今終わらせるのが吉か、それとも・・・

とうとう世界感染者数では250万人突破、国内だけでも10,000人を軽く超えてまだまだ収束の兆しすら見えない新型コロナウイルス禍。

そして言論の世界(?)では相変わらず「感染拡大阻止のためなら何でもやれ」派と、「経済を守れ」派が、飽きもせず不毛な論争を続けている。

自分が、今の状況を目の前にして一番大事なものは何か?と問われれば、感染拡大の抑制に決まってるだろ!というのは、このブログでもちょっと前に書いた通りだし*1、今世の中で流布されている「経済への悪影響」に関する様々な言説の中には、明らかに”過剰”と思えるようなものも多い。

確かに身近なところで飲食店が閉まる、人の移動量が減る、工場まで閉鎖し始めた・・・といった様子に触れてしまうと、悲観的なトーンの論調ばかりが浮かび上がってくるようになりがちだが、その一方で、報道されない活況、報道されない好業績を既に公表している企業もあるし、まだ数字としては表に出てきていなくても、うねりのような引き合いに嬉しい悲鳴を上げている業界もあったりする。

そして、ちょっと前まで金融機関が貸し手探しに困るくらいお金がだぶついていた昨今の状況を考えれば、「大胆に借りる勇気」さえあれば、半年、1年乗り切ることも不可能ではない、というのが今の現実だったりもするわけで*2

もちろん、今回のコロナ禍が長引けば長引くほど、これまでの日本経済を主役級で支えていた会社、業界の一部の中に、奈落の底に突き落とされるところが出てきても不思議ではない。

ただ、そういう会社、そういう業界が1つや2つ出てきたところで、それをもって「経済の破壊」だとか「破綻」だとかいうのは、ちょっと違うだろうと思うし、数々の山と谷を超えて、新陳代謝を繰り返してきた結果、築かれているのが今の経済であり、この国の「産業基盤」だったりもする。

要は、「経済」ってそんなに薄っぺらいものではないでしょう、というのが、ここで言いたかったことの一つ。

そして、先走って「アフターコロナ」のことまであれこれ考え、景気の先行きまで心配するのは勝手なのだけど、

「そもそもここで感染を食い止めて自分たちが生き残らないことには、『その先』もへったくれもないだろう!」

ということだけは、改めて確認しておく必要があるような気がする*3

たとえ外出していようが、自らリスクを避けて賢く行動する意思を持ち合わせている人(そして、こんな状況下でもほんの少しは豊かな生活を送ろうと考えている人)まで矛先を向けるのはさすがにやり過ぎで、そういった意味で「何でもやれ」厨な人々に与する気も全くないのだけれど、殊更に「経済」を持ち出して、今やるべきことをやらない、というのもまた論外だと思っているので、緊急事態宣言をGW明け早々に解除するようなことはしてくれるな、と心の底から願っているところである。

相次ぐ決算発表の延期の裏に見え隠れするもの

さて、そんな話の中で、本日のエントリーの中で取り上げておきたいのが、ここのところ相次いでいる「決算発表の延期」についてである。

本来なら、まさにこれからの時期、4月から5月にかけての時期は、3月期決算会社が通期の決算短信を公表し、それに合わせて新役員人事やら何やらを発表した上で、6月の定時株主総会に向けてひた走る、という、総務・管理系の人間にとっては一年で一番慌ただしい季節のはず。

ところが、今はまさに”厳戒態勢下”、しかも先週、金融庁をはじめとする関係機関がこぞって「良い子は延期しろ!」というスタンスを前面に出し始めたこともあって*4、先週くらいから手始めに決算発表の延期を発表する会社が相次ぎ、今週に入ってからも昨日30社超、今日も40社超、と、適時開示の4つに1つくらいは「決算発表延期」のリリースになっている、という状況だったりもする。

昨日の日経紙の朝刊には、手塚正彦・日本公認会計士協会会長のコメントが掲載されており、その中で、

「このまま例年の日程を変えなければ監査が行き届かず、精度の低い決算書類での報告が相次ぐことを最も恐れている。」
「いま重要なのは、できるかぎり時間的な猶予を確保することだ有価証券報告書の提出期限は9月末まで一律延長が認められた。ただそれで十分ではなく、同様の計算書類を報告する株主総会の日程についても、柔軟な対応を望んでいる。」
日本経済新聞2020年4月20日付朝刊・第3面、強調筆者)

といったコメントが出てきているのを見て、「やっぱり監査法人の声が大きかったんだろうな・・・」という感想を漠然と抱いたものだった。

というのも、多くの会社にとって、決算確定から総会開催、有価証券報告書提出、といった一連の決算スケジュールは、早く終わらせられればそれにこしたことはないものなのであって、あえて遅らせてまでしっかりやろう、という動機はなかなか生まれにくいものだから。そして、仮に今月、あるいは来月上旬の決算発表を予定していた会社が5月の中下旬にスケジュールをずらしたからといって、4月中にやるべき作業を5月に先送り、なんてことができるはずもなく*5、結局、担当者が這いつくばって出社して所定に近いスケジュールで作業を終わらせた上で、プロセスに欠けている部分が埋まるのを待つ、というスタンスになっている会社がほとんどである以上、むやみにスケジュールを先延ばしするメリットはそんなにないから・・・である。

「発表延期」をリリースした会社の中には、決算発表日の延期のみならず、定時株主総会基準日まで変更する、という大胆な手を打ってきた会社もあるし*6、マレーシアの連結子会社の決算、監査業務の遅れを理由に「6月中旬以降」という、これまた大胆なスケジュールを発表した会社もある*7が、そういった会社はごく少数派で、それ以外の会社が設定している延期の期間は1週間、長くてもせいぜい2週間くらい、というケースがほとんど。

その理由が、海外拠点の締めの作業が遅れているから、なのか、監査法人のスケジュールを確保できなかったから、なのか、それとも、日本の本社の経理担当者が効率的に作業を進められる状況にないから、なのか、あるいは、その全部なのか、発表資料からすべてを窺い知ることはできないのだが、「時世に合わせて念のため」という雰囲気に留まっている会社も決して少なくないような気がする。

だが、果たしてそれが良策だったのかどうか。

自分は預言者ではないので、来月、これらの会社が余裕をもって設定したはずの5月中旬~下旬くらいのタイミングで果たして世の中がどうなっているのか、断定的な予測をすることなど到底できないのだけれど、冒頭の話に引き付けて言えば、この辺の時期は「まだまだ緊急事態宣言の下で緊張感を持って過ごさないといけない」時期であるべきだと自分は思っているし、仮にうっかり「宣言解除」などされてしまった暁には、強烈な「第2波」に翻弄される可能性も否定はできないわけで、後々、「やっぱり4月のうちに無理やりにでも終わらせておくべきだった」ということにならないと良いけどなぁ・・・と思わずにはいられない。

そして、もしかしたら、金融庁東証監査法人には白い目で見られるかもしれないけれど、執念の作業(?)で、予定どおり決算発表をこなした会社とその担当者には、盛大な拍手とその後の暫しの「避難&休養」の機会を差し上げたいな・・・と*8。もちろん、3月期決算会社ならその後に定時総会は来るし*9、有報の提出まで予定通り進めようと思えば、そこで仕事の切れ目なんてあるわけないだろう、と言われることは承知の上で。

*1:そこにあるのは、「本当に必要なことをピンポイントで訴えかけられない切なさ」かもしれない。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*2:もちろん、カツカツのキャッシュの流れの中でお店を営んできたような個人経営者に何が何でもお金を借りて事業を継続しろ、なんていうつもりはなく、今の状況が長期化する可能性も踏まえて、たためるなら早めにたたんでおく、という判断も十分検討に値すると思うところ。そして、飲食店の経営者にしても、それ以外のモールビジネスの経営者にしても、自分が知っている範囲の方々は、皆、ちゃんと考えて賢い手を打っているな、と(同じ個人事業主という立場で話を聞いても)感心させられることの方が多かったりもするので、生身の経営にかかわったことのない人々が上から目線でああだこうだ言うのは、ちょっと違うんじゃないの?と思うのである。

*3:おそらくはパニックを防ぐことを重視したゆえなのだろうが、感染拡大初期に「高齢者じゃなければ大丈夫」「基礎疾患がなければ大丈夫」みたいなことが散々喧伝されたことが、未だに世の中で危機感が共有されず、社会の分断を招いている最大の原因になっているような気がする。外を歩いていて交通事故にあって死ぬ確率より、コロナウイルスに感染して死ぬ確率の方がはるかに高いのだから、それを軽視できるはずがなかろう・・・というのが、諸々のデータから導かれる自分の率直な感想なのだが。

*4:概略については、風雲急。最後の山は動くのか? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~を参照のこと。

*5:なぜなら、今できないことが来月になればできる、なんて保証はどこにもないし、先送りすればするほど苦しくなるのがこの手の作業だから・・・。

*6:東芝のリリース、http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20200418_1.pdf この資料を土曜日に見た時のインパクトはかなりのものがあった。

*7:岩崎通信機㈱、https://www.iwatsu.co.jp/ir/pdf/2020/enki20200420.pdf 他にも「発表日未定」というリリースを出している会社はそれなりにあるのだが、ここまで遅いスケジュールで「予告」した会社は、今のところこの会社くらいだと思う。

*8:「避難」といってもどこに逃げるんだ、という突っ込みはあるだろうが、少なくとも台湾、韓国あたりはその頃の日本よりもはるかに安全な状況ではないかと思っている。もちろんすんなり入国できれば、の話だが。

*9:もしかしたら、今の状況でスケジュール通りに進められて当惑するのは株主総会担当者の方かもしれない、と思ったりもする。スケジュールを先送りにすれば、様々な筋も全部組み直しになるし、何よりも改めての会場探し、というハードミッションに挑まないといけなくなったりもするのだが、一方で、予定どおり開催した場合は、これまで以上にハードな「非常時オペレーション」への備えを求められるプレッシャーを味合わされることにもなりかねないので、まさに延ばすも地獄、留まるも・・・といった感がある。

歴史に残る名勝負の幕開け

毎週ハラハラさせられながらも、土曜日、ラジオを付けていつも通りの実況が流れてくるとホッとする。ここのところずっと、そんな週末を繰り返している。

何といっても今週末の最大のトピックは、オーストラリアからダミアン・レーン騎手が再来日して騎乗を開始した、ということで、これだけ世界的に移動が不自由になっている状況下において、開催が中止になるリスクも、2週間の「待機」を食らうリスクもすべて承知の上で彼が日本に来てくれた、ということには、どれだけ感謝してもしきれない。

そして、そんな若干26歳の新鋭の思いに、関係者もファンも、土曜日から7鞍に騎乗依頼、しかもすべて3番人気以内、というお膳立てで見事に応えた。

あいにく、土曜日の中山はあまりに酷い雨で、ラジオ実況曰く、「不良馬場を通り越したような不良馬場」*1。しかも、この2週間の間、ひたすら待機で手綱を持つことすら許されていなかったような状況でそんな状況に直面したら、どんな名手でもさすがにキツい。迎え撃つルメール騎手が5勝の固め打ちを見せる中、最高着順が4着、一度も馬券に絡めない散々な出だしとなってしまった。

だが、翌19日は一夜にして復活。7鞍騎乗で3勝2着3回の結果を残し、連対率は早くもルメール騎手を上回るに至ったのだから、やっぱり本物・・・。

そんな伏線の下で名勝負が演出されたのが、今年の皐月賞だった。


今年は、もはや珍しくなくなった「2歳戦から直行」ローテの馬が2頭、しかも1頭(コントレイル)は昨年のサートゥルナーリアと同様にホープフルSから、もう1頭(サリオス)はかつての登竜門、朝日杯FSからの直行でいずれも3戦して未だ負けなし。3歳初戦にして「宿命の対決」といっても過言ではないようなお膳立てが整っていた。

ところが、蓋を開けてみたら、、1番人気のコントレイルの次に支持されたのは、なぜか弥生賞*2のサトノフラッグで、そんなに差はないもののサリオスは3番人気に甘んじる。

昨年のJRA賞最優秀2歳牡馬部門)でも、いつもなら「朝日杯」のタイトルだけで順当に選ばれていても不思議ではなかったサリオスが、コントレイルに苦杯を喫する*3という屈辱を味わっていたこともあり、陣営としてはさぞかしストレスがたまる状況だっただろう。

それまでのマイル戦での勝ちっぷりがあまりに見事過ぎて2000mは長いのでは?という声があったのは確かだし、それ以上にホープフルSでのコントレイルの勝ち方が凄すぎた、というのも人気を譲った原因だったのだろうが、2歳時のレースレベルの比較ではサリオスの方が上(レーティングはサリオスの116に対し、コントレイルは115に留まっている)*4。対戦相手の比較でも、トライアルで勝ちきれなかったホープフルSの2,3着組に対し、朝日杯でちぎった相手(2着)のタイセイビジョンは前日のアーリントンカップで後続を突き放して快勝している。

父・ハーツクライで母系にもニジンスキーの血が入っていれば、距離だってそんなに不安視されるほどではない血統背景なのに・・・とフラストレーション全開のところでこの馬の手綱を取ったのが、救世主・レーン騎手だった。

キメラヴェリテが稍重にしては比較的速いペースで引っ張る中、好位を追走。そして2番手にいたウインカーネリアンが思いのほか粘りを見せる中、直線でスルスルと抜け出して交わし、さらに後続を突き放す、というスタミナ不足など全く感じさせない実に力強い競馬。そしてそれを引き出したのが、デビュー戦以来の騎乗となった名手の手綱捌きだったことは言うまでもないだろう。

残念ながら、最後の最後、福永騎手にしては絶妙の仕掛けのタイミングで*5、計ったように差してきたコントレイルの豪脚の前に屈する結果になってしまったが、最後の最後までどっちに転ぶか分からないようなしびれる攻防がそこにはあった。

そして、3着以降の馬との間に付いた3馬身以上の途方もない差*6は、サリオスという馬が決して「3番手」の馬ではなく、依然としてコントレイルと並ぶ「2強」、それも「次元の違う2強」のうちの一頭であることを見事に証明してくれたのである。

2頭ともトライアルでの消耗がないことを考えると、順調に中央競馬の開催が続く限りこのままダービーへ、そして夏を越して菊花賞、あるいは古馬混合GⅠへ、と対決の場を移していく可能性は高いのだけれど、まだまだこの2頭間での順位付けは済んでないし、何よりもレーン騎手が昨年苦杯をなめた舞台に再び挑むうえで、これだけ素晴らしいお手馬はいないから、この先コントレイルにどれだけ人気が集まろうと、本当のドラマはこの次で起きるんじゃないかな、とひそかに思っているところである*7

*1:この土砂降りの雨が生み出した重すぎる馬場が、中山グランドジャンプでの「上位2頭以外は皆大差、しかも上位人気馬が次々とリタイア」という悲劇的なレースを生むことにもなってしまった。それでも見事に5連覇を成し遂げたオジュウチョウサンの強さはただただ讃えるしかないのだが、予後不良となってしまったシングンマイケル陣営をはじめ、引き立て役となってしまった他の馬たちにはちょっと気の毒なレースだったかな、と思う。

*2:そもそも弥生賞から皐月賞をそのまま勝つケースというのは、ここ10年見てもほとんど例がないので、自分は迷わず切りにいったのだが、ファンの多数派はなぜかこの馬を支持していた。

*3:「2019年JRA賞」の大波乱が示唆する新時代の幕開け。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*4:2020年 皐月賞 プレレーティング JRA参照。

*5:一昨年のワグネリアンに象徴されるように、中山コースでの福永騎手の仕掛けのタイミングのまずさは、長年指摘されていたところでもある。

*6:それでも末脚勝負に徹したヒューイットソン騎手のガロアクリークが3着に飛び込んできたからこの差で済んだものの、それがなければもっとちぎられても不思議ではない状況だった。

*7:本来ならノーザンファーム生産のサリオスよりも、新冠ノースヒルズ生産のコントレイルの方に”チャレンジャー感”が出ても不思議ではないところだったのだが、今年は、平地GⅠ5戦を終えてノーザンファーム生産馬の勝利はわずか1頭(ラッキーライラック)のみ、という状況でその辺の潮目も変わりつつあるだけに、なおさらレーン騎手の「救世主」感も高まるのかな、という気はしている。

節目の「1000号」と「1001号」が蘇らせてくれた記憶。

ここのところ週末までそれなりに仕事を入れていたこともあって、なかなか落ち着いて読む気分にもなれていなかったのだが、ようやく目を通すことができたNumber誌の節目の記念号。

まだこの国の右肩上がりの成長を誰もが信じて疑っていなかった1980年4月に創刊。

そこから40年。どうしてもその時々の流行に左右され、栄枯盛衰を味わうのが常の娯楽・趣味系雑誌の中でも、格の違いを見せ続ける形で生き残ってきた雑誌だけに、折り込みの「Best100 of 1000」企画とか、「年間売上ナンバー1ギャラリー1980-2019」といった企画を見ているだけでも、歴史的な重みが伝わってくる。

そして、この40年、1000号の歴史のうち、半分以上は間違いなく自分の記憶とも重なっている。

自分がこの雑誌を初めて目にしたのは80年代の後半くらいで、お金持ちの子弟が学校に持ってきているのを拝借したり、通学の途中で本屋で立ち読みしたり、といった断片的な記憶は残っているし、カップラーメンで飢えをしのいでいた学生時代も、この雑誌とサッカーマガジン優駿だけは、生協書籍部で真っ先に探して、かなりの確率で買っていた。

社会人になってからは、安月給の前に躊躇しつつも、コンビニで表紙を見るとどうしても欲しくなって毎号買ってしまう、ということを繰り返し*1、少し懐に余裕が出てきたところで思い切って定期購読。そのため、引っ越しのたびに詰める段ボールの数が膨れ上がっていったのだが、それでもめげず、結果、積もり積もって500号以上が、未だに自分の部屋と専用のストレージルームの中に眠っている状況である。

活字に念入りに目を通す時間も気力もあり、何よりもまだ知らない世界の新鮮な情報に飢えていた10代、20代の頃に出た号の「表紙」から蘇ってくる感情*2と、今や氾濫する情報の一つになってしまい、さっと読み流してしまうことも増えた最近の号の「表紙」から蘇ってくるそれ*3とは、やっぱりかなりの違いがあるわけで、その分、雑誌と同じスピードで自分自身歳を重ねてしまったのだなぁ、ということをしみじみと感じざるを得ないのは確か。

また、ライター・金子達仁氏が本号に寄せられたエッセイ*4などを読むと、「そういえば自分も30代に差し掛かった頃までは、まだ本気でスポーツライターに転向しようなんて夢も見てたんだよな・・・」という非常に恥ずかしい記憶まで蘇ってくる。

いろんなものに憧れつつも、自分自身の軸が定まらずにブレまくっていた、30代の半ばまでは間違いなくそうだったし、今でもそんなに定まったか、といえば自信はない。

だから、アスリートでもライターでも、「この道」と定めて結果を残してこられた方の足跡に接してしまうと、畏敬の念とともに、何も成し遂げてない自分への羞恥心も隠しようがなくなってしまうのだ。

ただ、この記念号に出てくる自分と近い世代のアスリートたちが、ブレイクして頂点を極め、最後静かに現役から退く、という過程を辿って「あの頃」を語っている中で、当時、それを遠くから眺めるしかなかった自分の方が、まだまだこれから、まだまだ目指せる場所がある、と思えるのは、ある意味幸せなことなのかもしれないな、というのも同時に感じたことだったりもする*5

ちなみに、「ナンバー1」というテーマの下、この号で取り上げられているアスリートはざっと20人弱。

(以下、敬称略)
イチロー
大谷翔平
王貞治
村田諒太×井上尚弥
高橋尚子×北島康介
澤穂希
宮里藍
武豊
内村航平
羽生結弦
サニブラウン
八村塁
アイルトン・セナ
マイク・タイソン
マイケル・ジョーダン

ライターの好みに合わせて選んでるだろ!という突っ込みもありそうだが、これまでに表紙登場回数断トツNo.1を誇るイチロー氏と、登場回数5位、しかも34年の時を経て未だに現役の武豊騎手だけは、まぁ誰も文句は言えない人選だろう、と。

そして、巻頭のスペシャルインタビュー*6では、

「みんな、がんばるんです。がんばって何とか結果を残そうとするんですけど、僕はがんばらなくても結果が残る。とくに高校に進んでからは、身体が大きい選手はいても野球がうまいと感じさせる選手はいなかった」
「一緒に戦ってきた選手の中で僕よりもヒットをより多く打てると思った選手は一人もいませんでした」

と、こんなキャラでしたっけ?(笑)と苦笑いしたくなるような強烈なコメントを残しつつ、特集記事の後に出てくる小西慶三氏の連載記事*7では、故・三輪田勝利オリックス球団編成部長の墓前にマリナーズ入団報告をする姿が描かれている稀代の大スターを、自分がますます憎めなくなった、ということだけは付言しておきたい。

節目の一歩はフットボールから。

で、1000号にひとしきり目を通した後にふと気づくのが、あれ、サッカーは? ということで、そんな肩透かしを一瞬で歓喜に変えるのが翌・1001号である。

Number(ナンバー)1001号[雑誌]

Number(ナンバー)1001号[雑誌]

  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: Kindle

何といっても表紙がカズ。そして見た目も若い・・・!

三浦知良選手は、昨今のCOVID-19をめぐるリーグ中断に関しても、積極的にコラムで情報発信されていたりするし、「人生の11ゴール」の1つに、2011年3月29日のチャリティーマッチでのゴールを挙げているところにも「今」に対する思いが見え隠れしているのだけど、自分はやっぱり92年アジアカップのイラン戦の決勝ゴールと、93年W杯予選・韓国戦のゴール。この2つが挙がっているだけで、グッとくるところはあった。

好き嫌いも、毀誉褒貶もあった選手だけど、やっぱり、この選手がいなかったら、日本サッカーの世界への扉は未だに開いてすらいなかったのかもしれないのだから・・・。

そして、それに続いて、中山雅史稲本潤一鈴木隆行中村俊輔大黒将志玉田圭司中村憲剛遠藤保仁岡崎慎司本田圭佑香川真司昌子源、そして最後に金子達仁氏の手による中田英寿ジョホールバルでの一戦回顧。

これもまた、自分の人生の節目節目と明確に重なるだけに、挙げられている一つ一つの試合が印象深かった。そして、ここまでの歴史の「生き証人」の選手たちの多くが、どんな形であれ未だに「現役」を続けている、というのが結構驚愕だったりもして、良い時代になったのだな、ということを改めて感じさせられる*8

*1:それでも多少欠番になっている号があるのが今となっては惜しまれるところなのだが・・・。

*2:中には、ああそういえば、あの人の部屋で一緒に読んだなぁ、等々の記憶が蘇ってくるものもあるのである。ああ遠い日の花火・・・。

*3:中にはほんの数年前の号のはずなのに、記憶の中からすっぽり抜けているものすらあったりする。もしかしたら定期購読の袋の中から出してないものもあるのかもしれない、等々。。。

*4:金子達仁「運命を変えた編集後記」Number1000号69頁。

*5:そう思えるのは、まだ何も大きなことを成し遂げていない人間の特権だから(笑)。五輪の金メダルにしても、メジャーリーグのシーズン最多安打記録にしても、誰も立ったことのないような頂に登り詰める、というのは本当に凄いことだと思うのだけど、その一方で長い人生のどのタイミングでそれがめぐってくるのが良いのか、ということも考えだすといろいろ複雑なところはあるよな、と思うのである。

*6:石田雄太「生まれ変わったら、5000本を」Number1000号12頁。

*7:小西慶三「イチロー実録。51冊の取材ノートから」① Number1000号100頁。

*8:昔、アマチュアしかなかったような時代で、30歳を過ぎて現役を続けられる選手なんて、そうそういるものではなく、「選手寿命の短さ」がサッカーの代名詞だったような時代もあっただけに、プロクラブの裾野が広がり、若手からベテランまで「選手」として活躍できる可能性が広がった、ということの意味は大きいな、ということを改めて感じたのであった。

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こんな時になんで? なのか、それともこんな時だからこそ、なのか。

昨日の緊急事態宣言の全都道府県への拡大、そして「一律10万円」の発表を受けた夕方の安倍総理の会見で終わった一週間だった。

今朝の日経紙などを見ると、政府の一連の施策に対してはかなり厳しい指摘がなされているのだが、自分は少なくとも”節目節目の判断”に関しては、この政権下では珍しくヒットが続いていると思っていて、2月下旬の「学校一斉休校」に始まり、先日の適用地域を限定した「緊急事態宣言」、そして今般の対象拡大、と、崩壊を食い止めるギリギリの線で最善手を打っている、といって良いのではないかなぁ・・・というのが素朴な感想だったりする。

ただ、問題があるとしたら、せっかくいい手を打ってるのに、その後世論を気にしすぎて、いろんなものがブレブレになっているところで、まだこれから、という3月の半ばに警戒を緩めるようなコメントをしてみたり、特定の業界に忖度するような及び腰の「営業自粛要請」をしてみたり、余計な動画投稿をしてみたり、そして極めつけは「補償」の声に流されて迷走した結果辿り着いた今回の「一律10万円」だったり・・・。

環境の急激な変化によって、生活基盤が根底から崩れてしまった一定層を救済するために、緊急の給付策を講じなければならない、というのは本当にその通りだと思うのだけれど、それはあくまで「個人の生活保障」の観点から行うべき話であって、産業政策で行うべきものではないし、ましてや景気下支え策のような観点から行うべきものでは全くない*1

そして、誰が本当に困っている人なのか支給する側に判断する術がないがゆえに、制度設計としては「全員」を対象としなければならない、という理屈は理解するとしても、その打ち出し方として「全員一律」というフレーズを前面に出すのは、ちょっと違うだろう、と思う*2

とはいえ、都心の中心部に関しては、今日の時点で平時との比較では7割以上人出が減っている。

少なくとも今週に関しては、「自宅で仕事をして近所の住宅街のスーパーやドラッグストアに買い出しに行く」よりも、「都心の中心部のオフィス街で仕事をして、ビルの中の定食屋でご飯を食べる」方が、よほど不特定多数人との接触機会は減らせた、という状況もあったわけで、このペースで行けば「都心発」の感染拡大はかなり減らせるかな、と。

もちろん、その分、東京の外側の報のエリアだったり、隣接県の状況が日に日に厳しくなっていたりもするのだけれど、ここは絶対に勝負どころ。

最近では、必要以上に「長期化」を憂いる声が増えてきているような気もするのだが、個人的には、一人ひとりが目の前の状況を咀嚼して、最低あと1か月くらいは徹底したリスク回避行動を取り続ければ、5月が終わる頃には光明が見え出すのではないか、とひそかに思っているところではある*3

試される「経産省Q&A」

さて、そんな今日、「新型コロナウイルス感染症拡大」の声に振り回され続けている株主総会の世界に、また一つ衝撃が走るような出来事が起きた。

既に前会長らが取締役選任の株主提案を出し、今月最大の「対決型総会」として注目を集めていた積水ハウス㈱の定時株主総会をめぐる仮処分の申立て、である。

※会社側のリリース
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/17/20200417.pdf

元々、4月総会は、緊急事態宣言の発令等を受けて、既に10社以上が当初予定していた会場からの開催場所変更を強いられている状況なのだが*4積水ハウス㈱も例外ではなく、当初予定していたウェスティンホテル大阪から、同じ新梅田シティの敷地内(だがどういうスペースなのかは分からない)「梅田スカイビルタワーウエスト35階」への会場変更が発表されたのが一昨日のこと*5

そしてこれだけなら、今年はよくある話、ということで終わっていたのかもしれない。

だが、そこで提案株主の一人であり、かつ株主提案で取締役候補者にも挙げられている現取締役が仮処分の申立てを行ったことで、状況は俄然変わってきた。

会社から出されたリリースでは、会場変更の合理性に関して、以下のような説明がなされている。

「本変更等は、本定時株主総会の開催場所として「ウェスティンホテル大阪 ローズルーム」(以下「当初会場」といいます。)を予定していましたが、ウェスティンホテル大阪が、大阪府による、特別措置法に基づく使用制限等の要請が行われた施設として当初会場等の営業を休止(4月 14 日~5 月 6 日の間)することに伴い決定したものであり、本変更等は適法かつ適正に行われております。」
「なお、本変更等後の会場については、当初会場よりご用意できる席数がかなり限られる等の制約がございますが新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるためやむを得ないものであり、当社は、経済産業省及び法務省より示された新型コロナウイルス感染症拡大下における株主総会運営に係る Q&A」の考え方に則り、適法かつ適正に本変更等を実施しております。したがって、当社は、本定時株主総会の招集手続には何らの法令違反も不当な点もないと確信しております。」(強調筆者、以下同じ)

確かに、あのQ&A*6には、には、「会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。」という問いがあり、「可能です。Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。」という回答まで明記されていた。

だからホテル側の事情もあったとはいえ、時世を鑑みて「席数がかなり限られる」スペースで総会を開催することは、この経産省(with法務省)のQ&A的には一種の模範解答、といえるものでもあるはずだった。

しかしそれでも起こされてしまった仮処分申立て・・・。

*1:そもそもこの手の現金給付が景気対策として機能した例がこれまでどれだけあったのか、自分は寡聞にして知らない。

*2:仮に景気対策的側面を許容するとしても、正直、今給付を受けてポジティブな使い方ができるとも到底思えないので、ほとんどの人は口座の中に寝かせてそれで終わり、である。

*3:そして、今回の新型ウイルスが一貫して世の多数派の「予測」を裏切るような悪戯を続けていることを考えると、皆が「長期化」と言い出した頃にスッと波が引くように消えていく可能性だってあるんじゃないか、と非科学的に夢想したりもしているのである。

*4:その概況については、4月8日付のエントリーを参照されたい。k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*5:リリースはhttps://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/holders/shotsu/data/__icsFiles/afieldfile/2020/04/15/20200415.pdfを参照のこと。

*6:紹介エントリーは、今日のCOVID-19あれこれ~2020年4月2日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~をご参照のこと。

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不合理なルールに縛られるな、という話。

先週の「緊急事態宣言」から1週間経ち、首都圏では、いわゆる「テレワーク」によるオペレーションが所定になった会社もかなり増えたのではないかと思う。

早いところでは3月中から、動きが鈍かった会社でも4月に入ってからはさすがに、ということで、それまでの「仕事は会社に行ってするもの」という固定観念がガラリと変わってきた状況でもあるのだが、それとともに、「在宅だとやっぱり不便」とか「生産性が落ちる」という声から、「ストレスが・・・」的な声まで、ネガティブな声もちらほら聞こえてくるようになってきた。

自分は、「PC1台持ち歩くだけで、いつでもどこでも仕事ができる」という生活をこの1年謳歌してきた人間だから、一般的な仕事の仕方として「固定したオフィスに縛られるのが良いか、それとも自分のスペースで仕事ができるのが良いか?」と問われれば、当然後者に決まってるじゃないか!、という答えしか出てこない。

とはいえ、会社時代の経験に照らして考えると、「テレワーク万歳!!」とは言い切れないところも当然あるな、と思うわけで。

まず、何よりも一番大きいのは、「ハード面の問題」だろう。

「会社から仕事用に支給されているのが持ち歩けないデスクトップPCで、それ以外のPCから社内のシステムにアクセスすることも不可能。よって、「在宅」と言われても手元に何も仕事を進めるための武器がない。」

というのが、「在宅」と言われて一番困る典型的なパターンで、ここ数週間、相談を受けてきた中でも、意外とそういう会社はまだ多かったんだな、というのが素朴な実感だったりする。

また、

・自宅に持ち帰れるPCはあるのだけど、自宅の通信環境が脆弱で仕事がはかどらない。
・社内システムに接続しようとしても回線が重くてなかなかつながらず、ストレスになる。
・社内システムが過剰なセキュリティ重視志向で設計されてしまっているので、社内から接続するときに比べてあまりに手間がかかる。

といった問題も当然出てくる*1

そもそも、多くの会社では、こんなに大規模に、現場以外の社員が「原則全員」テレワークに移行するような事態を想定してリモート接続のシステム設計をしていないはずで、原則と例外が逆転してしまった結果、ハード面での不都合が随所に出てくるのは避けられないところだろう。

さすがにこの「例外的事態」が、数日、数週間のレベルから「数か月」レベルに拡大していきそうな状況になって、それに合わせた対応を急ピッチで進めている会社は多いので、来月になればだいぶ状況は改善されるのでは?と期待したいところではあるのだが、「やむなく出勤」している人々が一定数残っている背景には、そういう事情もある、ということだけは、ちゃんと心に留めておく必要があると思っている*2


仮に「ハード」面の問題はクリアできていても、次に来るのは「代替オフィスの環境」面の問題。

単に部屋が狭い、とか、仕事用の机がない、という話であれば、工夫次第でどうにでもなるところはあるのだが、小さいお子さんがいる家庭で、しかも夫婦二人とも在宅で「仕事」をしなければいけない、という状況だと、そりゃあまぁ誰がどう見ても一日8時間仕事に専念し続けるのはキツイでしょう、という話になる。

数日前の日経紙には、「2歳女児を育てる埼玉県ふじみ野市の女性会社員(37)」のコメントとして、

「「子供をそばにおいての在宅勤務だと成果は半分ぐらいになる」と悩む。昼休みが45分と決まっているのも頭が痛い。昼ご飯を用意し、食べさせ、片付けるのに1時間は欲しいが「規定以上に休むと、チャットツールで離席が分かってしまうので気まずい」」
「「成果は半分」だから半休扱いにしてもらおうか。昼休みの15分延長が可能か。上司に相談もできるが「人事が対応してくれるかは心もとなく、自分が頑張ればいいと思ってしまう」と漏らす。」
日本経済新聞電子版2020年4月14日 23:00配信)

ここは、そもそもの話として、「今のような状況で求められる『成果』なるものが、平時と同様のボリュームのものなのか」という素朴な疑問があったりもするのだが*3、それをさておくとしても、個人的には、今のような状況になろうがなるまいが、ホワイトカラー、特に法務部門で仕事をしているようなブレインワーカーにとっては、「8時間ずっと仕事し続けないと仕事したことにならない」仕事なんて存在しない、と思っているので*4、そこはルールを柔軟にすることで対応できる部分はいくらでもあるはず。

ところが、そんなところで出てくるのが最後の一番厚い壁・・・

*1:筆者自身、会社にいた頃はこの辺のあれこれに悩まされてきたのだが、その”解消策”は後ほど。

*2:進んだ環境で仕事をしていると、どうしても「そうではない環境が今でも残っている」ということを忘れがちになってしまうので。自省も込めて。

*3:こればっかりは、コメントされている方がどういう仕事をしている人なのかにもよるので、何ともいえないところはあるが・・・。

*4:会社にいた時に24時間ほとんど仕事に費やしていたヤツが何を言うか!という突っ込みはあるだろうが、職場にいる時間の「不効率」にいちいち付き合わずに淡々と自分の仕事に徹していれば、仕事に費やす時間は3分の1くらいで済むだろうね、というのは当時から思っていたことなので、特に「自分の仕事」に専念できる立場の人とか、プレイヤーとマネージャーの兼務で日頃苦労していた方は、これぞ千載一遇の好機だ、というくらいの心持ちで今を過ごせていただければ、と思っている。

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風雲急。最後の山は動くのか?

緊急事態宣言が出されてからちょうど1週間。

公表されている人の流れの数字*1だけ見ると、まだまだ、という印象もあるのだが、実感としては都会の中心部は「すっかりひと気がなくなった」という印象で、普通に歩いている限り「接触」の機会を探す方が難しい*2。むしろ居住地付近のスーパーやドラッグストアの方が人が多い印象で、23区の内側ですからこうなのだから、郊外の方はもっと、予期せぬ賑わい(?)になっているのではないか、といらん心配もしてみたりする。

幸いにも、ここ数日は、新たな感染判明者数の数字も、東京都に限ってはかなり少ない数字で出ていて、早くも「ピークアウトだ!」と先走る声も聞くのだが、いろんな情報*3を総合すると、ここ数日の数字の減り方は、純粋に症状が出ていても検査の順番が回ってこない、検査しても結果がなかなか判明しない、という理由によるところも多いのかもしれない。

ただ、そういった要素を差し引いても、先週、自分が想像していた最悪の事態に比べれば、はるかにマシな状況で現状が推移しているのは確かで、このまましばらく東京の”閑散”が続き、周辺自治体や大阪、福岡、といった地方大都市で感染爆発が起きなければ、3か月後、夏の太陽が照り付けてくるような時期には、それなりの人数で集まって美味しいビールが飲めるくらいにはなるのかな・・・*4と前向きな気分になっている今日のこの頃である。

口火を切った金融庁。そしてそこから始まった雪崩的緩和。

さて、ここ数日、実務の世界を賑わせているのは、多くの会社の財務・経理担当者が待ちわびていたであろう金融庁の公式リリース(2020年4月14日付)である。

www.fsa.go.jp

目下の状況に鑑みれば当然出るだろう、と思われていたリリースではあったのだが、やはりこのような正式な形で出たことの意味は大きい。

○ こうした状況を踏まえ、企業や監査法人が、決算業務や監査業務のために十分な時間を確保できるよう、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等(注)の提出期限について、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長することとします。
(注)有価証券報告書のほか、四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書を想定しています。
○ 提出期限の確定しない報告書である時報告書については、新型コロナウイルス感染症の影響により作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなります。
(以上、強調筆者、以下同じ。)

これまでも申請さえすれば提出期限の延長が認められていたとはいえ、実務の世界で「有報を期限までに出せない」というのは、それだけ株価を暴落させかねない大チョンボだったわけで、実際、この申請を行おうとすると、COVID-19の蔓延でもはや厳しいのでは?と言われ始めた最近ですら、いろいろとややこしい手続きを要求される、というのが常識の世界だった。

それが申請すらせずに「9月末」まで自動的に延びてくれたのだから、ほっと胸をなでおろした人も少なくないはず。

そして、畳みかけるように同じ14日には、東証からも以下のようなリリースが出た。

www.jpx.co.jp

「本年4月7日付の「緊急事態宣言に伴う当取引所売買の取扱いについて」(東証上場第17号)のとおり、当取引所では、上場会社の皆様において決算作業等の円滑な実施が困難となった場合に、当初のスケジュールにかかわらず、役職員や取引先そのほかの関係者の皆様の健康及び安全の確保を最優先いただいたうえで、決算発表日程を再検討するようお願い申し上げているところです。」
「情報取扱責任者の皆様におかれましては、今般の金融庁の方針が「3月期決算企業をはじめとする多くの企業において、決算業務や監査業務を例年どおりに進めることが困難になる」との想定に基づくものであることを踏まえ、改めて自社の決算作業等の進捗状況を的確に把握いただき、必要な対応をご検討くださいますようお願いいたします。」
(以上、強調筆者、以下同じ。)

あたかも、「頼むから決算発表を遅らせてくれ!」と訴えかけているようにすら読めるこのリリース。

それに呼応するかのように、昨日から派手に決算発表スケジュールを延期する会社も続々と登場している*5

理由を見ると、比較的長い期間延期している会社の中には海外に連結子会社を抱える会社で「マレーシアやインドのロックダウンで決算作業が進まない」といった理由を掲げるものが多く、国内主体の事業者からはまだそんなに延期のリリースは出されていないのだが、中には5月の連休明けの発表予定を1、2週間ずらし、「緊急事態宣言下の自粛要請が開けるまで作業スピード落とすから延ばします」という雰囲気を思いっきり醸し出している会社もあったりする。

おそらく、今の時期に本当に財務担当者が誰も会社に出てきていなければ、4月中の開示はもちろん、5月中の開示すらおぼつかなくなる可能性が高いし、5月7日まで待ったところで、「宣言」がきれいさっぱりなくなって、それまでどおりのフル体制で業務を進められることなど期待すべくもないから*6、変更後の日程でもかなりの綱渡りを強いられる可能性はあるのだが、それでも、今の状況でギリギリの作業を強いられることがなくなっただけマシ、ということなのだろう。

正直、今、会計手続や監査の関係で起きている「遅延」は、会社側の問題ではなく、監査法人側の作業の遅れ*7に起因するところもそれなりにあるようだから、何となくの難しさはあるのだが、誰のための特例だったとしても、「期限」に縛られないことのメリットは相当あると思うので、ここもポジティブに捉えておくことにしたい。

株主総会は結局変わらないのか?

そんな中、15日付で出されたのが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」という横断的な組織が出した、株主総会対応に関する記述も含む以下のリリースである。

www.fsa.go.jp

○ 企業及び監査法人においては、今般、有価証券報告書、四半期報告書等の提出期限について、9月末まで一律に延長する内閣府令改正が行われること等を踏まえ、従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算及び監査の業務を遂行していくことが求められること。
 その際、企業においては、3月期決算の場合は、通常6月末に開催される株主総会の運営に関し、以下の点を踏まえつつ、対応していくことが求められること。
株主総会運営に係るQ&A(経済産業省法務省:令和2年4月2日)を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討すること。
・法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすることは可能であること。
・資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。
 1.当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。
 2.企業及び監査法人においては、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。
 3.継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。
○ 投資家においては、投資先企業の持続的成長に資するよう、平時にもまして、長期的な視点からの財務の健全性確保の必要性などに留意することが求められるとともに、各企業の決算や監査の実施に係る現下の窮状を踏まえ、上記の定時株主総会・継続会の取扱い等についての理解が求められること。

これも、あたかも6月総会が例外、とでもいうような書きぶりになっているから、いかに今が「非常時」だとしても随分踏み込んだな、というのが多くの人の思いだろう。

ただ、中身に関しては、正直、これでもまだまだつらいぞ・・・と言わざるを得ない(そして、法的観点だけみると、既に公表されていた法務省の解釈からあまり踏み込めていない)ものではある。

「継続会」と簡単に言うが、前者で取締役の選任等の重要議案を可決し、後者で計算書類等の報告を行う、ということであれば、年に2回総会をやるのと何ら変わりはない。

また、議案の中でも剰余金の配当議案に関しては、決算が確定していない状況で出すのはかなり勇気がいるから、結局、「継続会」の方に議案を持っていかざるをえず*8、そうなると長らくくすぶっている”基準日問題”*9の壁が再び立ちはだかることになる。

そうなると、3月、4月の総会のように「雨が降ろうが鑓が降ろうが予定どおりやるしかない!」という方向に結局向かっていかざるを得ないだろう。

ちょうど1週間前に掲げたエントリー*10を連日更新する形でお伝えしているとおり、この緊急事態宣言下の首都圏においても、多くの会社が株主総会を予定どおり挙行する方向で動いているし、会場変更を余儀なくされても*11、それでも代替施設を使って実施することがいかに肝要か、ということを、これまでに苦労した多くの会社が証明している。

もちろん、政省令の改正でどうにかなるような話とは異なり、この問題を抜本的に解決しようとしたら、会社法の「基準日」の概念に手を付け、さらに「3か月以内」というところにも踏み込んでいかなければいけないから、そう簡単なことではないのは分かる。

だが、「当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥することによる関係法令が確保しようとした実質的な趣旨の没却」だとか「関係者の健康と安全が害されるリスク」を気にするのであれば、せめて今年限りの時限立法を行ってでも何とかできないものなのか・・・と思わずにはいられないのである*12

この先の状況次第ではあるが、最後の山が動く時は来るのか? もう少し見守ってみることにしたい。

*1:新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の対応について|内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室参照。

*2:もちろんオフィスの中に入れば、まだそれなりに人がいる、という会社もあるのかもしれないが。

*3:特に各社がリリースしている自社社員の発症から検査発覚までの経緯は、その時間軸も含めてかなり参考になる。

*4:もちろん、自分が無事生き残れていれば・・・の話だが。

*5:今のところ、4月27日から5月20日へ約1か月も後ろ倒しにした㈱JVCケンウッドが一番の「優等生」かもしれない(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200415494392.pdf

*6:諸外国の例を見ても、5月いっぱいは解除すること自体が困難だし、多少落ち着いて「宣言」の効果自体はなくなったとしても、リスクがいたるところでくすぶり続けている以上、それまでどおりのやり方でというわけにはいかないだろうと思われる。

*7:外資系の大手ファームなどは、徹底した在宅勤務体制に切り替えてしまった結果、これまで以上に細かいやり取りをしなければいけなくなっている、という話もあったりするようだ。

*8:多くの会社がもっとも気にしているこの論点に言及されていないあたりが、このリリースが”曲者”に思えるゆえんだったりもする。

*9:株主総会の開催時期を動かそうと思うと基準日も動かさざるをえず、結果的に本来の基準日となるはずだった日に株式を保有していた(かつその後売却した)株主に不利益を被らせることになる、という問題。

*10:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*11:今日も東京で1社、会場変更を余儀なくされた会社が出た。

*12:もちろん、1年前からスケジュールを決め、会場を押さえている会社も多い6月総会をずらすとなれば、「2021TOKYO」並みの会場争奪戦、既存イベントとの調整、といった問題は起きうるのだが、それはさておき。

緊急事態宣言下の桜。

世の中は「緊急事態宣言」が出た。

そして、これまで淡々と「無観客」のミッションをこなしてきた運営団体の中でも感染者は日に日に増え、遂には厩舎関係者の感染疑いまで浮上するに至った。

だから自分はあきらめていた。今週末はもう無理だろう、と。

だが、それでも馬は走った。

4月になったのに、季節が逆戻りしたような肌寒さが続いているせいか、阪神競馬場はまだ桜が咲いていて、そしてそんな中、テレビ画面越しとはいえ、今年のクラシック第一弾・桜花賞を見ることができた。

もう何十年も競馬を見てきたけど、毎週、毎月、毎年淡々とカレンダー通りに番組が回っていくこの世界で、一つのGⅠレースを見ることができる、ということにここまで感慨を抱いたのは凄く久しぶりな気がする。

何よりも、レースそのものが素晴らしかった。

戦前の序列は、「大本命」と目されながら、前走単勝1.4倍だったチューリップ賞で逃げて捕まって3着、と思わぬ敗戦を喫したレシステンシアが、鞍上にデビュー戦以来の武豊騎手を据えて参戦したことで辛うじて1番人気を保ち、それに続いて、デアリングタクト、サンクテュエール、リアアメリア、マルターズディオサ、といった面々が支持されている、という状況。

このレースに関しては「鉄板」であるはずのチューリップ賞組が、今年はなぜか負けたレシステンシア以外あまり人気がなく、阪神JF2着、前走優勝と、個人的には目下3歳牝馬では最強だと思っていたマルターズディオサ*1ですら5番人気に留まる状況。同じく阪神JFチューリップ賞と好走続きのクラヴァッシュドールも6番人気で、このワン・ツーならかなり美味しいなぁ、と朴訥に考えていたのがレース前の自分だったりもした*2

それが走り出してみたらどうだ。

スマイルカナが逃げて、レシステンシアがその後に続く、という予想通りの展開、しかもチューリップ賞を上回る速いペース、とくれば、まさにその後ろに付けていたマルターズディオサ、サンクテュエールあたりにとっては絶好の差しチャンス、だったはずなのに、彼女たちの脚は思いのほか鈍い。

そして、名手・武豊の手綱に操られて直線で先頭に立ち、前走とは全く違う「さらに一伸び」を見せたレシステンシアの勝利は確実!と思った瞬間に、後方から一閃。三冠最初のタイトルを奪い取っていったのがデアリングタクトだった。

マイル戦らしい爽快なスピード感と、そこに思いっきりかぶせて決着をつけたお手本のような直線一気。

後々まで残像が残るような美しいレースだったのは間違いない。

先述のとおり、この馬は2番人気に支持されていたし、前走では良血ライティア(シンハライトの全妹)を4馬身ちぎり、デビュー以来無傷の連勝を重ねていた馬だから「波乱」と言えば失礼になるが、過去10年で1度(2011年優勝のマルセリーナ)しか馬券に絡んだことのないエルフィンS組が、しかもこれまで重賞未勝利だったエピファネイア産駒がここで金星を挙げるとは、ちょっと想像できなかったな、というのが正直なところ。

唯一後悔したことがあるとしたら「騎手」で買わなかったことで、デアリングタクトに騎乗していたのは、今年初めから絶好調、前日も阪神牝馬Sサウンドキアラを操って今年の重賞5勝目*3を飾っていた松山弘平騎手だった。このブログでもここ2週くらい名を挙げて注目してきた若干30歳のまだまだ若手のジョッキー。

自分も長くやっていれば、当然、ノッている騎手に合わせて狙いを定めるテクニックくらいは持っているわけで、前日のメインも当然当てたし、日曜日のメインの一つ前、大阪―ハンブルクカップでも、4番人気のグランドロワで見事に良い思いをさせてもらっていたところだったから*4、それなら、最後まで「騎手」で買えばよかったじゃないか、という話になるわけだが、それも終わった後では後の祭りでしかない。

大きいレースになればなるほど、思い入れのある馬に思考が集中しがち*5。そして次に目が向くのは、過去10年の勝ち馬パターンとかコース相性とか馬場適性、といったデータ(大きいレースになればなるほどデータがそろっているので、そちらを使うことに過度に目が向いてしまう、という傾向があることは否めない)だから、最終的に勝った馬に乗っていた騎手が誰だったか、ということは二の次になってしまっていた。

さらに、この馬もマルターズディオサと同じ日高町の牧場(それもこれが今年2勝目、毎年1勝を挙げるかどうか、という小牧場)出身である、という事実に至っては、レースが終わってからも、しばらく気付かなかったくらいの体たらくだったのである*6

*1:自分は勝手にこの馬は重馬場でも走れる、と思い込んでいたのだが・・・。

*2:結果的にこの2頭とサンクテュエールの組み合わせで勝負し、見事に散った。

*3:うち3勝はサウンドキアラだが、それまでなかなか大事なところで勝ちきれなかったこの馬をここまで爆発させたのは、松山騎手あってこそだと自分は思っている。

*4:この馬も、前走までは逃げてはへたり逃げてはへたりの繰り返しだったのだが、松山騎手が乗った途端、絶妙な逃げで1年ぶりの勝利である。重馬場に助けられた面はあるにしても、メインレース以上に「腕」の凄さを見せつけられたレースだったと思っている。

*5:今年の桜花賞に関しては、キズナ産駒、しかも頑張ってほしい日高の牧場出身、ということで、気持ちがマルターズディオサ一辺倒になってしまっていたところはある。

*6:そもそもこの血統、息の長い活躍を見せた祖母・デアリングハートが社台の縦縞で走っていた印象が強かったので、馬柱を見た時は、無意識のうちにどうせサンデーレーシングの馬だろう、くらいに勝手に思っていた。駆け抜けてきたときの勝負服を見て、あれ?と思ったのが正直なところだった。

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