受験したヤツが悪いのか、制度が悪いのか。

こんなことまでニュースになってしまう時代。

山形地裁の20代の男性事務官が病気休暇中に司法試験を受験していたことが分かり、同地裁は26日までに、正当な理由なく欠勤をしたとして戒告の懲戒処分とした。処分は25日付で、事務官は同日辞職した。」(日本経済新聞2008年9月26日付夕刊・第22面)

元々、「司法試験を受ける」こと自体がある種のタブーとされている裁判所職員*1の身分で、試験直前期、という疑惑を持たれるような期間*2に「病気休職」をとって、かつ、当日も試験会場にいた、となれば、ある程度厳しい処分も覚悟しなければならないだろう。


4日間の日程のうち、2日分は所定の休日(土日)でカバーできるから、あとは問題となった5月14日・15日の2日分だけ有給休暇をとれば一応試験を受けることは可能だったわけで、にもかかわらず、「病気休暇」という手を使ったのは、

(1)4月に採用されたばかりで、有給休暇を使える状況になかった。
(2)日頃から人事部署にマークされていて、試験当日露骨に有給休暇を入れるのは難しい状況だった。
(3)試験当日だけでなく、試験前も1ヶ月程度は腰をすえてじっくり勉強したいと考えた。
(4)本当に病気で体調が悪かった。

のどれかだろう、と推察される。


本当は(4)で、「病の床にあってもなお夢に向けて勉強を続け、奇跡の回復により受験できた」という事情があったのであれば、懲戒処分を課すのはちょっと気の毒な気もするのだが、それ以外の理由だったのであれば、あまり同情の余地はないと思う。


そもそも普通の会社だったら、本当に病気だったとしても、「1ヵ月半の病気休暇」なんてものをそう簡単に取るわけにはいかないわけだし・・・*3



もちろん、受験生にとっての制度上の問題はある。


「平日に試験日程を設定する」こと自体が、「法科大学院修了後すぐに就職する」という可能性を全く考慮していない暴挙だし*4、「一定期間経過すると試験受験資格が失効してしまう」というルールが、職に就きたての若者に無理をさせた一因になったことは想像に難くない。


そして、「そもそも、保険で就職しなければ安心できないほど、試験の合格率が低いのが問題だ」という声も、もしかしたら上がってくるのかもしれない。



ただ、こと処分に関して言えば、当の事務官と勤務先との間の勤務関係(雇用関係)上の問題に過ぎないわけで、試験制度がどうか、なんてことは、処分の当否に直接的に影響を与える性質のものではないから*5、やっぱり「しょうがない」ことだといわざるを得ないように思われる。


そして、就職したら定年まで“滅私奉公”することが当たり前のように考えられているわが国においては、

法科大学院修了後、家庭の事情で即働かなければならなくなったため、その後の4年間は試験にはわき目も振らずに必死で働いていたが、5年目の年に最後のチャンスに賭けるため、理由を偽って休職し、受験した。

という事例であっても、結論は変わらないだろうと思うのだ*6


試験制度の変革に伴って、いろんなひずみが世の中に出てくるのは決して良いことだとは思わないが、制度に合わせて生き残ることを考えるのも、人として求められる一つの能力であるわけで、「法科大学院」なる高等教育機関とはつくづく縁のない筆者としても、いろいろと考えさせられる今日この頃である。

*1:その割には、達観して受け続ける人が多いのも事実なのだろうが。

*2:記事によれば4月中旬から約1ヶ月半。

*3:有給を全部使い果たすまで埋め込んで、それでも復帰できなければ無給の欠勤扱い(回復し次第、即召喚)とするのが一般的だろう。しかも、無給欠勤中だからといって何をやっても許される、というわけではないのは言うまでもないことである。

*4:それが、新司法試験合格を目指す法科大学院修了者のスムーズな就職を妨げる一つの原因にもなっているものと思われる。

*5:情状として考慮される余地が皆無とまではいえないにしても。

*6:もちろん、その4年間で十分過ぎるほどの成果を挙げ、所属する組織に貢献していた人間であれば、「理由を偽って休職」などという手を使わなくても周囲が配慮してくれる、なんて可能性が全くないとはいえない(過度の期待はすべきではないが・・・)。

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