企業の「内部浄化」に期待することの虚しさ

小さい記事ではあるのだけど、ちょっと気になった「不祥事、監査役に優先報告 経産省指針 内部調査もみ消し防ぐ」という見出しの日経の記事。

経済産業省が新たにまとめるグループ会社の企業統治(ガバナンス)に関する指針の内容が分かった。企業の内部監査部門が経営陣の関与が疑われる不正を確認した際、経営陣ではなく監査役への報告を優先させる規定を設けるよう求める。問題のもみ消しを防ぐ狙いだ。グループ会社やサプライチェーンも含めたサイバー攻撃対策の策定にも着手するよう促す。」(日本経済新聞2019年5月20日付朝刊・第3面、強調筆者。)

おそらく、これは数日前のエントリー(「法務」はどこに居るべきなのか? - 企業法務戦士の雑感)でも引用した経産省のCGS研究会第2期の報告書*1の話をしているのだろう。

そして、現在報告書案の中で押し出されている「3線ディフェンス」の思想に基づき、「守りのガバナンスにおけるゲートキーパー」と位置付けられている「監査役(監査等委員会、監査委員会)」に第3線の内部監査部門等と連携した対応を求めることで、企業の内部統制機能を十全たらしめよう、というのが考え方の根底にあるのだと思われる。

これまでのエントリーでも時々つぶやいてきた通り、自分は「経済産業省」という役所が旗を振って、各企業や企業グループのマネジメントに、ああだこうだと“教科書”的なご高説を述べてくる、という最近の風潮があまり好きではない。

本来、各企業のマネジメントに関して「これが正解」などというものは存在しないはずだし、様々な失敗事例の“結果論”からどうのこうの後付けの議論をし、形だけそれを取り入れてもうまく機能するとは限らないし、個々の企業の組織の構図や歴史的背景を無視してそういったものを入れるとかえって逆効果になってしまうおそれすらある。

拘束力のない指針で、“ベストプラクティス”の例示に過ぎない、といったところで、役所のクレジットで公表すれば相応のインパクトはどうしても生じてしまうし、それを都合よく利用しようとする輩も世の中には大勢いるのだから、現状分析までならまだしも、本当の意味で“実務”を知らない人たちが、踏み込んだ「提言」までするのは勘弁してくれ・・・というのが素直な思いだった。

今回、CGS研究会(第2期)で分析、検討されている内容に関しても、「第2線」の中の法務部門の位置づけ等、安易に一般化してほしくないものは多々ある。

ただ、「不祥事対応」、それもトップやそれに近いところが”旗振り役”になってしまう「トップダウン型不祥事」への組織的な対応をどうするか、という点については、他にオフィシャルな提言をしてくれる権威ある機関があまりない、というのも事実だし、それこそ、社内の弱小部門の人間がいくら議論して提案しても、まともに取り合ってもらいにくい話だけに、どういう形であれ、何らかの問題提起をしていただけるなら、それが誰かの救いになるところもあるかもな、と思わずにはいられない。


正直、誰しもが、特に法務・コンプライアンスにかかわる仕事を長くやってきた者であればなおさら、「トップダウン」の不祥事が起きることなんて考えたくもないし、他社でどれだけ深刻な事態が起きていることを目にしても、「うちの会社だけはそんなことはないはず」と信じ込みたくなる思いに駆られる。

だけど、現実には、どんな会社でもそういう事態は起きるし、それまで「標準以上の体制を整えてきた」と信じていた様々な暴走歯止め策も、いざ起きてしまった時には実に無力なものになってしまう。

だから、会社の中で起きた問題をその会社自身がきっちりとコントロールすることを前提に、「理想的な内部統制システムの構築」に頭を悩ませ、労力を費やすよりも、いっそのこと各会社の「外側」に捜査機関に準じるような強い調査機関を設置して、会社の中からの様々な情報を吸い上げて調査、是正にあたらせるような制度設計の方が良いのではないか、という思いにすら駆られてしまうのであるが*2、さすがにちょっと、心がささくれ過ぎているだろうか?

いずれにしても、企業が活動している限りは、大なり小なり「何か」は起きるので、それを未然に防ぐとか、きれいに解決する、ということだけに注力するのではなく、そういった何かに直面した時の「身の処し方」を日々意識することこそが、大事なのではないかな・・・と思った次第。

*1:現在公表されている案はhttps://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/2_016_04_00.pdf

*2:もちろん、どれだけの規模の機関を設置すれば、世の数多ある会社の中でうごめいている有象無象の問題の種を把握して、完璧な対処ができるのか、想像しただけでも怖い話なのであるが・・・。