「プライム」移行に向けた喧騒の始まり。

東京証券取引所から、上場各社に対し「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果について」という書面が届いたのは先週の金曜日のこと。

前々から予告されていたことではあるし(※以下の資料の35~36頁参照。)、”当落線上”の会社であれば概ね結果も予想できていたところだとは思うのだが、それでも、直前模試の合否判定と見まがうような書類がTargetシステム経由で飛んできて、嫌な結果を突き付けられて渋い表情になった担当者も多かったのではないだろうか。
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000005jkv0.pdf

で、その通知が届いたその日から始まったのが、あちこちの会社での怒涛の適時開示ラッシュ。

9日(金)の時点ではさすがにプライム12社、スタンダード1社(いずれも一次判定クリア、のリリース)に留まっていたのだが、12日(月)になってプライムの適合通知を高らかに開示した会社は実に100社を超え、続く13日、14日もかなりのボリュームで開示する会社が続出して、結局、今日16日までの間に、プライム市場関係だけで200社を優に上回る会社が、さらにスタンダード、グロースを合わせると270社を超える会社がリリースを出すに至った。

確かに、現在東証1部に上場している会社でも、そのうちの何割かは基準を満たせず「プライム」市場に移行できないのでは?という事前報道もされている中、会社の規模によっては移行する市場選択の判断が重要事実に当たり得る、という見解も唱えられていたから、9月1日に始まる市場選択手続に合わせた取締役会決議のタイミングでは、少なからぬ会社が適時開示をすることは予想していたのだが、東証の「判定」のタイミングでこんなにぞろぞろと開示する会社が出てくるというのはちょっと想定外の出来事・・・*1

もちろん、今回開示した会社の中には、(多少気が早いような気もするが)「この一次判定を受けて速攻で申請のための取締役会決議をしました!」という会社もごく僅かに存在していて、そういう会社がリリースするのは分かるのだが、多くの会社は、まだそこまで進んではいないようだし、中には「当社が同市場を選択する決定をしたことをお知らせするものではありません。」というエクスキューズをわざわざ入れている会社すら存在する。

おそらく、週の後半になって開示したような会社の中は、金曜日、月曜日の段階で結構な数の会社が適時開示しているのを見て、あら大変、うちも出さなきゃ・・・と慌てて追随したような会社も相当数混じっているような気がするのだが、「適合」といっても悠然と基準を超えて行けるレベル*2から、数か月前の基準時での流通時価総額がギリギリ100億円を超えてました・・・というレベルまで多々混在していることが想定される中で、「判定の結果」だけ開示されたところで、それだけでは投資家にとっては何の判断材料にもならない。

会社としては、取締役会決議自体は来月、再来月の話でも、この時点で「適合」を高らかに開示することで投資家に安心してもらって、あわよくば更なる上昇を・・・という目論見もあるのかもしれないが、今の純粋な時価総額と推定される流通株式比率からするとギリギリじゃない・・・?というような会社の場合、ここで「プライム」と言われてしまう方がかえって不安が増すのが投資家心理。

それならば、既にいくつかの会社*3が行っているように、不適合となった項目とその数値をつまびらかに公表した上で、「上場維持基準の達成を早期に目指してまいります。」と今後の華やかなコーポレートアクションの実行を示唆する方が遥かに株価にとってはポジティブな影響があるような気がして・・・*4

秋が近付く頃には、移行手続きに関する各会社の意思決定も続々と明らかにされ、平行して様々なコーポレートアクションも飛び出して、市場界隈はさぞかし賑やかなことになるだろうと思うのだけれど、世の中のトレンドとともに移ろいやすく、企業の経営努力だけでは如何ともし難いところもある「(流通)時価総額」の数字にばかり注目が集まっている今の状況が果たして望まれていたことなのか*5、そして、おそらく今年の後半に訪れる金融政策と景気の大きな潮目の変化*6により、時価総額」の基準を厳格に適用することさえままならなくなるような状況になってしまうのではないか*7、という問題提起をしつつ、ここからの打ち上げ花火の行方を見守ることにしたい。

*1:前記東証の公表資料の47頁でも、「今般通知された適合状況の一次判定の内容や、それを踏まえた新市場区分の選択意向」については適時開示の必要はない、と明記されている。

*2:さすがに時価総額が1兆円を超えるような規模の会社はこの手の開示自体していないが・・・。

*3:確認した限りではプライム市場関連で10社、スタンダード市場関連で3社が一部の項目で上場維持基準に適合しなかったことを公表している。

*4:中には、「一次判定」の結果に最新の状況が反映されていない、として、「二次判定」を求めることを宣言している会社もある。

*5:良い経営をしている会社は株価も高い、という事実を否定するつもりはないが、だからといって「株価の高い会社が良い経営をしている」というわけでは全くない、というのもまた事実ではなかろうか。

*6:様々な分野での供給網の目詰まりや、それがもたらす需給ギャップの更なる拡大によって「悪いインフレ」が世界的に拡大し、米国・欧州発の金融政策の急転回が、ここしばらく一貫して右肩上がりで来ていた景気と株価を一気に冷え込ませる、というストーリーは既にくっきりと見えている。

*7:現時点ではかなり緩やかな基準の「経過措置」が設けられており、その適用期間も「当分の間」と明確に定められてはいない。世界的に市場の体温が大きく低下するようなことになれば、「当分の間」が5年、10年の話になったとしても全く不思議ではない。

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