商品化ライセンスと独禁法(前編)

本来であれば長い休みの間にネタを仕込んでおくべきだったのだろうが、あまり暇もないので、判決の紹介で簡単にお茶を濁しておくことにする。


とはいえ、実務的には非常に興味深い、商品化(主に著作権)ライセンス契約をめぐる紛争だけに、少し長くなるかもしれないが、ご容赦いただければ幸いである。

知財高判平成19年4月5日(H18(ネ)第10036号)*1


控訴人・サクラインターナショナル、被控訴人は株式会社ファーストリテイリングと株式会社ユニクロ


元々は、「Keith Haring」(キース・へリング)というアーティストの作品の国内ライセンス窓口だった控訴人が、控訴人とのサブライセンス契約に基づいてキース・へリング作品をTシャツに使用していた被控訴人を相手取って提起した訴訟のようであるが、控訴人とキース・へリング財団(キース・エステート)との間のマスターライセンス契約は既に終了している(平成17年12月31日)上に、控訴人側が控訴審に入ってから訴えのかなりの部分を交換的に変更したこともあって、訴訟全体の構図はかなり分かりにくくなっている。


まぁ、訴訟法的論点を捨象して、本件で争われていることを簡単にまとめてしまえば、

「被控訴人(ユニクロ)の契約違反に基づくサブライセンス契約解除が有効かどうか」

という一点に尽きるのではあるが。



さて、判決に出てきている事実認定によると、本件サブライス契約には、以下のような規定があった。

第1条(権利の確認)
甲(控訴人)は乙(被控訴人ファーストリテイリング)に対し,甲が管理するキース・エステイトの著作物に含まれるところ「KEITH HARING」の著作権等に基づく商品化権を2003年(平成15年)1月1日より2005年(平成17年)12月31日の期間第6条に定めた乙の製造・販売する商品に使用する事を各条項に従い許諾する。
第3条(使用料等の支払い)
乙は甲に対し,本商品の商品化権の使用料として,甲の承認を得た商品上代(以下「商品上代」という)の3%の計算により算出した金額を,入荷日を基準とし,当月1日から当月末日迄の一ヶ月分を翌月7日迄に報告する。
又,最低使用料(ミニマムロイヤリティ)は,各年度下記とし,各年度下記指定期日迄に甲の指定する金融機関に振込送金にて支払う。
尚,ミニマムロイヤリティを超えた月より,月末締め翌月20日迄に現金にて甲の指定する金融機関に振込送金にて支払う。(以下略)
第4条(実施許諾商品・独占権)
乙はプロパティを次の商品にのみ使用する事ができる。
1) 衣料品全般(メンズ/ウィメンズ/キッズ/ベイビー)
2) 帽子
3) 靴下
4) バッグ・ポーチ
5) タオル
6) ハンカチ・バンダナ
7) サンダル
その他上記に記載なき商品に関しては,甲乙別途協議する。
上記1)に関しては,乙は販売地域内において衣料品全般において独占的販売の権利を有する。
上記2)から7)に関しては,乙は販売地域内において特定のイメージについて独占的販売の権利を有する。
但し上記商品のアイテムは,製造前に甲の指定する書式にて乙は甲にデザイン画その他を提出し,甲の承認したものに限りサンプルの作成をする事ができる。又,乙は甲の承認したサンプルに限り本商品を製造・販売することができる。
第5条(販売地域・販売先)
本商品の販売地域は日本国内のみに限定する。但し,販売先については,乙の経営及びフランチャイズする全店舗とし,乙はあらかじめ甲に対し,甲の指定する書式にて店名/住所/その他の情報を提供しなければならない。又,直接・間接を問わず本商品を輸出してはならない。
第6条(生産地域)
本商品の生産地域は全世界とし,生産工場・輸出入者・生産管理者等本商品生産に関わるすべての個人・法人(以下「生産関係者」という)について,乙は全ての生産関係者を,甲に事前に申請し甲の確認を得なければならない。尚,生産関係者によるプロパティ又は本商品の流出があった場合は理由の如何を問わず,乙はこの責任を負わなければならない。
第7条(デザイン)
乙が本商品の製造に使用するプロパティの原稿は甲が提供した資料に限るものとし,基礎原稿は甲が貸与し他に乙が必要とする資料は乙の負担とする。尚,プロパティの制作にあたって乙は本商品に使用する前に甲に報告し,必ず甲の監修を受けなければならない。
また,乙が製作したプロパティはすべて甲に帰属するものとし,本契約終了後は乙はいかなる場合でも,これらプロパティを使用することはできない。
第8条(質的向上と調和)
本商品のグッドクオリティを目指し,プロパティ・イメージの向上と調和をはかるため,販売促進・広告宣伝等或いは,本件プロパティを本商品以外に使用する場合は事前に甲の承認を必要とする。
第9条(商品見本の提供)
乙が本商品を発売・宣伝する前に,甲に商品見本として無償で各品番27個を甲に提供しなければならない。
第13条(権利侵害)
乙は乙の本商品化権又は甲の管理する著作権等が第三者によって侵害され,又は侵害の疑いがある事を知った時は,速やかにそれを甲に報告し,甲の管理下において甲と協力して侵害を阻止するために努力する。
第17条(契約の解除)
次の各号に該当する場合,乙は甲に対し債務を直ちに支払わなければならない。又,甲は催告をしないで,或いは,自己の債務を提供しないで本契約を解除することができる。
1.乙が本契約上の支払債務その他一切の債務につき履行を怠ったとき。
(中略)
4.乙が本契約の各条項の一つにでも違反したとき。
5.乙が甲の信用や利益を害したとき。
第21条(契約の更新)
乙が本契約の更新を希望するときは,本契約の契約期間満了の8ヶ月前までに,甲に書面にて通知し,1年単位で本契約と同条件にて更新できるものとする。次年度以降も同様とする。但し,更新は4回(4年)を限度とする。


このうち、控訴人側が契約解除の理由として主張したのは、

①中国でのロゴ釦付きポロシャツの販売
キース・へリング作品(本件プロパティ)付きポロシャツの販売
③中国向けのHP、店内タペストリー、テレビCM等での本件プロパティ使用
④本件プロパティ付き商品を100円で販売したこと
⑤本件プロパティ付きのB品(縫製不良、汚れのある商品)を販売したこと
⑥無承認チラシの作成・配布
⑦商品見本提供を懈怠したこと

と多岐にわたったのであるが、結論として裁判所は①〜⑦の何れの事由についても、

「控訴人(ママ)(筆者注:おそらく「被控訴人」の誤記)が故意又は重過失により本件サブライス契約に違反した事実を認めるには足りず、いまだ信義則上取引関係の継続を困難ならしめるような背信行為の存在等やむを得ない事由が存在するということはできない」(124頁)

として、控訴人側の主張を退けている。


①〜⑦まで双方ともにガチンコ勝負の様相を呈していることもあって、読んでいくとかなり面白いのだが、あまり丁寧に解説する余裕もないので、以下では、簡単に判断のポイントのみ紹介していくことにしたい。

①について(第5条関連)

ここで問題になっていたのは

「「KEITH HARING」の小さな標準文字を円環状に彫った釦を使用した商品」

だったのだが、裁判所は、本件マスターライセンス契約の許諾対象や、サブライセンス契約第1条の文言等から、上記商品の販売は「本件サブライセンス契約の文言上当然に使用許諾対象に含まれているとみることは困難」(93頁)とした。


そして、さらに裁判所は「念のため」として、本件事実関係を検討し、

「本件釦付きポロシャツの販売は、上記仕様書等における削除・訂正漏れの記載に基づいて誤って製造された商品に係るものとみるのが合理的」(97頁)

としたのである。

②について(第5条関連)

②は、ユニクロ側が中国向けに制作したHPにキース・へリングの作品の付したポロシャツの画像があったために問題となったものであるが、裁判所は、

「P(被控訴人社員)らが意図的に本件プロパティを付したポロシャツ画像の販売広告を行い、現に販売を行ったものであると認めるにはいまだ客観的な裏付けが乏しく困難というべきである」(100頁)

として控訴人の主張を退けている。

③について(第5条、第6条、第13条関連)

ここでは、中国向けHP、店内タペストリー、テレビCM等における本件プロパティの使用が、そもそもサブライセンス契約第5条によって規律されているのか、が争点となっていたのであるが、裁判所は、

広告宣伝は販売行為に密接に関連し、これと有機一体性を有する行為と位置づけられるものであって、原判決も説示するとおり、本件サブライセンス契約5条は、個別商品についての広告か企業イメージの広告かを問わず、宣伝広告の実施地域を日本国内のみに限定する趣旨を含んでいるものと解するのが相当であるから、ポロシャツCM、TSHOW震撼上市HP、店内タペストリー、地下鉄コルトン、テレビコマーシャルの使用は本件サブライセンス契約5条に違反するというべきである。」(105-106頁)

と被控訴人側の主張を退ける解釈を示した。


もっとも、裁判所はさらに続けて、

「継続的取引契約である本件サブライセンス契約の解除の可否の判断に当たっては、契約違反に該当する行為があったことが直ちに解除原因になると認められるものとはいえず、違反に至った経緯や違反の程度を踏まえて実質的に判断すべきである」

とし、

①ポロシャツCMについては、具体的にポロシャツが販売されたという客観的な裏付けがない。
②震撼上市HP、店内タペストリー、地下鉄コルトン、テレビCMは「主として一種の企業イメージの広告としての性格を有するもの」と認められる。

として、解除原因となりうるほどの契約違反行為とは認められない、とした*2


また、裁判所は、ファーストリテイリング社自身は、第6条にいう「生産関係者」にあたらず(よって本件のような「プロパティの流出」が直ちに責任を生じさせるものではない)、また第13条に基づく報告についても、「時間的制約も考えると十分と認められる程度の内容の報告を行っている」として、解除事由該当性を否定している。



以上、①〜③のいわゆる「中国問題」については、事実認定において、ファーストリテイリング社側の契約違反行為を一部認めつつも、その違反行為の軽微性をもって控訴人側の主張を排斥した形となった。


判決に現れている事情を見ると、被控訴人・ユニクロ側のプロパティ管理も決して褒められたものではない、というのが明らかなように思えるのだが、あくまで事実認定の問題、ということもあり、ここでは詳細には立ち入らない。



続く④からは、いよいよ本格的な法律論の話に入っていくことになるのだが、とりあえず今日のところはこの辺にしておくことにする*3


http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070508/1178646119#tbに続く。

*1:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070418105855.pdf

*2:ここで使われている「企業イメージの広告」という表現が、なぜ契約違反の程度を下げる理由になるのか詳細な解説はなされていないが、文脈から推測するに、要は「特定の商品との結び付きが小さく、かつ、広告全体を見たときのプロパティの寄与度も小さい」ということを言いたかったのだろうと思われる。

*3:別に意図的に引っ張っているわけではなく、単に書く時間が足りないだけである・・・・(苦笑)

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html