果たして「本番」はめぐって来るのだろうか?

淡々と無観客で続いている中央競馬は、3連休の3日連続開催の日程も無事消化することができた。

個人(の馬券)的には、今の開催に突入してから高い回収率をキープしていた阪神競馬場との相性が今週はさっぱりで、日曜日のメイン・阪神大賞典でも、狙っていたボスジラに全く良いところがなく、「金子丼」で美味しい思いをしようという企み*1も水泡に帰すことになってしまった*2し、一方、東に目を移しても、クラシックトライアルのレースでも、フラワーカップはクリスティが来ない、スプリングステークスは必勝を期したはずのヴェルトライゼンデが伏兵に足元をすくわれる・・・と、今一つの出来。

とはいえ、負傷療養していた藤田菜七子騎手は無事予定どおり復帰してくれたし、一足先にドバイに飛んでしまったルメール騎手を横目にここぞとばかりに勝ち鞍を量産*3した川田騎手の活躍など、明るいニュースもあった。

これでクラシックの主要なトライアルレースはすべて終了し(一応、毎日杯が来週まだ残ってはいるが)、来週のスプリンターズSから本格的なGⅠシーズン幕開け、ということで、いつもの年なら「さぁ春競馬!」と高揚した気分になるところなのだが・・・

*1:キセキがそろそろ限界かな、と思って外したところまでは冴えた予想だったのだが・・・。

*2:それでも2頭出しのもう一頭、ユーキャンスマイルでちゃんとタイトルを持っていくところはさすが金子オーナー、といったところではあったのだが。

*3:日曜日こそ勝ち星に恵まれなかったものの、金曜、土曜の両日で6勝。勝率33.5%で既に56勝、というのは驚異的なペースである。

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今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月19日版

海外の状況はもちろん、国内の感染拡大のニュースを見ていてもそう楽観できるような情報はないように思える状況なのに、連休前ということもあってか街中の個室の整った飲食店は予約で満席。世の中に危機感があるのかないのか分からない、そんな不思議な状況になりつつある。

今日発表されたショッキングなニュースの一つは、2月の訪日外客数の統計だろう。

「「日本政府観光局が19日発表した2月の訪日客数は前年同月比58.3%減の108万5100人だった。新型コロナウイルスの感染拡大で、人数は2014年9月以来5年5カ月ぶりの低水準となった。減少幅は東日本大震災直後に記録した11年4月(62.5%減)に並ぶ規模だ観光庁は「3月はより厳しい状況になっている」(田端浩長官)としており、一段と減少する可能性が高い。」(日本経済新聞電子版2020年3月19日16時15分、強調筆者、以下同じ)

個人的には、「それでも100万人超もいたのか!」という驚きもあったりするのだが、公表されている資料*1を見ると、これまで100万人規模の送客実績を誇っていた中韓が合わせて23万人、相対的に落ち込み幅が小さかった台湾や東南アジア諸国、豪州あたりが辛うじて「100万人」という数字を支えているものの、3月はこれに輪をかけてひどいことになるのはもう避けようがない。

「3・11」からここまでの間、放っておいても人は来ない極東の島国のブランド価値を高めるために、関係者がどれだけ汗を流してきたか、ということを多少なりとも知っているだけに、ここで一気に時計の針が逆に回ってしまったことは何とも無念というほかないが、ここ数年日本を支えてきた”インバウンド消費”の勢いがここ最近陰りを見せていたのも事実なわけで、これまでもこの国にありがちだった、「成功体験に縛られてじわじわとゆで蛙のように地盤沈下していく」という状況に陥るよりは、こんなイレギュラーな形でも、一度きれいさっぱりリセットして原点に還った方が、将来的にはプラスになる可能性もあると今は信じるほかないと思っている。

で、そんな状況だけに、ホテル業界はかなり悲惨な状況になっていて、今日は帝国ホテルが2020年3月期の業績予想を下方修正(売上高で45.1億円マイナス)*2、今週はロイヤルホテルが2度目の下方修正(営業赤字転落)*3ワシントンホテルも3月前半で68.2%減、という惨状を受けて業績予想を「未定」に変更した上で減配を発表*4と良いニュースはほとんどなかった。

そしてもう一つ深刻な影響を受けている興行の世界でも、ぴあ㈱が払い戻しに伴う3億円の特別損失と、売上高150億円の下方修正*5、さらには最大150億円の借入枠設定*6、と相当厳しい状況に直面していることが伝わってくる。

もちろん、業績開示全体を見れば、「コロナウイルスの影響は今のところなし」として強気の影響開示をする会社もチラホラ見受けられるし、業績好調につき淡々と上方修正、増配を決めている会社も結構あったりする。

また、このブログでもたびたび指摘してきたとおり、むしろ今の状況をポジティブに生かしている業界も現実には存在するわけで、今日開示されたイオンの営業概況*7もなかなかすごいものだった。

【2月度概況】
「当月は、各地で記録的な暖冬であったことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大による不安が広がったことで、衣料品、住居余暇商品の売上は前年を下回ったものの、グループ主要の総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストアにおいては、感染予防対策からマスク等の衛生用品や、備蓄や買い溜め行動から紙製品等の家事用品の売上が大きく伸長し、各社売上既存比100%以上を達成しました。」
【3月足元概況】
衣料品、住居余暇商品の売上は前年を下回っている一方で、休校や在宅勤務が拡大したことにより、グループ主要各社においては加工食品や冷凍食品の売上が好調に推移しています

イレギュラーな状況が続くと、どうしてもマイナスの部分だけが強調されることになりがちだが、長くビジネスに関わってきた者としては、世の中そんなに単純なものではないよ、ということだけは、改めて声を大にして言っておきたいかな、というのが一つ。そして、どういう対策を打つにしても、きちんとその裏付けとなるデータを押さえた上でやらないと、「救済策」がかえって世の中のバランスをおかしくすることになってしまうぞ、ということも忘れたくないところである*8

未知のフェーズに突入していく「株主総会2020」

そんな中、まさに佳境を迎えようとしているのが、12月期決算会社の定時株主総会である。

先日のエントリーで取り上げて以降も*9、会場変更を余儀なくされた、という事例はチラホラ出てきていて*10、特に会場として公共の施設を使うことのリスクは今回の一連の動きの中で、改めて認識されることになってしまったような気がする。

だが、そんな中、今日、「机上設例」が遂に現実のものになってしまう、という事例に接した。

福井市に拠点を置く日華化学㈱という化学品の会社が出したリリースはこちら。

www.nicca.co.jp

冒頭に書かれている

「本日、プレスリリースでお知らせしましたとおり、この度、弊社役員1名が新型コロナウイルスに感染した事が判明いたしました。当件に関し、ご心配、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません。」(強調筆者)

というコメントが、それだけでも「ただ事ではない」と感じさせてくれるのだが、より衝撃だったのは、この「役員」が社長である、という地元メディアの報道が出たことだろう*11

本来であれば、総会で議長の大役を担うはずの社長が当日欠ける、というのはそれだけで異常事態。そして原因がCOVID-19となれば本人だけの話では済まない。だが、予定されている総会は一週間後の26日に迫っている。

記事にもあるとおり、会社のリリースでは、

新型コロナウイルス感染防止の追加対応を講じることで開催及び成立が可能と判断し、予定通りの日時・場所にて開催させていただく所存です

と、あくまで予定どおり開催する方針であることが強調されているのだが、「新型コロナウイルス感染防止の追加対応」として記載された、

・保健所から濃厚接触者の認定を受けなかった取締役、監査役が出席いたします
・出席できない取締役が出る可能性がございますが、株主様からのご質問に対しましては、出席取締役で十分対応できる環境を整備いたします
運営スタッフにつきましても、濃厚接触者の認定を受けなかった社員で対応いたします
・ハピリン外部や駐車場等での会場案内者は置かないこととさせていただきます

という項目の裏にある関係の方々の苦悩にまで思いを巡らせると、もう、これは涙なしには読めない。

既に様々なところから出されている「コロナウイルス対応総会虎の巻」の中には、「議長その他の役員が感染するリスク」にまで言及したものもあったのは確かだが、それが本当に起きてしまった時にどう乗り切るのか・・・。参考になるような他社事例がその辺に転がっているような話ではないだけに、何をするにしても手探りということにならざるを得ないと思われるが*12、他人事ながら、ここは何とか乗り切った例になってほしいと思わずにはいられない。

そして、それが、今以上に深刻な状況が生じている可能性が高く、それゆえに、例年以上の不安を抱えている5月、6月総会の担当者にとっても希望の光となることを願ってやまないのである。

*1:https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/200319_monthly.pdf

*2:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480458.pdf

*3:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200311477716.pdf

*4:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480374.pdf

*5:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481554.pdf

*6:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481555.pdf

*7:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200319481923.pdf

*8:昨今、様々な業界が「救済」を求めて声を上げている状況があるのだが、目につきやすい”窮状”に引っ張られて情緒的な対策に流されるようなことになってはいかんだろうと思わずにはいられない。今の状況はまだまだしばらく続く話だし、配分できる財源には限りがある以上、分かりやすいところに飛びつくことが、結局真に救うべきものを救えない、ということだって、あり得る話だから。

*9:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月4日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*10:建長寺」での開催という個性的な総会を売りにしていた㈱カヤックは、通常の会議棟に開催場所を変更(https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS01527/a3dd9130/0509/4388/9b28/ffa48826b219/140120200312478766.pdf)、さらに、「中10日」での会場変更、開始時刻の変更まで余儀なくされた会社も出てきた(㈱メドレックス、http://pdf.irpocket.com/C4586/bbZB/EaMT/LYy8.pdf)。

*11:日華化学社長が新型コロナ感染 本社半数超が在宅勤務へ :日本経済新聞

*12:他の役員を議長にして乗り切るとしても、これからの一週間でその役員にまで感染が広がってしまったら?といったリスクもあるだけに、事務方としては様々なシナリオを準備しなければいけない、というつらさがあるような気がする。

今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月18日版

とうとう世界中で感染者が20万人を超えてしまった新型コロナウイルス問題。

最近では、これをチェックしないと朝昼晩落ち着かない、というくらいに用いる情報ソースになってしまったJohns Hopkins Universityのサイト*1でも、日々世界のあちこちで「赤い丸」が生まれ、大きくなり、今となっては中国周辺だけが赤かった時代が懐かしくなるような”西高東低モード”になってしまった。

中国の次は当然・・・と思われていた韓国が感染者数のペースを抑え込む健闘を見せ、8000人台で足踏みしている間に、イタリア、イラン、スペインといった西の方の国々が「感染者数10000人」の大台を次々と飛び越えていく(そして今日は遂にドイツもこの一線を超えてしまった)。

自分の予想では、まだ6,000人台に留まっている米国が、いずれあっさり10000人の壁を超え、最終的には感染者数国別1位の座に就くだろうと思っているのだが、いずれにしても、人類史上稀に見る一大事が起きていることは間違いない。

また、皆が楽しみにしていたスポーツイベントも、テニス、ゴルフ、F1といった定番ツアーものや、NBLMBAといったリーグものだけでなく、「一回キリ」のボクシングの世界戦や、何年かに一度のフットボール欧州選手権南米選手権、といった大イベントまで軒並み中止の憂き目にあうことになった。

それなのに・・・である。

なぜか、わざわざ臨時の理事会まで開いたのに、「予定どおり開催する」と宣言してしまったのがIOC

さすがに、今日になって、一部の国のNOC関係者から「いい加減にしろ!」というトーンの怒りの発言が出てくるのも報じられるようになったが、一方でIOCの立場への支持を表明する国もあったりする*2

おそらくこの辺は、それぞれの国の現時点での「感染」状況によっても温度差はあるだろうし、もしかしたらこの種の団体にありがちな大陸ごと、あるいは国単位での政治的な色彩もあるのかもしれない。

ただ、これだけ様々な種目で予選開催のメドが立たなくなり、ホスト国の選手ですら出場予定大会のキャンセルや合宿の中断等、様々な苦難を強いられている中で、「本大会」だけ予定どおり開催するなんてことは、本来ならあり得ないことだし、心から「完全な形」での開催を望むのであれば、「予定どおり開催」などと言われて喜ぶ前に、今被害を受けている地域出身のIOC委員や、競技団体、さらにはビッグスポンサーに至るまで、あらゆる手を使って「延期」を勝ち取りにいかなければならないはずである。

また、日本国内に目を移しても、北海道が緊急事態宣言を解除する方針で動いていたり、首都圏ではあちこちで”人混み”が戻り始めていたり、と、これまた世界の流れに逆行するような空気が漂い始めている。

一昨日のエントリーでも書いたとおり*3、今、何でもかんでも「自粛」する必要は全くなく、リスクの大きいところに絞って潰してこそ真の対策だと思っているから、方向性としてはそんなに離れていないのかもしれないが、「判明しているクラスタ以外への広がり」の有無を長らく確認できない状態が続いている以上、追いかけている集団の中での感染ペースが鈍ったからと言って、そこで対応を全体的に”緩める”かのようなメッセージを出してしまうのは、決して好ましいこととはいえない。

先月後半以降、マーケットも、足元の経済活動の動きに関しても、芳しくないニュースが日々飛び込んでくる中で、ちょっとでも早く「日常」に戻して、新たなお金の流れを生み出したい、という発想はよくわかるのだが、こういう時に焦って中途半端な状態で世の中を元の方向に戻そうとしても、たいていそんなにうまくはいかず、むしろ、かえって状況を悪化させる場合も多い、ということは肝に銘じておく必要があると自分は思っている。

二極化する世界の中で

ということで、世界各地で、さらには日本の中、その小さな家庭の中ですら、現状の受け止め方が「二極化」する状況になりつつあるのだが、それは様々な会社から出されるリリースを見ていても感じることである。

ホテル業界や百貨店・飲食等の業界、はたまた中国に製造拠点を置いている製造業者*4などが、極めて景気の悪いリリースをする横で、「足元影響なし」と断言する会社もチラホラ。。。、

もちろん、「悪い方向に全てが統一される」といった悲惨なことになるよりはよほどマシな状況であることは間違いないのだが、それまでの営業努力とは全く無関係のところで、コントロールできない事態の発生によって大きく明暗が分かれてしまうのだとしたら、やはりどこか割り切れないところが残ってしまう。

いざスイッチが入ると、いい意味でも悪い意味でも極端な方向に振れる欧米や中国とは異なり、緩やかにスイングしながらなるべく穏やかな、変化の少ないところで事を収めようとする気質の人々が多いのがこの日本という国の社会だと自分は思っているので、「二極化」といってもそんなにパックリと世の中が裂けるようなことにはならないだろうけど、それでもこれから徐々に顕在化していく「格差」にこの国がどこまで耐えられるのか、そして、この国特有の”振れ幅の小ささ”が、今まさに直面している難局を乗り切る上で良い方に働くのか、それともその逆なのか、といったことは、これからじっくりと見定めていく必要があるのかもしれない。

最初の頃、”震源地”として全力で叩かれていた中国が、今や全世界的な「ウイルス対人類」の戦いの中では「勝者」とされてしまいそうな状況だったり、日本が「学校の自主休校」等、一見極端に見える施策を打ち始めた時、それを批判する人々が引き合いに出していた”リベラル”なはずの欧米諸国が、今やより極端な手を打っている、という状況もあったりすることを考えると、今の時点で何が良くて、何が良くないのか、結論を出すことは不可能だと思うので、今は自分の身を自分で守りつつ、この”戦い”の行く末を見届けるまでは元気でいなくては、と思うのである。

*1:gisanddata.maps.arcgis.com

*2:ジャマイカ五輪委会長、IOCを支持 「開催へ準備」 :日本経済新聞

*3:今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月16日版 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*4:今日はどちらかといえば「中国」の状況より「フィリピン」の状況について開示した会社が多かったのだが・・・。

今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月17日版

最近、世の中のあれこれが動くスピードがとても速くなった気がする。

自分の身の回りで起きたことに関していえば、3月に入って最初の週、前週の金曜日の時点では「何があってもやりますよ」と言われていたイベントが数時間のうちに全部消えてしまった、というあのスピード感に勝る経験は未だしていない*1のだが、世間のニュース、特に相場の動向を伝えるニュースは、「新聞」レベルではもちろんのこと、インターネット上で配信されるニュースですら、でかでかと掲げられている”見出し”がその時点で起きている動きと真逆になってしまうような状況である。

「一時○○○円下げ」というニュースが携帯に配信されてきた時点で、既に目の前では上げに転じていて、やれやれ、という大衆の気持ちを乗せたような「○○○○○円台回復」という速報が流れてきたと思ったら、その時点ではまたしても急落していたりする。

海の向こうの話になると、もっと悲惨で、朝刊の紙面で「期待」されているような政策効果は、それが届いた時点では一瞬でかき消されてしまっていることが多いし、逆に今、日経電子版のトップを飾っている「3年1か月ぶり、NYダウ20,000ドル割れ」という見出しは、700ドル以上の上げに転じている今(だいたい日本時間18日の午前1時くらい)となっては、”古新聞”のそれでしかない。

大体、感染者数の数字一つとっても、寝て起きたら1000人単位で増えている国、地域は多いし、スポーツ等のイベントに関しても「何とかやる予定」だったイベントが、朝起きたら無残にも「中止」が確定していたりする。

幸いなことに、今はほどほどに慌ただしいこともあって、赤くなったり青くなったりする板の前に6時間張り付いて寿命を縮めるような経験はしなくて済んでいるし、様々なイベントに関しても、自分自身が今回の件で直撃を受けたものはない*2からまぁ良いのだけど、直撃を食らっている人々の悲痛な叫びを聞くたびに、どうしても変な汗をかいてしまう・・・。


先週くらいから、自分の足で少し見てきた限りでは、日経紙が紙面で煽るほど足元の経済状況は悪くないような気もしているし、今日の適時開示では、「会社四季報」のコメント欄に「新型肺炎の影響あり」と書かれた会社が、「当社には影響はありません」と毅然と抗議する一幕もあったりした(しかも2社、である*3)。

また、酒類小売の㈱カクヤスが出した「2020 年 3 月期 第4四半期における新型コロナウイルス感染症の影響について 」という資料*4からは、自分も体感している今の世の中の状況を見事なまでに反映している。

「我が国における新型コロナウイルス感染症の拡大、ならびに自粛等の感染拡大防止策の実施に伴い、当社の業務用取引先(料飲店、ホテル等)への売上は2月下旬以降減少しております。」
「 一方、在宅勤務や外出自粛により家庭内消費が増加していると考えられ、当社の家庭向け販売は増加の傾向にあります。」(以上強調筆者)

そう、住宅街に近いところにあるスーパーやディスカウントストアは、どこに行っても、どの時間帯に行っても、大概それなりにお客さんはいるのだ。
平日の生活基盤がオフィス街から自宅周りに移った人々が、「殺到」というほどではないがコンスタントに足を運ぶ場所が段々増えてきているのも間違いない。

多くの大手メディアは、「コロナ」の影響で急減速したところにだけスポットライトを当て、この種の「危機」にありがちなストーリーに整合する情報を次々とかき集めて記事にしていくし*5、ネットメディアやSNSも目立つ叫び声をあげる人の方にばかり目を向けがちだから、どうしても世の中全体、”暗黒”ムードに近づいていってしまうのだけれど、報じられる事実の断片を自分の頭でかき集めて、さらに自分の目と耳で得た情報をかけ合わせれば、”古新聞”のメディア情報よりもはるかに潤沢で、しかも半年後、一年後につながる果実を手に入れられる・・・。

そう思えば、今のこの変化の激しさも、すごくポジティブに受け止めることができるような気がするのである。

転んでもただでは起きない、という精神

そうはいっても、コロナウイルスへの感染者が日々増加しているのは事実で、”感染者ゼロ”記録を伸ばし続けたことで、救世主は「納豆」か? それとも「うどん」か?ということで注目されていた、茨城県香川県という東西の両雄も、本日とうとう陥落の憂き目にあった。

しかも、茨城県は、誰もが知っている日本有数のメーカーの事業所の社員が第1号感染者になってしまう、という事態になってしまったのだが、個人的に「おっ!」と思ったのは、その会社が出したプレスリリース(https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2020/03/0317b.pdf)である。

・感染者のプライベートを憶測させるような無駄な情報を挟まず、伝えるべき情報を的確に記載する姿勢*6
・感染判明を受けて行った対策の開示と、その内容の具体性、及び徹底ぶり

といった点で、さすがだなと思わせてくれるに十分な内容であった。

そして、何よりもこれだ、と思ったのは、このリリースの最後に添えられた5行。

あえてここでは引用しないが、自社の在宅勤務制度21年の歴史と、その制度設計の合理性をここぞとばかりに書き込む。そういう魂こそが、息苦しくなっている今の世の中の状況を打破するための、最大の突破口になるような気がしてならない。

今の状況なら誰もが一度や二度は転ぶ。

だけど、そこで起き上がってくるときに、次の次の一手を打ち込んでおけばいいじゃないか・・・ そんな精神で自分も乗り切ろうと思った次第である。

*1:というが、人生の中でそう何度と味わうものではないだろうし、味わいたくもない・・・。

*2:しいて言えば、観戦予定だったトップリーグの試合が一つ中止になってしまったのだが、あれは「コンプライアンス教育の徹底」を理由としたものだから、コロナとは関係ない(苦笑)ということにしておこう。https://www.top-league.jp/ticket/参照。ちなみに「震源地」の日野自動車はCOVID-19に関しても再び当事者になってしまったようで(【お知らせ】 当社拠点における新型コロナウイルス感染者の発生について | ニュース | 日野自動車株式会社)、まさに踏んだり蹴ったりというほかない。

*3:株式会社テリロジーhttps://www.release.tdnet.info/inbs/140120200316480245.pdf)、㈱MARUWA(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480502.pdf

*4:https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200317480724.pdf

*5:だから、昨日は百貨店の大幅売り上げ減のニュースの見出しが大きかったし、今日もロイヤルホテルやリゾートトラストの下方修正だけが記事になった。ITビジネス系の会社で上方修正を出している会社もそれなりにいたというのに。

*6:どこの従業員か、いつ判明したのか、いつまで職場に来ていたのか、どういう仕事をしていたのか(不特定多数の一般人と接触する機会があったのか)、職場に濃厚接触者はいるのか、といった情報までが必要かつ十分な情報だと自分は思っている。これに対し、同じ状況に立たされた会社が、年齢、性別、感染経路などを事細かに書いてプレスするシーンも時々見かけるのだが、それを出してどうする?というのが、率直な感想だし、そうやって特定可能性を高めた情報を出した結果、「プライバシー侵害だからそもそも出すな」みたいな方向に向かってしまうと余計にマズイ話になってしまうわけで、確実に、でも必要以上の情報は出さない、というバランスの取れた開示姿勢が浸透していくことが、この先の長い戦いの中では大事になってくると思う。

今日のCOVID-19あれこれ~2020年3月16日版

先週のイギリスに続き、今朝には米国、続いて韓国も豪快な利下げに踏み切り、我らが日銀も前倒しの金融政策決定会合ETF購入目標倍増等々、窮余の一策を講じた。

だが、市場はとても正直だ。

期待感で一時上昇に転じていた東証の株価は再び大きな下落基調に転じ、アジアから欧州まで一通り下げまくった末に、NY市場では再びサーキットブレーカー発動、という既視感ありありの展開に・・・。

世界中の医療関係者が未知のウイルスに手を焼いているのと同様に、そのウイルスが社会にもたらす”副次的作用”も、この先一体どれだけの広がりを持つのか全く予測がつかないわけで、デジタル化されたなけなしの資産が連日溶けていくのを眺めながら、途方に暮れているのは筆者だけではあるまい。


そんな状況だけに、既にいろんな意見が吹きこぼれているのだが、

失った財産はいつか取り返すこともできるが、命を失ってしまったら二度と取り返すことはできない


だから、今は、景気とか経済とか、”卒業式なくてかわいそう”みたいな情緒的なことに気を取られてないで、とにもかくにも爆発的な感染拡大を食い止めるためにできることをやらないと

というのが自分の基本的なスタンスなので、金融資産がいくら溶けようが、当て込んでいた仕事が吹っ飛ぼうが、「感染拡大防止」というただ一点に明るい光明が見えればまだ救われる。

にもかかわらず、先週の総理の会見以降も、どうにもこうにも「対策」の中途半端感が拭えないような気がして・・・。

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そして穏やかに時は過ぎ、馬は走る。

この週末も、朝起きて、Alexaにラジオを付けてもらい、いつもと変わらない実況の音声が流れてきたのを聞いてほっとする。そんな2日間だった。

世界中が”戦闘モード”に突入してしまったような雰囲気になっても、中山、阪神、中京では、何も変わらずに12レースが行われ、土日で5つの重賞レース*1、そして、トライアルを経てクラシックに挑む馬たちが次々と名乗りを挙げる、というカレンダー通りの進行。

土曜日には季節外れの雪が降り、日曜日も湿っぽさが残る馬場。それを生かして、泥んこ大好きなルーラーシップハービンジャーエピファネイアあたりの子供たちが躍動したり、デビュー戦を勝利で飾った泉谷騎手が2日で3勝、特別戦まで勝ってしまったり。

同じことは二度と起きないが、全ての出来事は予定調和的にそれまでの記憶の延長線上に位置づけられ、やがて歴史の中に綴じ込まれていくのだろうな、と思える。それが実に穏やかで心地よい。


当然、この世界でも”異変”は起こっていて、相変わらず各開催競馬場のスタンドの人影は皆無だし*2、月末のドバイ国際レースに騎乗予定のルメール騎手が、来週の3日連続開催を前にいち早く現地渡航を決める*3、というまぁまぁインパクトのあるニュースもあった*4

それでも、自分に限った話としては、もう数十年変わらないルーティンを繰り返せている、ということに変わりはなく、それに勝るものもないわけで、「どこにも行けない」等々のフラストレーションがあふれている(らしい)世の中*5では数少ない幸福感を味わえるこのライフワークには、ただただ感謝するほかない。

もちろん、「絶対にこれだけは」と思われていた五輪の年内開催が、もはや風前の灯になっていることからも明らかなように、今は一寸先で何が起きるか分からない状況でもある。

騎手、調教師、厩舎関係者等々に感染者が出たら・・・という話はもちろんあるし、何かのはずみで人→馬感染でも起きようものなら、それこそかつて中央競馬を2か月にわたって開催中止に追い込んだ「馬インフルエンザ*6の悲劇の再来にもなりかねない。

そして、楽しみにしているドバイのレースだって、これから2週間のうちにどうなるか分からない、というのが今の世界のスピード感だったりするから、最後は祈るほかないのだけれど・・・。

できることなら来週末も同じようにめぐってきてほしい、そして穏やかな気持ちで迎えたい。

今はただ、それだけである。

*1:一番インパクトがあったのが、久々に障害戦に戻ってきたオジュウチョウサンの呆れるくらいの圧勝劇(後続に9馬身差、しかも阪神障害芝3900mのレコードを19年ぶりに更新)だった、というのは置いとくとして。

*2:それでも、WINSをすべて閉めても、前年比8割強の売上を記録し続けているのだから大したものだ、というほかないが。

*3:C.ルメール騎手が海外渡航 JRA なお同じ行程で今日500勝を挙げた古川吉洋騎手も渡航する予定となっている。

*4:それに備えて、というべきか、今週は日曜日の4騎乗機会連続勝利など2日で6勝の固め打ち。川田騎手との差をしっかり縮めておく、というところがこれまたさすがではある。

*5:自分に言わせれば、別に外出自体が禁止されているわけでもないし、ありふれた観光地、遊園地をはじめ、全体的に出かける人々が少なくなったところで狙えるところはいくらでもあるから、単なる工夫の問題だろうという気はしている(人工的な娯楽に慣らされた人々が多くなりすぎたせいなのかもしれないが)。ということで、「緊急事態宣言」で足止めを食らわない限りは、次の三連休も、そんなコンセプトで家族でちょっと遠出するつもりである。

*6:馬インフルエンザ(競馬用語辞典) JRA参照

こんな時だからこそ目を向けたい今年の知財法の動き&マリカー知財高裁終局判決への雑感を少々。

年明け以降、なかなか知財関係の話題をフォローする余裕もなかったのだが、ここに来てようやく、『年報知的財産法』の最新号に目を通すことができた。

年報知的財産法2019-2020

年報知的財産法2019-2020

  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: 単行本

知財年報」時代から通算して15冊目となるこの年報、今年の巻頭トピックは「令和最初の2大知財法改正」である。

この特集タイトルを見て思わず二ヤリとしてしまったのは、これが前年の「平成最後の2大知財法改正」とそのままパラレルになっていて、そこに編者の”遊び心”を感じたからなのだが*1、内容的には前年が著作権法不正競争防止法といったリーガル系の領域だったのに対し、今年は意匠法、特許法という「工業所有権王道」路線だから、関心を持つ読者層もちょっと違ってくるのかな、と思うところではある。

中身に目を移せば、改正意匠法の解説を担当されているのは、今年のジュリスト2月号にも解説*2を書かれていた大阪大学の青木大也准教授*3

立法過程の議論に関与されていたこともあってか、ジュリストの論稿と同様に比較的スタンダードな解説、という印象を受けるのだが、ジュリストと比べるとより踏み込んでいるな、という印象を受けたのは以下のようなくだりだろうか。

「本改正は、画像の意匠法による保護にあたって、物品表示要件や物品記録要件が意匠の物品性から導かれる不可避的なものと考えたうえで、物品性をなくす形で、当該要件を満たさない画像を保護対象に加えることにしたものと考えられる。もっとも、上記各要件を除くために、意匠の物品性を排除するという大掛かりな処置まで必要だったのか、すなわち上記各要件を除くことと意匠の物品性がどこまで両立しないものであったのかは、意匠法における物品性をどこまで具体的なものとして理解するかにも関わっているように思われる。」(4頁、強調筆者)

また、内装の意匠に係る新設条文(8条の2)に関して、「内装全体として統一的な美感を起こさせるとき」という要件に関する見解の対立や(7~8頁)、「著作権法の守備範囲と考えられていたもの」とのかかわりについて言及されている点(13頁)なども、脚注引用されている文献等と合わせて読むと、より理解が深まるのではないかと思われる。

査証制度の話に絞った三村量一元知財高裁判事とドイツ弁護士のランゲハイネ氏の連名論稿*4が掲載された特許法改正と合わせ、いずれも、まもなく(2020年4月1日)施行されるものだけに、今月中には是非読んでおくことをお薦めしたい*5

<訂正注>
令和元年改正特許法の規定のほとんどは2020年4月1日施行ですが(既に施行された規定もあり)、「査証制度」関係は公布日から1年6月を超えない日に施行予定、ということで、まだ施行日は決まっていないようです・・・*6
特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和元年11月7日政令第145号) | 経済産業省 特許庁参照。


なお、いずれの法改正トピックに関しても、これまでに当ブログでコメントしてきたところではあるのだが*7、中でも意匠法改正に至るまでの一連の動きに関しては、未だに腑落ちしていないところがあり、それだけに今年の特集「空間デザインの法的保護」の座談会*8の中での実務家の発言には、非常に共感できるものが多かった。

例えば峯弁理士が「『デザイン経営』宣言」に対する疑問として挙げている、

「意匠法というのは、「創作」を保護する法律です。そして、不正競争防止法や商標は、ある意味マーク、識別できるもの、これを保護していく法律であって、「創作」とは無縁の法律です。そのようななかで、ブランド構築の取組を早い段階から保護する観点から、空間デザインを意匠法で保護しよう。ブランド保護に意匠法を利用していこうという立ち位置が、ここに表れてしまっている空間デザインを意匠法で保護したいならば、保護してもよいかもしれませんが、あくまでも「創作」の観点から保護するものだということは譲れないというのが私の考えです。」(47~48頁、強調筆者、以下同じ)

というポイントなどは、あの「宣言」のモヤモヤした部分にしっかり切り込んでくださっている。

また、この座談会には、オフィス空間デザイン(株式会社内田洋行グループ法務部知財課課長の松野氏)、店舗内外装デザイン(株式会社ケノスの小林氏)に関して、それぞれ実務者が登場しているのだが、背景にある事情は異なるもの、

(オフィスレイアウトの意匠登録の意味合いについて)
「正直に申し上げて、私個人としては理解し切れていないところがあります。あくまで個人的な感想となりますが、特許庁がオフィス家具の業界団体に意見交換にいらっしゃった際に、懸念点も含めていろいろ申し上げはしたものの、どうも、オフィスデザインも含めて、内装に含めることありきで意見を聞きにいらっしゃったのではないかという印象は受けました現時点では有効活用の手段がイメージし切れないのが正直なところではあります。」(松野氏発言、57頁)

(店舗の内外装を意匠法で保護しようという法改正の方向性について)
コンビニエンスストアのレイアウトの話ですが、データに基づいて各社ほぼ同じレイアウトになっています。」
「ですから、そういったレイアウトに対する保護や、その規制といったことは、私にはちょっと理解しがたいです。」
レイアウトを法律で保護するというのは不思議な感覚がします。」(57~58頁、小林氏発言)

と、いずれも”違和感”を表明されている、というのが非常に印象的である。

意匠法、特許法のいずれの改正も、極めてトップダウン的な”政治”的な色が濃いものだっただけに、施行後にハレーションを起こさずに使いこなそうとするとなかなか大変な代物になってしまってはいるのだが、法と実務を正しく理解している人々が、きちんと声を上げていくことが必要だな、ということを改めて感じさせられる良特集だったと思う。

知財高判令和2年1月29日(H30(ネ)第10081号、第10091号)*9

ところで、特集記事に続いて、恒例の「2019年判例の動向」に目を通し、このブログで取り上げたもの、目に触れてはいたけど取り上げるのを失念していたものを思い出して振り返ってみたり、全く初見のものを見つけて知識をリニューアルしてみたりしていたのだが、そんな中、例のマリカー」事件知財高裁中間判決の解説が書かれているのに接して(83~85頁)、そういえば、と思い出したのが、Twitterで@kopuchin2さんからsuggestいただいたこの事件の終局判決である*10

実質的な決着は、昨年の「中間判決」の時点で既についていた(以下リンク参照)。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

とはいえ、判決後のニュースで一審原告(任天堂㈱)の請求が全額認容された、と聞いて、どういう算定方法を用いたのか、という点だけは気になっていた。

結論としては、以下のとおりで、独自の顧客吸引力の存在や、打消し表示の存在、コスチュームの使用割合の低さ、という点に加え、「過去の裁判例における料率」も援用して2.5~3%程度の料率とすべき、と主張していた一審被告の主張はことごとく退けられている。

「不競法5条3項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該商品等表示についての許諾契約における料率に基づかなければならない必然性はない。不正競争行為をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきである。」
「不競法5条3項に基づく損害の算定に用いる,実施に対し受けるべき料率は,①当該商品等表示の実際の許諾契約における料率や,それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ,②当該商品等表示の持つ顧客吸引力の高さ,③不正競争行為の態様並びに当該商品等表示又はそれに類似する表示の不正競争行為を行った者の売上げ及び利益への貢献の度合い,④当該商品等表示の主体と不正競争行為を行った者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。」
「これを本件についてみるに,①一審原告が,一審原告の著作物や商標等に関してこれまで締結したライセンス契約における料率(略),②原告商品等表示は,著名なもので(中間判決書の「第3 当裁判所の判断」4(2)及び6(1)),高い顧客吸引力を有していると認められること,③一審被告会社の不正競争行為の態様は,本判決の「第2 事案の概要」の2(4)~(6)並びに中間判決書の「第3 当裁判所の判断」1~7で判示したとおりであって,一審被告会社は,原告商品等表示の持つ高い顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって不正競争行為を行ってきたのであり,原告商品等表示と類似する被告標章第1及び被告標章第2並びに本件各ドメイン*11が一審被告会社の売上げに貢献した度合いは相当に大きいと認められることといった事情からすると,本件各ドメイン名を使用しているMariCAR店舗及び富士河口湖店の売上げに係る料率は15%とし,本件各ドメイン名を使用していないその他の店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である。」
「したがって,本件における使用許諾料相当損害額は,別表3「売上高・料率・損害額」の「合計損害額」の欄に記載のとおり,9239万9253円となる。」
(68~69頁)

これに加えて認められた弁護士費用もざっくり1000万円、ということで、合計認容額は実に1億0239万9253円

一審被告の主張を受け、営業開始後60~120日間は売上がなかったものとみなす等、基礎となる売上高が少し抑えられたことにより、一審原告が主張した約4億2000万円という金額には届かなかったものの、料率は一審原告の主張をほぼ受け入れる高いパーセンテージを認定し、その結果、一部請求の「5000万円」はフルに満たされる、という形で決着することになった。

(判決文の黒塗りが多いため具体的な算定式は不明だが)一審判決の認容額が一部請求額(1000万円)をわずかに上回るだけの1026万4609円に留まっていたことを考慮すると破格の金額であり(認定された金額で比較すると「10倍」近い数字となる)、これまでの不競法事件の中でも群を抜く高額賠償判決だといえるだろう。

その背景にあるのは、本件を不正競争防止法2条1項1号違反ではなく、2号違反と認めた知財高裁の判断にある*12のはいうまでもないことだが、このほかにも、一審被告が「過剰差止」と主張していた差止請求についても広範に認めるなど、「悪いものは悪い」という裁判所のスタンスがかなり色濃く出た判決になったことは間違いない。

5000万円の損害賠償額に、平成30年10月31日から支払済みまで年5分の遅延損害金、さらに、一審判決では責めを免れた一審被告代表者も控訴審では会社法429条1項に基づく不真正連帯債務を負う、ということで、当事者だったらなかなか厳しいことになりそうだな、という感想しか出てこないところではあるのだが、これも最近の法改正の潮流を踏まえた新しい流れなのかな*13、ということで、しっかり押さえておきたいところである。

*1:前年の特集に関しては、以下のエントリーを参照されたい。k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*2:青木大也「意匠法改正――保護対象の拡大と関連意匠制度の拡充を中心に」ジュリスト1541号39頁。

*3:青木大也「意匠法改正-画像デザイン・空間デザインの保護拡充ほか」1頁。

*4:三村量一=ディルク・シュスラー=ランゲハイネ「特許法改正-査証制度の導入とドイツの査察制度の実情」15頁。

*5:意匠法改正に関しては、既にパブコメを終え(「意匠審査基準」改訂案に対する意見募集の結果について | 経済産業省 特許庁)、ほぼ固まっているはずの新・審査基準がまだ公表されていないような気がするのがちょっと気になるところではあるのだが・・・(1月に開催されたWGの議事録では「2月中」となっていたのであるが・・・https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_wg/document/index/new19_gjiroku.pdf)。コロナウイルスの関係で説明会が中止になっていたりもする(https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/chizai_setumeikai.html)。

*6:@tanakakohsukeご指摘ありがとうございました。

*7:意匠法改正に関しては、2019年意匠法改正をポジティブに受け止めてみる。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~とその関連リンクを参照のこと。特許法改正に関しては「知財立国」時代の残り香、のようなもの~令和元年特許法改正への雑感 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*8:松野由香=小林清泰=茶園成樹=峯唯夫=松尾和子=[司会]高林龍「空間デザインの法的保護」34頁。

*9:第2部・森義之裁判長、https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/285/089285_hanrei.pdf

*10:損害額をめぐる争い、ということもあり、「黒塗り」に時間を要したためか、しばらくアップされていなかったのだが、ようやく世に公表されたようである。

*11:筆者注:maricarを含むドメイン名。

*12:その結果、「打ち消し表示をしても、一審被告会社が、著名な原告商品等表示が持つ高い顧客吸引力を自己の事業に利用していることに変わりはないのであるから、打ち消し表示の存在は、本件において料率を低下させる事情として考慮することはできない。」(70頁)として、高額の認定額がそのまま維持されることにもなった。

*13:先日、特許権侵害でMTGに4.4億円の賠償を認めた大合議判決などもなんとなくラップする。

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