「企業内弁護士」という括りが消える日を信じて。

これからの法曹像を考える上で、読んでおきたい一冊がある。


今年の9月に公刊された↓


企業内弁護士

企業内弁護士


自分はこれが本屋に並んですぐくらいに、買って読んでいたのであるが、書評をここまで引っ張ったのにはわけがある。


日弁連のプロジェクトチーム員の共著、という本の性質上やむを得ないことなのだろうが、章ごとの「企業法務」あるいは「企業内弁護士」に対するスタンスが余りに違いすぎるのだ。


ひとえに「企業内弁護士」と言っても、大手弁護士事務所からの移籍組もいれば、企業生え抜きの人もいるし、法曹の世界にアイデンティティを置いている人もいれば、そうでない人も当然いる*1


そして、企業の中でも、一般の国内事業会社と、外資系企業・金融機関とでは、法務の位置づけも、やっていることも大きく異なる。


要は「企業内弁護士」という括り方自体が本来は非常にアバウトなものなわけで、Jリーグにいる外国人選手を(出身大陸やポジションやプレースタイルを問わず)「助っ人」として一律に括るのと同じようなことをしているわけだから、それぞれの立場で書いた論稿を集めればカオスになるのはやむを得ないことと言えるだろう。


ゆえに、共感を抱ける章もあれば、1ページごとに突っ込みを入れないとすまないような章もあって、どこまで突っ込んでやろうか、と迷っているうちにここまで引っ張ることになってしまったのだ。


あと5年、ないし10年もすれば、企業の法務部で弁護士資格を持った人間が仕事をしているのは当たり前、という時代になって、「企業内弁護士」なんていう、ごった煮のようなカテゴリーでひとくくりにされるようなことも、なくなると思う(というか、そう信じたい)が*2、それまでの間、こんなカオスに放り込まれる立場になったとしたら、決して愉快ではないだろうなぁ・・・と何となく思う。



・・・で、悩んだあげくの結論としては、読者の立場や所属元によって、抱く感想も十人十色だろうから、自分としてはあえてコメントしない、というもの。


まぁ、早い話が“逃げ”である(苦笑)。


自分自身だって、いつどう転ぶかわからない今、特定のポジションから反対側を向いている人を批判するほどの勇気も、そのための気力も、今はない。


ただ、曲がりなりにも企業の中の法務、というポジションで、叩きあげの法務担当者と同じ釜のメシを食ったことがある者であれば、

資格を持たない法務担当者の能力<有資格者の能力

とか、
 

資格を持たない法務担当者の倫理観<有資格者の倫理観

といった前提をカテゴリカルに用いるような議論は、絶対にすべきではないし、してほしくない、ということだけは、チクリと言っておきたいと思う*3


なお、自分の立場から参考になった章(及び当該章の著者)をご紹介しておくと、

第1部第1章「紛争案件の処理」(梅田康宏氏)
第1部第4章「日常業務のサポート(非金融)」(片岡詳子氏)
第1部第9章「外部弁護士との関係」(西和伸氏)
第2部第3章「企業内弁護士のキャリア・パス(企業内において)」(佐野晃生氏)
第3部第3章「企業内弁護士と法律事務所の弁護士」(本間正浩氏)
第3部第4章「法務部と弁護士」(西和伸氏)

といったところだろうか。


あと、データコーナー(第2部第5章〜第7章)は、いろんな意味で興味深かった(笑)。

*1:アイデンティティがどこにあるかは、必ずしも企業内弁護士としての職務経験の長さ等とは一致しないだけに、なおさら難しい。元々法曹(というか司法試験)の世界に憧れを抱いて長年過ごしてきた人であれば、企業内にいても“法曹”としてのステータスの方に引き付けられるだろうし、元々異次元の世界にいた人間がキャリア上の必要に迫られて法曹資格を取ったような場合であれば、運悪く市中の法律事務所に勤めざるを得ないことになったとしても、アイデンティティは依然として“法務”にある、ということはありうるだろう。

*2:最終的にどういう人々が企業内有資格者の多数を占めるかは、これからの法曹界の“闘争”の結果如何にかかっている、といえるだろう。個人的には、今、企業内法務の第一線で汗を流している若手・中堅世代の法務戦士達が、自ら資格を取って、生え抜き法務軍団の先頭に立って、企業法務の世界を、そして法曹界そのものを変えていくべき、という思いが強いのだが、内に外に立ちはだかる保守的な“岩盤”を果たして突き崩せるかどうか・・・。筆者自身は決して絶望はしていないが、楽観視もしていない。

*3:誤解のないように言っておくと、上記書籍の中の特定の章にそこまで露骨な記述がある、というわけではない。ただ、無意識のうちにそういった前提にとらわれているような記述が見受けられたのが気になったので・・・。

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