「正義」の所在~2つのガイドラインに関するちょっとした感想。

企業法務の分野で2020年という年を振り返った時に、もっともインパクトの強かったテーマを上げるとしたら、やはり競争政策に関する話題、ということになるだろう。

国外では米国・欧州で、競争当局とGAFAとの戦いが本格的に幕を開けたともいうべき一年となったし、国内ではそこまで目立ったエンフォースメント案件こそなかったものの、様々な分野の出来事に公正取引委員会が顔を出してくる機会は多かった。

このブログでも昨年からの「プラットフォーマー規制」の関連で、楽天市場の話題*1を紹介したり、フランチャイズに関する実態調査報告書の話題などを紹介してきたが*2、9月にトップが交代した後もなお年末まで手を緩めることなく・・・という感じで、ここに来てさらに2本の指針(ガイドライン)案がパブコメにかけられている。

いずれも、単純な思考で一方に「肩入れ」したならばスッキリした気持ちで読めるのかもしれないが、ちょっと立ち止まって考えると、そんな簡単な話ではないぞと言いたくなる、そんなテーマ。既に関連するエントリーを上げているところでもあるが、良い機会なのでここでまとめて紹介しつつ、思うところを簡単に書き残しておくことにしたい。

正義はどちらにあるのか?

まず最初に取り上げるのは「スタートアップとの事業連携に関する指針(案)」公正取引委員会経済産業省)である。
(指針案:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/dec/201223pressrelease_2.pdf

このスタートアップと連携する(大)企業との関係については、今年の夏に公取委が行っていた調査の中間報告が出されていて、その時にも二言三言コメントしていた。

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その後、先月末に公取委から「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告) 」が出され*3、こちらの方はメディア等でのバイアスのかかった論調に比べると、まだ比較的中立的で読み応えのある資料になっているなぁ・・・と思いながら感想を書こうとしていた矢先に出たのが今回の指針である。

指針案によれば、「独占禁止法上の考え方及び独占禁止法上問題となり得る事例については公正取引委員会が担当し、各契約の概要並びに問題の背景及び解決の方向性についてはオー
プンイノベーションを促進する観点から経済産業省が担当している」(2頁)という分担執筆になっているのだが、前者に関して指摘されている項目をざっと挙げると、以下のようになる*4

1 NDA(秘密保持契約)
ア 営業秘密の開示
スタートアップが、連携事業者から、NDAを締結しないまま営業秘密の開示を要請される場合がある。
イ 片務的なNDA等の締結
スタートアップが、連携事業者から、スタートアップ側にのみ秘密保持・開示義務が課され連携事業者側には秘密保持・開示義務が課されない片務的なNDA(以下「片務的なNDA」という。)の締結を要請される場合や、契約期間が短く自動更新されないNDA(以下「契約期間の短いNDA」という。)の締結を要請される場合がある。
ウ NDA違反
連携事業者が、NDAに違反してスタートアップの営業秘密を盗用し、スタートアップの商品・役務と競合する商品・役務を販売するようになる場合がある。
2 PoC(技術検証)契約
ア 無償作業等
スタートアップが、連携事業者から、PoCの成果に対する必要な報酬が支払われない場合や、PoCの実施後にやり直しを求められやり直しに対する必要な報酬が支払われない場合がある。
3 共同研究契約
ア 知的財産権の一方的帰属
スタートアップが、連携事業者から、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみに帰属させる契約の締結を要請される場合がある。
イ 名ばかりの共同研究
共同研究の大部分がスタートアップによって行われたにもかかわらず、スタートアップが、連携事業者から、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみ又は双方に帰属させる契約の締結を要請される場合がある。
ウ 成果物利用の制限
スタートアップが、連携事業者により、共同研究の成果に基づく商品・役務の販売先が制限される場合や、共同研究の経験を活かして開発した新たな商品・役務の販売先が制限される場合がある。
4 ライセンス契約
ア ライセンスの無償提供
スタートアップが、連携事業者から、知的財産権のライセンスの無償提供を要請される場合がある。
イ 特許出願の制限
スタートアップが、連携事業者から、スタートアップが開発して連携事業者にライセンスした技術の特許出願の制限を要請される場合がある。
ウ 販売先の制限
スタートアップが、連携事業者により、他の事業者等への商品・役務の販売を制限される場合がある。
5 その他(契約全体等)に係る問題について
(1) 顧客情報の提供
スタートアップの顧客情報は営業秘密であるがNDAの対象とはならないことが多いところ、スタートアップが、連携事業者から、顧客情報の提供を要請される場合がある。
(2) 報酬の減額・支払遅延
スタートアップが、連携事業者から、報酬を減額される場合や、報酬の支払を遅延される場合がある。
(3) 損害賠償責任の一方的負担
スタートアップが、連携事業者から、事業連携の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任をスタートアップのみが負担する契約の締結を要請される場合がある。
(4) 取引先の制限
スタートアップが、連携事業者により、他の事業者との取引を制限される場合がある。
(5) 最恵待遇条件
スタートアップが、連携事業者により、最恵待遇条件(連携事業者の取引条件を他の取引先の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定される場合がある。

こうやって各項目を並べてみると、ちょっとでもこの辺の実務をかじったことのある方なら、「玉石混交だな・・・」という感想を抱くのではないだろうか。

「販売先/取引先の制限」のような話は、「スタートアップとの連携」という前提を持ち出すまでもなく、取引上常に独禁法違反のリスクを気にしなければいけないところだから、いかにも公取委ガイドラインの定番記述だな、という印象だし、指摘の法令上の根拠も一般指定第11項(排他条件付取引)と第12項(拘束条件付取引)だから、これまでの他のガイドラインの運用等を踏まえた相場観もある程度掴めるところである*5

また、「NDA違反」とか「報酬の一方的減額、支払遅延」という話になってくると、そもそも独禁法の適用以前に明確な契約違反でしょう、ということになるわけで*6、スタートアップ側の泣き寝入りで終わらないように、あえて強行法規の存在を明記する意義があることは理解するものの、実務上のインパクトはそこまでないような気がする。

一方で、以下のような記述は、連携事業者側の実務者としては、非常に気になるのではないだろうか。

イ 片務的なNDA等の締結
独占禁止法上の考え方
スタートアップと連携事業者の間で片務的なNDAが締結された場合には、NDA期間内であっても、スタートアップの営業秘密が連携事業者によって使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがある。また、スタートアップと連携事業者の間で契約期間の短いNDAが締結された場合には、NDA期間後において営業秘密が陳腐化する前に、営業秘密が連携事業者に使用され、又は第三者に流出して当該第三者によって使用されるおそれがある。
取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、十分に協議をすることなく自社のNDAのひな型を押し付けるなど、一方的に、片務的なNDAや契約期間の短いNDAの締結を要請する場合であって、当該スタートアップが、将来再度の事業連携がなされる可能性がなくなるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。(7頁、強調筆者、以下同じ。)

イ 名ばかりの共同研究
独占禁止法上の考え方
共同研究の大部分がスタートアップによって行われたにもかかわらず、その貢献度を超えて、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみ又は双方に帰属させる場合には、スタートアップは貢献に見合った成果を享受できず、連携事業者は貢献を超えた成果を享受することとなる。
取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、知的財産権が事業連携において連携事業者に帰属することとなっており、貢献度に見合ったその対価がスタートアップへの他の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、取引の相手方であるスタートアップに対し、共同研究の成果の全部又は一部の無償提供等を要請する場合であって、当該スタートアップが、共同研究契約が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。(16~17頁)

スタートアップ側がどういう意図で一定の条件を受け入れたか、なんてことは、実際に紛争、事件になるまでは取引の相手方には知る由もないことだし、取引上の地位が「優越」していると認められてしまえば、それだけでスタートアップ側が「受け入れざるをえなかった」と認定される可能性は十分にある。

そう考えると、これまで当然のように使ってきた片務的なNDAや、成果共有がデフォルトの契約書式は、相手がスタートアップの時に限っては、使用を差し控えないといけないのか・・・とザワザワする人も多そうである。

NDAに関しては、コンタミネーションリスクまで考慮すれば、連携事業者の立場からも、極力双方向のNDAを使うことがお勧め、と言わざるを得ないし*7知財の帰属に関しても、無駄に特許の出願登録費用や維持年金の半分を負担させられるくらいなら、「その都度協議」で良いのでは?というのが個人的な意見ではある*8

ただ、取引上の様々な要素を考慮して結ばれるはずの契約の中身、それも、通常の取引においては決して珍しくない契約条件に対して「優越的地位の濫用」という名目でいきなり強行法規が介入してくるのだとしたら、取引当事者としてはたまったものではない

おそらく指針(案)を作成した公取委経産省としては、「いやいや、そうはいってもひどい事例はあるので・・・」(そして、現実に適用されるのはそういう事例だけなので・・・)という反論も当然用意していることだろう。

だが、この指針(案)で度々登場する「事例」(スタートアップが一方的にいじめられている、という構図の事例)を単なる机上設例ではなく、現実の事例*9として持ち出そうとするのであれば*10、客観的にみて本当にそうなのか、ということは、もう少し慎重に吟味したほうが良いのではないだろうか。

この点、先月の「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告) 」の構成は比較的バランスの良いものとなっていた。

具体的に言うと、スタートアップ側の回答だけでなく、「経済団体やその会員の事業者(大企業等)からの意見」というものも取り入れている点が評価できるところで、例えばNDAに関しては、

○ 初期の情報交換の時点から,NDA締結を要求してくるスタートアップがいる。大企業としては,スタートアップの技術概要が全く分からない段階でNDAを要求されると,事業連携に向けた議論がしにくくなる場合がある
○ 3年くらいの長期間の守秘義務を制約するNDAを結んでも,その期間内に技術内容も日々進歩することや,大企業内部での研究開発により,スタートアップの技術を追い越してしまうケースがあるなど,大企業側としてはスタートアップとのNDAにおいて長期間の守秘義務を結びにくい事情はある。
(最終報告書40頁、強調筆者、以下同じ。)

というコメントが紹介されているし、PoC契約に関しては、

○ PoCをスタートアップに依頼してみると,スタートアップの技術レベルが従前の説明ほど高くないケースも多い。実態以上の過大なプロモーション活動で資金集めに奔走しているスタートアップも多い。
○ 大企業は,自社の技術開発を進めるに当たり,PoC契約を結んだ上で複数の技術を検証し,最適な技術を採用することとなる。スタートアップの技術も選択肢の一つとはなるが,検証した結果,採用するかどうかは分からない。一方でスタートアップは,自社の技術が唯一かつ最適であると考えており,両社の考え方に違いがある。
(最終報告書42頁)

共同研究契約に関しては、

○ 共同研究で開発した技術の所有権がスタートアップとの間で問題になる。自社で開発した技術は,自社の競争力を高めるためだけに使いたいが,スタートアップ側としては,その技術を他社も含めて広く普及させることを望んでおり,立場の違いがある。
○ 共同研究開発を目的としてスタートアップへ出資しても,当該研究開発が進捗する中でスタートアップが資金難に陥るケースが多々あり,研究開発の支援だけでなく,スタートアップの経営自体を財務的に支援しなければならないなど,順調に共同研究が進まないケースもある。
(最終報告書44頁)


といったコメントも書かれている。

当然、反論したくなる方はいらっしゃるだろうが、少なくとも自分の目から見れば、そこまでおかしなことを言っているとも思えない。

これまで、メディア等でこの問題が取り上げられる時には、決まって「自分たちの技術を大企業側に勝手に使われた」、「一方的に不利な契約を結ばされた」というようなスタートアップ側の声だけが一方的に取り上げられることが多いのだが、スタートアップの会社が提案するような技術ニーズは提携する企業の側でも当然前々から分かっていたことで、他にも複数の会社と平行して開発を進めていることも稀ではないし、場合によっては10年近く社内で開発を続けていた、なんてこともあるから*11、提携したスタートアップの技術をわざわざ盗用しなくても、提携解消後に同じもの、あるいはそれ以上のものが出てくることなんて普通にある*12

また契約協議に関しては、(出資契約に関する意見として出てくるものではあるが)最終報告書の中に大企業側のコメントとして記された、

「通常,大企業は他社と契約書のやり取りをする場合,最初は自社に不利にならないような契約書を提示し,その後,法務部署を通じて,相互に平等な契約内容となるようにすり合わせていくのが一般的である。大企業である出資者はスタートアップに対しても同様の対応を行うが,スタートアップは,法務に詳しい人間がいないためか,そのまま締結しないと出資をしてもらえないと思ってしまうことがあるのではないか。」
(最終報告書56頁)

ということに尽きるのではないかと思う。

きちんと調べていけば「契約段階で自社の言い分を主張したのに提携先に押しきられて不利な契約を結ばされた」というケースより、「契約の時はとにかくイケイケで良く読まずに締結したけど、あとでトラブルになって見返したら実は自分たちが不利だったことに気付いた」というケースの方が遥かに多いということだって十分考えられる*13

本来なら、スタートアップ側の意見に、こういった「反対側」からの意見をぶつけた上で、現に起きているトラブル事例を打開するための最適解を考えていく、というのがあるべき姿のはず。にもかかわらず、今回の指針(案)では、このような反対側からの意見は1ページの脚注1にチラッと書かれているだけで、スタートアップ側の言い分だけで構成されているように思えてしまうところに違和感を抱く。

先に述べたように、「悪質な事例のみをターゲットにする」ということであればそれでも良いのかもしれないが、それなら指針の射程が広がり過ぎないように、もう一工夫あってしかるべきではなかろうか、という思いもある。

いずれにしても、「スタートアップこそ正義」という価値観だけで指針を作られてしまっては、スタートアップ企業以外の関係者にはとんでもないことになってしまうわけで、それぞれの「正義」をじっくりと比較衡量しながら、指針の良しあしを検討していく、というのが、正しい在り方のように思えてならないのである。

何が正義なのか?

ということで、スタートアップの話を長々と書きすぎてしまったので、簡単に済ませようと思っているのが、次のフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(案)」内閣官房公正取引委員会中小企業庁厚生労働省)である。

これなどは、つい先日のエントリーで触れたばかり。

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ガイドライン(案)の中で、予想通り、「フリーランス」の定義も書かれていて、

「本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す1こととする。」(ガイドライン2頁、強調筆者、以下同じ。)

という記載を見た時に、「おお!」と思ってしまったのだが*14、今日のエントリーのテーマとの関係で、重要になるのは以下のくだり。

独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引に適用される。また、下請法は、取引の発注者が資本金 1,000 万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用される。このように、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能である。」(ガイドライン2頁)

これでこのガイドラインの紹介は終わり、としても、そんなに怒られることはないだろう。

メインのガイドラインの標題に合わせて少しアレンジはされているものの、それ以降に公取委(&おそらく中小企業庁)が担当したと思われるパートの記述は、ほぼほぼ「下請法の適用要件を示したもの」に他ならないわけで、元々のルールをきちんと把握している方々の目で見れば、そんなに新しいことが書かれているわけでもない。

なので、ここでこのエントリーを締めてしまおうかとも思うのだけれど・・・

*1:「違反のおそれ」が独り歩きする不可思議 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*2:これがビジネスモデル転換の第一歩になることを願って。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

*3:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/nov/201127pressrelease_1.pdf

*4:なお、後者に関しては相変わらずちょっとピントがずれた記述も多いし、そもそも「余計なお世話」の世界なので、ここではあえて取り上げない。仕事をしたくてうずうずしているのは分かるが、様々な背景が絡む「契約」というセンシティブな領域に役所が知った顔で踏み込むのは、そろそろやめた方が良いのでは・・・というのが素朴な感想である。

*5:この手の「制限」に関しては、露骨なものはともかくとして、「競合他社に販売してもいいけど、その時はロイヤリティ頂戴ね」というような条件を付けることも、相手の規模や取引によっては実質的な制限になるのではないか、という話もあり、深く考えていくと知的財産権の帰属の話ともリンクしてなかなかややこしくなってくるのだが、この指針ではそこまでは踏み込んでいないようなので、ここでもとりあえず措いておく。

*6:これも、「契約上認められたオプションを連携事業者側で行使しただけだが、それが著しくスタートアップに影響を与える」(NDAで連携事業者が受領した秘密情報の利用目的や第三者開示の範囲を広くとっているケースや、成果にちょっとでも瑕疵があれば大幅減額できるようなオプションが盛り込まれているケース等)という場合はどうなのか?という疑問は当然出てくるのだが、今回の指針(案)に挙げられている例を見る限り、そこまで微妙なところには公取委も立ち入っていない、という印象を受ける。

*7:その代わり、後になってスタートアップ側から変ないちゃもんを付けられないように、外形的な要件をクリアして初めて秘密情報、とするパターンを選択することになるが。

*8:かつては、規模の小さい会社の方が業界で名の知れた大企業と共有特許を持ちたがって、それにお付き合いで乗ってあげる、ということも多かった。最近のスタートアップのマインドがどうなのかは分からないが、特許を取ったところでそれを維持して、さらに使える武器として行使するためには、途方もない労力とコストが必要になるわけだから、スポンサーとしての大企業をそこでも生かす、という発想は依然として出てきても不思議ではないように思うし、逆にそれをせずに”やせ我慢”する風潮があるのだとしたら、それは決して賢い戦略ではないように思う。

*9:指針(案)の中では、「実態調査報告書に基づく事例」とされている(2頁)。

*10:公取委などは、いやいやそうではない、あくまでこれは違法となる「例」を示しただけであって、現実に生じている事象に独禁法が適用されるかどうかはケースバイケースだ、とコメントするのだろうが、今回の指針(案)を見た人の多くはそういう受け止め方はしないような気がする。

*11:それならなぜ外部のスタートアップ企業と提携するのか?という疑問は当然抱かれてしかるべきだし、当然社内でもおいおい、となるわけだが、「ブームには勝てない」というのが、コロナ以前のスタートアップ連携の現実だったりもした。

*12:ある一定のトレンドに合わせて技術開発を行う場合、最終的にはどの会社も大体同じ方向に技術を収斂させていくことになるし、一定のレベルに到達するまでのスピードもそんなに変わらない。だからこそ特許は一刻も早く出せ、というのは、実務に入った最初の入り口のところで教わったことで、それはスタートアップが絡む場面でも何ら変わりはないはずである。

*13:数多ある契約の中には、スタートアップでなくてもこういうパターンで結んで後で後悔する、というようなものはごまんとあるが、そういった契約の内容に事後的に法が介入する、というのは、これまで相当限られた場合に留まっていたはずである。

*14:「実店舗」がどこまでのものを指すか、ということにもよるが、まだ自分自身が堂々と「フリーランス」を名乗れる余地はあるような気がしている。

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全てが凝縮された2020年最後の週末。

この週末は、カレンダー上では2020年最後の週末。そして、今年は、中央競馬の番組編成上も、この2日間が「最後」の日となった。

当たり前のように聞こえるが、ここ数年の暦では、有馬記念がかなり早いタイミングで開催され、その後に1日、「今年最後のGⅠ」と銘打たれて2歳戦のホープフルSの開催日が組まれる、というパターンも多かったから、有馬記念で1年を締める」という、オールドファンにとっては当然のミッションもなぜか新鮮に感じる。

さらに今年に関しては、そんな番組編成の都合もあって、土曜日に中山大障害ホープフルSの2本立て、翌日曜日に有馬記念、と2日でGⅠ(J・GⅠ含む)レースが3本、という豪華な週末となった。

今年の中央競馬界といえば、新型コロナの影響による「無観客」競馬突入のインパクトがあまりに強すぎて、うっかりすると他に何が起きたかをついつい忘れそうになってしまうのだが、2頭の3歳無敗三冠馬誕生、という歴史的事象もあったし、古馬GⅠを牝馬が席捲し続けるというこれまた後々語り草になりそうな年でもあった。

細かいことを言えば、2歳戦では新種牡馬ドゥラメンテ、モーリスがまずまずの結果を残して種牡馬の勢力図を塗り替えつつあるし、生産者界でも大レースになればなるほど、「ノーザンファーム1強」が揺らぎ始めているのを感じさせる出来事が多かった。

騎手も調教師もリーディング上位の顔ぶれだけ見れば、一見大きな変化はないように思えるが、騎手の方は、松山弘平騎手の100勝超えに4年目の横山武史騎手の大躍進で東西の勢力図が塗り替わりつつあり、その一方で吉田隼人騎手が17年目にして自己ベスト更新の91勝を挙げる、という嬉しい出来事もあったりした。調教師の世界でも三冠馬を擁する杉山晴紀厩舎の躍進には目覚ましいものがあった。

ということで、本来ならそんなあれこれの余韻に浸りつつ、じっくり観戦したいところではあったのだが、依然として残る年末進行モードの前ではそれもまた夢。

気が付けば特別戦の時間になり、「ながら」見をしているうちにあっという間にメイン、そして一日が終わる、という目まぐるしさの中で感じたこととしては・・・。

中山大障害は、3年続けて天下無双のオジュウチョウサンがいない、という状況の中で、本命視されていたメイショウダッサイが鞍上の森一馬騎手とともに悲願のJ・GⅠ初勝利を飾ったのだが、個人的には平地時代の走りを想起させるようなタガノエスプレッソの猛烈な追い込み(3着)がもっとも印象に残った*1

2連勝中の馬が5頭も馬柱に名を連ねたホープフルSでは、同じ無敗馬のオーソクレース、ヨーホーレイクとの戦いを制したダノンザキッドが前評判通りの強さを見せ、唯一の「無敗馬」として年を越す権利を得た*2のだが、この馬の父親はジャスタウェイ、2着のオーソクレースも父・エピファネイアで、ここにも種牡馬の勢力図が塗り替わるサインはくっきりと出ている*3

そしてやはり最後は有馬記念

1か月くらい前までは、クロノジェネシスで決まりだろう、と思っていたのに、珍しくメンバーが揃った馬柱を見て揺らいだ心は、他の馬に重い印を付け、気迷いを象徴するような買い目の多いベット策を、自分の回らない頭に強いた。

その結果どうなったか、ということは、あえてご披露するまでもないが*4、これだけ骨のあるタレントが揃っていた中で、フィエールマンとの叩き合いを制し、伏兵サラキアの強襲も着差以上に余裕をもって退けたクロノジェネシスの強さを身に染みてしったことで、来年以降の戦略を誤る可能性はもはやなくなった気もする。

長年高速化が指摘されてきた東京、中山の馬場は、意図的にそうしたのかどうかは分からないが、今年の秋の開催以降、実に重くてタイムの出づらい馬場となっており、それは勝ちタイムが6年ぶりの遅さとなったこのレースも同じ。

でも稍重のタフな馬場を制した宝塚記念に続き、今の中山の馬場で行われた有馬記念も見事に制したことで、長らく日本馬にとっては鬼門となっている「凱旋門賞」で欧州馬と渡り合える可能性を十分に示してくれた、ということもできるようになった気がして*5、その意味で、今年の両グランプリの存在意義は大きかったのではないかと思う。

古馬のGⅠを並べてみたら、

フェブラリーステークス モズアスコット 牡6
高松宮記念 モズスーパーフレア 牝5
大阪杯 ラッキーライラック 牝5
天皇賞(春) フィエールマン 牡5
ヴィクトリアマイル アーモンドアイ 牝5 ※牝馬限定
安田記念 グランアレグリア 牝4
宝塚記念  クロノジェネシス 牝4
スプリンターズステークス グランアレグリア 牝4
天皇賞(秋)  アーモンドアイ 牝5
エリザベス女王杯 ラッキーライラック 牝5 ※牝馬限定
マイルCS グランアレグリア 牝4
ジャパンC アーモンドアイ 牝5
チャンピオンズC チュウワウィザード 牡5
有馬記念 クロノジェネシス 牝4

と、これまでの流れに輪をかけて「牝馬上位」がより鮮やかに証明されることになったし、2着にラッキーライラックでも、カレンブーケドールでもない牝馬(サラキア)が飛び込んだことで、ますます「強い牝馬」のインパクトは強まった。

今年合計5勝をかっさらっていった大物2頭の引退でさすがに来年はもう少し”男女均等”になるのではないかと思うが、今年だけの一瞬の出来事だったとしてもその”瞬間”を目撃できた幸運は長く味わっていたいと思うところである。


なお、レース後のJRAからの発表によると、

「2020年の中央競馬を締めくくる有馬記念が行われた27日、日本中央競馬会(JRA)は今年の業績(速報値)を発表し、開催288日の馬券の総売り上げは昨年比103.5%の2兆9834億5587万2000円で、9年連続の増収となった。」
東京新聞Web(JRA、コロナ禍も総売上アップ ネット会員増加:東京新聞 TOKYO Web)2020年12月27日19時04分配信

ということで、「電話・インターネット投票会員数が昨年同時期に比べ約50万人増えた。」(同上)という事実と合わせ読むと、「コロナ下での増収」もやろうと思えばできるのだ、ということを改めて感じさせてくれる。

そして、これまで度々このブログでも申し上げてきたとおり、一度も中止となる開催日を出さなかったJRAの「運営」の力はもちろん、「経営」の力についても、皆が心から敬意を表し、一つでも二つでも学びを得る必要があるはずだ。

今の状況を考えると、2021年が始まってしばらくの間は、競馬場への入場者数が大幅に制限された状況は続くだろうし、世界が元に戻るまでにはまだまだ時間が必要なのかもしれない。

それでも、輝く特殊法人JRAには、だからこそここで一気に戦略を磨き上げてさらなる売上増と構造転換につなげる、そんな工夫さえまだまだ見せてくれるのではないかと期待してしまうわけで、あと一週間とちょっとで始まる競馬暦上の「新しい年」に期待するところは極めて大きい。

コロナの嵐がどんなに吹き荒れようと、2021年が競馬を愛する人々にとって今年以上に盛り上がり、今年以上に活況を呈する年になることを、今は心から願うのみである。

*1:タガノエスプレッソはもう9歳になろうか、という馬だが、2歳時には芝で重賞勝ち、3歳の弥生賞でも3着に入り三冠レースを皆勤した実績がある。その後伸び悩んでいたが4年前の暮れの初ダート戦のOPで優勝。さらに時を経て昨年障害転向した後は、オジュウチョウサンに土を付けた前走をはじめ既に4勝。今年に入ってから重賞も2勝奪っているというつわものである。

*2:そして鞍上の川田騎手は、先週のグレナディアガーズとの比較でいずれを選択するか、という難しい選択をこれから強いられることになる。

*3:先週の朝日杯FSに続き、上位3頭いずれもノーザンファーム生産、というのを見ると、やはり早い時期に馬を仕上げる能力ではまだまだ他の牧場の追随を許さないな、と感じるところではあるが、裏返せば年明け以降のデビュー組から「大物」が登場する可能性もまだ残っている、といえそうである。

*4:大体、自分の場合、こんなふうに当日になってから迷ったようなケースでまともに的中馬券を当てたことなど一度もないに等しいのだ。

*5:クロノジェネシスの場合、何といっても父が3歳で凱旋門賞を制したフランス調教馬、バゴだから血統的な裏付けは十分。加えてこの馬場適性と簡単には抜かせない勝負根性があることも考えると、堂々渡り合える可能性はあるような気がする。

Never Say Good-Bye.

フライング気味に表に出て、それから一週間経つか経たないかのうちに公式に発表された「Business Law Journal(ビジネスロージャーナル)休刊」の報*1

ブログにもSNSにも、既に多くの方が惜別の言葉を寄せられていて*2、かなり出遅れた感はあるのだが、金曜日まで絶賛年末進行だったことに加え、最終号となってしまった2021年2月号が配達人の気紛れ(?)か手元に届くのがちょっと遅れてしまったことを言い訳に*3、以下、何度も深呼吸しながら書いたエントリーである。

そこからすべてが始まった。

最後のリリースにもあるように、BLJの創刊号は2008年2月発売の「2008年4月号」である。

だからこの雑誌を振り返るときは、どうしても「2008年」にフォーカスされがちで、他の方が既に書かれているエントリーもその頃の思い出から始まることが多いのだが、どうせ振り返るなら、ということで、ここではさらに遡り、前身誌『LEXIS 企業法務』が世に出された2006年にまで戻ってみる。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

斬新なレイアウト、そしてそれまでの他の法律雑誌とは少し角度を変え、企業法務部門へのインタビュー等も取り込みながら、「本当に仕事に役に立つ情報だけを伝えていく」というスタイルは、同時に公刊されていた『LEXIS 判例速報』と合わせて相当なインパクトはあった。

それが1年半ほどで『企業法務』『判例速報』ともにまさかの休刊*4

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

で、そこから数か月経って世に出てきたのが、

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

というわけだ。

横書きから縦書きへ、サイズは大判になりビジュアルも増えた。何より、読者層が「法務担当者」に明確にフォーカスされた。

そういった大きな変化はもちろんあるのだが、自分がBLJを初めて手に取った時に一番安心したのは、「執筆者が書きたいものではなく、読者が読みたいコンテンツを提供する」というスタンスがよりスケールアップする形で貫かれていたことで、だからこそ自分も、他の当時の法務系ブロガーたちもこぞってこの雑誌に熱狂し、最新号が出るたびに毎月エントリーを上げる、というルーティンを繰り返すことになったのだと思っている。

改めてこのブログの過去記事を検索してみたら、2008年中にBLJを取り上げたのは実に7回。翌年以降も2~3か月に1回くらいは取り上げている*5

前身の雑誌が2年経たずに休刊となり、後発組にとっての市場の厳しさを嫌というほど味合わされた後に、さらに尖った新しいものを立ち上げる、という試みに挑んだわけだから、創刊当時の編集部の危機感は並大抵のものではなかったはずで、創刊当時からの編集者が最終号の編集後記に書き残された「3号雑誌どころか1号で終わるんじゃないかってくらいの綱渡りでした」というコメント*6も、ギリギリのところまで市場に出すクオリティを求め続けたからこそ、のエピソードだったのではないかと推察する。

だが、そういった過程を経て磨き抜かれたコンセプトと紙面の裏に隠れた編集部の「熱」は、間違いなく業種も、会社の規模も、企業内でのレイヤーすら超えて「法務担当」のアイデンティティを持つ人々の心を揺さぶった。

この雑誌には、自分自身、創刊当初から多くのチャンスをいただいていて、2008年7月号に掲載していただいた匿名論稿*7を皮切りに、座談会等も合わせると20回くらいは書く機会をいただいてきた。だからこれまでも、今も、BLJという雑誌の評価に大なり小なりの”身内びいき”が入っていることは否定しないが、間近で「熱」に接する機会を得ていたからこそ、それを少しでも多くの人に伝えなければ、という使命感も湧いてきたのは事実*8

そして、「ここで終わってしまう」ことを惜しむ人は多いのだけれど、創刊当初の、”手を変え品を変え”の斬新なハンドメイド的特集を、毎号楽しみに(でもかなりハラハラしながら)読み、時にはそれに乗っかって、より編集部の手を煩わせてしまっていた者としては、「よくぞここまで・・・!」という思いの方が強かったりもするわけで、往年の編集部の方々には、どれだけ賛辞を送っても足りないような気がするのである。

変わっていったのは雑誌か、自分自身か、それとも・・・?

さて、ここまでなら”いい話”のままで済むのだが、「終わる」背景にはそれなりの理由がある、ということにも、思いを巡らせなければいけないだろうと思う。

紙の雑誌、しかもニッチな業界の専門雑誌である以上、商業的に順風満帆なはずがない、というのは分かり切ったことだし*9、今年に入ってからの新型コロナの影響も決して無視することはできなかったのかもしれない。

ただ、この13年弱、BLJという雑誌を見てきた中で、そういった外部環境以外の面でも、ここ数年はいろいろと気になることが多かった。

それは、2016年7月号、ちょうど「100号」の節目にこのブログに載せたエントリーに少し書いていたことでもある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

インディーズ的な香りを漂わせていた創刊当初から一気に存在感を高め、広告や多くのタイアップセミナーを掲げる”商業雑誌”化が進むにつれ、「法務担当者の生の声」を伝える特集の存在感は薄れていった。

その一方で増えていったのは、大手・中堅企業法務系法律事務所の弁護士たちの論稿。

「プロ」の書いた記事をメインに構成すれば、雑誌としての一定の品質を保ちやすくなるのは確かだろうし、「読者層を広げる」という戦略との兼ね合いでも、それ自体は決して悪いことではない。問題はそういった記事の中に「経験知」に裏打ちされた論稿がどれだけあったか、批判されるリスクを取ってでも”攻める”論稿がどれだけあったか、ということではなかったか、と自分は思っている。

ジュリスト、NBL、ビジネス法務、といった先行する競合雑誌が市場に存在し、しかも、そういった雑誌の方に権威のある専門家が原稿を載せている、という状況もある中で、同じ土俵で勝負しようとすれば、いかに編集サイドに「熱」があったとしても、自ずから形勢は不利となる。

惜別のエントリーでkatax氏*10がBLJを「企業法務担当者の雑誌だった。」と評したのはまさしくその通りだと自分も思うし、それは失礼でも何でもなく、読者ニーズと生き残り戦略の両面で、まさに”そうあるべき”だったはずだ、とすら自分は思う*11。この点に関しては、中の人たちもきっと同じことを考えておられたはず。

だが、そういった思いのとおりに、BLJは最後まで「企業法務担当者の雑誌」であり続けることができたのか?

そこには様々な評価があり得ることだろう*12

もちろん、この13年弱の間に、読者である自分自身を取り巻く環境が大きく変わった、ということにも、触れておかないと不公平かもしれない。

創刊当時、まさに現場で経験を積みながら手を動かしていた「法務担当者」だった自分の立ち位置は、年々マネジメント側に寄り、フィールドも国内から海外へと大きくシフトしていった。

子供の頃あんなに熱中して奪い合っていた「少年ジャンプ」が今目の前に転がっていても全く興味を惹かれないのと同じで*13、見方を変えれば、本当は一担当者であれば食いつくような記事なのに、自分の方が変わってしまったことでその良さや意味合いに気付けていなかっただけ、という解釈もあり得ることは否定しない*14

ただそれでも、ここ数年の号であっても、「法務担当者の生の声」がきちんと拾われて載っていればどんなテーマでも興味深く読めていたことを考えると、それを何らかの理由で集めづらくなった、載せづらくなった、ということにこそ、問題の核心があるのかもしれないわけで、(ここではこれ以上触れないが)この部分を「なぜ?」と掘り下げていくことが、「この先」にもつながっていくのではないかな、と思ったりしている。

「見送る」立場になってしまったことへの反省と後悔と、この先への何か。

以上、長々と書いてきたが、自分が生まれる前から延々と続いているようなものも稀ではない法律雑誌の世界で、結果的に創刊直後から休刊まで立ち会うことになってしまった、ということへの忸怩たる思いはやっぱり強い。

特に、この雑誌の「営業」には全く貢献できなかった、という思いはあって、他の熱心な愛読者の方々のように「会社で定期購読の稟議を回す」という貢献はできなかったし、自分自身、最後まで定期購読の契約はしなかった。

後者に関しては、「どうせ店頭で買うから」と思っていたゆえではあるし、現に今、家にあるBLJを全て積み重ねれば天井に届くくらいのボリュームはあるかもしれない。

ただ、2010年代、会社の中で仕事が猛烈に忙しくなっていく過程で、書店の店先で手に取ることもなく買い逃した号も結構あった。

前者に関しても、この雑誌を他の法律雑誌のように、「届いても偉い人の机の上で長期滞留した末に、担当者は誰も開かないままオフィスの片隅のロッカーに収納され、倉庫行きを待つ」ような目に合わせたくなかった、という理由があったとはいえ*15、雑誌の長期存続を考えたら、”お布施”になっても定期購読しておくのが正解だったともいえる。

よく、廃線間際の赤字ローカル線にファンが押し寄せて「名残を惜しむ」光景が報道されることがあるが、そういった心理に共感力を持てない自分は、「お前らそこに住んでコンスタントに乗って路線を盛り上げてたらこんなことにならないだろう、今さら何やってるんだ」といつも悪態を付く。

だが、今、消えていこうとする雑誌をひたすら惜しみ続ける、というのは、まさにそんな「間際のファン」の所業に他ならないわけで、仮にそこに「一人二人頑張ったってなにも変わらなかったよ」という現実があったとしても、あまり慰めにはならない。

だからこそ、というと、いささか都合が良すぎるかもしれないが・・・

*1:https://www.businesslaw.jp/pdf/BLJ_announcement_202012.pdf/個人的には編集長名のコメントが掲載されていない、というところがちょっと引っかかる。

*2:ご自身のコメントに加え、著名ブロガーのコメントを紹介していただいているエントリーとしてhrgr_Kta氏の「Business Law Journal」の休刊に寄せて - hrgr_Kta - g.o.a.tに接した。自分はもろもろ、涙なしには読めなかった。

*3:「最後」の号を見届けるまでは書けなかった、というのが正直な思いである。

*4:久しぶりにこの時のエントリーを読んだが、ここには13年後の展開にもつながる何かがあるような・・・。

*5:後述するとおり、自分自身がこの雑誌にコンテンツを提供したこともあるのだが、そういったものにブログの中で触れることは意図的に避けていたから、取り上げた回数=純粋に読者として共鳴した回数、である。

*6:136頁、「ま」さんのコメント。

*7:ちなみにこれを書いたのは、ちょうど最終合格した年の短答試験の直前の時期だったが、当時の感覚としてはそんなことはどうでも良いと思うくらい嬉しい機会だったのだ。

*8:そして、その「熱」があるからこそ、書く側としても常に必死の真剣勝負だった。

*9:首都圏の大型書店で次々に法律書コーナーが縮小されていったことの影響も否定できないような気がする。雑誌購入者の多くは、(定期購読者を除けば)店頭で手に取って買う価値があるかどうかを吟味してから買う、という行動をとりがちだし、BLJの潜在読者層と重なる法律書読者層の購入ルートが軒並みネット書店に遷移した結果、「お目当ての本のついでに買う」という機会が失われてしまえば、より状況は厳しくなる。

*10:Business Law Journal休刊に寄せて : 企業法務について

*11:一口に「企業法務」というが、外部の弁護士から見たそれと、企業内の「法務担当者」が見るそれとは全く異なる。だからこそ、後者の視点で光を当てることに意味がある。

*12:他の方が書かれている惜別エントリーの中で振り返られているエピソードの多くが創刊初期のそれである、ということも何かを示唆しているのかもしれない。

*13:最近の「鬼滅」の大ヒットからも分かる通り、掲載されている漫画の質自体は、おそらく今も昔もそんなに変わっていないのだろうけど。

*14:コミック誌女性誌のように、読者の環境変化に合わせて「ヤングジャンプ」みたいな複数の媒体を用意できればまた違ってくるのだろうが、それを小所帯で回している法律系出版社に求めるのは酷というものである。

*15:会社にいた最後の頃に、一度だけ「購読してほしい」という要望を部下から受けたことがあって、その時に思い切って購読に踏み切ることもできたのだろうが、入れ替わりに購読を中止する雑誌の選択に迷って結局踏み切れなかった記憶がある。とにかくいろんなものを削れ、というプレッシャーが強い中、新しいものをそう簡単にアドオンできるような空気はなかったのだ。

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ようやく、のクリスマス。

本来なら今日は違うテーマでエントリーを上げる予定だったのだが、配達人の気紛れか、本来届くべきものが届かなかったので聖夜ネタ。

状況的には今日も昨日までと変わらない。

元々そうでなくても慌ただしかった年末は、一昨年までは存在した貴重な祝日がなくなったことで、より息つく暇もないような連続ダッシュの日々になっているし、今年に関しては欧米並み(なんて言うと、まだまだ・・・という突っ込みは当然入るだろうが)に世の中の「年末」が繰り上がったことで、なおさらというところはある。

ただ、やっぱり去年から変わったのは、それでも「クリスマス」の声を聞けばそれに反応できるくらいの余裕ができたことかな、と。

あらかじめ予約していたホールケーキを持ち帰って、家族で囲んで楽しむ、というささやかな楽しみを容易に味わう余裕すらなかったあの日々は何だったのだろう、というのは、今振り返っても不思議なのだけど、今が良ければすべてよし。

以前としてピークが見えない新型コロナ禍、そのあおりか、今年は休止となった「クリスマスの約束」。

その代わりに明石家サンタは最初から最後までじっくり見られる2020年(笑)。

何かを失っても、その代わりに得られるものがある。それが人生。そして、運が良ければ、時に失ったもの以上に多くのものを得られることもある。

油断した瞬間に、驕り高ぶれば一瞬で逃げて行ってしまうものではあるけれど、それがまだ自分の手の内に残っている、ということに最大限の感謝をしつつ、引き笑いのBGMにジングルベルを聞く、それでこそのクリスマス、である。

さて、今週もあと一日。頑張ろう、と。

WINTER SONG

WINTER SONG

不思議な見出し。

「仕事納め」という迫りくるタイムラインを見据えながら、朝から晩まで超特急で突っ走る。それでこそ師走。そして、今週に入ってからどっぷりとそんな空気に迫っている。

幸か不幸か、今年は「実質的には25日で終わりです・・・」という会社が結構多くて、ボールを手元にもったまま年を越したくない身としては、「最後の週末で」というアテが少々狂ってしまっているところもあり、だからなおさら押し込まれている感が強くなってしまっているのかもしれないが、それでこそ師走。

そんな感じでやっている。

ということで、月曜日の紙面には既に掲載されていたのに*1、すっかり取り上げるのがおそくなってしまったのが、年末恒例の「第16回『企業法務・弁護士調査』」である*2

もうずいぶんと長く続いている調査ではあるのだが、昨年はちょっとした変化の兆しも見え始めていたし*3、今年は新型コロナ一色の年、ということで、何かが起きるかも?という微かな期待はあったのだが・・・。

<企業法務全般(M&Aを除く)>
1.中村直人(中村・角田・松本)16票
2.野村晋右(野村綜合)10票
3.倉橋雄作(中村・角田・松本)9票
3.太田洋(西村あさひ)9票
3.柳田一宏(柳田国際)9票

蓋を開けてみれば鉄板。

今年も首位は不動の中村直人先生、ということで、「コロナ下」だったからこそ信頼がより輝いたのでしょうね、という一言に尽きるのかもしれない。

興味深いのは、昨年「中村氏8連覇」という見出しを付けていた日経紙が、今年はこのジャンルの動きを全く使わなかったことで、紙面でも電子版の記事でも、大見出しになっているのは、「危機管理」と、「企業法務」からスピンアウト(?)した「M&A」分野でトップに立った弁護士の名前のほう。

本来なら(栄光の巨人軍と並ぶ)「9連覇」という見出しを付けられて然るべきだった中村弁護士、そしてもうお一人、世代的に「躍進」の見出しがついても不思議ではない3位の倉橋雄作弁護士までもがスルーされてしまっていることに対しては個人的にはちょっと首をかしげたくなるところもある。

おそらく当のご本人たちはそんなこと全く気にしておられないだろうけど、投票した企業の側の感覚としては、「企業法務全般」こそが”真の一票”で、あとはおまけ的なところもあったはず。

そう考えると、今年の厳然たる結果の前に、あえて伝え方の切り口を変えてまで「変化」を演出する必要があったのかどうか。そして継続と時点変動の観察にこそ意味があるこの手のランキングで、カテゴリー分けまでも動かしてしまった、ということで、ランキングの価値自体が損なわれる恐れがあることを考えると、来年からはもう一度原点に立ち返り、「企業法務」カテゴリー一本で勝負しても良いのではないかな・・・とすら思う。

ということで、ポスト・コロナ時代にまで、この企画が受け継がれていくのかどうかは分からないが、引き続き温かく見守りつつ、来年の「10連覇」の瞬間を見届けたいな、と思った次第である。

*1:もっと言うと、電子版には先週の時点で掲載されていたのに・・・。

*2:日本経済新聞2020年12月21日付朝刊・第13面。

*3:見え始めた世代交代の息吹。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。

日本人最多勝騎手の矜持。

いよいよ終幕に向けてラストスパート、という感じになってきた中央競馬

土曜日も中山メインのターコイズSが、いつになく渋いメンバー揃いで、売上も対前年比∔5.5%。

今月に入ってからも、週を追うごとに伸び続ける売上は一向に衰える気配なし、である。

で、そんな中迎えたのが2歳牡馬の頂点を決する伝統の一戦(といっても、ここ数年は来週のホープフルSの方が存在感を増してきている感はあるが・・・)、朝日杯フューチュリティステークス

全勝対決だった2歳牝馬女王決定戦とは異なり、こちらは本命視されたレッドベルオーブがデビュー戦で敗れていた。

とはいえ、この馬は、中京の未勝利戦に、阪神デイリー杯2歳Sと、二場連続でレコードタイム更新という驚愕の走りを見せたディープインパクト産駒。

またデビューから連勝中の馬、ということで言えば、2番人気のステラヴェローチェに、ドゥラモンド、ブルースピリットと、味のある伏兵たちも揃っており、再びの来春の「無敗」戴冠に可能性がつながる余地は残っていた。

これらの馬がきれいに内寄りの3枠、4枠に収まったのも何かの符合だろう、ということで、自分は外枠の有力視された馬たちには目もくれず、この4頭で綺麗に買い目をまとめて、安心しきっていたのであるが・・・

蓋を開けてみれば、逃げたモントライゼこそ失速したものの、先行有利の今の阪神の傾向そのままに、前に行った馬がことごとく健闘する展開に。

そしていつにも増してハイペースな展開の中、2番手追走から直線堂々と先頭に立ったFrankel産駒・グレナディアガーズが、レースレコードはもちろんレッドベルオーブが作ったばかりの2歳コースレコードまで塗り替える驚異的なタイム*1で優勝を飾った。

ステラヴェローチェは、決して有利ではない展開の中で良く追い込んだものの2着まで、レッドベルオーブは3着。

既に2度の黒星を喫していた馬が勝利を収めたことで、このレースから「無敗の三冠馬」が出る可能性はなくなったが、今の日本競馬のレベルを象徴するような実に見応えのあるレースだったのは間違いない。

そして、鞍上の川田将雅騎手は、残り2週のタイミングで遂に今季逃し続けていたGⅠ勝利を手に入れて、7年連続GⅠ勝利、というこれまた偉業を達成。

最近では「1番人気で勝てない」等々、辛辣な評価を浴びることが多く、後輩の松山弘平騎手の躍進もあって何となく影が薄くなっている川田騎手だが、冷静に見れば、目下勢いに乗る35歳。今年も堅実に165勝を挙げていて勝率ではルメール騎手を上回る28.2%のハイアベレージだから、まだまだ衰えを見せている、というような状況ではない。

これで9勝目となった今年の重賞勝利を、ブラストワンピースから、アウィルアウェイ、ダノンスマッシュ、リアアメリア、グローリーヴェイズ、クリンチャー、ダノンザキッド、レイパパレ、そして今日のグレナディアガーズに至るまで全て異なる馬で勝っている、ということは、傑出した馬に乗れていなかった今季の苦境を象徴しているともいえるが、裏返せばそのような状況でもきっちり勝利を手にすることができる彼の実力の証ともいえる。

「7年連続」をいち早く叶えてくれるはずだったクリソベリルで敗れ、ダノンスマッシュをスプリンターズSで2着に導きながら、先週の香港でGⅠ勝利を飾った時には自分の手を離れていた*2、という悲劇も味わった。

それだけに、今週、あと1週を残して7番人気の伏兵馬でGⅠタイトルを奪い取った意味は大きいし、これで元々「本命」視されていた次の週末のホープフルSでも、現時点で2戦2勝のダノンザキッドをいいところに持ってこれるのではないか、という期待が増してくる。

さすがにオーソリティ有馬記念まで・・・ということになると、さすがに欲張りすぎかもしれないが、今年もルメール騎手と途中まで唯一互角のリーディング争いを繰り広げた日本人騎手として、最後の最後に爆発力を発揮してくれることを願うばかりである。

*1:この日の勝ちタイム、1分32秒3は、同じくハイペースの展開だった3勝クラスのレースの勝ちタイムより早い、驚異的なレコードタイムだった。

*2:これについては自主隔離の問題もあるので、やむを得ないといえばそれまでだが・・・。

これは朗報、なのだろうか?

さすが年の瀬、という感じで、やりたいことに割ける時間がじわじわと削られ、何事も消化不良になりがちな今日この頃。

世の中的には「週末」でも、ほぼ平常稼働でげんなりしていた時に目に飛び込んできたのがこのニュースだった。

「政府はフリーランスとして働く人を独占禁止法などの法令で保護する指針を年内にもまとめる。組織に属さずスキルを生かすような多様な働き方を法的な安全網の整備によって後押しする。取引する企業側が契約内容を書面で残さなければ独禁法違反につながる恐れがあることなどを明記する方向だ。」(日本経済新聞2020年12月19日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

これを見て最初に湧いたのは、

「これ、自分も保護してもらえるんだろうか?(笑)」

という素朴な興味である。

この記事を読むだけだと「フリーランス」の定義が全く分からないし、以前出された公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会報告書」*1を見ても、

「個人として働く者」とは,フリーランス」と呼ばれる人がその代表であり,例えば,システムエンジニアプログラマー,IT技術者,記者,編集者,ライター,アニメーター,デザイナー,コンサルタントなどが挙げられるが,このほか,スポーツ選手,芸能人を含む,幅広い職種を念頭に検討を行った。」(報告書6頁、強調筆者)

と、いきなり定義なく出番が与えられているから何とも言えないのだが、例示されている職業との対比でいえば、個人事業主として仕事を受けている士業者だって、決して例外にはならないはずだ*2

だから、多少興味を持ちつつ読み進めたのであるが・・・

*1:https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

*2:自分の場合、典型的な士業仕事だけでなく、コンサル的要素の強い案件まで手広く受けていることもあって、そういう時はフリーランスを自称することも多いのでなおさらである。この点については、さすがに指針まで出す段階になれば何らかの定義づけはしていただけるのではないかと思っているところだが・・・。

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