判決をもらうのが嫌いな会社

またこの会社か(笑)、と思った記事が一つ。

日航最大のJAL労働組合が、客室乗務員約9800人の個人情報リストを無断で保有していた問題で、乗務員ら194人と別の労組が日航とJAL労組などに計4800万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論が7日、東京地裁(中西茂裁判長)であり、日航側は請求を認諾し、全額を支払うことを明らかにした。」(日本経済新聞2008年2月8日付朝刊・第38面)

「請求の認諾」とは、「請求に理由のあることを認める被告の裁判所に対する意思表示」で「これが調書に記載されると確定判決と同一の効力を生じ」るという代物(民訴法267条)であり*1、相手の同意なくとも判決をもらわずに訴訟を終わらせることのできる最大の裏技(笑)である。


東京地裁の中西コートといえば、民事第19部の伝統に違わず、“労働者に優しい”(あくまで企業側から見た主観w)合議体だから、日航サイドとしても本件訴訟に勝ち目はない(少なくとも地裁レベルでは)と早々に判断したのだろうが、負けると分かっていても、訴訟当事者になった以上は和解勧試されるまで“やせ我慢”するのが、通常の訴訟における企業の行動であって(そして、あわよくば相互互譲の精神で原告側の譲歩を勝ち取ろうとする)、こういう形で訴訟を終了させるのは極めて珍しい。


この会社は、以前自ら提起した特許権侵害訴訟において、敗色濃厚となった段階で「請求の放棄」という、ちゃぶ台をひっくり返すようなとんでもない戦術を用いたことがあって*2、それに比べれば、被告として、しかも、第1回の口頭弁論で訴訟を終わらせた本件は、少しはマシなのかもしれない。


だが、訴訟で本格的に喧嘩するつもりだった原告にしてみれば、とんでもない肩透かしで、ましてや「日航広報部」が次のようなコメントを出している、となれば、なおさら怒りも心頭、といったところなのではないかと推察する。

「会社再建中の労使間の係争は避けねばならず、大所高所から認諾した。組織としてのリスト作成への関与や不当労働行為という原告の主張自体を認めたわけではない。」

実際、日航側は、弁論で原告の主張を「事実無根」と否定した直後に請求を認諾したそうだから、決して矛盾挙動というわけではないのだろうが、それにしても・・・、と思わずため息がでる。


会社の法務・訴訟戦略にそれぞれの会社のカラーが出るのは当たり前の話であって、それ自体を一概に批判することはできないにしても、「法廷から逃げてプレスで吠える」ようなやり方は、やっぱり潔くないだろう、と思うのである。

*1:以上、『民事訴訟法講義案』243頁(2007年)参照。

*2:「請求の放棄」とは、「請求に理由のないことを自認する原告の裁判所に対する意思表示」と定義される行為である。一応、請求棄却とほぼ同様の効力が生じるとされており、被告となった会社が紛争を蒸し返されることはないのだが(その意味で紛争解決にはつながる)、裁判所という公的機関がそれまでの審理にかけたコストを事実上無にしてしまう(判決まで行けば、勝とうが負けようが判例の形成に寄与できるが、請求を放棄してしまうとそれすら叶わない)という意味では迷惑なことこの上ない、とある裁判官が言ったとか言わなかったとか。過去のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051215/1134578266#tb)もご参照あれ。

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