仲裁が嫌いなライセンサー(笑)

短い却下判決が知財高裁で言い渡されている。
知財高判平成18年2月28日(第3部・佐藤久夫裁判長)*1


この事件、特許ライセンス契約をめぐり、
ライセンサーであった原告(控訴人)が、
ライセンシーであった被告(被控訴人)に対して
未払のランニングロイヤリティの支払を求めている訴訟なのだが、
争点は、当該契約の中の以下のような条項を根拠とした
被告側の妨訴抗弁が認められるか、という一点に集約される。

第15条
(ア)「本契約」から又は「本契約」に関して又は「本契約」に関連して「本契約」両当事者間に生じることがあるいかなる紛争,論争又は意見の相違も,両当事者間の交渉により友好的に解決する。但し,かかる各事項を合理的な期間内に解決することができない場合,当該事項は,国際商業会議所の規則に基づいて仲裁に付するものとする。仲裁は,3人の仲裁人で構成するものとし,各当事者が1人を任命し,議長となる第三仲裁人を両当事者が任命した2人の仲裁人が共同で任命する。各当事者は,相手方当事者に書面にて通知し,自己の任命する仲裁人の氏名を提供することにより仲裁手続を開始することができる。この場合,当該通知の受領後2ヶ月以内に,相手方当事者は,もう1人の仲裁人を任命しなければならない。
(イ)「本契約」は日本国法に準拠して解釈され,仲裁地は日本国東京とする。

どこから見ても仲裁合意条項であり、
これが存在している以上、裁判所などに持ち込まず、
淡々と仲裁手続を進めるのが普通だと思うが、
原告は、なぜか、
「ロイヤリティ未払いにより契約を解除したので本件合意の効力も失われた」
と主張して、高裁まで争うことになった。


本来、仲裁合意が生きてくるのは、
正に、本件のように契約解除をめぐって争いになったような場合であって、
原告側の主張に理を認めることは難しいし、
現に、東京地裁は仲裁法13条6項をひいて、
原告の主張をあっさりと退けている*2


また、控訴審では原告側が、以下の条項を持ち出し、

第12条2項
『本契約』は,『本契約』に定めるいずれかの義務の不履行の場合,一方当事者が相手方当事者に書面にて通知することにより終了することができるが,当該債務不履行が当該債務不履行の書面による通知後40日以内に是正されなかった場合に限られる。但し,かかる債務不履行が存在するか否かの疑義が当該40日の期間内に仲裁に付託された場合,40日の期間は,当該仲裁が継続する間,進行を停止する

被告が「40日以内に仲裁の申立てをしなかったこと」をもって、
本件の争いは仲裁の対象になりえない、と主張したが、
これも、

「本件解除条項における但し書は,是正期間中に仲裁が申し立てられた場合には,当該仲裁手続が継続している限り,是正期間が進行しないことを定めたものであり,仲裁手続中は是正期間の進行を停止して,解除の効果の発生を制限することとしたものにすぎず,当該相手方当事者に仲裁の申立てを義務付けたものでないことはもとより,契約解除の原因たる債務不履行に関する紛争については是正期間内にのみ仲裁申立てができるとしたものでないことも明らかである。」

として、あっさりと退けられている。


本件では、被告側が原告特許の無効審判請求を行うなど、
“不義理”を働いたという事情も見受けられるし、
あくまで本案前の争いなので、
(負けるとしても)そんなに長期化するものではない、ということが
見込まれたのは確かだが、
ここまで原告が仲裁を“嫌がった”理由はイマイチ分からない。


こと知財分野に関して言えば、
日本における仲裁は実務家には概して不評であり*3
自分自身が契約指導を行う際も、
なるべく仲裁条項は入れないように、と言うことが多い*4


特に、仲裁を好むのは外国企業や外資系日本法人が多いだけに、
相手方が提示してきたドラフトに仲裁条項が紛れ込んでいると、
余計に警戒したくもなるものだ。


だが、いったん仲裁条項が盛り込まれたら、
それに乗らざるを得ないだろう、という割り切りはある。
また、本件は日本企業同士の争いで、準拠法は日本法、
手続きも日本語で行われるはずだから、
そんなに一方に不利になるということもないはずである。


仲裁をとことん嫌がったライセンサー。
エライ人の中に仲裁嫌いな人がいるのか*5
それとも、もっと他の裏事情があるのか、
自分には良く分からないのであるが、
日頃目にすることが少ない事例の一つだけに、
資料(ネタ)としての価値は十分高いものといえるように思われる。


もっとも、約3億3000万円の請求だから、
印紙代だけでも、結構バカにならないと思うのであるが・・・・。

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/456886260ADD72C0492571240007E00F/?OpenDocument

*2:東京地判平成17年10月21日(民事47部・高部眞規子裁判長)http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/6FE694D7D39EDAA0492570A400152BCC/?OpenDocument

*3:ある弁護士の方は、中国企業とのビジネス紛争で仲裁を求めるのであれば、日本の商事仲裁より、中国の商事仲裁を使った方が良い、とさえ言い切っていた(あくまで中国法が準拠法となっている場合の話だが)

*4:手続きに不慣れな上に、弁護士や仲裁にかかる費用がかさむというのが懸念材料となっている。

*5:そんなアホな、と思われるかもしれないが、企業の行動パターンの多くは“エライ人”の感情で決まるのであって、経済的合理性や論理で決まる方が稀なのである。