四大事務所の“対決”

新・会社法関連の実務書が世にあふれている、という話は、
以前のエントリーでも述べた。


池袋のジュンク堂法律書コーナーには、
新会社法コーナーがあって、
相澤哲氏の『一問一答』、葉玉検事の『100問』から、
神田教授、弥永教授、宮島教授の概説書、条文集、
そして『すぐわかる・・・』系の“読み物”まで、
数多くの関連書籍が並んでいる。


そんな中、自分の目を引いたのは、
長島・大野・常松法律事務所の編集にかかる、
『アドバンス・新会社法』である。

アドバンス 新会社法

アドバンス 新会社法


藤縄憲一弁護士による「はしがき」にも書かれているように、
本書は実務家をターゲットとした「会社法(全体)の解説書」であり、
少なくとも体裁だけ見れば、研究者が著した概説書に負けずとも劣らない、
立派な書籍である*1


個人的に面白いな、と感じたのは、
研究者の方の書かれた概説書と異なり、
各章に置かれた「本章のサマリー」で、
実務的な視点からの“ワンポイントアドバイス
がまとめられていることや*2
コラムとして「実務のポイント」というコーナーが随所に置かれており、
そこで、かなり思い切った“弁護士の本音”が書かれていること*3にある。


買ったばかりということもあって、
まだ十分に目を通してはいないが、
当初の予定(必要に応じて適宜参照)に反して、
通読したくなるような面白さと読みやすさが魅力的である。


実務書としての宿命ゆえ、脚注での文献、判例引用等が皆無である点、
学生・院生、その他受験生の方々にとっては、物足りないであろうが、
他のテキスト(例えば、じきに出るであろう江頭教授の概説書など)と
あわせて使えば、会社法のイメージを相当程度つかめるのではないかと思う。


なお、四大事務所が出した書籍と言えば、
法務部の中で当初かなり評判が良かったのが、
アンダーソン毛利友常法律事務所が出した『新会社法の読み方』。

新会社法の読み方―条文からみる新しい会社制度の要点

新会社法の読み方―条文からみる新しい会社制度の要点

改正直後に出たということもあって、
個々の項目の記述はあっさりとしているが、
実務的視点から検討が加えられた形跡はしっかりと見て取ることができ、
値段の手ごろさ(かつ新条文のCD-ROM付き)や、読みやすさと合わせると、
これまたお勧め本の部類に入るのではないかと思う。


これで残されたのは、森濱田松本と西村ときわ、である*4


「西村ときわ」に関して言えば、
岩倉正和弁護士、太田洋弁護士、武井一浩弁護士、といった
“スタープレイヤー”の先生方が、
既に随所で新会社法に対するご見解を披露されているところかとは思うが、
意外なことに、まとまった形での書籍はまだ出されていない。
もしかすると、“スター軍団(人読んで法曹界の銀河系軍団(笑))”ゆえに、
「執筆(監修)時間を確保できない」という悩みを
抱えておられるのかもしれないが・・・*5


いずれにせよ、こういった形での競争は大歓迎である。


担当者の好みに合わせて買い揃えていくうちに、
書籍代の予算枠を使い切ってしまった(!)、
という嘆き節もじきに聞こえてきそうな状況ではあるけれど・・・(笑)。

*1:決して中身が伴っていない、という意ではない。単に、自分が中身にちゃんと目を通していないだけである。

*2:例えば、第4編第1章「機関設計」では、「各社の実情に応じて適切な機関設計が選べるようになったことは望ましいことである反面、機関設計選択の観点・基準が今後実務の蓄積を通じて確立されるまでは、当面試行錯誤の状況が続くことが予想される。また、機関設計が柔軟化されることに伴い、取引を行う際の相手方の社内承認手続の確認により注意を払う必要が生じる」(長島・大野・常松法律事務所編『アドバンス新会社法』256頁(商事法務、2005年))といった記載がある。

*3:例えば、「年六分の亡霊」と題したコラムでは、「現実離れした商事法定利率」の紛争案件における当事者行動への影響などを指摘し、相当厳しい口調で「実務家の責任」を説く。

*4:単に自分が知らないだけで既に刊行されているものがあるかもしれないので、その場合はご容赦いただきたい・・・。

*5:あるいは、『M&A法大全』の改訂版刊行を目指しておられるのかもしれない。

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