それでも自分は「出版」に期待する~「ブックガイド2020」に接しての雑感

何だかんだといつものように年末を慌ただしく過ごしてしまったこともあり、目を通すのが延び延びになってしまったBusiness Law Journal年末恒例の「ブックガイド」特集。

Business Law Journal 2020年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2020年 02 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: 雑誌

この企画の意義については、改めて自分が力説するまでもないだろうが、とにかく創刊以来10年以上にわたって同じ企画を続けてきた、というだけでも(法務関係書籍の移り変わりを経時的に追っかける、という点で)価値はあると思っているし、毎年1つ、2つは、紹介された書籍以上に、それを紹介した書き手の方のファンになってしまう、というような胸を突くコメントが載っているのも、掛値なしに凄いと思うゆえんだったりする*1

ちなみに、今年の「弁護士・法務担当者・研究者が薦める理由」の各論稿の中での自分の一押しは、照井勝弁護士の「著作権実務を深く、広く、遠く学ぶために」*2で、法律書からそれ以外の分野まで、紹介されている書籍のバランスが絶妙だし、それぞれの理由付けも含めて実に味わい深いなぁ、と思う*3

また、化学メーカーの法務部マネージャーの方が匿名で書かれた「法務担当者に求められる能力開発と視野の拡大」*4の最後で『総会屋とバブル』(尾島正洋)を紹介するにあたって添えられていたコメントにも、個人的には感じ入るところが多かった。

「なぜ薄給のサラリーマンが株主総会というイベントに文字通り命を懸けなければならないのか。今の時代からみると、理解に苦しむところがありますが、遠い昔とはいえない1990年代までの実話ということに恐怖を感じます。」
株主総会シナリオをはじめとする運営マニュアルは、このような時代を経て蓄積されたノウハウの塊であり、その重みを改めて感じざるを得ません。ただ、あまりにも重過ぎて、時代に合わせて柔軟に変えることも容易に許されなくなってしまったというのは、後継の世代にとって大きな足かせです。」(54頁、強調筆者)

ということで、今年もそれぞれの方が書かれている論稿に目を通すだけで得られるものは多いと思うのだが、その一方で、「紹介されている書籍」それ自体に目を向けると、「これだけは何としても・・・」というパンチの利いた書籍は少ないのかな?と思わせられるのも事実だろう。

もちろん、法改正に対応した解説書等、その時々のニーズに合わせた書籍に関しては、様々な分野で紹介する声が寄せられているし、そういった評判を合わせ読めば、大体これを入手しておけばよいのかな・・・というものもチラホラ取り上げられているのだが、そういうものを超えてより長いレンジで役立てることができそうな書籍、これまでにない着眼点やコンセプトを打ち出した書籍、というのは、今年に関してはあまり出てきていなかったように思われる。

あえて”小出し”で記すなら、かつての「法務担当者のための・・・」シリーズだったり、「セオリー」、「技法」、「教科書」のシリーズだったり、最近では「考え方」だったり、年に一冊、二冊は「これだ!」と膝を打ちたくなるような名著が世に送り出されていたものだったのだが・・・。

*1:さしづめ、「法務業界版『私の本棚』」とでも呼ぶべきだろうか。そもそも「書評」は、誰でも共通してアクセスできる素材を元にその人なりの受け止め方・解釈を示すものだけに、オープンなテーマで書かれた論稿以上に、その人の個性とか、それぞれの読み手との距離の遠近がくっきりと浮き彫りになるものであるようなような気がする。

*2:Business Law Journal2020年2月号64頁以下。

*3:自分はまだ読んでいない書籍ではあるのだが、『剽窃論』などは紹介の文章を読むだけで手に取りたくなる。

剽窃論

剽窃論

*4:Business Law Journal2020年2月号52頁以下。

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変則開催を乗り越えて最後に見せた元No.1の意地。

競馬の世界では、ここ数年、「年末の変則開催」が定番になっている。

ずっと長い間「一年の締め」のレースとなっていた有馬記念の後に、2歳GⅠ(芝2000)のホープフルステークスをもう一日入れる、というパターンで、このパターンになった最初の年の違和感は当時のエントリーにも書き残したとおりだが*1、3回目になっても慣れない*2

そして、今年は暦の都合もあって、「土曜日」という通常の競馬開催日にこのGⅠレースが設定されてしまったことで、違和感はさらに増幅・・・*3

まぁ、ここは自分に暗示をかけて、「2019年の競馬は有馬記念で終わり。このレースは2020年のスタート。」とでも割り切ることができればよいのだが、朝からラジオを聞いていれば、当然ながら「今年何勝目」という話とか、一年の振り返りだとか、という話も出てくるわけで、どうしてもモヤモヤしてくる。

幸いにも、レースの方は、福永騎手騎乗(そして先週に引き続き矢作芳人調教師管理の)コントレイルが来年に楽しみをつなぐ快勝劇を飾り、2着・ヴェルトライゼンデ、3着・ワーケアと、これまで無敗だった馬たちも波乱なく上位を占める、という実に美しい決着となったのだが、やはり来年以降は、レースの日程だけは何とかしてくれい、というのが率直な願いである*4

で、「土曜日に中央GⅠ」という変則日程に合わせて、懐かしのPUFFYとともに「プレミアムウィーク」と銘打ったキャンペーンを仕掛けてきたのが地方競馬界。

www.keiba.go.jp

確かに、彼らの世界では、平日だろうが休日だろうが、どこかで馬が走っている、というのが当たり前なのだが、そんな中、金曜日にヤングジョッキーズシリーズの第1戦を行い、土曜日を挟んで日曜日に東京大賞典、という年末のビッグイベントを持ってくる、という戦略は実に見事だった。

土曜日に入金し、そのお金がIPATの口座に残ったまま、「わずか12×2=24レースでは物足りない」とお腹をすかせていたファンたちが、同じシステム上で購入できる大井競馬の馬券を買いまくったものだから、売り上げは前年比116.5%で地方競馬の売り上げレコードを更新、実にあっぱれな結果となったのである*5

そして肝心のレースの方も、今年、あちこちで「不振」と叩かれ、バッシングに近い扱いを受け続けていたミルコ・デムーロ騎手が大井巧者のオメガパフュームを操り、ハイペースに沈んだルメール騎手騎乗のゴールドドリームらを蹴散らして堂々の優勝。

「不振」といっても中央で91勝(ランキング8位)、G1も2勝しているのだから、並のジョッキーに比べれば一枚も二枚も役者が上なのだが、それなりに年齢も重ねたことで、若手騎手や次々と来日してくる海外の新進気鋭の騎手たちに活躍の場を奪われつつあったことも事実。このオメガパフュームに関しても、昨年の東京大賞典以来、デムーロ騎手の手綱による優勝はなく、唯一この馬が勝った今夏の帝王賞で騎乗していたのはレーン騎手、と、今年のデムーロ騎手を象徴するような戦績になっていただけに、ここでようやくGⅠ勝利を飾れたというのは実に大きな話だったのではなかろうか。

腕一本、残した結果だけが全ての世界。

年が変われば、今年の成績もすべてリセットされ、全ての騎手が横一線(もちろん、いい馬に乗れるかどうか、というところで多少の差はあるのだが、それも未来永劫固定化されているわけではない)でスタートすることになる厳しい世界だけに、来年のデムーロ騎手がどうなるかなんて、誰にも保証はできないのだけれど、早いペースの中、後方でしっかり折り合って、最後きっちり脚を伸ばしてきたこの日の騎乗は「まだまだ巧いな」と思わせるに十分なものだっただけに、来週からの新たなスタートで彼が一転してダッシュを決めてくれることを自分は期待してやまないのである。

*1:Stay hungry... - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。このレースがGⅠに昇格して初めての年であった。

*2:JRAは1年目に続き、今年もCMのネタにしてきたが、それだけまだ違和感を抱く人が多い、ということの現れではないかと自分は勝手に思っている。そして、この3年の長きにわたって続いた決して好きではない今のCMシリーズが来年も続く、ということに自分は心底がっかりしている。民の声は【悲報】JRAのCM、2020年も「HOT HOLIDAYS!」 | 競馬まとめざんまい参照。

*3:過去2年は、平日(いわゆる仕事納めの日)の開催だったから、金杯と同様に、イレギュラーでも何となく(出勤途上にWINSに寄る等の非日常を味わえる等)得した気分になったものだが、今年はそんな得した感もなく、違和感だけが残った。

*4:別にそんな思いが通じたというわけではないのだろうが、2020年は最終週の土曜日にホープフルS、日曜日に有馬記念という極めて順当な日程になりそうである。

*5:地方競馬1日の売り上げレコード更新/東京大賞典|極ウマ・プレミアム

「法務系 Advent Calendar 2019」の表裏を見ながら思ったこと。

ここ数年、すっかり年末(正確にはクリスマスへのカウントダウン)の企画として定着した感のある「法務系Advent Calender」企画。

adventar.org

adventar.org


正直、そうでなくてもフリーな時間を確保するのが難しい12月*1、あらかじめ決められた日に向けたコンテンツを用意する、というのは自分には無理な話だと思っているし、そもそも”紅白歌合戦”みたいな異種格闘技戦の舞台に乗っかるのは自分の好むところでもないので*2、なかなか25日間埋まらなかった数年前まではどんなに声をかけていただいても頑なに固辞していたのだが、今年は「埋め要員」の心配をする必要もないくらい25×2=50の書き手&コンテンツが揃った、ということで、実に素晴らしいことだな、と。

世の中全体に傾向に合わせて、法務の世界でも、2010年代に入って以降、良質かつコンスタントに書き続けられているブログはかなり減ったという印象があったので、そこはしばらく気になっていたのだけど、”note”が普及した影響もあってか、またちょっとずつ新しい「書き手」の方が増えているのだとすれば嬉しいことだ。

表のオープニング(12月1日付)からして、id:kanegoontaさんの以下のエントリーだから、この勢いそのままに、再び(第3次くらいの?)法務ブログブームが訪れてくれることを願っている*3
kanegoonta.hatenablog.com

で、「50」のコンテンツの内容に関していえば、自分は基本的に個人のブログってものは、他人の反応など気にせず自分が書きたいと思ったことをストレートに表現すればよい、と思っているので、少々あれ?と思うものがあっても、それに対して逐一論評するつもりはない。

宣伝色が強い、とか、横文字が飛び交い過ぎて何が言いたいのか分からない、等々のヤジも聞こえてはきたが、その人がそれを書きたいと思ったのならそれでいいし、後は読んだ人それぞれが、その人たちの次の言葉に耳を傾けるかどうかを決めればよいと思うので。

また、かかわっている世代も業種も働き方も広がっている中、書かれているテーマにも相当散らばりはあったのだが、そんな中、「転職・スキルエントリーのシークエンス」*4だったり、二夜連続のアニメシリーズ(裏)*5だったり、といった流れができていたのはさすがだった。

表の方で、15日のid:10ruさんの災害救助法関係のエントリー(HOMEが被災した。|10ru|note)から、16日、id:AkifumiMochizukiさんの中国民法典(法務系Advent Calendar 2019(中国民法典と準拠法の化石化条項について)|Akifumi Mochizuki|note)、さらに17日、id:マギー住職さんの映像素材の権利処理の話(「全裸監督」の題材となったセクシー女優さんの「権利処理」はすべきだったか|マギー住職|note)と、法務実務者の好奇心を刺激するコアなネタが続いたところで、「これってホントにいい企画だなぁ」と思った人も決して少なくなかったことだろう。

リーガルテックに関しては、様々なエントリーが乱れ飛んだ感はあるが、「裏」初日のid:NH7023さんのいちユーザーとしてのリーガルテックへの想いと期待 #裏LegalAC : 法務ライフスタイルや、終盤のmsut1076さんの企業法務マン迷走記2:タイムカプセル #legalACが、一部の”先走った感覚”をリアルなところに引き戻してくれているような気がして、全体としてみればバランスの良いコンテンツ、ということになったのではないだろうか*6

そして、先に挙げたid:msut1076さんのエントリー然り、id:kataxさんのエントリー(正解を追う #legalAC : 企業法務について)に、id:keibunibuさんのこんな「せめの法務」は嫌だ!: 経文緯武と、いろんなbuzzワードが飛び交っている時だからこそ、常連ベテランの皆さまのキリリと光る一言にも、これまで以上の重みがあったかな、と。

*1:もちろん、押しているのは仕事だけではなく、最低週3回くらいはコンスタントに入る忘年会のせいでもあるのだけど、それも含めて「12月」だから・・・。

*2:そんなわけで、小田和正スピッツの気持ちもちょっとは分かるような気がする。

*3:もっとも、Twitterとブログの間にはかなり距離はあるので、自分の中で「書き続けるための軸」をどれだけ持てるかが続けていくためのカギになるのではないか、と。「他人に見てもらうための軸」じゃなくてね。

*4:2日・id:dtkさん 中から外へ - dtk's blog(71B)→3日・id:NH7023さん抽象化した退職エントリー #LegalAC : 法務ライフスタイル→6日 id:seko_lawさんコンサルティングファームを退職し、プライバシーカウンセルとして働くことになりました。 - 思い出したいことがある→6日(裏)id:Chihiroさん 他職種に就いてから活用できた法務経験TOP10 - coquelicotlog→7日 id:nakagawaさん法務の経験があればどの職種でも通用...なんてしないよ - リーガル・レバレッジ

*5:11日 id:ahowataさんアニメ・漫画・ゲームの企業法務実務への活用の実践例20選 - アホヲタ元法学部生の日常→12日id:ちくわさん【法務・アニメ】法務に役立つかもしれなくもないアニメ10選 - ホップ・ステップ・法務!

*6:個人的には、これまでの資金の流れがいつ逆回転するか分からない状況で、乱立している感もある今のリーガルテック企業がどう「EXIT」を図っていくのか、そしてこれまでに開発された様々なプロダクトのうち、何が、どういう形で残っていくのか(&AI審査機能は実用に耐えなくてもライブラリ検索機能は導入に値する、といった”惜しい”状況をどう脱却するのか?)といった点が2020年の最大の関心事である。

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「デジタル・プラットフォーマー」をめぐる今年の議論の締めに。

2019年、という年を法務的見地から振り返った時に、「今年一番のトピック」として挙げられるのは、春以降一気に盛り上がった「巨大プラットフォーマー規制」の話題だと自分は思っている。

「別にうちはIT系のプラットフォームなんて展開してないから興味ない」という人もいるのかもしれないが、今の世の中、広告でも商品販売でも代金決済でも、デジタル・プラットフォームと無縁で商売することはできない世の中になっているし、仕事を離れて一消費者となればなおさらだ。

しかも、この問題、個人情報保護法から独占禁止法、さらには消費者法まで複数の法領域にまたがる上に、元々わが国とは土台が異なる欧州(おって米国)の問題意識がストレートに持ち込まれたこともあって、それぞれの法の守備範囲や私企業に対する行政規制・監視の在り方まで、これまでとは異なる発想が次々と飛び出してきている*1

公取委が行った「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」原案に対する意見募集が141件に達し、個人情報保護重視派から優越的地位濫用規制の拡大懐疑派まで、様々な角度から鋭い指摘が加えられている*2ことからも分かるように、これは誰もが納得できるような答えを簡単に出せる話ではない*3

www.jftc.go.jp

最近の立法の傾向を踏まえると、最後は落ち着くべきところに落ち着くのだろう、とは思うのだけれど、これを契機に他の分野に議論が飛び火する可能性もないとはいえないわけで、今後の法制化の過程も含めて、来年まで目が離せない。

そんな中、年末に政府の「デジタル市場競争会議」が「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)の方向性」というペーパーを公表し*4、意見募集を開始している(期限は2020年1月20日まで)。

search.e-gov.go.jp

この方向性のまとめに関しては、日経紙でもちょっと前に「巨大IT規制案を決定」という見出しで、以下のように報じられた。

「政府は17日午前のデジタル市場競争会議で、巨大IT(情報技術)企業による市場の独占を防ぐ規制案を決めた。2020年の通常国会に提出を目指す新法案では取引相手との契約条件の開示や、取引実態を政府に報告するよう義務付ける。巨大ITが個人情報を不当に収集・利用すると独占禁止法違反になるとした公正取引委員会の新たな指針案も了承した。」
「議長の菅義偉官房長官は会議で「世界的にデジタル市場のルール整備の議論が本格化している。日本として新たなルール整備のあり方を示した」と述べた。」
日本経済新聞2019年12月17日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

このペーパーの内容自体は、「方向性」を示すものに過ぎないし、既に断片的に報じられていた内容をまとめた程度のもの、という認識だが*5

(3)公正取引委員会との連携(3頁)
・本法における規律を超えて独占禁止法違反のおそれがあると認められる場合については、公正取引委員会に対し、同法に基づく対処を要請する仕組みも設ける。

とか、

(4)その他の規律(3頁)
a)取引事業者による情報提供を容易にする手当て
・取引事業者が行政庁に情報提供しやすい制度的対応を行う。例えば、報告徴収によって契約上の秘密保持義務を解除
b)主務大臣
・ 取引に関するルール整備を所管する経済産業省が中心となりつつ、公正取引委員会総務省の所掌事務に応じて、連携・共同して対応する方向で検討。
c)国内外の法適用
本法の規律は、内外の別を問わず適用。このため、現状海外事業者にも適用が行われている独占禁止法の例等も参考に、国内代理人の設置、公示送達等の手続の整理も含め手段を検討

といった記載に接すると、法執行ポリシーの話から、具体的にどう実効性のある制度を作るのか、というテクニカルなところまで、いろいろと興味は尽きない。

*1:これまでの自分の問題意識に関しては、折々でエントリーを上げてきているのだが、今年を振り返る意味も込めて、改めて主なものを再掲しておく。k-houmu-sensi2005.hatenablog.comk-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*2:もっとも、どこまで内容に反映されているか、といえば、「プラットフォーマー」の名称が「プラットフォーム事業者」に改まったこと以上の大きな修正はないようにも思える。

*3:その後意見公募が行われた「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」原案への意見募集でも、「データ等の重要な投入財」を有する事業者の競争法上の評価に関して、様々な意見が出されている。(令和元年12月17日)「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」の改定について:公正取引委員会

*4:https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000196589

*5:今週の日経紙のコラムでは「一年の総集編」のような体裁でよりブレイクダウンした形で、一連の問題にフォーカスした連続企画も打たれている。(データの世紀)始動・巨人規制(1)IT大手の圧力を監視 取引透明化法案で報告義務 くすぶる反発 :日本経済新聞など。

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「証券取引市場改革」は幻だったのか?

数日前から出るぞ出るぞ~と、ざわざわしていた証券取引所の上場区分の「改革」問題だが、遂に「令和時代における企業と投資家のための新たな市場に向けて」という副題の金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループ報告書(案)が公表された。

www.fsa.go.jp

この話、既に上場している新興・中堅企業にとっては極めてセンシティブな問題である上に、東証有識者懇談会で議論されている過程で野村HDグループ内の”情報漏洩”が発覚して大騒動になった*1いわくつきの問題だったのだが*2、今年の春に金融審議会*3に舞台を移して以降、無事にここまでたどり着けたのは何よりである。

で、肝心の内容についてだが、日経電子版が12月24日の時点で報じた、

東京証券取引所の市場改革をめぐる金融庁の金融審議会の報告書の概要が24日、わかった。現在の1部、2部などの4市場を3市場に再編するよう促す。新たな1部(仮称・プライム市場)に新規上場するには市場で売買可能な「流通時価総額」で線引きし、100億円以上を目安として示す。現在は市場で流通していない株式も含めた時価総額で250億円以上を基準としている。世界の機関投資家にとって売買しやすい市場づくりを狙う。
日本経済新聞電子版 2019年12月24日 15時08分配信、強調筆者、以下同じ。)

という記事に接したときは、春先に話が出ていた「250億円」という数字とは異なるものの、基準を「流通時価総額」に変えたらそうなるよなぁ(むしろ厳しくなってるよなぁ)、これで一部から転落する会社も結構出てきそうだなぁ・・・と思った人も決して少なくはなかったことだろう。

ところが、翌25日朝刊での報道や、金融審議会で了承後の夕刊・翌日朝刊での報道が続く中、雰囲気は一気に変わってくる。

それを象徴するのが以下の記事。

「金融審議会は25日の会合で、東京証券取引所の市場改革に関する報告書案を大筋で了承した。最上位の新1部(仮称・プライム市場)は、現在の1部上場から降格を強いるような線引きを避ける結果となった。東証は新市場の骨子を2020年2月までに示す。金融審から議論を引き継ぐ東証が上場企業の経営改善や新陳代謝を引き出す改革に結びつけられるかがカギになる。」(日本経済新聞2019年12月26日付朝刊・第2面)

そう、今回の基準見直しがあくまで「新規上場」に関するもので、既存の上場企業に対する強制的な上場区分変更はしない、というトーンが前面に出る形になったのである。

報告書(案)*4を見てもそれは明らかで、既に一部に上場している企業や、既にマザーズ上場を果たしていてそこから一部指定替えを目指している企業に対しては「新しい基準」を適用しない、という方向性が明確に示されている。

「プライム市場に今後新たに上場する企業の時価総額に関する基準については、現在の市場第一部においては時価総額が大きくても取引されている株式が少ない銘柄もあるため、より市場における流動性に着目する観点から、単純な時価総額だけではなく、「流通時価総額」を基準とすることが適当と考えられる。なお、この機会に現在の流通株式の定義についても見直しを検討することが考えられる。」(3頁)
「現在、マザーズ市場等を経由した市場第一部への上場基準は、市場第一部に直接上場する際の時価総額よりも緩和された基準となっているが、これについても新たな基準に一本化することが適当と考えられる(注4)。」(3~4頁)
「注4 マザーズ市場等の上場企業の中には、現在の緩和された基準を念頭に既に市場第一部への上場に向けて取り組んでいる企業もある。こうした企業については、所要の規則改正(この部分は全体の規則改正に先行して実施することも考えられる。)までに申請を行った社に限り、緩和された時価総額基準に基づき所要の審査を経て市場第一部への上場を認めることが考えられる。」(4頁)

そして、その背景にある思想まで報告書(案)にはきっちり書き込まれている。

「これまでのヒアリング等を通じて、市場第一部上場企業は、上場基準の遵守や東京証券取引所によるモニタリングなどを通じて、国・地域における主要企業としてのブランドイメージが確立され、雇用や取引に当たっての信頼性・安心感を与える源泉となるなど、当該企業のステークホルダーに対して有形・無形の多大な価値を提供していることが確認された。このことは既に市場第一部上場企業に投資を行っている投資家から見ても、企業価値に反映されているのではないかと考えられる。」(5頁)

今さら何を、という感もあるが、まぁそういうことなのだろう。

ただ、それだけで良いのか、というのがここでの問題。

*1:情報漏洩の野村HD、企業風土を変えられず:日経ビジネス電子版など参照。

*2:「情報漏洩」というのも、今年の一大トピックになってしまった感はある。これまでなら当たり前に行われていたようなことでも、特定の琴線に触れてしまうと「大問題」になってしまう、という怖さを多くの人が改めて思い知らされた一年でもあった。

*3:ちなみに、金融審の市場ワーキング・グループと言えば、これも今年沸騰したネタである金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書の公表について:金融庁を苦々しく思い出す方もいらっしゃるのかもしれないが・・・。

*4:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market-str/doc/1224/01/01.pdf

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年末になってようやく・・・の「情報システムモデル取引契約書」改訂

2019年もあとわずか、そして年が変われば改正民法施行までたったの3か月・・・という状況の中、注目されていた経済産業省筋の情報システム・モデル取引・契約書(改正民法対応版)がようやく公表された。

情報処理推進機構IPA)は24日、2020年4月の民法改正を踏まえて改訂したシステム開発に関する契約書のひな型を公開した。同ひな型を活用することで、ユーザー企業とITベンダー(システム開発会社)はシステムにバグが潜んでいた場合の責任分担といった民法改正に伴うリスクを減らせる可能性がある。」
経済産業省が07年に公開した「情報システム・モデル取引・契約書」のうち、民法改正に直接関係する点を見直した。ひな型はIPAのウェブサイトから無償でダウンロードできる。改訂版はユーザー企業やITベンダー、業界団体、法律の専門家といった有識者の議論を踏まえて作成した。」
(日経クロステック2019年12月25日13時35分配信/システム開発のモデル契約書を改訂 民法改正に対応 :日本経済新聞、強調筆者、以下同じ)

ソースは以下のリンクとなる*1

www.ipa.go.jp


今年に入ってから既に、民法改正に対応したシステム関係のモデル契約書の改訂版として、一般社団法人情報サービス産業協会*2]や、一般社団法人 電子情報技術産業協会*3の作成した資料は既に公表されていたのだが、これらの団体が出す資料はどうしてもベンダー色が強いものだから、数だけで言えば世の中の多数を占める「発注側」の立場からは、どうしてもバイアスがかかったものに見えてしまう。

もちろん、記されている考え方にはシステム開発以外の請負契約にも援用可能なものが含まれているし、交渉で対峙した際の相手の手の内を知る、という観点から、発注側にとっても非常に貴重な資料ではあるのは間違いないのだが、他の考え方も示してほしい、というニーズは当然存在した。

そんな中、満を持して公表されたのが、今回のIPAの解説と改訂契約書雛型、ということになる。

元々、ベースになっている経産省の2007年「情報システム・モデル取引・契約書」が、本当に中立的なものといえるのかどうかは疑問の声も呈されているところであり*4、今回の発表の中で、いかに「ユーザー企業、ITベンダー、業界団体、法律専門家の参画を得て議論を重ね、中立的な立場でユーザー企業・ITベンダーいずれかにメリットが偏らない契約書作成を目指しているところが特長です。」と強調されたところで、半信半疑・・・という人は多いかもしれない。

しかし、少なくとも今回の改正対応に関しては、解説等を読む限り、「中立」的な思想で行われた、といっても良いのではないか、というのが自分の素朴な感想なわけで*5、以下、今回挙げられた見直しポイントに触れつつ、思うところを述べてみることとしたい。

*1:改訂趣旨の解説そのもののリンクはhttps://www.ipa.go.jp/files/000079617.pdf

*2:[https://www.jisa.or.jp/publication/tabid/272/pdid/30-J002/Default.aspx

*3:https://home.jeita.or.jp/cgi-bin/page/detail.cgi?n=1124&ca=1

*4:Business Law Journal2019年12月号の座談会(「法務担当者が知っておくべきシステム開発紛争の要点」)で飛び出した上山浩弁護士の「私は、2007年にモデル契約書の第一版を作成したときの委員でしたけど、非常にベンダ寄りだと考えています」(20頁)という発言は実に象徴的である。すかさず平野高志弁護士(今回の「モデル取引・契約書見直し検討部会」においても主査を務められている)から反論が飛び出したものの、同じく2007年に関与されていた野々垣典男氏から再度「ベンダ側に押されたかなという部分があるのは否めないですね。」と切り返されている。

*5:もちろん、元々ベンター寄りの契約思想になっている、と考えるなら、改正対応が中立的でも依然としてベンダー有利な契約書雛型になっていることに変わりはないのだが・・・。

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勝っても負けても「牝馬」が主役だった有馬記念2019

月日が過ぎるのは早く、今年も競馬開催は遂に最終章。
そして、めでたく有馬記念の日を迎えた。

ここ数年と同様に、今年も有馬記念の日は年内最終開催日ではないのだが*1、気持ち的には、今日が今年の終わりで、次の土曜日から2020シーズンが始まる、という感覚の方がしっくりくる・・・というくらい、一年を象徴する馬が揃ったグランプリレースとなった。

馬柱に載った16頭、全て見回しても「なぜここにいる?」という馬は一頭もいない。

今年のG1馬、という条件でリストアップしても、大阪杯アルアイン(牡5)、皐月賞・サートゥルナーリア(牡3)、天皇賞・春・フィエールマン(牡4)、宝塚記念(&コックスプレートリスグラシュー(牝5)、菊花賞・ワールドプレミア(牡3)、天皇賞・秋(&ドバイターフ・アーモンドアイ(牝4)、ジャパンC・スワーヴリチャード(牡5)と、実に7頭が揃った。これに今年は無冠だがGⅠタイトルはちゃんと持っているレイデオロ、キセキ、シュヴァルグラン、アエロリット、といった面々が続く。

海外も含めたローテーションの多様化でタイトルホルダーが分散している、という事情はあるし、これらのメンバーを含む12頭が同じ牧場(ノーザンファーム)の生産馬で占められている、という業界的には決して好ましくない話題もあるのだが、それでもこれだけ豪華なメンバーのマッチアップとなれば、当然面白みも増す。

そして、それにもかかわらず、事前のオッズは、中山コース未経験、2500mの距離も???だったアーモンドアイが1.5倍の一本かぶりになっていたことが、馬券好きの挑戦心も刺激した。

本当なら、芝2000mの香港カップに出て圧勝劇を飾るはずだった馬が、たった一日の熱発で目標を変更。
フィエールマンの鞍上に決まっていたC・ルメール騎手を「強奪」し手まで体制を整え、国枝調教師をはじめとする陣営も決してネガティブな発言はしていなかったとはいえ、本当にグランプリホースの座を狙っていたのであれば、最初から有馬記念直行のローテーションを組んでいたはず。

いかに規格外の馬といっても、有馬記念は”寄り道ついで”でとれるようなレースではなく、独特のコース形態への適性によっても大きく結果は左右される*2

それゆえ今回は「消し」と割り切ったところから、自分の有馬記念での久々のクリーンヒット(?)は生まれた。

*1:28日に最後の開催日&最後のGⅠ・ホープフルSが予定されている。

*2:ここしばらく菊花賞勝馬有馬記念で好成績を残し続けているのも、「そこそこスタミナを消耗したところでの瞬発力勝負」という共通点があるからだと自分は思っていて、そこから出てきたのが、ワールドプレミア本命、という今年の予想でもあった。

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