話題の判決てんこ盛りな今日この頃だが、軽くネタ系に走ってみる。
東京地決平成20年5月9日(H20(モ)第1076号)*1
この事件は、東京地裁に訴えが提起された商標権侵害差止等請求事件について、基本事件の被告側による千葉地裁への移送申立てが認められるか、が争われたもの。
「意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利を除く。)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争(略)による営業上の利益の侵害に係る訴えについて、第4条又は第5条の規定により次の各号に掲げる裁判所にも、その訴えを提起することができる。」
という規定の解釈に関し、興味深い判断が示されている事例だといえる。
決定文を見ると、
「法6条の2が、商標権等に関する訴えにつき、法4条又は5条の規定による管轄に加えて、当庁又は大阪地方裁判所に、競合管轄を認めているのは、両裁判所には、知的財産権に関する専門的知見が集積されており、商標権等に関する事件の適正かつ迅速な審理の実現を図ることができるからであると解される」(4頁)
という解釈論を述べた上で、
「本件商標権の存否及び帰属並びに本件商標とセンタービルに設置されている申立人標章の同一性については争いがなく、商標権に関する訴えの主たる争点は、当事者間の合意に基づく本件商標の使用権の有無及びその内容であると認められる。そして、上記使用権の有無及びその内容の審理に当たっては、一般的に、知的財産権に関する専門的知見が必要不可欠であるとはいえず、基本事件においても、このような専門的知見を必要とすることをうかがわせる特段の事情は認められない。」
「そうすると、基本事件については、当庁又は大阪地方裁判所に競合管轄を認めた法6条の2の趣旨は、必ずしも妥当しないというべきである。」
(4-5頁)
とし、結論として千葉地裁への移送申立てを認める決定を下している。
「商標権侵害」に名を借りた“ドロドロの一般民事紛争”は、この世界では珍しくないわけで*2、本件もそれに属する事件だったようだから、本決定の結論も概ね妥当なものだと言うべきなのだろう。
ただ、筆者が気になったのは以下のくだり。
「基本事件の記録によれば、上記使用権の有無及びその内容を認めるに足りる的確な書証は提出されておらず,申立人標章を設置した当時のセンタービルの所有者は亡D,前大宗の代表者は申立人Bであって,両名が親子であることに照らせば,本件商標の使用に関する取決めが口頭でされた可能性も否定できないのであるから,本件商標の使用権の有無及びその内容を認定するに当たり,当事者尋問又は関係者の証人尋問を実施しなければならない必要性が高いというべきである。」
「そして,上記2認定のとおり,基本事件のその余の訴えも,相続した財産についての親族間における使用方法に関する紛争であり,申立人ら及び相手方C,並びに亡Dのその余の相続人は,いずれも千葉市〈以下略〉内又は同市〈以下略〉内に居住していること,相手方会社及び前大宗の所在地がいずれも千葉市〈以下略〉内であること,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るためには,千葉地方裁判所において基本事件を審理する必要があると認められる。」
(以上5頁)
人証の証拠調べが必要なのは確かにその通りだとしても、当事者は別に鴨川や勝浦や銚子といった僻地に住んでいるわけではない。
紛争の舞台は、電車で行けば東京から1時間もかからない、日本が誇るベッドタウン「千葉市」である。
それでいて、「著しい遅滞を・・・」とか言われてしまうのはどうなのかと(苦笑)。
決まり文句とは分かっていても、昔なのはな体操を学校で踊っていた身としては、ちょっと哀しくなる。
「そうでなくても忙しい知財部で、こんなつまんねー事件やってられっか!(しかも証拠調べ面倒くさ〜)」
といったところにあるのかもしれないが、千葉市関係者にとって衝撃が大きい決定であるのは間違いない。
もし本件決定に対して即時抗告が申立てられているのであれば、抗告審ではもう少し理由付けを厚くしてほしいところである・・・。