箱根路を制圧した「深緑」の革命。

毎年、各大学が色とりどりのユニフォームと襷で長丁場を盛り上げる箱根駅伝

自分が見始めた頃は、大東文化の黄緑や、順天堂の青、早稲田のエンジ、といった色が駅伝を象徴するカラーだったし、その後は、山梨学院大や神奈川大、東海大といったブルー系*1、法政のオレンジなどが一時代を築き、さらにここ数年は、駒澤大の紫と、東洋大の鉄紺が必ず目に飛び込んでくる、という状況だったように思う。

そんな中、今年の駅伝で、途中から先頭の車からの映像をほぼ独占していたのが、まだ馴染みの薄い青山学院大学の深緑色のユニフォームだった。

1区から良いポジションでレースを進め、4区で1年生の田村選手が区間賞の快走で2位に浮上、さらに5区の山登りで神野大地選手が、その名に恥じぬ“神がかり的な”爆走をやってのけ、失速する優勝候補たちを尻目に、約5分ちぎっての往路初優勝。

さらに、復路でも、一昨年の日体大同様、「順位が人を創る」と言わんばかりの堂々の横綱相撲で、7区から9区まで3人が区間賞(6区、10区も区間2位)。
一度も首位を譲ることなく、2位の駒大に10分以上の差を付けて、堂々の完全優勝を成し遂げた*2

チームの歴史自体は古いようだし、ここ数年は連続出場を果たしていたとはいえ(今大会で7年連続)、過去6年では総合5位が最高だった青山学院大学が、往路、復路とも2位以下に約5分もの差を付ける圧勝を果たす、なんていうことは、テレビの前の視聴者はもちろん、駅伝関係者でさえ予想していなかったのではなかろうか*3

エントリーされた選手の記録を冷静に見れば、1区の久保田選手に始まり、2区・一色選手、7区・小椋選手、9区・藤川選手、と1万メートルの持ちタイムが28分00秒〜28分30秒台の選手が4人も揃っていて、優勝候補と目されていた駒澤大と比べても、遜色ないメンバーだった、ということが分かるのだが*4、トラックでの持ちタイムがよくても、駅伝での実績が乏しかったために優勝に手が届かなかったチームは、過去にいくつもあった。

絶対的な強さを誇る、と思われた駒沢大が、1万メートル27分台の記録を持つ村山謙太選手や28分05秒台の中村選手、という「大砲」を1区、2区に配置しながら、3区に入った時点で2位に甘んじるなど、序盤から千切る展開に持ち込めなかったこと*5、そして、復路に入って真っ先に追いかけてくるチームが、駒澤でも東洋でも早稲田でもなく、これまた最近の実績が乏しい明治大学だった、ということ*6など、様々な勝負の綾も絡まり合っての“サプライズ”というのが、今回の結果の解説としてはふさわしい、ということになるのだろう。


とはいえ、テレビ画面が映し出したのは、「深緑」の圧倒的な強さだけ。

そして、遥か後方で苦悶の表情を浮かべながら、順位争いを展開していた“名門校”の選手たちと比べると、伸び伸びと走る彼らの爽快さは際立っているように見えた。

今大会、走った10選手中、4年生は復路の2人だけ、というチーム全体の若さに加え、大学のブランド力や実況で何度も繰り返された“チームの雰囲気の良さ”に魅かれて、これから門を叩く若手選手が増えてくるのでは、といったことを考えると、箱根駅伝に、しばらく「緑の時代」が到来することになったとしても、全く不思議ではない。


これまで優勝争いをほぼ独占してきた「紫」「鉄紺」の両チームにも変調が見られたこの第91回大会が、「革命」が起きた節目の年として後々記録に残ることになるのか*7、それとも、一過性の現象、として翌年からは再び元の勢力図に戻るのか・・・

まだまだ先の話ではあるが、来年の正月まで、次の展開を楽しみに待つこととしたい。

*1:同じ青でも、山梨学院大は「プルシアンブルー」で、神奈川大のそれはまた違う色、東海大は水色、というふうに、ちょっとずつ違うのだが、表現が難しいので、ここはひとまとめにさせていただく。

*2:自分も随分長いことこの駅伝を見ているが、シード権争いをしている学校が、10区のチェックポイントを一つ、二つ通過するかどうか、というタイミングで、先頭のチームがゴールする、という事態になるほど後続をぶっちぎった展開は、初めて見たような気がする。

*3:昨年末に出たNumber868号のプレビュー記事でも、取り上げられているのは駒澤対東洋、という構図だけで、青学への言及はほとんどない。

*4:その意味で、同じサプライズでも、一昨年の日体大に比べると“必然”的な要素は強かった、というべきかもしれない。

*5:もちろん、5区のランナーが低体温症で失速した影響も大きいのだが、そもそも5区に襷が渡った時点で、2位の青学に46秒差しか付けられなかった、というところに駒大の最大の誤算があったように思えてならない。

*6:結果的に、明大は、1万メートルの実績では青学の選手よりも3分近く上回る選手を配置しながら、気負いもあってか逆に差を付けられる形で、独走を許すことになった。

*7:ひとたび歯車が狂いだしてしまうと、取り戻すのはなかなか大変、ということは、かつての早稲田や、近年の順大、大東大、山梨学院、そして、今年も最終区でまさかのシード圏外転落の憂き目を見た名門・中大を見れば容易にわかることで、駒澤、東洋の両校にとっては、来年がある種の正念場になるのではなかろうか、と思う。

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