自分が好きな、いや正確には「好きだった」ドラマに
「白線流し」というドラマがある。
名門進学校・松本北高*1で受験を控えた生徒達の微妙な距離感を軸に、
定時制の生徒との交流も交えながら、
「何のために大学に行くんだろう」とか、「「友達」ってなんだろう」とか、
こそばゆくなるような青臭さを巧みに散りばめた、
20世紀最後の青春ドラマの傑作である*2。
当時は進学校の生徒をモチーフにしたドラマ自体珍しかったし*3、
かつ、進学を控えた微妙な心情の描き方が、
自分自身の高校生活とオーバーラップしたこともあって*4、
大いに共感を抱きつつ見ていた*5。
就職が決まった後の人事担当者との面談で、
好きなドラマは?と聞かれて迷わずこのドラマを挙げたら、
入社後長野に配属になった、という曰くつきのドラマでもある*6。
連続ドラマが始まった頃、自分は既に大学生だったから、
彼らより2、3年、前に進んだ現実を生きていたわけだが、
自分が大学を卒業した頃に放映されたスペシャル*7を見た時は、
同じように苦しんでいた自分自身を思い出して見ていられなかったし*8、
その2年後に流れた「二十歳の風」も、
みんなそれぞれ、何かをつかもうとしてもがいている姿が印象的だった*9。
「旅立ちの詩」では、渉が園子に別れを告げるシーンなど、
これまた泣かせるシーンが光っていた。
ドラマの中で「成長」していく主人公と自分を重ねて、
感慨に浸れる数少ないドラマであった*10。
だが、前作「二十五歳」を見た時、
非常にがっかりさせられたのを覚えている。
民事訴訟なのに「公判」と優介に言わせてしまうような、
細かい考証のアラが目立ったのもさることながら、
25歳なんて、大して大人ぶる年でもないのに、
なぜか悟りかけた「オトナ」に、
主人公たちが成長「させられている」のが何となく腹立たしく、
さらに言えばそこで描かれている「成長」が、
「平凡な人生」という殻に収まることに過ぎないように見えたからだ。
先日、完結編と銘打たれたスペシャルの予告が流れていたので、
フジテレビのウェブサイトを探してみた。
そして、ページを見つけて唖然とした。
「白線流し〜夢見る頃を過ぎても」
(http://www.fujitv.co.jp/hakusen/index2.html)
おいおい、高校卒業して8年、大学卒業して3、4年で、
「夢見ることを過ぎた」なんて、言わないでおくれ・・・。
ドラマ的には、「それでも私たちには夢がある・・・」
的な締めくくりにするのかもしれないが、
それでも、こんなタイトルが付いている時点で、そもそも見る気がそがれる。
自分は、学生時代から20代の半ばを過ぎるまで、
金もなく、束縛されることも多く、
自分自身の夢を語ることすらできずにいた。
30歳を過ぎた今になって、自由にお金も持てるようになって、
そんなに若くないのは重々承知の上で、
これから、自分自身の夢を追いかけようとしている人間である。
そんな自分にとって、あまりに挑発的なタイトルだと思う(笑)。
ま、実際、20代も半ばを過ぎた頃から
家庭を持ちたい、だの、出世しなくてもいいから楽しい仕事をしたい、
だのと、安定志向に走るヤツが周囲に増えてきたのは確かで、
世の中の大勢としては、「30歳にもなって「夢」なんて(笑)」、
というのが、しっくりくるのかもしれないが。
だが、ハチクロにはこんなセリフがある。
大人になったくらいで何が変わるよ?せーぜー腰が痛くなったり、駅の階段で息切れする位だ。いつだって帰りたいと思ってるけど、そこが何処にあるのかすらわからないままだ*11。
かつての恩師も、社会に出る前の自分に、
次のような言葉をかけてくれた。
夢を見ることができなくなるのは、年のせいじゃない。得てして、そういうことを言うのは、楽な道を歩こうとする怠惰な気持ちに負けた愚か者たちである。
平凡な生活への誘惑に負けそうになった時、
いつも肝に銘じている言葉である。
ここが「人生の分岐点だ」なんて、自分で決め付けちゃいけない。
夢を追いかけて、生き続けて、
自分の人生がどんなもんだったか、なんてことは、
死ぬ直前に走馬灯のように振り返れば足る話なんだから・・・*12。
*1:架空の校名だが、地元では名門・松本深志高がモデルだろうと言われている。ちなみにロケ地は松商学園。
*2:主なキャスト/七倉園子:酒井美紀、大河内渉:長瀬智也、長谷部優介:柏原崇、橘冬美:馬渕英里何など。連続ドラマでやっていた頃は、メイン3人(酒井、長瀬、柏原)の「格」にそんなに差はなかったのだが、現在では長瀬ひとりが突出したスターになってしまったため、キャスティングのバランスとしてはあまり良くない(長瀬だけ別撮りなっている場面が多い)。酒井美紀なんかは、このドラマのインパクトが強すぎて、他の役で使えなくなってしまった(?)とも言われており、気の毒な面もあるのだが・・・。
*3:あったとしても、ガリ勉ヒール系な取り上げられ方がほとんどだったろう。
*4:残念ながら、自分の学校は青春ドラマとは無縁な学校であったが。
*5:親への反発とか、周りが勉強一色に染まることへの抵抗感とか、経験したものにしか分からないところがうまく書けていたように思う。
*6:入社したての頃は暇さえあれば松本の城下町を自転車で走り回ってロケ地を捜し歩いたものである。「相馬さん」の工場だとか、「七倉医院」の建物だとか、ファンを泣かせるスポットが当時はふんだんに残されていた。
*7:「19の春」。早大に進学した七倉園子が描いていた理想と現実のギャップに苦しみながら、東京の生活を乗り越えていく回。
*8:結局、自分はそのまま流されて終わった。
*9:その影響で、数年前北海道に行った時に、しょさんべつ天文台を見に行ったが、あまりの小ささに驚いた記憶がある。
*11:羽海野チカ「ハチミツとクローバー7」Chapter42、花本先生のセリフ。
*12:なお、ドラマ的には、優介と冬美には最後までギラギラと輝いていて欲しいところであるが、「あらすじ」のさわりを読む限り、優介は田舎に帰っちゃいそうで怖い・・・。