誤ったアナウンス効果

今日の日経新聞に、文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会関連の記事が掲載されている。

文化庁は21日、文化審議会著作権分科会の小委員会で、著作権者の許諾を得ずにネット上に流れている音楽や映画などの作品を個人的にパソコンでダウンロードする行為を、違法とする方向で検討していると報告した。罰則は設けない方針。今後、同小委が法改正に向けて審議する。」(日本経済新聞2007年9月22日付朝刊・第38面)

録音録画補償金制度をめぐる議論に端を発した「私的複製」(著作権法30条)範囲の見直しが同小委員会で検討されていたのは知っていたし*1、その中で、「違法録画・録音物の私的なダウンロード行為を「私的複製」の範疇から除外する」という方向での調整が進められていたことも、既報の事実だったので、上記のような記事も見てもさほど驚きはしない。


だが、上記の記事に付された見出しはいかがなものかと思う。

「音楽・映画、無許諾でネット入手 私的利用も違法に」


これではまるで、ネット上に流れている「音楽・映画」が適法に複製されたものか否かにかかわらず、「無許諾で」ダウンロードすれば違法になるみたいではないか(苦笑)。


「無断引用」という表現が法的には正しくないのと同じで、「私的複製」に該当するかどうかは、もともと権利者の許諾の有無で決まるものではない。


仮に、上記の見直しが法制化されたとしても、ネット上に流通する「音楽・映画」が適法に複製されたものなのであれば、個々のユーザーが私的利用目的のために、権利者の許諾なくダウンロードしたとしても、「私的複製」の範疇の行為として許容されることに変わりはないのである。


記事の中では一応正確(と思われる)記述がなされているにもかかわらず、「見出し」に現れた小さなミス。


だが、今回の「私的複製」の範囲見直しに伴う萎縮効果が懸念されている中で*2、悪しきアナウンス効果を与えかねないような見出しをつけるのはいかがなものか・・・、と思えてならない。

*1:さしあたり、鈴木宏幸「近年の著作権をめぐる課題−平成19年1月の著作権分科会報告書を中心として」L&T35号61頁以下(2007年)あたりが詳しい。(追記)なお、実際に議論を行っていたのは私的録音録画小委員会だが、私的複製範囲の見直しは、法制度の根幹にかかわる事項であるから、最終的には法制問題小委員会マターということで処理されることになるものと思われる。

*2:具体的に言えば、ダウンロードしようとする側にとって、それが適法な複製物なのか否かなんて、俄かに理解できるものではないだろう・・・的な意見。筆者自身は、今のような「権利者が著作物をひたすら囲い込む」状況が続いている限り、あまり説得力のある議論にはなりえないと思っているのだが、今後、権利者側が動画サイト等に対して“是々非々”の姿勢で臨むようになってくると、懸念されているような状況が起こらないとはいえない。

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