「ZOOM」をめぐる戦いはまだまだ終わらない。

いよいよ師走・・・ということで、そうでなくても慌ただしいことこの上ない季節に突入したのだが、昨日出された↓のリリースの関係者ともなれば、より・・・という気がしてならない。

www.nikkei.com

今年9月にビデオ会議サービス「ZOOM」の日本第1号代理店、NECネッツエスアイ提訴を大々的にアピールしていた株式会社ズームが、満を持して米国法人であるZOOM Video Communications, Inc.を商標権侵害で提訴したのである。

この件に関しては、9月の最初の提訴時にこのブログでも取り上げて、以下のようなエントリーを書いた。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

このエントリーをご覧いただければわかる通り、この「ZOOM」をめぐる商標バトルは、そう簡単に白黒つけられるようなものではない、と自分は思っている。

だが、昨日のリリースによれば、株式会社ズームは今回も至って強気のスタンスを貫いている。

「本提訴に当たっても、先の提訴と同様に損害賠償を請求しておりませんが、これは当社に金銭的損害がないことを示すものではなく、当社登録商標が法的に保護されるべき知的財産であることの確認が訴訟の目的であり、和解金等での解決を排除する姿勢を示すものです。また、本提訴にあたっては、複数の知財を専門とする弁護士事務所から、本提供行為等が当社登録商標権を侵害している可能性が高いという見解を得ていることを申し添えます。」(強調筆者)

個人的にはこの「複数の知財を専門とする弁護士事務所」*1というのがどこなのか、というのが結構気になっていたりもするのだが、それはさておき、国際私法的要素も絡む今回の株式会社ズーム側のアクションに対し、訴えられた側がどういう返しをするかは、興味を持って見守っていきたいな、と思うところ。

ちなみに、9月のエントリーで紹介した、株式会社ズーム、ビデオ会議の「ZOOM」双方の登録商標のステータスを確認すると、株式会社ズーム側の商標(登録第4940899号)*2は、依然として健在でステータスにも特段の変更なし。

一方、ビデオ会議の「ZOOM」側の商標(登録第6417625号)*3は、登録自体は維持されているものの、

2021年9月30日 異議申し立て(異議2021-900358)

というステータスが新たに加わった。

申立人は当然ながら株式会社ズーム、ということで、もうこれは徹底的に戦争するという意思の表れに他ならないだろう、ということは素人でもわかる。

株式会社ズーム側は、既に今年の3月18日に、先に登録第4940899号と同じ態様のロゴで、第42類*4を指定した商標(商願2021-32682)*5まで出願しているから、晴れて異議申立てが成功してビデオ会議の「ZOOM」側の商標を消すことができれば、第9類と第42類をがっつり固めて万全の態勢で相手を追い詰めることができることになる*6

一方、ビデオ会議の「ZOOM」側は、長くペンディングになっている商願2020-61572号*7に関し、しびれを切らした審査官から2021年7月5日付で「引用商標権者との交渉はどうなってるのか、さっさと報告しろ!」という通知を出されていたのだが、今年の10月5日、それに対する答えを記した上申書を提出しており、これまた「2つ目」*8の商標の登録に向けて準備に余念はない。

「まず引用商標1(筆者注:登録4363622号)について、出願人は、登録名義人 株式会社トンボ鉛筆(以下「トンボ鉛筆」という。)に対し同登録の譲渡等の申し入れを行い、あわせて本願と抵触する指定商品(電子計算機,電子計算機用プログラム,電子式卓上計算機)に関し本年3月26日付で(不使用による)一部取消審判を請求いたしました(取消2021-300219)トンボ鉛筆からは当社との交渉に応じる旨のご意向が示され、具体的な譲渡条件や手続について交渉を継続してまいりました。」
「一方、引用商標1に対しては前述の指定商品に関し本年2月10日付で第三者による一部取消審判が請求されており(取消2021-300089)、貴庁審判廷から、そちらを先に審理するため本年7月28日をもって本件審判事件(取消2021-300219)の手続を中止するとの「手続中止通知」[資料3]がなされました。 そのため、先に審理される取消審判(取消2021-300089)における応答状況など同審判の経緯を見ながらトンボ鉛筆との交渉を進めています。」

次に、引用商標3(注:登録6255174号)*9については、登録名義人 レイショナル インテレクチュアル ホールディングス リミテッドとの交渉の結果、その譲渡について合意が成立し、譲渡証書が作成されました[資料4]。その他必要な書類が準備でき次第、引用商標3について商標権移転登録申請を行う予定です。」

単に「守り」に徹するのみならず、株式会社ズームよりさらに早く商標を登録していたトンボ鉛筆に対して二段構えの作戦で協議に挑み、さらに後発の会社の登録商標については、自ら買い取ることで問題を解決しようとするこの作戦。いずれも王道のテクニックである。

このように、今攻めている側だけでなく、訴えられた側にも互角に戦う能力は十分にあると思われるだけに、かえって終わりが見えないこの戦い。

今回の件の話題に関連して、10年以上前のアップル社の「iPhone」対アイホン社の話を取り上げる人も多いのだが、今回の件は、訴えられた側でも独自の商標出願戦略で足場を固めてきた、という経緯があるだけに、ガチで争えば、「iPhone」の件とは比較にならないくらい訴える側としては難しい状況になる、ということだけは、ここではっきりと強調しておくこととしたい。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*1:この表現自体、日本語的にも業界的な言葉の使い方としてもちょっと違和感があって、少なくともリリースを作ったのは法務関係者ではないな、という気がして眺めている。

*2:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2005-073679/38C36D874EC5D2CE9EB7C97E0B8568AFA81FF8D988AAEA506C75C431880A774A/40/ja

*3:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2021-003455/7C8E936AD4D17B91F88842A9C9F40CA63E25CECDBC5AECCF67B6A318B6465A03/40/ja

*4:指定役務は、「音声処理装置の設計,ウェブサイト経由によるコンピュータ技術及びコンピュータプログラミングに関する情報の提供,デジタル音響及び映像の記録媒体の設計及び研究開発,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子商取引のための技術を利用したユーザー認証,音声録音及び画像録画に使用されるコンピュータソフトウェアの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),クラウドコンピューティング,コンピュータソフトウェアの貸与,サーバーのホスティング,電子データの保存用記憶領域の貸与,音楽再生のための電子計算機用プログラムの提供」である。

*5:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2021-032682/5EC04C6362360744105BC9926123EFE27D83E31935DCC03634C04ACEF296D1B6/40/ja

*6:それでも、この商標の特殊なロゴの態様からすれば、侵害場面では「非類似」という判断が下される可能性も十分あると自分は思っているが。

*7:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2020-061572/3C0ED5EDA6B97FDB9DF27E8EC0828F1ABC8374F2F86884E9CFE36FEC54EDCF32/40/ja

*8:国際登録された第38類の商標と合わせると、これが「3つ目」の日本での商標となる。

*9:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2019-103207/2C2390D273C5B30E5C98956BBE76A2C312D27D9AD5D794924F075E52F4E175CD/40/ja

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