何だかんだといつものように年末を慌ただしく過ごしてしまったこともあり、目を通すのが延び延びになってしまったBusiness Law Journal年末恒例の「ブックガイド」特集。
この企画の意義については、改めて自分が力説するまでもないだろうが、とにかく創刊以来10年以上にわたって同じ企画を続けてきた、というだけでも(法務関係書籍の移り変わりを経時的に追っかける、という点で)価値はあると思っているし、毎年1つ、2つは、紹介された書籍以上に、それを紹介した書き手の方のファンになってしまう、というような胸を突くコメントが載っているのも、掛値なしに凄いと思うゆえんだったりする*1。
ちなみに、今年の「弁護士・法務担当者・研究者が薦める理由」の各論稿の中での自分の一押しは、照井勝弁護士の「著作権実務を深く、広く、遠く学ぶために」*2で、法律書からそれ以外の分野まで、紹介されている書籍のバランスが絶妙だし、それぞれの理由付けも含めて実に味わい深いなぁ、と思う*3。
また、化学メーカーの法務部マネージャーの方が匿名で書かれた「法務担当者に求められる能力開発と視野の拡大」*4の最後で『総会屋とバブル』(尾島正洋)を紹介するにあたって添えられていたコメントにも、個人的には感じ入るところが多かった。
「なぜ薄給のサラリーマンが株主総会というイベントに文字通り命を懸けなければならないのか。今の時代からみると、理解に苦しむところがありますが、遠い昔とはいえない1990年代までの実話ということに恐怖を感じます。」
「株主総会シナリオをはじめとする運営マニュアルは、このような時代を経て蓄積されたノウハウの塊であり、その重みを改めて感じざるを得ません。ただ、あまりにも重過ぎて、時代に合わせて柔軟に変えることも容易に許されなくなってしまったというのは、後継の世代にとって大きな足かせです。」(54頁、強調筆者)
ということで、今年もそれぞれの方が書かれている論稿に目を通すだけで得られるものは多いと思うのだが、その一方で、「紹介されている書籍」それ自体に目を向けると、「これだけは何としても・・・」というパンチの利いた書籍は少ないのかな?と思わせられるのも事実だろう。
もちろん、法改正に対応した解説書等、その時々のニーズに合わせた書籍に関しては、様々な分野で紹介する声が寄せられているし、そういった評判を合わせ読めば、大体これを入手しておけばよいのかな・・・というものもチラホラ取り上げられているのだが、そういうものを超えてより長いレンジで役立てることができそうな書籍、これまでにない着眼点やコンセプトを打ち出した書籍、というのは、今年に関してはあまり出てきていなかったように思われる。
あえて”小出し”で記すなら、かつての「法務担当者のための・・・」シリーズだったり、「セオリー」、「技法」、「教科書」のシリーズだったり、最近では「考え方」だったり、年に一冊、二冊は「これだ!」と膝を打ちたくなるような名著が世に送り出されていたものだったのだが・・・。
*1:さしづめ、「法務業界版『私の本棚』」とでも呼ぶべきだろうか。そもそも「書評」は、誰でも共通してアクセスできる素材を元にその人なりの受け止め方・解釈を示すものだけに、オープンなテーマで書かれた論稿以上に、その人の個性とか、それぞれの読み手との距離の遠近がくっきりと浮き彫りになるものであるようなような気がする。
*2:Business Law Journal2020年2月号64頁以下。
*3:自分はまだ読んでいない書籍ではあるのだが、『剽窃論』などは紹介の文章を読むだけで手に取りたくなる。
*4:Business Law Journal2020年2月号52頁以下。