間もなく締め切りのパブコメ

プレスリリースがあったのははや1ヶ月以上の前の話なのだが、しばらく放置している間にパブコメの締め切りが目前(6月7日(木))に迫っている公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(原案)(平成19年4月27日付、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.april/07042702.pdf)について、少しコメントしてみることにしたい。


この指針は、平成11年7月に出された「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(現行指針)の後継ガイドラインとすべく公表されているもの。


意見募集のペーパーの中では、改定原案のポイントとして、

(1)対象となる知的財産の拡大
現行指針は、「特許又はノウハウ」として保護される技術を対象としているが、改定原案では広く、「知的財産のうち技術に関するもの」を対象とした。
(2)技術を利用させないようにする行為
「技術に権利を有する者が技術を利用させないようにする行為」についての記述を加える
(3)競争減殺効果の分析方法
競争に及ぼす影響を分析するに当たっての基本的な考え方を、市場、競争減殺、効果の分析方法の別に横断的に記述し、併せて競争への影響が大きい場合及び競争減殺効果が軽微な場合の例を明らかにした。
(4)構成要件の横断的記述
上記の分析を踏まえ、競争の実質的制限と判断される場合の考え方及び公正競争阻害性が認められる場合の考え方を明らかにした。

といったものが挙げられているが、実際、(3)や(4)に関して言えば、今回の指針(案)は、現行指針に比して相当野心的、かつ、洗練されたもの、という印象を受ける。


例えば、「競争の実質的制限」の観点から問題とされる場合と「不公正な取引方法」の観点から問題とされる場合を明確に意識して書き分けた上で、「競争減殺効果が軽微な場合の例」として、

「技術の利用に係る制限行為については、その内容が当該技術を用いた製品の販売価格、販売数量、販売シェア、販売地域若しくは販売先に係る制限、研究開発活動の制限又は改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務を課す場合を除き、制限行為の対象となる技術を用いて事業活動を行っている事業者の製品市場におけるシェア(以下、本項において「製品シェア」という。)の合計が20%以下である場合には、原則として競争減殺効果は軽微であると考えられる」
「ただし、一定の制限が技術市場における競争に及ぼす影響を検討する場合は、原則として、製品シェアの合計が20%以下であれば競争減殺効果は軽微であると考えられるが、製品シェアが算出できないとき又は製品シェアに基づいて技術市場への影響を判断することが適当と認められないときには、当該技術以外に、事業活動に著しい支障を生ずることなく利用可能な代替技術に権利を有する者が4以上存在すれば競争減殺効果は軽微であると考えられる」(6頁)

と考慮要素を複数挙げつつ、思い切った総論的基準を打ちたてることを試みているし、「行為を思いついたままツラツラと羅列して○、×を付けただけ」という垢抜けない印象を与えがちだった現行指針に比べると、同じような行為を例に挙げていても、項目立てがきちんと整理されている今回の指針(案)の方が、ガイドラインとしては遥かに読みやすいものになっている。


「不公正な取引方法の観点からの評価」としては、従来の黒、白、灰色といった基準を概ね維持しつつ、

「特定の商標の利用の義務付け」、「不争義務」

が、「場合によっては違法」から「例外を除き問題ない」という判断に変わったことや、

「研究開発活動の制限」、「改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務」

が、「違法となるおそれは強い」から「原則として不公正な取引方法に該当する制限行為」という判断に変わったことなどが注目されるだろうか。


正直、実務的にもっとも判断が悩ましい行為態様について、

「公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する」

という表現で何となくぼやかしているのは、従前の指針とあまり変わらないし、上記(1)で「広げた」とされる対象についても、あくまで「技術に関するもの」を対象とするにとどまっていて、他の知的財産権(特に商標)との関係で、このガイドラインをどこまで適用しうるのか明らかにされていない点などには不満も残るところであるが*1、それでも現行の指針に比べれば、遥かに良くなっているように思える。


ちなみに、知的財産基本法第10条の規定などにも言及しつつ、

「これら権利の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合は、上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず独占禁止法が適用される。」(太字筆者、3頁)

といったコメントが付されているあたり、先日出された東大・白石教授の概説書で示された考え方にも近いように思われ*2、この点においても最近の傾向に沿ったものといえようか*3


独占禁止法

独占禁止法


いずれにせよ、実務サイドとしては、出されたガイドラインを粛々と受け止め、「違法となる場合」を実際の業務に置き換えて、リスクの芽を早めに摘んでいくほかない、そう思っている。

*1:筆者自身は、同じ「知的財産権」といっても、特許権と商標権の間には決定的な違いがあると思っているから、本ガイドラインをそのまま商標ライセンスの場面で用いることができるかどうかについては、大いに疑問を感じている。

*2:白石忠志『独占禁止法』333-334頁(2006年)。

*3:当局の運用を理解し、今後の法改正の行方を占う上で、「白石独禁法」を理解することが欠かせない、という時代はもう既に来ている・・・。

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