ホワイトデーにはパイを。

どうでもよい話だが、
年をとるごとに、いただく義理チョコが豪華になっていくような気がするのは、
気のせいだろうか・・・*1


さて、いつもながらにネタ系だが、
全国の男性諸君にとっては、極めて興味深い裁判所の判断が示された。


知財高裁平成18年2月15日(塚原朋一裁判長)*2
商標無効審判の審決取消訴訟である。


2つの商標が対象になっているため、事件としては2つに分かれているが、
実質的には同じ中身といってよい*3


第一事件で争われた商標は、登録第4699238号、

14 March = π(Pi・Pie)Day
(3・14)

第二事件で争われた商標は、登録第4624655号、

3月14日(ホワイトデー)
 πの日

円周率=3.14にちなんで、3月14日を「パイの日」と銘打つキャンペーンは、
数年前から行われていたようで、ちゃんとウェブサイトも立ち上がっている。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~pienohi/
そして、そこで「マルアール」付で自己主張されている商標こそが、
第一事件に先立って行われた無効審判で先行商標として引用された商標である。


第一事件に先立つ無効審判においては、
①4条1項11号(他人の先行商標と同一・類似ゆえの無効)と、
②4条1項16号(商品の品質に関する誤認のおそれゆえの無効)が争われたが、
特許庁は、①について、
引用商標と本件商標の類似性、及び指定商品の類似性*4を肯定し、
指定商品「パイ」について登録無効としたものの、
②については、商品の品質の誤認を生ずるおそれなし、として*5
「パイ」以外の登録を維持したために、本件訴訟が提起された*6


本件商標の出願人(本件訴訟の被告)は、
「菓子のパイ」について用いるために本件商標を出願したはずだから、
第一事件に先立つ無効審判(第二事件においては過去の無効審判)で、
「パイ」の区分について「登録無効」の判断が示されてしまった以上、
(しかもその判断は極めて妥当と言わざるを得ないものだった以上)
残された商品区分について本件商標の登録を維持するかどうかは、
ある意味どうでもよい話なのであり、現に本件訴訟においても一切反論はしていない。


だが、請求人(本件訴訟の原告)側は、止めを刺すべく頑張った。


その成果が、裁判所による以下の判示につながっている。

「ところで,我が国では,3月14日は「ホワイトデー」と称され,2月14日のバレンタインデーにチョコレートなどをもらった男性がそのお返しとして贈り物をする日としてよく知られている。ホワイトデーの贈り物として定まったものはないが,マシュマロ,クッキー,キャンディ,ケーキなどの菓子類が贈り物として選択されることが多いことは甲1のアンケート結果からも明らかであり,3月14日が近づくと,菓子店を初めとする小売店がホワイトデーの贈り物用として様々な商品を宣伝・販売していることは,誰もが経験する周知の事実である。」
「本件商標の観念,称呼やホワイトデーの上記習慣からすれば,本件商標が3月14日のホワイトデー用のパイ菓子に用いられるものであり,同日が菓子のパイの日であることを需要者にアピールすることによりパイ菓子を販売しようとするものであることは明らかである。パイ菓子は,ホワイトデーの贈り物としてはそれほど一般的であるとはいえないが,ホワイトデーの贈り物として販売される場合には,他の菓子類,即席菓子のもと,パン類等とともに販売される可能性が高いことは,その性質上当然である。」(以上、太字筆者)

このような認定の結果、

「前記判示のとおり,本件商標はホワイトデーという多くの人が限られた期間内に菓子類等を買い求める機会に使用されるものであり,そのことが商標の構成から明らかであるところ,同商標には,パイ菓子であることを直接的に示す平易な英語である「Pie」という言葉が使われ,さらに「π」「Pi」も「パイ」と呼称されるのであるから,ホワイトデーの贈り物として菓子類やパン類を求めにきた需要者は,本件商標に接した場合,その内容,品質がパイ菓子であって,他の種類の菓子やパンではないと認識するのが自然である。そうすると,本件商標が,パイ菓子以外の「菓子及びパン,即席菓子のもと」に使用された場合には,需要者はその商品の品質,内容がパイ菓子であると誤認するおそれがあるというべきである。」

という結論が導かれ、
商標法4条1項16号により、本件商標の登録はあえなく無効とされた。


まぁ、ここまで見れば、これは単なる商標法プロパーの問題に過ぎない。
だが、本判決の意義は以下の点にある。


すなわち、本判決は、
裁判所が公式に「ホワイトデー」なる行事の存在を認定した、
本邦初の判決である。


そして、傍論ではあるが、その前提として、
「2月14日のバレンタインデーに男性がチョコレートをもらう」という事実に
ついても言及している点で極めて興味深いものといえる(笑)。


本判決が、一部で成立が噂されている「特定菓子贈与禁止法
http://d.hatena.ne.jp/AKIT/20060214/1140000771参照)
の帰趨にいかなる影響を与えるかは、定かではないが、
上記のような法案をめぐる議論に一石を投じたことは間違いないであろう*7


なお、個人的には、いかに義理チョコでも、
お返しがパイでは少々安っぽいと思っているのだが如何?

*1:義理チョコにも格というものがあるらしく、部長がもらっていたのは・・・以下略。

*2:第一事件・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/456df76d88ac88b549256fce00273b69/c6cbc04958c92f1c492571170020cf3f?OpenDocument、第二事件・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/456df76d88ac88b549256fce00273b69/240e5292af386b044925711700230c4c?OpenDocument

*3:第一事件は、無効審判において4条1項11号と4条1項16号について争われ、後者が認められなかったために取消訴訟に至ったのに対し、第二事件は、4条1項11号に関しては既に無効とされていたもので、無効審判では4条1項16号のみが争われていた点に違いがある。

*4:引用商標に対しては、本件商標の出願人サイドから不使用取消審判が仕掛けられたために「菓子及びパン」等の商品に関する登録が取り消されており、それゆえ残っていた「ミートパイ」「(パイを主とする)飲食物の提供」と本件商標の指定商品の類似性が争われることになったが、特許庁は、「ミートパイやアップルパイなどのパイやビスケット類としてのパイは、原材料や製法においてきわめて近似するものと認めることができる」といった興味深い説示を残し(笑)、指定商品の類似性を肯定した。

*5:請求人側は、アンケートまで使って、本件商標と「菓子のパイ」との結びつきを立証しようとしたが、特許庁は設問自体が恣意的に過ぎる、としてこれを排斥している。

*6:なお、無効審判の審決については「特許電子図書館」から閲覧可能(http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl)。経過情報等を調べると、本件商標の出願人側からも相討ち的な無効審判請求が仕掛けられているのがわかる。

*7:2月15日に判決を出すあたりが、塚原裁判長GoodJob! である。

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