このブログの慣わしとして、
「その1」と書いたからといって「その2」があるとは限らない!
(威張ることじゃないが・・・・)
というのがある。
だが、いつもブックマークをつけてくださる
himagine_no9氏に、
「「その1」ということですから、きっと続くんでしょうね。楽しみです。」
と書いていただかれたとなると、
続けないわけにはいかないではないか・・・(感謝します。)
(http://himagine9.cocolog-nifty.com/watchdogs/2006/05/post_3728.html)
ちなみに、自分は学生時代はもちろん、
院にいたときですら、商標について公式に教えを受けた記憶はほとんどない。
時間に制約のある法学教育、
かつ一“諸法”分野に過ぎない知財法教育において、
特許や著作権について触れる時間はあっても、
商標や不正競争防止法についてまで触れるのは、
どうしても限界のあることだ、と言わざるを得ない。
法科大学院において、実務教育の看板が掲げられるようになっても、
果たしてここまでカバーできている学校がどれだけあるのか、といえば
甚だ疑問である・・・*1。
だが、多くの非製造業企業にとって、
特許は他の国の世界の話だし、
コンテンツ系の会社以外は、
“何となく”キャラクタービジネスにでも手を出さない限り、
著作権の話題と言ってもスケールの大きな話は少ないのであって、
むしろ、ビジネスを行っている限り常に付きまとう問題である
商標の話のほうがよっぽど重要性は高いはずだ。
本ブログでは、商標関係のネタを意図的に多めに取り上げるようにしている。
本来これは、一部の弁理士事務所と物好きな法務担当者の間の
マニアックなネタに終わらせるような中身ではないと思うからである。
より多くの方に、商標に関する理解を深めていただきたい、
などと大仰なことを言うつもりはないが、
華やかな著作権や特許の世界の議論に疲れた方に、
ちょっとした癒し系のコンテンツとして、
野に咲く月見草のような、商標の世界のさわりのところだけでも、
お届けできれば幸いである・・・。
「マジカルウエスト」事件(拒絶査定不服審判不成立審決取消訴訟)
知財高判平成18年5月10日(H17(行ケ)第10840号・中野哲弘裁判長)。
【対象商標】
「マジカルウエスト」(ユニ・チャーム株式会社)
平成15年6月9日出願
第16類
「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」等
【引用商標】
「マジカルクエスト」(任天堂株式会社)
登録第4639518号(平成15年1月24日登録)
第9類
「理化学機械器具」等
第28類
「遊戯用器具」等
【結論】請求棄却
(3)観念上の類否
「(前略)・・・しかし、たとえ「クエスト」の文字を題号の一部に含むロールプレイングゲームが複数存在し、その中には上記の「ドラゴンクエストシリーズ」のように広く知れ渡った題号が存在したとしても、それ以上に、題号のみならずそれらのゲームの内容までが取引者・需要者と認められる一般消費者に広く浸透し、「クエスト」に接したときにそれが「探索」という意味であると直ちに理解されるほどの状況になっているということは困難であるのみならず、一般消費者の英語の理解度からしても、「クエスト」に接したとき、それが「探索」という意味であると直ちに理解することも困難というべきである。」
原告は、「マジカルウエスト」からは
「魔法の腰のくびれ」ないし「魔法の西域」という観念が生じるが、
「マジカルクエスト」からは「魔法の探索」という観念が生じる、
と主張したのであるが、
裁判所は上記のように述べた上で、
原告の主張する観念はそもそも
「一般的な言語表現とはいえず、その具体的な意味すら明らかでない」
とした。
(4)称呼上の類否
「そこで、この「マジカルウエスト」と「マジカルクエスト」の両称呼を対比すると、両称呼は、ともに8音構成からなり、そのうち7音が共通し、相違する音は、第5番目の「ウ」と「ク」のみである。しかるに、両音はともに「ウ」の母音を共通にし、しかも、いずれも8音構成の第5番目という中間の位置にあるから、本願商標と引用商標を、それぞれ一連に称呼する場合、聴者は差異音「ウ」、「ク」からは特に強い印象を受けないままに聞き流してしまう可能性が高く、両商標の称呼は全体の語感、語調が近似した紛らわしいものというべきであり、両商標は、称呼において類似するということになる。」
さらに、外観上の類否についても裁判所は肯定している。
観念類否に関しては、
需要者がゲームユーザーだけではないことを考慮すれば
やむを得ない判示といえるのかもしれないが、
称呼類否の判断は少し厳しいような気がする。
原告が主張するように、
「ウ」も「ク」も語頭でアクセント置くところだし・・・。
あと、個人的には、
原告側が強気に出すぎた感もあるように思う。
なぜなら、原告が「マジカルウエスト」を使う場面というのは、
(http://www.unicharm.co.jp/products/baby/a_01.html)
といった場面に限られるのだから、
拒絶理由通知が出た時点で、
指定商品区分を
「紙製おしめ」だの「紙製トレーニングパンツ」だのに絞っておけば、
第9類だの第28類だの、といった商品区分で登録されている
引用商標には抵触しなかったはずなのだ*2。
おそらく出願を担当した弁理士の側には、
この程度の類似性で負けるわけがない、
という思いがあったのかもしれないが、
これで判決が確定してしまうと、
商標を一から出し直すハメになってしまうので*3、
少しもったいない。
このあたり、担当者としては
判断が非常に難しいところなのは確かだが・・・。