今年の「知財判例」と言えば・・・。

年を重ねるたびに、過ぎる時間は早くなる。

幸運にも、ちょうど「この一年を振り返る」的な企画*1に参加する機会をいただいたので、ここしばらくの間は、手の空いた時間でいろいろ思い出そうとしていたのだが、「つい最近」と思っていたことが1,2年前の話だった、なんてこともまぁざらにあって、記憶を整えるのがいろいろと大変だった、ということは正直に白状しておきたい。

で、「知財ニュース」全般については当の番組を見ていただければと思うのだが、せっかく記憶を喚起したところでもあり、個人的に今年印象に残った知財関係の裁判例を備忘的に書き残しておくならば、以下のようなものになるだろうか。

最一小判令和4年10月24日(令和3年(受)第1112号)

 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

東京地判令和4年3月11日(平成31年(ワ)第11108号)

 不正競争行為差止等請求事件
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

これら2件については、既にエントリーも上げているところなので、改めて多くを語ることはしないが、「2022年」という年を振り返る時に必ず思い出されるビッグトピックとなることは間違いないと思う。

で、さらにもう一件挙げるとしたら・・・ということで、世の中の流れ的には「ドワンゴ対FC2」を推す声が強いであろう*2、ということは重々承知しているのだが、あの7月の知財高裁判決はどこかでひっくり返りそうだな、と内心思っていたりもするので、既に確定した↓の判決の方を挙げておく。

名古屋地判令和4年3月18日(平成29年(わ)427号)

 不正競争防止法違反被告事件*3
 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/195/091195_hanrei.pdf

この判決の判断の骨子は、

「本件打合せにおいて被告人両名がeに説明した情報は,アモルファスワイヤを基板上に整列させる工程に関するものではあるが,bの保有するワイヤ整列装置の構造や同装置を用いてアモルファスワイヤを基板上に整列させる工程とは,工程における重要なプロセスに関して大きく異なる部分がある。また,上記情報のうち検察官主張工程に対応する部分は,アモルファスワイヤの特性を踏まえて基板上にワイヤを精密に並べるための工夫がそぎ落とされ,余りにも抽象化,一般化されすぎていて,一連一体の工程として見ても,ありふれた方法を選択して単に組み合わせたものにとどまり,一般的には知られておらず又は容易に知ることができないとはいえないので,営業秘密の三要件(秘密管理性,有用性,非公知性)のうち,非公知性の要件を満たすとはいえない。したがって,被告人両名は,本件打合せにおいて,bの営業秘密を開示したとはいえない。 」(PDF2~3頁、強調筆者)

という点に集約されている。

検察官が自信満々に起訴した行為が根底の部分でひっくり返った、という点だけ見れば、弁護人冥利に尽きるような実に痛快な事件である一方で、本件の公訴事実が「平成25年4月9日の打合せでの説明」という10年近く前の出来事であり、逮捕・起訴から判決までの間に5年以上の歳月が流れた、ということを知れば、「営業秘密不正開示」の問題がむやみやたらに刑事手続のプロセスに乗せられることの怖さを心底感じさせる事件、ということもできる*4

個人的には、本件で上記のとおり「非公知性」が否定される一方で、裁判所が「秘密管理性」や「不正の利益を得る目的(の存在)」について認めてしまっているのはいささか蛇足に過ぎると思っていて、これらの”傍論”だけつまみ食いされるリスクにも十分警戒する必要はあるが、本件の後も、あちこちで営業秘密の不正取得、利用を刑事手続のプロセスに載せようとする動きが活発になっていることを考えると、まずは裁判所によって「無罪」という判断が出されたことの重みを関係者が受け止めるべきだし、本来であれば民事の領域で解決すべき話を安易に刑事手続きに落とし込もうとすることに、少しでも抑制効果が働けばよいな・・・と思うところである。

そして、世の中では、上記3事件ほど話題にはならなかったのだが、You Tubeをめぐる以下の高裁判決も、時代の流れを感じさせる一事例として取り上げておきたい。

阪高判令和 4年10月14日(令和4年(ネ)265号 ・令和4年(ネ)599号)

 損害賠償請求控訴事件*5
 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/484/091484_hanrei.pdf

被控訴人(原告)がYou Tubeに投稿した動画に対して、控訴人(被告)が著作権侵害通知を行い、動画を削除させたことが共同不法行為にあたるとして、原判決からさらに増額した26万1514円の損害賠償を認めた事例なのだが、個人的には、かつてどれだけ権利侵害を通知してもなかなかリアクションしてくれなかったYou Tubeが、今はこんな簡単に削除に踏み切るのか・・・ということと、裁判所がそんな制度運用を前提に、

You Tubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYou Tubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。 また、収益化されたチャンネルにおいては、You Tubeへの動画投稿によって、投稿者は収益を得ることができるから、正当な理由なく投稿動画を削除する行為は、投稿者の営業活動を妨害する行為ということになる。したがって、この側面からも、投稿者は、正当な理由なく投稿動画を削除されないことについて、法的上保護される利益を有すると解することができる。」(PDF11頁)

と、投稿者側の「法律上保護される利益」を明確に認めた上で、

著作権侵害通知をする者が、上記のような注意義務を尽くさずに漫然と著作権侵害通知をし、当該著作権侵害通知が法的根拠に基づかないものであることから、結果的にYou Tubeをして著作権侵害に当たらない動画を削除させて投稿者の前記利益を侵害した場合、その態様如何によっては、当該著作権侵害通知をした行為は、投稿者の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為を構成するというべきである。 」(PDF13頁)

と、通知者側に比較的高度の(ように見える)「注意義務」を課したことにはちょっとした驚きもあり、(そのことの当否は別途考えるとして)そういう時代になったのだなぁ・・・という感慨を抱いた、ということは、ここに書き残しておきたいと思っている。

*1:www.youtube.com

*2:実際、冒頭の振り返り企画の投票結果もそうだった。

*3:刑事第5部・板津正道裁判長

*4:幸いにも検察官が控訴しなかったことで、被告人の無罪は早々に確定したのだが、この5年の間に失われたものの大きさを考えると、関係者にとっては「無罪で良かった」で済む話ではなかろう、と思う。

*5:第8民事部・森崎英二裁判長

ようやく、の終焉。

よりによってこの年末に・・・と誰もが思った、少し早めのクリスマスプレゼントというにはあまりに唐突な政策転換だった。

「日銀は19~20日金融政策決定会合大規模緩和を修正する方針を決めた。長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げた。長期金利は足元で変動幅の上限近くで推移しており、事実上の利上げを意味する。アベノミクスの象徴だった異次元緩和は10年目で転換点に差し掛かった。」(日本経済新聞2022年12月21日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

まもなく就任から10年を迎えようとしている黒田東彦日銀総裁が、どれだけ「機能してない」「失敗だ」と言われ続けても頑なに正当性を主張して譲らなかった「大規模緩和」策。

新型コロナ禍からウクライナ戦争を経た混乱の中で、物価上昇率が2%を優に上回る状況になっても、いつまでも金利を下限に張り付けているこの国が世界中のヘッジファンドの標的になって大幅な円安を招いても、それでも微動だに動かないかのごとき「信念」が声高に発せられていたから、「後任総裁人事の話題が出る頃までは大幅な政策変更はないだろう」と自分もすっかり油断してしまっていた。

年末続々と姿を見せたIPO銘柄の中から、本物の「グロース」が見込めそうな銘柄をいくつか見繕い、じわじわと株価回復基調にあった某銀行株を一部売却して購入資金に充てたのは19日のこと。

20日の午後、日銀の発表と同時に株価は暴落。特にグロース系の銘柄は散々たる有様。そんな中で、唯一逆行高だったのは銀行、保険等の金融銘柄のみ・・・。

「キルクール」が定番な自分の投資の歴史の中でも、ここまで見事にハシゴがぶっ壊れたことがあっただろうか・・・と嘆くしかない最悪の展開だった。


政策転換そのものには1ミリも反対する余地はない。

平時に効果を発揮できず危機時においてはもはや有害でしかなかった施策に任期いっぱい固執することなく、終わりが見えてきたこのタイミングで自ら軌道修正を図ったことで、現総裁に対するこの先の評価にも多少の手心が加えられることになるのかもしれない。

ただ、このタイミングはあまりに遅く、悪かった。

今は、しばらく続いた為替市場の変調ゆえ世の中が「極端な円安」を受け入れ始めた矢先であり、物価上昇(とそれに伴う売上、利益の嵩増し)に対応して続々と各社が季節外れの「賃上げ」に踏み切る流れができていたタイミングでもあった。

おそらく、今年の夏ごろにこの政策転換ができていれば、物価上昇はここまで激しいペースになる前に収まっていただろうし、各企業が「インフレ手当」を支給するところまでは到底行っていなかったことだろう。いつまでも「変更」の判断をしない日銀のもたつきのおかげで世の中は大きく変わろうとしていた。それが・・・。

自分のように、株式は5年、10年寝かせてナンボ、という「長い目」での投資をしている者であれば、一時期の株価の上下動にそこまで目くじらを立てる必要はないし、為替レートの急変動もそこまで気になる話ではないのだが、企業ともなるとそう単純な話ではないわけで、特に海外に拠点を持つ企業の場合、為替レートがこれだけ短期間のうちに大きく変動してしまうと、収入見通しの数字も大きく書き直さないといけなくなる可能性がある。

そうでなくてもここ数年間で足腰が弱っていた会社が多いから、今回の政策転換がもたらす衝撃にどこまでの会社が耐えられるか・・・なんてことも心配なところではあるが、それでもここで踏み切ったことが後々「英断」と評価されるのかそれともその逆か。今は祈るような気持ちで眺めている。

季節外れのアンセムに。

怒涛のカタールW杯が終わった。

大会終盤、準決勝、3位決定戦まで来ても、依然しびれるような戦いは続き、そしていつもなら退屈な試合になることも多い「決勝戦」が大会のハイライトのような試合になる、という贅沢さ。

もう散々、様々なメディアで書かれているから、くどくどとは繰り返さないが、スピードとフィジカルがフィールドを支配し続けている現代のフットボールの世界で、「テクニックはすべてを凌駕する」とばかりに美しすぎるパスワークを展開したアルゼンチン代表の80分間。

だが、それが一瞬のペナルティエリア内での攻防&エムバペ選手の起死回生のPKですっかり逆回転し、あれよあれよという間に試合は振り出しに戻る。

それでも延長前半、メッシ選手が「神の子」の名のとおり、奇跡的な幸運の重なりで勝ち越しゴールを奪い、いよいよエンディングへ・・・と思ったところで、延長後半、再びエムバペ選手がPKを決めて振り出しに戻る。

それまで温存してきたディ・マリア選手を最前線で起用して見事に2得点に絡ませたスカローニ監督の布陣があっぱれなら、前半途中で攻撃陣2枚替えという劇薬を投じ、その後の交代と合わせて後半最後の15分で流れを完全にひっくり返したデシャン監督の采配もお見事の一言。

そして、そんな指揮官も役者も、さらには稀代の名解説者たる本田圭佑氏まで揃った最高のバトルは、120分+アディショナルタイムが過ぎたのち、メッシ&延長戦で出場した交代選手たちがゴールを決め続けたPK戦でアルゼンチンが「圧勝劇」を飾ることで幕を閉じた。

フランス人を除けば、おそらく世界中の観戦者が一番見たかったであろう結末。それがこんなドラマティックな展開で実現するとは・・・。

どんなに白熱した好ゲームでも一定の時間が経てば自ずから終焉を迎える。

そうでなくても慌ただしい霜月から師走にかけての1カ月弱、多くの試合を見つめながら感じたのは、そんなサッカーという競技の単純な特徴で、それがこんなに有り難く思えたことはなかった。

加えて、普段の仕事と同じスタイルで机に向かいながら、画面を切り替えれば即、画面の向こうの「中東」に没入できたのはABEMAさまさま。やむに已まれずパスした試合でも、簡単にタイムシフトして丸ごとみられる、という開放的な世界観は、これまで4年に一度、何度も繰り返してきた「後悔」を歴史の遺物へと追いやった。

繰り返し聞き続けてすっかり染みついた2022のW杯アンセム、場内の狂信的なまでの熱唱に鮮烈なインパクトを受けたモロッコ国歌。

いつもとは真逆の季節のど真ん中での体験。でも、それが今年の最後にやってきた、ということには、なんか特別な意味があったような気がする。

この「熱」を日本にまで届けてくれた名もなき多くの人々、SNSで一緒に盛り上がってくれた方々、ありとあらゆるものに心から感謝しつつ、この後はもう一瞬でやってくる「最高だった2022年」の終幕に向けて、これからしっかりと歩みを進めなければ、と思うところである。

お天道様は見ているか?

金曜日の深夜から日曜の早朝にかけての2日間、どの大会でも一番面白いと言われるW杯の準々決勝が行われた。

最大のサプライズといえば、グループリーグでの余裕綽綽の戦いぶりからして、決勝進出は間違いないと思われていたブラジルの敗退だろう。

相手は4日前に日本とPKにもつれ込む死闘を繰り広げたばかりのクロアチアモドリッチ選手を筆頭に、出ずっぱりのベテラン選手も多かったこのチームが相手なら、多少苦しめられても最後は・・・と思いながら眺めていた観衆は多かっただろうし、試合が始まってクロアチアが想像以上のパフォーマンスを発揮していてもなお、延長の前半にネイマールが「これぞ!」といわんばかりの鮮やかなドリブルシュートを決めた時点で、「大勢決した!」と寝落ちした日本人も多かったはず。

だが、そこから延長後半、見事なカウンター一閃からペトコビッチ選手が執念の同点ゴール。そして、2試合続けてのPK戦の結果は、これまでのVTRを見るかのようなクロアチア選手たちの魂のこもった蹴り込みと、リバコビッチ選手の神がかったセービングにより、再びクロアチアに凱歌が上がることとなった。

他の試合を眺めても、1回戦とはうって変わってどの試合も「1点」が勝敗を分ける好ゲームだったし、いわば”紙一重”の展開ではあったのだが、それでも終わってみれば勝ったチームはいずれも「順当」という印象がある。それだけに、ブラジル対クロアチアの試合の結果だけは、唯一のサプライズとして週末の間ずっと余韻を残すものとなった。

これで残ったチームは4か国の代表チームだけ。

大会前の予想や選手たちのネームバリューで言えば、左側の山で勝ち残るのはアルゼンチン、右側の山で勝ち残るのはフランス、と考えるのがもっとも素直な予想だとは思う。

ただ、世界中の選手たちが欧州のビッグクラブで腕を磨くようになった今、国ごとの「格」の差もそこまで大きなものではなくなっている。

グループリーグの最終戦、主力選手を”休ませた”チームが、ことごとく苦杯をなめたように、ちょっとでも隙を見せれば、格下であっても勝敗をひっくり返す力はあるし、どれだけ目の前の試合にベストを尽くそうとしても、その試合に臨むまでのプロセスが悪ければリズムがおかしくなって本来の力を出せずに終わることもある。

クロアチアに敗れたブラジルは、その前の試合で韓国に前半だけで4点の差をつけ、後半は完全にエキシビションモードで流していた。
「対戦相手への敬意を欠く」とまで評されたその対応が、どことなくエンジンのかかりが鈍かった準々決勝に影響していない、と誰が言いきることができるだろう。

そしてそう考えると、準々決勝、必要以上に荒れた試合で、ブラジル以上に対戦相手への敬意を欠く振る舞いが目立ったアルゼンチンを、1回戦、準々決勝とベストを尽くして勝ち抜いてきたクロアチアがすんなり勝たせてくれるとは到底思えない。

また、もう一つの「山」も「フランスで決まり!」と言い切るには、モロッコの力が強すぎる。

体格も、ボール扱いのスキルにも優れた選手たちがド根性で守り、そして隙あらば切れ味鋭いカウンターで相手ゴールを一心不乱に攻め落とす、という彼らのサッカーは、既に今大会の象徴のような存在になりつつあるし、「ホームゲームか!?」と見まがうような熱狂的応援がそれを後押しする。

4年前の大会、モロッコは20年ぶりに出場した本大会で、「台風の目」といわれるような扱いを受けながらも、初戦から後半ロスタイムのオウンゴールでイラン相手に星を落とし、さらにポルトガルにはC・ロナウドの一発で沈められ*1、2連敗でたちまち希望を絶たれた。

それでも、スペインとのグループリーグ最終戦で時計の針が90分を廻るまでは1点リードして戦いを進めていたし、最終的に追いつかれはしたものの、「勝ち点1」をもぎ取っている。

そこから4年の時が過ぎ、当時のメンバーも多く残っているのが今大会のモロッコ代表。
そして、トーナメントに入ってから、スペイン、ポルトガルといった4年前の敵を次々と蹴散らし、より自信を深めて盛り上がっているチームでもある。

だから、決勝戦で順調にアルゼンチン対フランス、という夢の好カードが実現するのか、それとも、どちらかの「山」の一方で歴史を覆すようなサプライズが起きるのか、今単純に予測するのはなかなかできないことだったりもするのだけれど、できることなら「試合前にゴシップ紙の話題になるようなネタを提供」しなかった方が勝つ、というところは、今大会でも変わらずにあってほしいと思うから、これからいろいろと浮いてくる有象無象にも目を受けた上で、戦いまであと数日、凌ぎきっていければ、と思うところである。

*1:あの大会のC・ロナウド選手はまさに円熟期で、初戦のハットトリックから2戦目の決勝点まで、その時までのチームの全得点を叩き出していた。

何度見てもぬぐえない「被害者救済新法」というフレーズへの違和感

本来なら政権与党が盤石の基盤に支えられて悠々と乗り切れるはずだったのに、身内の様々な問題が噴出した結果、会期末ギリギリまで対応を余儀なくされた今年の臨時国会

最後まで「政治」に振り回された結果、最大の目玉法案の参院本会議での採決がまさかの土曜日(予備日)になる、という異例の展開となってしまった。

自分自身、この臨時国会の会期のほとんどが、何かと慌ただしい時期に重なっていたこともあって、各種報道もチラチラと横目で見るだけだったのだが、そんな中でもずっと違和感を持ち続けていたのが、メディアでよく使われる「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者の救済に向けた新法案」という表現。

なぜなら、この「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律案」という名の法案は、そのタイトルからして分かるとおり、「旧統一教会」にフォーカスしたものでもなければ、「宗教法人」にフォーカスしたものですらない。

一部、与野党協議で修正されたという報道もあるが、成立した法律の内容は、↓に公表されたものが基本になっている。
https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_system_cms101_221201_03.pdf

そして、その目的規定は、

第1条 この法律は、法人等(法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めがあるものをいう。以下同じ。)による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることにより、消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)とあいまって、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図ることを目的とする。(強調筆者、以下同じ)

となっており、この法律に書かれている内容が、特定の宗教法人を対象としたものではなく、ありとあらゆる「法人等」を対象とした汎用的な民事的規律であることを明確に示している。

第4条で定められた「寄附の勧誘に関する禁止行為」の名宛人は「法人等」だし、審議中大きな争点となった第3条の「寄附の勧誘を行うに当たっての配慮義務」)名宛人も「法人等」

同時に審議されて可決成立した消費者契約法については、第4条3項6号が

「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として」

という枕を置いているから、それでもまだ「宗教」ないしそれに類するものが対象だ、と言い切ることも可能だったのだが、新設の法律は「法人等」というフレーズ以外に規制行為の主体を限定する要素がないだけに、適用範囲が無限に広がってしまう可能性も秘めている。

もちろん、「目下の被害者救済」という側面を重視すれば、これまで他の各消費者保護法が取り込めていなかった「寄附」の概念とその問題性を条文化しただけで十分意味があると言えばそれまで。

ただ、そのメリットを考慮しても、世の中の「寄附」全般に広く網をかける新法がこの先もたらすハレーションの方がやっぱり心配だったりもするわけで・・・。

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いつかは来る日だと分かってはいても。

自分にとっては、あまりに唐突に訪れたニュースだった。

日本中央競馬会JRA)は8日、2023年度の新規調教師試験の合格者を発表し、日本ダービー(G1)で3勝を挙げた福永祐一騎手(栗東・フリー)など7人が合格した。46歳の福永は来年2月いっぱいで騎手を引退する。」(日本経済新聞2022年12月9日付朝刊・35面、強調筆者)

今の中央競馬界は、53歳になってもなお現役第一線で引っ張る武豊騎手の存在が時空を歪めているところがあり、それにつられてか、1期上の横山典弘騎手から、御年56歳・最高齢記録更新モードに入っている柴田善臣騎手や、いつまでも”若手”のイメージが抜けない田中勝春騎手等々、前世紀からしのぎを削ってきた騎手たちが50歳代になってもなお現役で頑張っている、という状況だから*1、まだ40歳代、しかも自分がデビューから見始めたほぼ最初の世代でもある福永騎手が調教師転向、引退、というのは、どうしても早すぎるのでは?という錯覚に陥ってしまう。

だが、冷静に思い返せば、かつて関西騎手会長を務め、伝説の天覧競馬(ヘヴンリーロマンスが勝った天皇賞・秋)の頃には既にベテランの風格すら漂わせていた松永幹夫(現)調教師が騎手を引退したのは38歳の時、今や「大和、大河兄弟の父」としての方が有名かもしれない角田晃一(現)調教師も39歳の時には引退している。

最近では、四位洋文騎手や蛯名正義騎手が、40歳代後半~50歳代で引退して調教師に転向した例があるとはいえ、本来は、岡部幸雄騎手のような「超越したベテラン&生涯騎手」を除けば、プロ野球選手と同様に、40歳の声を聞く頃には引退して、新たなステージで活躍する、というのが、この世界でも普通だった。

そう考えると、福永騎手の引退も決して「早い」とは言えないし、開業してから調教師定年まで20年ちょっと、という限られた期間で結果を出す、というミッションは、かなり厳しいことのようにも思える。

福永騎手の中央での通算成績は、既に2613勝。蛯名騎手を抜いて歴代4位に付けている。

技術の拙さや勝負弱さを指摘され、「単にいい馬に乗せてもらっているだけ」と一部で揶揄されていたのも、とうに昔の話。

特に、40歳を超えてからは、何かをつかんだかのように大舞台で勝ち続け、過去5年で3度(20年、21年は2年連続)のダービー制覇を成し遂げたかと思えば、昨年は異なる馬でGⅠ年間4勝。今年もフェブラリーSに、クラシック一冠目のジオグリフで、GⅠタイトルを掴んでいる。

現時点でもリーディングトップ10に入り、年間100勝に迫る勢いで勝ち星を重ねていることを考えれば、このまま現役を続けて岡部幸雄横山典弘といったレジェンドたちの数字を抜き、少なくとも「武豊に次ぐ騎手」としては競馬史に名を刻むこともできたはずだ。

にもかかわらず、何が福永騎手を違う方向に向かわせたのか・・・。

JRAの公式ウェブサイトには、他の試験合格者と並んで、「令和5年度新規調教師 福永祐一」の志望動機と目標、コメントが掲載されている。
https://www.jra.go.jp/news/202212/pdf/120803_04.pdf

他の試験合格者と比べても一味違う「動機」は、既に報道でも使われているし、これだけでも十分思いは伝わってくる。

ただ、本当にこれだけが全てなのか?ということについては、自分には半信半疑なところもあって、この先、ポロポロと出てくるかもしれないこぼれ話は聞いておきたいな、というのが一つ。そして、今年福永騎手に託された600近い騎乗依頼が、この先、誰の元にチャンスとして回っていくのか、という点は、少し注意深く見守ってみたいと思っているところである。

*1:さらに負傷で長期療養中の熊沢重文騎手もいるし、地方からの移籍組である内田博幸小牧太といった大物騎手たちも的場文男騎手が現役であり続ける限りは・・・といわんばかりにローカル参戦も厭わず奮闘を続けている。

日本がワールドカップの一部、になった日。

週明け早々から深夜に行われたカタールW杯ノックアウトステージ1回戦、日本対クロアチア戦。

「4度目の正直なるか!?」というメディアの煽り以前に、ドイツとスペイン、という優勝経験国を倒してトーナメント表上に席をつかんだ、というこれまでの経緯を踏まえれば、誰もが画面の前に食らいつくのは必定の理だった。

翌日は、午前中からいくつかの打合せの予定が入っていたのだが、そこに出てこられる方々の一様に眠そうなお顔といったら・・・。
午前3時、というのは自分にとっては普段の就寝時間だが、多くのまっとうな社会人にとってはそうではないのだ、ということを改めて思い知らされたエピソードでもあった*1

結果は改めて書くまでもあるまい。前半先制、後半に追いつかれ1-1。延長戦30分の激闘の末、PK戦で最初の2人が止められてあっけなく敗北。

それだけ聞けば、12年前、全く同じパターンで決勝トーナメントに進出した末に敗れたパラグアイ戦と変わらないようにも思える。

だが、この2022年12月5日日本時間24時の試合を、自分はこれまでにない特別な感覚で眺めていた。

クロアチアの選手たちは確かに皆テクニックがあるし、タフに動き回ってフィジカルも強い。
ただ、この日の日本代表選手たちは、グループリーグの時以上にテンポ良く、自分たちのリズムで試合を運んでいた。

権田選手の安定したセービング、判断に迷いがない鉄壁の最終ライン、そして何よりも、地上戦ではほぼ負けない遠藤、守田という世界に誇る両ボランチが相手から面白いようにボールを奪取し、そこから繰り出されたパスが伊東、堂安といった稀代の攻め手のところにしっかり収まる。これまで散々批判に晒されていた鎌田大地選手も、これまででは一番動きがよく、良い攻撃の起点になりえていた。

だから、前半43分の先制点も、それまでの試合の流れの中で生まれた、という点で、今大会でのこれまでの得点の中では一番自然なものだったし、後半早々に追いつかれてからも、「何とか耐えてくれ・・・」と叫びたくなるような時間帯は、ほとんど訪れることはなかった。

結果的には、ABEMA解説の本田圭佑氏が「雑」と連呼していたクロアチア選手たちの敵陣へのロングフィードが、120分という長い時間の中でボディーブローのように日本選手たちの体力を蝕み、時間が経てばたつほど背番号20のDF、若干20歳のグバルディオル選手の存在感が増す、という展開の中で、日本が誇るスピードスターたちは敵陣ゴールの手前でことごとくチャンスを潰された。

ただ一方で、日本もいつものように三笘選手が存在感を示し、延長前半に自分の市場価値をさらにワンランク上げるような決定的な場面を演出する。何より、あのバロンドーラ―のモドリッチを「専守防衛」のポジションに追いやり、試合の最後までピッチに立たせなかった、というのがどれだけ凄いことか。

本当にPK戦以外は完全に互角、ないしそれ以上だった」というのが、この日の戦評、ということになるだろう。

そしてその試合を眺めながら自分は「日本代表の興亡この一戦にあり」的な感覚とは程遠い

「次の試合でブラジルと戦う時には、どの選手をどう使ってくるんだろう?」

とか、

「ブラジルと当たる相手としては、どちらのチームの方が面白いだろう?」

などということをずっと考えていた。

*1:もちろん自分とて、相対的に「慣れている」というだけで、午前中から始まる打合せが寝不足との戦いになることに変わりはない。

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