命の重さを噛みしめつつ。

ついこの前まで、長きにわたりこの国を象徴する存在として君臨していた元首相が、参院選直前の遊説中、凶弾に倒れた。

刻一刻と変化し、判明する状況を伝えるニュースを自分は比較的冷静に見ていた方だとは思うのだが、「せめて命だけは・・・」という微かな願いまで絶たれる報道が流れた時に受けた衝撃は、他の多くの人々ともそんなに大差はなかっただろうと思う。

この間、「日本でこんなことが起きるなんて」という呟きもよく目にしたが、世界中で起きていることが日本だけで起きない理由なんて何もない

特に政治家の場合、人前に自分の姿を晒して、見てもらってナンボ、というところはある上に、狙う側にとっても、動機にかかわらず標的にしやすいのは間違いない*1から、海外ではもちろん国内でも何年かに一度はどこかで悲報を聞くことになる。

もちろん、今回は、被害を受けた政治家があまりに有名過ぎた、という事情もあって、過去に起きた様々な出来事をすべて忘れさせるような強烈なインパクト事象になってしまっているのだが、この国が今も昔も100%の安全に守られている国でもなければ、街頭に立つ政治家の安全が100%保障されている国でもない、ということは、心の片隅にとどめておく方がよいだろうな、とは思うところである*2

あと、今回の事故がちょうど国政選挙期間の真っただ中に起きてしまった、ということで、様々な政治的色彩を帯びた論評、コメントも見かけるが、加害者の動機や背景が何であれ、今日起きたことは一人の人物が理不尽にも殺害された、ということに尽き、それが何よりも痛ましく大きな意味を持つことなのだから、その事実に、あれやこれやとそれ以上の意味付けを持たせようとする風潮には違和感しかない。

もしかしたら、後で振り返った時に、今日の出来事が歴史の転換点とか、潮目の変わり目、として論じられることがあるのかもしれないし、解明された加害者の動機がより深い社会の闇を掘り起こすことがあるのかもしれないが、それは(投票日が目の前に控えているかどうかにかかわらず)今この時に論じるようなことではないはず。ましてや、この話を直近の選挙情勢と結びつけて語るなんて・・・というのが率直な思いである。

そもそも、人々が様々な情報源に則って思想を形成する今の時代、いかにインパクトのある出来事が起きたところで、メディアが安直に描くような単純な結果にはつながらないことも多い*3

個人的には、今回の一報を聞いた時、「選挙期間中の悲劇」ということで思い出したのがBrexitをめぐって世論が二分されていた英国で6年前に起きたJo Cox議員の悲劇*4だったりもしたのだが、彼女が無念の死を遂げた直後の投票の結果がどうだったか、ということを考えれば、成熟した国家において、”弔い”という単純な要素だけで投票行動が大きく変わることはちょっと考えにくいところもある。

ということで、自分も明後日は淡々とこれまで考えていたとおりの一票を投じるつもりではあるのだが、それとは別に、政治家として波乱万丈の人生を歩み、まだまだこれから、というところで凶弾に倒れた故人の無念さへの共感と追悼の思いは持ち続けていたい、そう思っているところである。

*1:そしてどれだけ警備を固めたところで、開かれた場で多くの聴衆を集めて・・・という形式をとる以上、対象者を100%守り切るには限界もある。

*2:「安全」は警護にかかわる人々だけで守れるものではないと思うだけになおさら。

*3:そもそもテレビのニュースメディアには一切触れず、自分が見たいときにWeb上のメディアに触れるだけ、という自分のような生活だと、今日起きた出来事のインパクトもそれほど大きなものとしては伝わってこない、というのが現実である。

*4:en.wikipedia.org

「責任追及」より先に考えるべきこと

先の週末から、何日にもわたって続いていたKDDIの通信障害がようやく「全面復旧」した、と報じられたのは昨日の夕方のことだった。

KDDIは5日、2日未明に起きた大規模な通信障害が全面的に復旧したと発表した。4日午後にデータ通信と音声通話の利用は「ほぼ回復」していたが、サービスの利用状況について確認を進めていた。5日午後3時36分時点で確認作業を終了し、障害発生から86時間での全面復旧を宣言する異例の事態となった。」(日本経済新聞2022年7月6日付朝刊・第1面)

今や世の中の様々なものがインターネットでつながっている時代。それゆえ一通信会社の障害は、「携帯電話がつながらない」という単純な話にとどまらず、様々なところに波及した。

トヨタのコネクテッドカーのサービスが止まった、というニュースを聞いた時は、思わず、日本の新興通信会社の栄枯盛衰を象徴するような「KDDI」という会社の成り立ちに思いを馳せざるを得なかったし*1、なかなか原因が判明せず、「完全復旧」とは言い難い状況が続いていた時は、王者ドコモ、技術のJ-PHONE、安かろう悪かろうの・・・と言われていた頃のことも何となく頭をよぎった。

自分の場合、メイン携帯はauだが、休日はもちろん平日でも「音声通信」に頼ること今やほとんどなく、Wi-Fiの電波さえちゃんと飛んでいれば、日常生活にも仕事にも全くと言ってよいほど影響は出ない(そしてWi-Fiは、万が一に備えてドコモとワイモバイルを併用している。)。だから、週末多くの人が頭を抱えていた(らしい)長時間の回線接続不良も日曜の夜にニュースを見て初めて気づいたくらいで、影響らしい影響は全くと言ってよいほどなかったのだが、スマホWi-Fiau一本で賄っていた方はさぞ大変だっただろうな、ということも一応想像はつく。

だから、総務大臣が当事者たる事業者に厳しいコメントを発し、メディアも鬼の首を取ったかのように激しく事業者を指弾しているのは、そういった”被害者”たちを代弁する、という意味合いもあるのだろうな、とは思うのだが・・・。

*1:自分が初めて契約した携帯電話会社は「IDO」で、会社名は変われど、あれから四半世紀近くキャリアを乗り換えることなく今に至っている。

続きを読む

そしてまた塗り替えられていく歴史。

今週から開催地も完全にローカルに移り、いつもの如くのどかなムードになりつつある中央競馬

だが、こんな時だからこそ局地的に吹く風は熱く、時に新しい時代の幕開けを予感させることすらある。

今週、まさにそんな舞台となったのが、昨年に続いて小倉競馬場での開催となったCBC賞だった。

かつては中京を舞台にGⅠ戦線のステップにもなっていたレースではあるが、今や夏のハンデ戦、ということで、古馬相手に初タイトルを狙う3歳馬から、ここで起死回生の一発を狙う古馬たちまで顔ぶれを見ただけではどうにも判断しがたい大混戦。

レース前の人気も1番人気のアネゴハダが3.9倍、そこから緩やかに5~6倍のオッズで4頭くらいが並ぶ、という多くの人々の”迷い”を象徴するような状況になっていた。

場外では、今村聖奈騎手が重賞レースに初騎乗、という話題に注目が集まっていたし、彼女が騎乗するテイエムスパーダは先行脚質でハンデ48キロ、しかも小倉競馬場では2~3歳時に【2100】という良績を上げていたことを考えると、データ的には本線に推しても良かったところ。

ただ、3歳重賞で惨敗を繰り返し、ようやく2勝クラスを勝ち上がってきたばかりのこの馬に「2番人気」という高い支持が集まっているのを見た時、「いくら実力派新人だからと言って、そんなに世の中甘いもんじゃないだろ」と、年寄りくさいことを考えてしまった。

もともと3歳馬より古馬の方が実績を残しているレース*1、ハンデ差を考慮してもオープンですでに実績を残している古馬たちの壁を超えるのは難しいだろう・・・

そんな思考で予想を組み立てたことを、ゲートが開いてから1分も経たずに後悔することになろうとは

*1:出てくる馬自体少なかった、ということもあるが、過去10年で馬券に絡めた3歳馬は昨年のピクシーナイトしかいなかった。

続きを読む

振り返れば転換点、なのかもしれない「株主総会2022」

今年は、シーズンがひと段落するギリギリまでかかわっていたこともあって、”振り返り”もなかなかできないまま過ぎていった「6月総会」のシーズン。

全体的な傾向としては、すでに以下のエントリーでもまとめた通りで、株主提案を受けた会社がとにかく多かったこと、とか、例外なく行われた株主総会資料の電子提供から一部の会社で見られたバーチャルオンリー化を可能とする変更まで、ほぼすべての会社で定款変更が議案になったこと、などが、今年のエピソードとして後々まで語り継がれることになるのだろう。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

株主提案の多くは否決されたものの、一部の会社では会社提案をひっくり返す形で株主側の役員選任議案が可決されてしまったケースもあったし、総会当日になって、会社提案が否決される前に「議案の一部撤回」という形で会社側が取締役候補者を取り下げる、というイレギュラーなケースも複数の会社で発生した。

個人的には、会社側の候補者の資質に明らかな疑義がある場合ならともかく、単に多数株主のお気に召さないから、という理由で会社が選んだ取締役候補の選任を否決するのはいかがなものかと思うし、事実上議決権の過半数保有するオーナーの一存だけで会社提案否決、株主提案可決、となってしまったように思えるケースに接すると、「そもそもそんな会社を上場させて良いのか?」という思いに駆られたりもする。

会社提案の否決、という事態にこそならなかったものの、東芝の定時株主総会終了後に出された以下のようなリリースにも落胆させられるところは多かった。

www.nikkei.com

株主間契約だけでガバナンスが完結するような閉鎖会社であれば、株式を多数保有する株主が取締役会に自己の指名する取締役を送り込むことにも何ら違和感はないのだが、これだけの規模の、社会に責任を負う大企業でも同じ発想でボードが組み立てられてよいのか、という素朴な疑問はあるし、そういった様々な”違和感”を「利益相反」という法的論点を切り口に言語化して世に知らしめた、という意味で、綿引万里子取締役の行動は大いに称えられるべきものだと思っている。

にもかかわらず、会社が資本の論理を最優先に押し通した結果、彼女の指摘が報われることはなく、さらに今回の重任直後の辞任により、公益を代表しうる取締役はまた一人ボードから消える。それがなんとも残念に思えてならない。

また、定款変更のうち「バーチャルオンリー」総会を開催可能とするための変更案は、世の中全体を見れば比較的、好意的に評価する声が多いようにも思われるのだが、昨年一足早く定款変更を成し遂げ、今年も「ハイブリッド出席型」で布石を着々と打っていた会社が、総会直前に自社の不祥事が問題になるとすかさず大きな会場を手配して総会を実施した、という事実は、「バーチャル」の限界を知る、という意味でなかなか興味深いものでもあった*1

この後、9月総会の会社くらいまでは、この「定款変更」ラッシュが続くことが予想されているが、そこに「バーチャル」も含めた変更案がどの程度混じってくるのか、また、株主提案を通じた「資本の圧力」の勢いがこの先もずっと続いていくのか、もう少し時が経たないと見えてこないところもあるが、後から振り返れば、「ターニングポイントは2022年の夏だった」ということになっても不思議ではない、そんな1か月だったような気がする。

なお、やや特殊な背景を抱える会社での話ではあるが、定時株主総会において「会場における座席の制限及び事前登録制」を実施した会社に対し、一部株主が株主参与権の行使の侵害を理由として、定時株主総会の開催差し止め(主位的申立て)や、株主権行使の妨害禁止を求める(予備的申立て)仮処分の申立てを行った事例で、以下のような裁判所(静岡地裁沼津支部)の判断(申立却下)が示されている*2

「①経済産業省及び法務省令和2年4月2日付「株主総会運営に係るQ&A」では、当社が本定時株主総会において採用した事前登録制と同様の事前登録制を採用することが許容されており、かかる見解は現在までに変更されていないこと、②当社の第210期定時株主総会においては、議事の最中に出席した株主が大声で不規則発言をしたり、議長がいた会場前方の演台に複数の株主が係員の制止を無視して詰め寄る場面が散見されるなど、飛沫感染等のリスクが生じていたことからすると、現時点で不特定多数の株主が当社の定時株主総会に全国から集まる際に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止という公益目的のために出席する株主数を一定数に限定し、かつ、株主間の公平性を担保するために、事前登録の希望者が会場に設置する座席数を超える場合には事前登録者から抽選により出席者を選定するという事前登録制を採用することは、やむを得ないものであり、これが合理性を欠くものであるとは認められない等として、債権者らの主位的申立ては理由がないと判断しました。」
「また、予備的申立てについても、債権者らの主張する総会参与権は、会社に対して、希望する株主全員を株主総会に出席させなければならない権利であるとは認められず、また、本件においては、株主総会における趣旨説明や質疑応答の場面で、債権者303名全員の出席が不可欠であるとは考え難く、また、当選した株主である債権者あるいは当選者から委任された株主である債権者において、株主提案の趣旨説明を行うことは十分可能であるから、事前登録制を採用したことが、抽選により出席することができない債権者との関係で、その総会参与権を不当に侵害するものであるとは認められず、抽選に当選した債権者又は当選した債権者の委任を受けて本定時株主総会に出席できる債権者との関係では、総会参与権を制約するものではないから、結局、予備的申立てに係る被保全権利が認められず、理由がないと判断しました。」(強調筆者)

2年前からのwith COVID-19の総会オペレーションにおいて、皆半信半疑で行っていた「運用」への「回答」がここでようやく示された、というのは何とも感慨深いものがあるのだが、新型コロナの社会的インパクトが薄まりつつある中、今回会社を勝たせたロジックがいつまで使えるのか?ということは、ちょっと気になるところでもある。

あと、これはまだ精査しきれていないので、別途エントリーを立てることも考えているが、6月の最後の数日間で大量に世に放たれた各社の「コーポレート・ガバナンス報告書」の中では、ほとんどの会社が「知的財産への投資等に関する情報の開示・提供」(補充原則3-1-3)も含めて”Comply”になってるな、そして開示されている内容は実にあっさりしているな(そもそも「知的財産への投資」については何ら記載していない会社も結構ある、という印象を受けた、ということは、ひとまずここに書き残しておくことにしたい。

*1:総会直前に何かアクシデントがあれば、多数株主の「リアル出席」を前提としたオペレーションに切り替えることが社会的に要請されている、という前提に立つならば、まともな会社なら「バーチャルオンリー」前提の総会運営に踏み切ることなど、怖くて到底できやしないだろうな、というのが、大人数を収容できる会場の確保に汗をかく総会担当者(毎年使っている会場でも1年前に押さえるのが必須で、会場変更でもしようものなら数年単位のプロジェクトになる、という実態もある)の姿に接していた者の率直な感想である。

*2:www.nikkei.comあくまで一方当事者である会社側からのリリースなので注意して読む必要はあるが、書きぶりからして、決定内容を比較的忠実に記載しているように思われたため、以下そのまま引用する。

2022年6月のまとめ

カレンダーをいくら眺めても平日には休みなし、そして現実には土日も含めて・・・な、6月が終わった。

梅雨らしい梅雨も経験せぬまま、気が付けば季節を先取りするような猛暑。仕事も動けば、総会前後、カウンターパートも含めてあちこちで人も結構動くタフな日々を乗り切って刻んだ歩数は4月のそれにあと一歩まで迫る259,256歩。そんな一か月。

ここ数か月の例にもれず、更新できた日は限られたが、ネタ的にはなかなか強烈なものが多くて、6月総会での様々なサプライズから、弁護士法72条の話まで、こういう時に限って・・・と思いつつ、力を振り絞っていたところはあったような気がする。

ページビューの数字は17,000弱、セッション12,000弱、ユニークユーザーは7,000強。

決して褒められた数字ではないが、微かな爪痕は残した、ということで、来月以降また気を取り直してやっていこうと思っている。

<ユーザー別市区町村(6月)>
1.↑ 渋谷区 1,064
2.↓ 大阪市 443
3.→ 千代田区 410
4.↓ 港区 342
5.→ 横浜市 193
6.→ 新宿区 191
7.↑ 中央区 163
8.↑ 世田谷区 152
9.↓ 名古屋市 122
10.圏外江東区 109

渋谷区の急増の背景には何か特殊な事情があるような気がするが、それを差し引いても明らかにアクセス元が「都心」に回帰している傾向は顕著。

感染者の数字が徐々に戻りつつある状況下でも、おそらくこの傾向が変わることはないだろうな、ということで、すっかり元通りになりつつある世界の中で、いかにコロナ禍下でのポジティブな要素を残せるか、というところが試される世の中になっていくんだろうな、と思ったり。

続いて検索ランキングにもちょっとした異変が・・・。

<検索アナリティクス(6月分) 合計クリック数 1,906回>
1.→ 企業法務戦士 167
2.→ シャルマントサック 裁判 28
3.→ 取扱説明書 著作権 21
4.圏外企業が選ぶ法律事務所ランキング 20
5.圏外学研のおばちゃん 現在 16
6.圏外大船渡旋風 13
7.圏外東急グループ 序列 12
8.圏外crフィーバー 大ヤマト事件 12
9.圏外企業法務戦士の雑感 12
10.圏外企業法務 ブログ 11

比較的月ごとの入れ替わりが大きいこのランキングだが、今月は上位3フレーズを除けばすべて入れ替わり、ということでここまで極端なのはちょっと珍しいので、来月以降の動きもちょっと気にしておくことにしたい。

なお、Twitterでのインプレッション最多記事は、ダントツで↓の記事だった(インプレッション数52,018)。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

個人的にはこんな話が盛り上がっていること自体、どうかと思うところはあるし、願わくばいい加減(ハレーションの大きさの割には得られるものが少ない)この手の照会は打ち止めにして、各自own riskで事柄進めてくれい、と思ったりもするのだけれど、どうなることやら・・・。


ということで、以上を持って6月のまとめも終了。

来月からは、この先日本がどこまで暑くなるのか限界を楽しみつつ、せめて休みの日だけでも休みらしくなることを願って過ごしていければ、と思っているところである。

まだまだ止まらない「弁護士法72条」センセーション

「AI契約書審査サービス」と弁護士法72条の関係をめぐる法務省の回答が、ハチの巣を突いたような大騒動をもたらしたのは今月の初めのことだった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

その後、「弁護士法72条と抵触しない形でのAIを利用した契約業務支援サービス構築が可能であること」を強調した松尾剛行弁護士の論稿*1が公表されたことなどもあって事態は沈静化しつつあるが、法務界隈では古くて新しい”脅威”である弁護士法72条本文のインパクトを改めて思い知らさせる事象だったことは間違いない。

そして、あの回答が掲載された法務省「弁護士法(その他)」のページに再び「産業競争力強化法第7条2項の規定に基づく回答について」として、令和4年6月24日付の、新しい2件の回答が掲載されたのだが、そのうちの1件*2ときたら・・・。

3.新事業活動に係る事業の概要
⑴ 新事業活動等を行う主体は、親会社の知的財産部門が分社化したことにより設立された子会社(以下「本件子会社」という。)である。本件子会社は、同親会社から本件子会社と同様に特定の事業分野ごとに分社化された子会社(以下「兄弟会社」という。)に対して、兄弟会社において製造販売する製品について、第三者から知的財産権が侵害されているとの警告書が兄弟会社に届いた場合、当該警告書に関して評価を行うなどの業務を行い、その業務に対して業務委託料を得る
⑵ 例えば、兄弟会社に対して、特許権について警告書が届いた場合、本件子会社は、①当該兄弟会社の製造販売する製品と当該第三者保有する特許権の権利の範囲を比較し、同製品に当該第三者保有する特許権が実施されているか否かの評価、②当該第三者保有する特許権特許法第123条第1項の特許無効理由が存在し、特許無効審判により無効とされるか否かの評価、③当該第三者保有する特許権のライセンス価値等の評価を行った上、その結果を当該兄弟会社に連絡する。 この連絡を受けた当該兄弟会社において、当該第三者保有する特許権のライセンスは不要と判断した場合、本件子会社は、④当該第三者に対し、当該兄弟会社が製造販売する製品に当該第三者保有する特許権が実施されていない又は特許無効理由が存在する等を記載した返信を発送する。一方で、当該兄弟会社において、当該第三者保有する特許権のライセンスが必要と判断した場合、本件子会社は、⑤当該第三者に対して、当該兄弟会社において、ライセンス契約について交渉を行うことを希望する旨の連絡をした上、⑥当該第三者との間で、当該兄弟会社の製造販売する製品と当該第三者保有する特許権の権利の範囲を比較し、同製品に当該第三者保有する特許権が実施されているか否か、当該第三者保有する特許権特許法第123条第1項の特許無効理由が存在し、特許無効審判により無効とされるか否か、当該第三者保有する特許権のライセンス価値の評価等に関する議論を行う。そして、当該第三者からライセンス条件に関する提案がなされた段階で、本件子会社は、⑦当該兄弟会社に当該提案内容を連絡し、当該兄弟会社において、ライセンス契約を締結することを希望するのであれば、その条件について交渉を行い、当該兄弟会社と当該第三者との間でライセンス契約を締結することになった場合には、⑧当該ライセンス契約の契約書案について、法的問題点を調査検討し、契約条項の一般的な解釈等、一般的な法的意見を述べることも行う。 (強調筆者、以下同じ)

4.確認の求めの内容
本件新事業活動等が、弁護士法第72条本文の適用を受けないものであること。

5.確認の求めに対する回答の内容
弁護士法第72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。 本件では、本件子会社の3⑵①から⑧の行為が、同条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関して、「鑑定(略)その他の法律事務を取り扱」うことに当たるかが問題となる。
⑵ 本件子会社の3⑵①から⑧の行為は、兄弟会社が第三者から知的財産権を侵害しているとの警告書を受け取ったことを前提としており、通常、当該警告書を受け取ることとなった経緯やその背景事情、当該警告書を発出した第三者と当該兄弟会社の関係、警告書において侵害されているとされている知的財産権の内容等の個別の具体的事情に鑑み、正に「その他一般の法律事件」に関するものと評価され得る場合があると考えられる。 次に、本件子会社の3⑵①から③の行為は、本件子会社において、当該兄弟会社に対し、警告書において問題とされている個別具体的な知的財産権事案について、法的見解を述べるものであるから、正に「鑑定」に当たると評価され得ると言える。 次に、本件子会社の3⑵⑧の行為は、本件子会社において、当該兄弟会社に対し、今後締結することも想定される個別のライセンス契約に係る契約書案について法的見解を述べるものであるから、正に「鑑定」に当たると評価され得ると言える。 なお、本件子会社の本件新事業活動等の相手方(兄弟会社)は、いずれも本件子会社の親会社の100パーセント子会社であり、完全子会社であるとされているところ、ある特定の完全親会社の元にある完全子会社同士は法人格が別である以上、本件子会社の3⑵①から⑧の兄弟会社に対する各行為は、「他人の」法律事件に関するものに当たると評価され得ると考えられる。
⑶ 以上によれば、本件子会社の提供する本件新事業活動等は、その他の行為について弁護士法第72条の適用の検討をするまでもなく、同条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる。

あまりの驚きで、思わず主要な部分をすべて引用してしまった。

「グレーゾーン解消制度」とはよく言ったもので、全部真っ黒に塗りつぶしてしまえばグレーの部分などなくなるだがそれにしてもどうなんだこれは、と。

3(2)で列挙されている①~⑧の行為が弁護士法72条本文に規定されている「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」に当たることに疑いの余地はないだろう、と思う*3

だが、同じ企業集団内で明確に受委託関係が完結している話であるにもかかわらず、わざわざ「他人の法律事件」と解釈して弁護士法72条違反の可能性を示唆したこの見解は、果たして弁護士法72条の保護法益をどのようなものと考え、何を守ろうとしたのだろうか?

これまたそんなに評判の良いペーパーではないが、ウェブサイトの同じページに掲載されている「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」*4には、

「業務の適正が監督官庁による有効な監督規制を受けること等を通じて確保されている完全親会社が,その完全親会社及び完全子会社から成る企業集団の業務における法的リスクの適正な管理を担っている場合において,その管理に必要な範囲で,当該完全親会社及び完全子会社の通常の業務に伴う契約や同業務に伴い生じた権利義務について,一般的な法的意見にとどまらない法的助言をし,他の法令に従いその法律事務を処理すること」

と、やや抑制的な書きぶりながらも、完全親子会社からなる企業集団内の法的リスク管理、という観点から、親会社による子会社の法律事務の処理を肯定している。それが兄弟会社になった途端、「他人」とは・・・。

今回この照会がどのような意図で行われたのか、自分には知る由もない*5

もしかしたら、これまでにも話題になったいくつかの事例と同じように、本件も知財子会社活用の新しいスキームを考える上での限界点を探るために、あえて(事業活動の内容、という点に関しては)”ギリギリ”ではなく”ど真ん中”のボールを投げ込んだのかもしれないし、その結果得られた「兄弟はNG」回答を元に知財子会社の資本関係を再編成する、という手を打つことまで考えているのであれば、それはそれでこの制度を賢く使っている、と言えるのかもしれない*6

ただ、複数の事業部門を一つの会社の中に抱えるか、それとも分社化して切り出すかは、組織管理上の単なる技巧的選択に過ぎず、内部統制の見地からも法人格の相違など大きな意味を持たなくなってきている今の時代において、今回のような回答が的を射たものと言えるのか、ということはしっかり議論されてしかるべきだろうし、多くの企業にとっては、6月6日付の法務省の回答よりも、今回のこの回答の方が数段インパクトが大きくセンセーショナルなものになり得る、ということは、改めて強調しておきたいと思っている*7

*1:https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=18408999

*2:https://www.moj.go.jp/content/001375772.pdf

*3:おそらく照会者もこの部分での線引きを求める意図はなく、明らかにこれらの法律事務に該当する例をあえて列挙したものと思われる。

*4:https://www.moj.go.jp/content/001185737.pdf

*5:最初この回答を見た時、そういえば最近、有力な知財子会社を持つ大手メーカーが持株会社化して事業部門が分社化したな・・・ということなどを想起したりもしたのだが、それとこれとが何か関係のある話なのかどうかも分からない。

*6:その種の使い方を見かけるたびに、頭の中で、♪~ 自分の限界がどこまでかを知るために この制度生きてる訳じゃない~ とマイラバの名曲の節で流れるのはわが世代ならでは、か。

*7:なお、同日付で出されたもう一件の照会(https://www.moj.go.jp/content/001375768.pdf)は、「知的財産権の売買契約やライセンス契約を希望する者を対象とするインターネットサイトの設置・運営」に関してで、そこに契約書のひな型をアップロードして提供することの是非も含めて照会されているのだが、こちらの方は比較的「シロ」の方向の見解が示されている。

瞬く間の頂点。

宝塚記念」といえば、有馬と並ぶ夏のグランプリレース、とされながらも、春から秋にかけての微妙な時期に設定されていることもあり、ファン投票上位の人気馬が回避し、どことなく寂しいメンバーで構成されることが多いレースだった。

2020年、2021年と連覇したクロノジェネシスが、その間の有馬記念も含めてグランプリレース3連勝、という偉業を成し遂げていたにもかかわらず、JRA賞の受賞は特別賞1度だけ、というのも、このレースの価値がそこまで高く評価されていなかったことの裏返しだったといえる。

だが、今年は、そんな「夏の裏GⅠ」を取り巻く状況もかなり変わった

タイトルホルダー、ポタジェ、と、春の2大古馬GⅠの覇者がいずれも出走登録。

さらに大阪杯でこそ大敗を喫したものの、昨年の年度代表馬、エフフォーリアも挽回を期して出走を表明し、昨年の有馬から堅実な走りを続けるディープボンドや一昨年の三冠牝馬・デアリングタクトといったファン投票上位馬もこぞって参戦。

中東で名を上げたオーソリティ、ステイフーリッシュ、パンサラッサといった馬たちもそれに加わり、出走馬はフルゲートの18頭。いつになく面白いメンバーが揃う戦いとなった。

当日1番人気に推されたのがファン投票1位に輝いたタイトルホルダーではなくエフフォーリアだったのは意外でも何でもなく、ここ数年、このレースで力を発揮しているのがもっぱら大阪杯組のほう、ということや、2018年生まれの同期であるこの2頭の力関係が、昨年一年間の戦いの中で明確に定まっていたように見えた*1ことを考えると、今回もこの距離ならエフフォーリアの方が強いだろう、というのが当然のファン心理だったといえるだろう。

逃げて勝つここ2戦の競馬、特に春の天皇賞での圧勝劇は、タイトルホルダーと鞍上の横山(兄)を春の主役に押し上げるに十分なものだったが、一方で、昨年、横山(弟)がこの馬で何度も勝ちながらもこの馬を選ばず、選んだエフフォーリアの方で勝ち星を重ねた、という記憶は未だに残っているだけに、「中距離」に戻り、しかも同型の強力な逃げ馬がいるこのレースにまで、”春の旋風”が持ち込まれることはさすがに想像できなかった。

にもかかわらず・・・

*1:皐月賞でワン、ツー決着となったのを皮切りに、ダービー、有馬記念と戦い続けたが、いずれもエフフォーリアが完膚なきまでに相手を叩きのめしている。

続きを読む
google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html