてくれることを、願ってやまない。

23条照会をめぐる最高裁差し戻し判決の謎。

下級審レベルの判断はちょくちょく判例雑誌で見かけることもあって、個人的に興味があった弁護士法23条の2第2項に基づく照会(23条照会)への回答義務の問題について、最高裁が判決を下した、というニュースが小さく掲載されていた。

「裁判に必要な住所照会の回答を拒んだ日本郵便に対し、愛知県弁護士会が損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(木内道祥裁判長)は18日、『正当な理由がない限り回答すべきだが、拒否しても弁護士会への不法行為にはあたらない』として賠償責任を否定する初判断を示した。日本郵便に賠償を命じた二審・名古屋高裁判決を破棄した。」(日本経済新聞2016年10月19日付朝刊・第38面)

これだけ読むと、23条照会に対する回答義務が全面的に否定されてしまったのか? と勘違いしてしまいそうだが、判決文(最三小判平成28年10月18日(H27(受)第1036号))*2を良く読むと、かなり様相は異なっている。

23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。」(2〜3頁)

要は、弁護士会は、制度の適正な運用のために照会権限を付与されているに過ぎないのだから、違法な報告拒絶であったとしても「不法行為に基づく損害賠償」を受けられる立場にない、と言っているに過ぎず、予備的請求として原告が求めている「報告義務確認請求」については、差戻審で認容される余地が残されている*3

したがって、不法行為に基づく(弁護士会への)賠償義務は否定されたが、回答義務の存在まで否定されたわけではない」というのがこの最高裁判決の正しい読み方、ということになる。

ちなみに、行政機関でも私人でも、相手方がしてほしいことをしない時に、名目的な損害賠償請求を立ててそれを認容してもらうことで、事実上相手方の履行を促す、というのは良くとられる方法だし、23条照会回答拒否が問題とされた一連の訴訟も、概ねそういった“手段”として行われたものであったことは間違いない*4

だが、最高裁は、少なくとも23条照会に関しては、そのような「本筋ではない攻め方」で「弁護士会が」回答義務の履行を求めることに消極的な姿勢を示した*5

これまで、回答拒否に対する損害賠償請求については、照会申出を行った個々の弁護士に対する不法行為が認められるのか、それとも弁護士会に対する不法行為が認められるのか、という論点があり、下級審レベルでは後者のみが認められる、という判断が定着していた、という経緯もあるし、そのような判断に則って弁護士会が23条照会の実効性を高めるためのアクションを取ってきた、という実態もあるだけに、今回の判決が出たことにより、一時的に混乱が生じる可能性はある*6

もちろん、名古屋高裁が原審判決時と同じ理屈であっさりと予備的請求を認めれば、実務上の支障はそんなに大きなものにはならないと思うのだけれど。

生前退位」めぐる有識者初会合

7月の報道に端を発し、大きな議論を巻き起こしている天皇の「生前退位」問題。
既に今上天皇が82歳を迎え、そんなに時間的猶予もない、ということで、10月17日に有識者会議が立ち上げられ、年明けの論点整理公表に向けて議論が始められることになった。

座長が86歳の今井敬・経団連名誉会長で、御厨貴・東大名誉教授、清家篤・慶応大塾長、山内昌之・東大名誉教授、といった政治学、経済学、歴史学の重鎮が名を連ね、メディア枠(?)で元NHKキャスターの宮崎緑・千葉商科大教授のお名前もある。そして、法学系からも行政法の小幡純子・上智法科大学院教授がメンバー入り。

憲法学者や皇室周りの研究者をあえてメンバーから外したことで、“外野”からの声は、今後日増しに強くなっていくことだろう。

特に「一代限りの特例法を軸に検討」という政府筋の肚が公然と報道される中で、「皇室典範の抜本改正」を主張する論者のトーンは上がってくるだろうし、18日付の日経朝刊にも、

「象徴というものを真剣に深く考えるのか、一時的な間に合わせの結論を出すのか。」(日本経済新聞2016年10月18日付朝刊・第3面)

という井上亮編集委員の長いコラムが掲載されていたり、木村草太・首都大東京教授の

天皇生前退位を一代限りの特例法で認めた場合、・・・憲法違反と指摘される可能性がある」(同上)
皇室典範本体を改正し、今後の天皇にも当てはまる一般的なルールをつくる必要がある。」

といった識者コメントが掲載されていたりする*7

本来ならご本人の意思を尊重して進めれば良いシンプルな話であるにもかかわらず、「天皇」が憲法上明確に位置づけられてしまっているがゆえに、制度論から論じなければいけない、という不自由さをもどかしく眺めている人も多いだろうけど、タイ国のような事態になる前に、現状最善の解が導き出されることを願うのみである。

バブルではない本物のニッポン観光消費を。

観光庁が発表した7-9月の訪日外国人旅行消費額が前年同月比2.9%減、と、東日本大震災の年以来4年9ヵ月ぶりの減少に転じた、というニュースが流れた*8

2011年当時とは異なり、訪日客の数自体は堅調に伸びている最中での「マイナス」で、既に百貨店業界などもかなりの減収に苦しんでいる状況だけに、危機感を抱く向きもあるようだが、冷静に考えるとこれまでの外国人(というか中国人)の高額消費ブームが異常だっただけで、慌てるような話ではない、と自分は思っている。

日本の場合、訪日外国人の話に限らず“バブル”的消費現象を待ち望み、飛び乗ろうとする傾向が殊更強いように思うのだけど、バブルはいつか弾けるし、弾ける前のスケールが大きければ大きいほど、その後の落ち込みも激しくなる。そう考えると、この辺で一度クッションができたのは、むしろ光明ともいえるわけで。

一度っきりの“爆買い”に未来を委ねるより、「次に来たとき」に「行きたい」「食べたい」「買いたい」というものを、日本を訪れた人たちに少しでも多く魅せつづけることが大事。
そして、このニッポンには、まだまだそれだけのポテンシャルがある。

広島・黒田投手引退表明

CSシリーズで難敵・DeNAを退け、いよいよ日本シリーズ目前、というタイミング(10月18日)で、広島の黒田博樹投手が記者会見し、現役引退を表明したというニュース。

今年も10勝を挙げ、41歳にして7年連続2桁勝利を挙げる活躍の途上、という状況だっただけに、なぜ今シーズンなのか、それも、シリーズ直前、というこのタイミングなのか*9、という声はいろいろ出てくるだろうが、これが男・黒田なりの美学、というものなのだろう。

個人的には、ボロボロになるまでやり続ける選手、BCリーグや米国の独立リーグに行ってまで現役に固執する選手の方が好きで、こういう惜しまれての引退、という状況はあまり好きではないのだけど、その決断ができるのは選手本人だけ。外野がとやかく言う話ではないのである。

2016-2017フィギュアグランプリシリーズ開幕。

秋も深まってくるとこの季節、ということで毎年楽しみにしているフィギュアスケートのGPシリーズだが、今年はとうとう日経紙まで開幕前に特集を組む、というフィーバー(?)ぶりである*10

前回の五輪が終わってから3度目のシーズン、ということで、来年の五輪シーズンを前に世代交代がどれだけ進むのか、特に宇野昌磨選手が王者・羽生結弦選手にどこまで迫れるのか、とか、樋口新葉選手がシニアの舞台でどの程度の格付けを得られるかとか、浅田真央選手が次のシーズンに向けてのモチベーションを保てるような演技ができるのか等々、ハラハラしながら眺める機会も増えるだろうな、と。

大阪杯来年度G1格上げ決定

JRAが来年度の開催日程を発表し、「中距離路線の充実を図るため」大阪杯をG1に格上げすることにした、とのこと。

確かに、国際的なレーティング相場が「2000m」前後の距離での実績に照準を合わせて作られているにもかかわらず、日本で古馬が走れる中距離G1といえば、秋の天皇賞くらいしかなかったのは事実で、特に春先は、無理に距離を伸ばして天皇賞・春に行くか、距離を縮めて安田記念に行くか、くらいしか選択肢がなく、結果として有力馬がドバイ、香港、英国といった海外路線に流出していたことは否めない。

既に海外のレースでも国内で馬券が買える環境が整備され、現地でのレース映像もリアルタイムで入手しやすくなっている今、「国内」のレース体系を整えることにどれだけ力を注ぐべきか、と言えば微妙なところはあるし、ましてや、伝統のステップレースだった「大阪杯」がG1になることには少々複雑な感情もあるのだけれど・・・*11

なお、個人的には、つい最近始まった、と思っていたヴィクトリアマイルの新設が「11年前」だった、という事実*12に軽く衝撃を受けていたりもするところである。

*1:それを安倍首相との会談、というタイミングでぶち上げるのがまた巧妙だし、五輪エスタブリッシュにとってはどうでもいい「野球」の試合の東北開催、というアイデアを差し出すあたりも、なかなか嫌らしい。

*2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/198/086198_hanrei.pdf

*3:岡部喜代子裁判官の補足意見での説示、「23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。各照会事項について,照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである。」(4頁)などを見ると、どちらかと言えば報告(回答)義務の存在自体は肯定される可能性の方が高いようにも思われる。

*4:最高裁判決の原審で認容された損害賠償額も僅か1万円に過ぎない。

*5:この点については、木内道祥裁判官が補足意見で明確に述べている。「原審が,照会が実効性を持つ利益の侵害により無形損害が生ずることを認めるのは,23条照会に対する報告義務に実効性を持たせるためであると解される。しかし,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,義務に実効性を持たせることを目的とするものではない。義務に実効性を持たせるために金銭給付を命ずるというのは,強制執行の方法としての間接強制の範疇に属するものであり,損害賠償制度とは異質なものである。そうすると,弁護士会が23条照会に対する報告を受けられなかったこと自体をもって,不法行為における法律上保護される利益の侵害ということはできないのである。」(5頁)

*6:最高裁判決は何も言及していないが、弁護士会ではなく、個々の弁護士が損害賠償請求をしたらどうなるのか、という議論も再度湧き上がってくるような気がする。

*7:一方で、園部逸夫・元最高裁判事の「特例法での対応しかない」というコメントも掲載されているのだが。

*8:日本経済新聞2016年10月20日付朝刊・第5面。

*9:「大相撲の世界だと「引退」を口に出した瞬間に土俵に上がることは許されないんだぞ」という薀蓄を語る人も必ず出てくる(笑)。

*10:日本経済新聞2016年10月18日付朝刊・第37面。

*11:これで東西金杯AJCC、京都祈念あたりをステップに大阪杯を目指すローテーションが出来上がるのだろうが、始動が早まった分、年末早々と休養に入ってしまう馬も増えるような気がして、その分有馬記念が寂しくなるのだとすると、ちょっと残念な気もする。

*12:今回のG1新設はそれ以来、となる。

2016年10月17日のメモ

サッポロビールの酒税返還請求棄却

第三のビール」該当性をめぐって、国税不服審判所に持ち込まれていたサッポロビール国税当局の紛争は、結局請求棄却、という結論になってしまったとのこと。
相変わらず「結論を維持するためにある不服審判」の構図は変わっていないようだが、サッポロ側がこの後、裁判所にまで紛争を持ち込むかどうか、という点にはちょっとした興味もある。

もっとも、このニュースを伝える日経紙の記事は、既に今回の請求の帰趨を飛び越えて、「特異なビール系飲料の税体系」への批判に矛先を向けている。

「複雑な酒税が意図せず企業の市場行動をゆがませる、という課題を浮き彫りにしている」(日本経済新聞2016年10月15日付朝刊・第5面)

という古くて新しい問題。

自分はかれこれ四半世紀にわたるビール党で、特に深いコクを好むので、コンビニでもスーパーでも、「第三のビール」はもちろん、発泡酒にすら一切手を出したことはない*1
だから、「安いビール系飲料」がブームになって、コンビニの限られた棚をまがいもののビール系飲料が占拠する状況を苦々しく眺めていたし、昨今の税率統一の動きも大歓迎なのだけど、本物のビールの味と発泡酒の味の差もあまり気にしないような“多数派”の人々が、それを受け入れるのかどうか。

複雑な酒税の体系が企業の行動に影響を与えたのは事実だが、それに輪をかけたのは、消費者の鈍感な“舌”だ、ということも、我々は肝に銘じておく必要があるように思えてならない。

電通に東京労働局が立ち入り調査

10月8日付けの朝刊で、うつ病で投身自殺した新入社員が労災認定された、というニュースが報じられて以降、インターネットを中心に激しいバッシングが巻き起こっている“21世紀の電通事件”。

14日には、とうとう東京労働局がテレビカメラを引き連れて汐留の電通本社に立ち入り調査に入る、という晒し上げのフェーズに突入した。

亡くなった元社員に関して労働基準監督署が認定したうつ病発症直前の残業時間は「105時間/月」ということで、これを少ない、という人はさすがにいないだろうが、「メチャクチャ多い」と思うかどうかは、読者の方々が今置かれている環境に依拠するところが大きいだろう。

特に、土、日も出社を余儀なくされるような環境にいると、週末の労働時間だけで50〜60時間は平気で上積みされてしまうから、平日2〜3時間の残業をしているだけでも、月残業100時間は優に超えてしまう。

そういう環境が続けば、精神的にも肉体的にもキツイのは確かだが、だからといって、それで命を絶つことまで考えるか、と言えば、ほとんどの人はそうではない*2
逆に、ほぼ定時で帰れるような職場でも、日中の勤務時間帯に上司や周囲からプレッシャーをかけられ、強烈なストレスを受け続けることによって、自ら命を絶った(あるいはその寸前まで追いつめられてしまった)人も、自分は数多く知っている。

それゆえ、自分は「うつ病自殺」の問題を労働時間の大小だけで語るのは好まないし、一連の批判が労働時間の長さだけに向けられているように見えるのは、あまり感心しないのだけれど・・・。


一つだけ言えることは、今回の件は、入社1年未満の社員に対して、強いプレッシャーの下で過重な労働拘束をかけ続けた、という点で、会社にとっては如何とも弁解の余地がない事件だ、ということ。

そして、「広告代理店」という業界が今の仕事のやり方を変えない限り、仮に労働時間を労働基準法の法定時間内に収めたとしても、同じような悲劇がまた生まれかねない、ということも、心の中に留めておく必要がある。

これは会社側だけの問題でなく、クライアント側でも考えないといけないことなのかもしれない。

まだ経団連が仕切るのか?

どうせこうなるんだろうな、と思ってはいたけど、記事になると、やはりがっかりする。

経団連は2018年の学生の就職活動(入社は19年春)について、16年、17年の就活日程を踏襲する検討に入った。16、17年と同様に、企業説明会の解禁は大学3年生の3月、採用面接は4年生の6月を軸に検討を進める。」(日本経済新聞2016年10月16日付朝刊・第3面、強調筆者)

この時期が学生にとってフレンドリーなのかどうか、ということについては、これまで散々書いてきたのでここでは割愛するが、既に今年の時点で「日程」がかなり崩れてきている、という状況がある中で、経団連が仕切って会員企業と、それらの会社を志望する学生に窮屈な思いをさせることにどれほどの意味があるのか・・・ということを、ここでは強調しておきたい。

そして、相も変わらず、「3年生の間は学業に専念すべきだと主張する」大学人たちには、自分たちの講義の都合だけでなく、もう少し学生に寄り添って意見を発信した方が良いのではないか、と、猛省を求めたい気分である。

新・新潟県知事は革新系の星、なのか?

10月16日に投開票された新潟県知事選で、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に慎重な立場を鮮明にしていた米山隆一候補が、有力視されていた前・長岡市長、森民夫候補を破って当選を果たした。

電力系労組に慮った民進党の推薦こそ得られなかったものの、共産、自由、社民という3野党の推薦を受けての当選だけに、何となく革新系知事の誕生?という雰囲気もあるところなのだが、元々米山氏は、民主党に寝返った田中眞紀子・元外相の対抗馬として自民党から2度、さらに流れて日本維新の会から2度国政選挙に出馬した方である。

最近、新潟に足を運ぶ機会がなかったので、地元の評判等に直接接したわけではないのだが、たかだか10年の間に、出馬時のバックグラウンドも、原発に対するスタンスもこれだけコロコロ変わってしまうと、いろいろと批判する人は多いだろうな、と思わずにはいられないわけで・・・。

時流を読む、というのが政治家にとって非常に大事な資質の一つだ、ということは重々承知しつつ、機を見るに敏すぎる政治家に多くを期待過ぎるのはどうなのかな、ということも、ここで呟いておきたい。

ルヴァン杯浦和レッズが9年ぶりのタイトル獲得

浦和対G大阪の決勝対決となった、“最近までナビスコカップだった“ルヴァン・カップ”。

この対戦カード自体見慣れたものだったし、15日の優勝の報道に接したときは、憎ったらしいくらいの強さと観客動員を誇るレッズのこと、こんなカップ戦のタイトル一つでそんなに騒ぐなよ、と思っていたのだが、翌日の記事によると、何と公式戦のタイトル獲得は9年ぶり、ということである。

冷静に考えると、リーグ戦でもカップ戦でも、優勝争いには絡むけど最後の最後で勝ち切れない、ということを繰り返していた、ということなのだろう・・・。

だからといって、急にリーグ戦でも応援したくなるほど現金な主義ではないのだけれど、この大会で李忠成選手がMVPに輝いた、という点についてだけは、素直に拍手を送ってあげたいと思うところである。

「87回連続」で止まった中大の襷

箱根駅伝に今年の大会まで87回連続で出場していた中央大学が、予選会で10位の日大に44秒差離され、無念の敗退の憂き目を見ることになった。

山登りに藤原正和選手を擁して往路優勝を遂げた2001年以来、華やかな成績からは遠ざかっていたものの、2012年までは、伝統に恥じることなく一桁順位でシード権を確保していた名門校だっただけに、なぜ短期間でここまで転落してしまったのか不思議で仕方ないのだが、一度歯車が狂い始めると立て直すのは容易ではない*3、ということなのかもしれない。

前回の往路優勝時の立役者だった藤原正和氏が監督就任した1年目にこういう結果になってしまった、というのが皮肉と言えば皮肉なのだが、早々に敗退した分、次に向けたチーム作りに早く始動できる、というメリットを生かして、再来年の箱根では一気の大カムバックを期待したいものである。

*1:そんなところでちまちま金をケチるくらいなら、もっと違うところで節約しろ、というクチである。

*2:もちろん、自分も含めて、嬉々としてその状況を受け入れている人間などいるはずもなく、こんな会社辞めてやる、と心の中で叫びながら、閑散期にドカッと休みを突っ込む算段を立てている人がほとんどだと思うのだけれど。

*3:2013年の大会で5区の選手が棄権してシード落ちしたのが転落の始まりで、さらに往路10位で折り返し、復路も好調に順位を上げていた2015年に、10区の選手が大ブレーキを起こしてシード落ちしてしまったことが致命傷になってしまったようである。

2016年10月14日のメモ

ついこの前まで、残暑が・・・と言っていたのに、気が付けばガクッと冷え込みがきつくなってきた。
いよいよ長い冬。これからが耐えどき、である。

配偶者控除をめぐる有識者のコメント

女性の社会進出を後押しする、というお題目の元、「配偶者控除」の撤廃が自民党から華々しく打ち出されて、どうなることかと思っていたら、大人の事情であっさり撤回。
メディアでは批判的な論調も多いのだが、個人的には、この制度の見直しと、「女性の社会進出」云々を結びつけるのはどうなのかな、と首を傾げていた。

そんな中、日経新聞の『経済教室』に、2回にわたって「配偶者控除見直し 残る論点」というテーマで有識者の論稿が掲載されている。

第1回の森信茂樹・中央大学教授の論稿*1は、大蔵省の税務畑出身という書き手のキャリアもあって、今の制度改正の方向性をフォローするものだから、さほど面白みを感じなかったのだが、第2回の三木義一・青山学院大学学長の論稿はなかなか面白かった。

「控除そのものが間違っているのか、適用要件が不合理なのか、明確に区別されずに議論されている。筆者は適用要件を見直すことはあり得るし、必要だとも思っている。しかし控除すること自体を否定するのであれば、代替措置を採用しない限り、違憲といわざるを得ないと考えている。」(日本経済新聞2016年10月13日付朝刊・第27面)

個人的には事情があってフルタイムで働けない(そのため、他方配偶者の所得で生計を立てている)人、というのは、性別を問わず存在するのであって、そういった世帯を保護するために「配偶者控除」という制度を設けることを一律に問題視するのはおかしい、と思っているだけに、上記のような指摘は実によく腑に落ちる。

そして、三木氏が最後に痛烈に書き残した一節に、この議論の問題の本質が現れているような気も。

増税策の方便として女性の社会進出が強調されているように思われてならない。」(同上)

職場での旧姓使用が今さら訴訟になってしまう空しさ

学校教諭が職場で旧姓を使用する権利を主張して提起した訴訟で、原告敗訴の判決が下されたとのこと。

「結婚後の旧姓使用を認めないのは不当だとして、日本大第三中・高(東京都町田市)の30代の女性教諭が同校の運営法人に旧姓使用や損害賠償を求めた訴訟の判決が11日、東京地裁であった。小野瀬厚裁判長は『旧姓を戸籍姓と同じように使うことが社会に根付いているとまではいえず、職場で戸籍姓の使用を求めることは違法ではない』として請求を棄却した。」(日本経済新聞2016年10月12日付朝刊・第42面)

判決文に接したわけではないので、裁判所がどういう論理で請求を棄却したのか、本当のところは良く分からないのだが、旧姓を用いることに「権利」性まで認められるかと言えば、ちょっと厳しいかなと思うところもあり*2、その結果、純粋な利益衡量に持ち込まれてしまうとどっちに転んでも仕方ない、ということになってしまうことは否定できない*3

もちろん、「学校」という極めて密接な人間関係で成り立っている空間の中で、「戸籍姓による個人の識別」の必要性がどれだけあるのか、という突っ込みは当然出てきて然るべきだし、高裁、最高裁レベルまで争う中で、結論がひっくり返る可能性は存在するのだけれど・・・。

個人的には、学校側で配慮することにそんなに大きな問題があるとは思えず、きちんと話し合えば内部で処理できるはずの問題が法廷での争いに持ち込まれてしまっている、ということに、学校運営法人側の未熟さを感じてしまい、少々空しい気持ちになったところである。

コストコスロープ崩落事件で建築士に逆転無罪判決

こちらもまだ判決文には接していないが、東日本大震災の際に「コストコ多摩境店」の駐車場スロープが崩落して8人が死傷した事故に関し、業務上過失致死傷罪で起訴されていた建築士が、13日、東京高裁(井上弘通裁判長)で無罪判決を受けたとのこと。

「高木被告は構造設計を担当。建物本体とスロープを強度の高い床でつなぐように設計したが、実際は弱い鋼板でつなぐ方法で施工されていた。スロープは震度5強〜5弱の揺れで崩落した。自分の設計内容を総括責任者らに正確に伝えていたかが争点だった。」(日本経済新聞2016年10月14日付朝刊・第38面)

これだけ読んでしまうと、起訴された建築士はきちんとやるべきことをやっていたわけで、構造物の強度に問題が生じたのは被告以前に設計を担当した建築士&施工側の問題ではないか、と思わずにはいられない。
にもかかわらず、なぜ、前任の建築士や施工側の統括責任者らが起訴されず、この建築士だけが起訴されてしまったのか。

本件では、途中で訴因変更がなされていることもあり、そもそも検察側の見立てに大きな誤りがあった、ということなのかもしれないが、いずれにしても、判決文をしっかり読んでみたい事件である。

「ギャラクシーノート7」とうとう販売打ち切りに。

最近、空港の掲示で、大きな「×」マークを付けられているのを見かけることが多くなっていた、サムスン製の「ギャラクシーノート7」。
自主回収で何とかしのごうとしていたものの、交換後の端末にも発火の報告が出た、ということで、とうとう市場からの退場を余儀なくされることになってしまった。

アップルとサムスンが、がっぷり四つの泥仕合を繰り広げていたのは4、5年前くらいの話だっただろうか。

あの時は、知財を振りかざすところにまで追い込まれていたアップルの方が分が悪いように思えたし、いずれ世界中のスマホ市場がサムスンに占拠されるのも時間の問題かと思っていたが、その後、“現地化”を進めてしぶとく生き残っているアップルに対し、サムスンは万全を期して投入したはずの最上位機種で大コケして、一気に市場の風向きは変わってしまった。

新興勢力の躍進も著しい今、あと5年もすれば、「アップル」という名前も、「サムスン」という名前も、懐かしい過去の産業遺産のサプライヤーとして記念碑の中に刻まれているだけ、ということになる可能性は極めて高いと思っているが、それまでの間、かつての“2強”がどういう命運を辿るのか、ビジネスの一つの教訓として眺めておきたい。

なぜ今さら「自由党」なのか・・・

生活の党の小沢一郎共同代表が、12日、党名を「自由党」に変更すると発表したとのこと。

小沢一郎氏の自由党といえば、新進党から飛び出し、前世紀から今世紀へのまたがり期を挟んで政局に絡み、一時は大きな存在感を発揮していた政党だが、確かあの時は、新自由主義的な政策遂行を党是に掲げていたはず。

あれから10年以上経ち、ポリシーが大きく左旋回してしまったように見える小沢氏が、なぜ今「自由党」などという党名を掲げるのか・・・。

結局、政策なんてどうでもいいんだよ、ということを象徴してしまっているようで、何とも言えない気分になる。

ノーベル文学賞ボブ・ディラン氏に

シンガーソングライターのボブ・ディラン氏にノーベル文学賞が授与された、ということで、一部では盛り上がっているようだが、自分は“世代”ではないので、さして関心はない。
強いて言えば、毎年毎年不可解にも“候補”扱いされる村上春樹に今年も賞が行かなかった、ということに安堵している。

*1:日本経済新聞2016年10月21日付朝刊・第29面。

*2:自分は当然ながら、憲法上の権利として保障されるべき、というポジションに立っているが、それが今の日本の法律家の中で多数を形成できる考え方、とまで言い切る自信はない。

*3:特に「裁判所」という組織は、裁判官から書記官まで、少なくとも公の文書上は戸籍姓を使う以外の選択肢が与えられていない世界なので、長くそういう環境に置かれてきた裁判官が、戸籍姓使用強制の合理性を高く評価するのもむべなるかな、という気はする。

2016年10月11日のメモ

連休を挟んでめっきり涼しくなってしまった東京。
そして、年末に向けた怒涛の日々は、休暇の余韻に浸ることを許してくれない。

忘れた頃に・・・という感じのニュース。

佐村河内守氏に“ゴーストライター”疑惑が浮上したのは、ちょうどソチ五輪が始まる頃だったから、もう2年半以上も前のことになる。
最近ではすっかり記憶も薄れかけていたところだったが、そんな今になって、JASRACに寄託されていた楽曲使用料の支払いを巡り、東京地裁民事訴訟が始まっている、というニュースが報じられている。

「佐村河内さん側は、著作権は新垣さんから自身に移転したと主張。JASRACは『いつの時点で佐村河内さんが著作権を取得したのかが不明確だ』と述べ、争う姿勢を示した。」(日本経済新聞2016年10月7日付朝刊・第38面)

問題発覚直後になされたJASRACによる管理契約の解除が未だに続いていたのか・・・というのは正直驚きだし、2年以上支払いをペンディングすれば約700万円という比較的大きな数字になるのは当然のこと*1

個人的には、当時のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20140210/1392413898)でもコメントしたとおり、実際の創作者と著作権者が異なることは、決して珍しい話ではないし、音楽というのは一種の産業財でもあるから、利益還元が“真の創作者”に対してなされなかったとしても、それが当事者間の真摯な合意の下にそうなった、ということであれば、それ自体が問題ということにはならない、と思っているから、ここまで引きずる話なのかなぁ・・・というのが率直な感想。

おそらく、JASRACとしても、後々混乱に巻き込まれないための暫定措置、と割り切っている話だと思うし、法廷で新垣氏自身が譲渡の事実を自ら証言するか、あるいはそれを裏付ける陳述書の一つでも出せば、円満に解決されるのではないかと思うのだが、どこまで引っ張るか、が気になるところではある。

総務省、携帯3社「実質0円」問題で行政処分

今年に入ってから携帯電話の値引きをめぐり、総務省側からかなり事業者に厳しい姿勢が示されているのだが、秋の本格商戦を前に、とうとう「行政処分」の文字が見出しに踊る事態となってしまった。

総務省は7日、NTTドコモKDDIau)、ソフトバンクの携帯電話大手3社にスマートフォンスマホ)の行き過ぎた値引きがあったとして再発防止策などの報告を求める行政処分をした。『実質0円』販売は今春の禁止指針により姿を消したように見えた。だが3社は1万円超の割引クーポンを配る。3社が総務省に報告する内容次第で追加処分の可能性もある。」(日本経済新聞2016年10月8日付朝刊・第3面)

確かに、「大幅な端末購入補助」と見られるような光景を最近目にする機会が多いのは事実だし、指針違反の疑いをかけられても仕方ないような事例も現に存在する、ということなのかもしれない。

ただ、市場が飽和状態に近づきつつある中で、携帯大手3社とその販売店(経営上の独立性は高い)が相互に競争しようとすれば、こういう動きが出るのも決して不思議なことではないし、それが顧客側のニーズに沿っていることも否定できないはず。

政府にしてみれば、携帯電話の端末販売と通信料のビジネスモデルについて、“あるべき姿”を念頭に置いてのルール作りをしたいのだろうが、純粋な民間事業者が長年創り上げてきたビジネスモデルに対し、政府がそこまで干渉するのが果たして妥当なのか、ということも、そろそろ問うべきなのではないか、と思うところである。

日弁連が「死刑廃止宣言」

日弁連が毎年恒例の「人権大会」(人権擁護大会)で、「死刑制度の廃止」を求める宣言を採択した、というニュースが比較的大きく取り上げられている*2

記事の中では、冤罪の問題等、今回の宣言の背景として議論されてきた問題を取りあげると同時に、

「遺族の多くは加害者に死をもって償ってほしいと考えている。宣言は加害者の人権ばかりを守り、被害者の尊厳をないがしろにしている」
「死刑は弁護士の間でも意見が異なる政策的課題」

と、宣言の採択に疑問を投げかける犯罪被害者支援弁護士フォーラムの声明文等も取り上げており、弁護士の中でも対立が生じている、といったトーンの取り上げ方をしているのだが・・・

日弁連が採択した宣言(「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」)*3の全文を読めば、そもそも宣言の意図が「死刑廃止」だけに向けられたものではなく、もっと奥の深い話だということが良く分かるし、「死刑に賛成か反対か」という二項対立で論じるのが適切ではない、ということも理解できると思う。

ただ、刑事政策に関して比較的柔軟に考えているつもりの自分から見てもかなりリベラル色の強い印象を受けるこの「宣言」を、参加者がどうしても限られてしまう人権大会*4、という場で採択し、「日弁連の政策」として世の中にアピールすることが果たして得策だったのかどうか、考えさせられるところはある。

国税犯則取締法、68年ぶりの改正へ

日経紙の1面に載った「脱税 ITデータも調査」という見出しと、国税犯則取締法を68年ぶりに抜本改正する、というニュース*5

これまでちゃんと見たことはなかったが、記事にもある通り、国税犯則取締法は確かに明治33年制定のカナ文字ベースで条文が作られていて(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M33/M33HO067.html)、そりゃあ、さっさと変えた方が良いだろう、という話ではある。

もっとも、記事ではさらっと書かれているのだが、「査察官が自宅や会社などからパソコンを差し押さえた上で、被疑者の同意がなくても中に入っているデータを複写して調査できる」ようにする、ということ*6と、「クラウドなどコンピュータ(サーバー)が提供しているネットワークに保存されている電子メールや会計の帳簿なども、運営主体のインターネット企業に開示を要請して収集できるようにする」こと*7とでは、だいぶ事柄の重みが異なるので、そこはあまり軽々に事を運ばないように、と思わずにはいられない*8

ハリルホジッチよ、雑音に負けるな!

W杯のアジア最終予選、ホームでUAEに痛恨の1敗を喫したあたりから、フル代表のハリルホジッチ監督に対するバッシングがかなり強まっている印象がある。

2節目も、6日にホームでイラクから勝ち点3を取り*9
、今日のオーストラリア戦でも引き分けに持ち込んで何とか勝ち点1を確保したのに、指揮官の采配、戦術に対する評論家陣の批判はやむことがない。

自分も、今回の予選に関しては、相当な危機感を持って眺めているし、選手選考も含めて今の体制を100%擁護するつもりはないのだが、これだけ叩かれているのを見てしまうと、さすがに気の毒になってくる。

少なくとも、2015年のハリルホジッチ監督就任当時は、ザッケローニ監督時代に露呈した「ボールは回せるけど、攻守の切り替えが遅く、球際にも弱い」とうことでは世界に通用しないよね、というのが多くの人の共通認識で、だからこそ、それまでの“アジア勢にしては巧いサッカー”を超えるエッセンスをチームにもたらすことが、新監督には期待されていたはず。

代表クラスからユースレベルまで、長年染みついたスタイルをそう簡単に変えることはできないし、「予選を確実に突破する」というノルマの下、監督の思想が選手選考等にまだ十分反映されていない、それゆえに、どうしても中途半端な戦い方になってしまっているところはあるのだけれど、もう一段上のレベルに行くためには、これも必要なプロセスではないのだろうか。

今の日本協会が、評論家のコメントに敏感に反応するほどナイーブな組織ではない、と自分は信じているが、確固たる信念に基づいてチームを率いる監督が少しでも気持ちよく仕事ができるように、全幅の信頼とサポートで応えてほしいものである。

*1:そもそも例の問題が発覚して以降、皮肉にも佐村河内氏名義で公表されていた楽曲が使用される機会は一気に増えた気がする(あくまで一時的なものだったのかもしれないが)。

*2:日本経済新聞2016年10月8日付朝刊・第38面。

*3:http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2016/2016_3.html

*4:ましてや今年は福井市での開催だから、首都圏からはなおさら行きづらい。

*5:日本経済新聞2016年10月10日付朝刊・第1面。

*6:これは、実質的にはこれまで与えられていた捜索・差押権限の内容と変わらないもので、単に電子化に伴う媒体の変化に条文が付いていけていなかった、というだけの話である。

*7:意を通じずに資料を保管していた第三者に対する捜索・差押だと考えると、相応の手当ては当然必要となる。

*8:もちろん、後者に対する手立てが講じられなければ、「帳簿はとりあえずクラウドに放り込んでおけ」という動きを誘発するだけだから、最終的には同じ扱いにできればそれに越したことはないのだが。

*9:といっても、グループで最下位に低迷するチーム相手に「辛勝」という状況なので、手放しで喜べるような状況ではなかった。

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