ここまで来た“お膳立て”

「営業秘密保護による国内企業の競争力強化」というお題目の下、ここ数年間、不正競争防止法上の刑事罰強化等、拙速と言われても不思議ではないようなスピードで、数々の手が打たれてきた。

そして、遂に、最終到達点に達したんじゃないか、そう思えるようなニュースがこの年末に来て報じられている。

経済産業省法務省は企業が自社の営業秘密を守れるよう、秘密を盗まれた企業が裁判でその内容を隠せる新ルールを導入する。」
「来年の通常国会不正競争防止法の改正案を提出、成立を目指す」
日本経済新聞2010年12月20日付朝刊・第3面)

昨年の通常国会では、立法化を断念せざるを得なかった刑事訴訟手続上の手立ての整備*1に関し、経済産業省が満を持して法務省を巻き込み、「営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会」を立ち上げたことは既に報じられていたのだが、僅か3回の開催であっという間に「要綱(骨子)」が結論としてまとめられるとは・・・*2
http://www.moj.go.jp/content/000059958.pdf

憲法上「裁判の公開原則」が定められている、とはいっても、性犯罪事件で被害者の氏名等の情報を秘匿する、なんてことは、今でも頻繁に行われているし、公判期日外の証人尋問も(目的は違えど)現行刑訴法に一応規定が存在する以上、極端に異質な政策とまではいえない。

ただ、「その他」の章で、さらっと書かれている、

「検察官又は弁護人は,証拠開示に当たり,営業秘密の内容が明らかにされることにより,被害者,被告人その他の者の事業活動に著しい支障が生ずるおそれがあると認めるときは,相手方に対し,営業秘密の内容が,犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き,関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることを求めることができるものとすること。ただし,被告人に知られないようにすることを求めることについては,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項以外のものに限るものとすること。」(強調筆者)

というのはどうだろう。

「被告人」とされる者にとって、公判準備のために最も重要であるはずの「検察官請求予定証拠」の開示が受けられない、となると、ことは重大というほかない。

実際に「営業秘密」の要件該当性が争われるような事件であれば、その内容を知ることが「被告人の防御に関し必要がない」なんてことになるはずもないから、理屈の上では上記のルールが適用されることは考え難いのだが、そうなると、「被害者」の思惑と食い違ってきて、ますますややこしいことになってしまうような気もするし・・・。


まぁ、もしかすると、“行き過ぎたお膳立て”とも言えるこの改正の動きを見て、一番焦っているのは、これまで訴訟手続上の諸問題をあれこれと理由に挙げて、自社の営業秘密をめぐるトラブルを刑事手続に載せることを避けてきた会社の人たち、なのかもしれない。

その辺も含めて、今後の動きに注目してみたいところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090323/1237851132

*2:おそらく、既にほとんど話がまとまった状況で、ある種の“セレモニー”として研究会が立ち上げられたのだろう。第3回の議事概要(http://www.moj.go.jp/content/000059957.pdf)を見ると、あえて「要綱(骨子)」に賛成しなかった気骨のある委員も1名だけいたようだが・・・。