「ブックガイド」が出る前に。

いよいよ年末進行モードということで、Twitter上では、毎年恒例のBLJブックガイドの登場を待ち望む(?)つぶやきもチラホラ見かけるのだが、今日の時点ではまだ書店には並んでおらず・・・。

ということで、自分の中では”もう一つのブックガイド”となっている先月発売の法律時報(2019年12月号)の特集(2019年学会回顧)より。

法律時報 2019年 12 月号 [雑誌]

法律時報 2019年 12 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 雑誌

自分がこの特集が好きなのは、毎月法律時報の巻末に載っている大量の「文献月報」の中から主だった書籍、論文を取り上げて網羅的に論評する、という仕事の細やかさゆえで*1、某高名な先生のように毎月目を通してピックアップする、という作業を自らしたくてもできない自分のようながさつな人間にとっては、本当にありがたい企画なのだ。

そして、主に企業サイドの実務家が論評するBLJ誌とは異なり、こちらは研究者の視点で分析、紹介がなされている、という点で、新しい発見が多い、という理由ももちろんある*2

例えば、「民法(財産法)」に関する章*3の「2(6)債権法改正」で取り上げられている安永正昭=鎌田薫=能見善久監修『債権法改正と民法学Ⅰ~Ⅲ』のシリーズなどは、昨年のBLJの座談会で紹介されたのを見かけたときはそのまま流してしまったのだが、こちらでは、山野目章夫の所収論稿(「改正債権法の社会像」)等について詳細かつ興味を引く解説が付されており、高価な書籍なのを承知の上で、それでも読みたくなってしまう絶妙な紹介になっている。

債権法改正と民法学I 総論・総則

債権法改正と民法学I 総論・総則

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務
  • 発売日: 2018/10/03
  • メディア: 単行本

他の法領域に関しても、一通り読んでおいて損はない特集企画である。

で、そんな中、異彩を放っているのが、

「最初に、従来の学会回顧とは大きく趣の異なるものになることを、あらかじめお断りしておきたい」(93頁)

というフレーズで始まる、水野紀子・東北大学教授の「民法家族法)」に関する章である*4

自らの学会回顧を「はるかにわがままで、かつ雑なもの」と謙遜されている水野教授だが、この企画の意義を「客観的な(儀礼的な?)紹介よりは、独断と偏見とはいえ、評価を含めた紹介であること」に見出したうえで、それに続けて以下のように述べておられるくだりは、実に強く印象に残った。

「私が学部を卒業して研究室に残った頃に、まず受けた教育は、学説を批判することをためらってはいけないというものであった。批判は対象となる学説への敬意である、指導教授の学説を完膚なきまでに批判して崩す『親殺し』は指導教授への最高の恩返しである、まして学説批判が人間関係には一切影響してはならない、という教育であった。」(93頁、強調筆者、以下同じ。)

現実には、「批判」されても人間関係には一切・・・というわけにはなかなかいかないだろうし、「批判するにも言葉を選べ」という批判も当然あり得るところだと思うのだけれど*5、おもねり、空虚な言葉でもてはやす前に、具体的な指摘に基づく批判こそが、「敬意」を示す最大の方法である、という点には自分も全く異論はない*6

そして、あえてここで付け加えるならば、対象が書かれている内容であれ、書籍・論文の構成であれ、「批判」されているものには、それだけの「価値」が認められているのだ*7、ということも忘れてはいけないところだよな、ということ。

”書き手”として一番悔しいのはスルーされることだ、ということは筆者自身も身に染みて分かっているだけに、よく評価された本の著者は素直に喜び、ネガティブな評価が下された本の著者は、ムカッ腹を立てつつも、「それだけ世の中で自分の著作が認知された証だ」とほくそ笑む、というのが、「批評」世界の正しい楽しみ方ではないかと思うのである。

*1:同じようなコンセプトの企画は『年報知的財産法』にもあって、こちらも毎年楽しみにしている。

*2:当然ながら、これはこの企画固有の、というよりは、この雑誌そのものの魅力でもある。

*3:田高寛貴=伊藤栄寿=熊谷士郎=高秀成=谷江陽介=瀧久範「民法(財産法)」法律時報91巻13号65頁(2019年)

*4:法律時報91巻13号93頁以下(2019年)

*5:この点水野教授の論稿は、ここまで書いておられつつも、棘を感じない文体に加え、矛先が特定の研究者に向かないように、というところにもかなり気を遣っているように思われる論稿になっており、さすが第一人者というべきだろう。

*6:さらに、この後に続く、相続法改正や、所有者不明土地問題に対するコメント等、この水野教授の論稿には、本当に読むべき箇所が多々あるように思われるだけに、読み飛ばしは禁物である。

*7:価値がないと思われているもの、存在感がなく気付かれていないものは、そもそも論評の対象にすらならない。

今年を回顧するにはまだちょっと早いけど。

本当にいろんなことのあったこの一年。

ここからの10日ちょっとで何があるか分からないから、まだ振り返るには早いのだけど、日経紙の「TOKYO2020」面に載っていたプロランナーの一言が、自分の今の素直な感覚にすごくフィットしたので、ここに引用して残しておくことにしたい(日本経済新聞2019年12月20日付朝刊・第37面)。

「今までやりたくてもできなかったことが仕事としてできる。好きなことを仕事にするのはこんなに心が豊かになるのだと感じています。」

先日の防府読売マラソンに福岡国際からの中1週で臨み、見事100回目の完走を果たした川内優輝選手の至言である。

彼が「公務員ランナー」として存在感を発揮していた時期は、自分が「社員弁護士」だった時期とほぼ重なる。

比較するのもおこがましいくらいスケールの大きな世界で戦ってきた選手を自分に重ねるなど失礼極まりないのは承知の上で、それでも、実業団所属の「(セミ)プロ」ランナーと同じレースに出て、時に国内最高峰の、あるいは海外の大舞台で彼らを凌駕する戦績を残す川内選手の走りを自分もずっと応援してきたし、時折飛び出すコメントから何となく伝わってくる”もどかしさ”にも共感できるところは多かった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

だから、今年の4月、どこの企業にも属さない「名実ともにプロ」、という道を彼が選んだ、というニュースが流れた時は心底びっくりしたし、それがまた筆者自身の転機とも見事に重なった、ということに苦笑いしたりもした。

でも、冒頭に引用した一言を読んで、世界は違えど、やっぱり共通するものはあったんだろうな・・・と。

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意外な、そして実にビジネスライクな結末。

以前、このブログでも何度か紹介したMHPSをめぐる親会社同士の紛争*1

いかに仲裁のウリが「短期決着」といっても、これだけの規模(申立て時点で約7,743億円)の案件となるとそう簡単に決着がつくはずもなく、日本商事仲裁協会規則の見直し等、一時期、日本国内の仲裁手続きにスポットが当たりつつあった間も、鳴りを潜めていた感があったこの事件だが、2019年の年の瀬、申立てから2年半近く経ってようやく決着を見た。

三菱重工業日立製作所は18日、損失負担を巡って意見が対立していた両社の共同出資会社、三菱日立パワーシステムズMHPS)の火力発電事業について和解が成立したと正式発表した。日立が保有するMHPSの全株式の譲渡や和解金の支払いで3780億円を日立が負担する。日立は火力発電機器事業から事実上、撤退。今後は発電所の保守サービスなどをてがける。」
日本経済新聞電子版2019年12月18日17時47分配信)*2(強調筆者、以下同じ)

申立て時には長大なプレスリリースで自己の立場をアピールした三菱重工側も、今回は、さらっとしたペーパーを出しただけ*3

それも、「本和解は、両社の誠実かつ真摯な協議の成果です」「和解による決着を迎えたことを喜ばしく思います」という趣旨の、極めて友好的で前向きな両社社長の和解コメントが掲載されている、ということで、日本経済を担う大企業同士の「大人の解決」という感があふれる決着劇となった*4

ここで気になったのは、今回の決着のさせ方である。

記事によると、

・日立から三菱重工2000億円の和解金支払い

という本筋のほかに、

・日立のMHPS子会社に対する債権700億円相殺

というオプションもついている。

そしてさらに極めつけは、

・日立が保有するMHPSの35%の全株式を三菱重工に2480億円で譲渡する

という内容だろう。

鳴り物入りで設立した会社に関してこれだけの一騒動が起き、しかも日本初の司法取引(協議・合意制度)適用案件となったタイの贈賄事件*5にも親会社間の駆け引きが影響していると噂されていたような状況で*6、この先、MHPSをめぐる資本関係がどうなるのか?という疑問は誰もが抱いたはずだが、そこであっと驚く日立の全株式売却・事業撤退、という形でけりが付けられる、というのは、さすがに自分の想像できるところではなかった*7

発表翌日の朝刊では、

「そんな中でも三菱重工があえて完全子会社に踏み切るのは、残存者利益が大きいためだ。実際、三菱重工は譲り受ける35%分のMHPS株の価値を3500億円以上と評価したもようだ。」(日本経済新聞2019年12月19日付朝刊・第13面)

と、三菱重工が(名だけでなく)「実もとった」という取り上げられ方になっている。

だが、その記事にも書かれているとおり、火力発電設備事業というのは、決して将来有望と言えるような事業ではない。

そもそも、三菱重工、日立とも、それぞれの会社が単独で事業を営んでいくのがなかなか厳しい事情があったからこそ、あえてこの事業を切り出して「合弁」という形にしたのだろうし、「脱炭素」の嵐は世界中を容赦なく吹き抜けていて、今の事業環境は5年前以上に厳しくなっているようにすら思える。

だからこそ、そう簡単に合弁を解消することはできないだろう、というのが自分の読みだったのだが、そこで「火中の栗」を拾いに行った三菱重工・・・。

*1:k-houmu-sensi2005.hatenablog.comk-houmu-sensi2005.hatenablog.com参照。

*2:三菱重工と日立、南アフリカの火力巡る和解を正式発表 :日本経済新聞

*3:https://www.mhi.com/jp/news/story/pdf/191218.pdf

*4:それでも、日立の方は特別損失で当期利益等の予想を大幅下方修正することも同日発表しており、決して”傷”なき解決だったわけではないのだが・・・。https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2019/12/f_1218d.pdf

*5:初の司法取引適用公判、元取締役に有罪判決 タイ贈賄事件 - 産経ニュース参照。

*6:三菱日立パワーシステムズの幹部が「司法取引の犠牲者」となった背景(北島 純) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)参照。

*7:これがSHAのコールorプットオプションを行使した結果なのか、それとも今回の和解協議の過程で出てきた全く新しい合意なのかは知る由もないが・・・。

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大学入試改革、迷走の末に。

先日の「英語民間試験」問題に続き、「記述式」も消えた。

「2020年度に始まる大学入学共通テストで導入予定だった国語と数学の記述式問題について、萩生田光一文部科学相は17日、同年度の実施を見送ると表明した。50万人規模が受験する試験で、記述式の採点を巡る問題は当初から懸念されてきた。もう一つの目玉だった英語民間試験の活用も既に頓挫しており、巨大テストの役割が改めて問われている。」(日本経済新聞2019年12月18日付朝刊・第2面)

ここ数か月の議論の過程をつぶさに見てきたわけではないが、「採点」云々という話でいえば、他の数万人規模の資格試験でも、あるいは大学の二次試験でも”質”とか”ブレ”の問題はあるわけで、そこまで問題にする話かい? と思ったところはある*1

「一次選抜に使われる試験だからすぐに結果が分からないようでは困る・・・」というニーズも多少はあるのだろうが、一瞬で自己採点ができるマークシート方式でも、足切りのボーダーライン周辺の点数だと、次の選択に悩むことに変わりはないわけで、そこまで決定的な消極要因になるわけではない。

だが、それでも逆風がやまなかったのは、新しいスタイルを正当化するような説得力のある理屈がないまま、長年定着してきた「センター試験」の形を変えることへの戸惑い*2に加え、今の長期政権の下で最近やたら目に付く「特定業界が受ける恩恵」へのシニカルな感情が、政治的な事情に絡んで、多くの人々のフラストレーションが沸点に達したからだろうと自分は思っている。

で、このニュースが報じられた日の日経紙で、特に際立っていたのが横山晋一郎編集委員の以下の署名記事である。

「明治以来の大改革」と大風呂敷を広げ、共通試験の複数回実施や一点刻み入試からの脱却、合科目型出題など様々な論点を掲げた顛末(てんまつ)は事実上の現状維持。受験生を翻弄しただけだった。
迷走の原因は何か。思いつきのアイデアをぶち上げた政治・首相官邸。無理筋と知りながら従った文部科学官僚。ビジネスチャンスとばかりに飛びついた教育産業。現場の負担を口実に現状維持に走った高校……。だが、最も責任を負うべきは、当事者意識もなく国に追随した大学だろう。
入試とは自分たちが教えたい学生を、自分たちの責任で選抜する取り組みだ。最重要事項のはずなのに、大学、特に国立大学は受け身に徹した。
目的も実施方法も異なる複数の民間英語試験を入試で本当に使えるのか。50万人規模の試験で記述式問題の採点を、公平・公正かつ迅速にできるのか。大学が多様化する中で大規模の共通試験に意味はあるのか……。論点は山積したが、個々の大学も国立大学協会も「国の方針が固まっていない」と正面からのオープンな議論を避け続けた。
日本経済新聞2019年12月18日付朝刊・第42面)

実に厳しいコメント。

所詮は「一次選抜」に過ぎない試験で、使えないと思えば二次試験に比重を置けばよいだけなのだから、国立大学にそこまでの当事者意識を求める必要があるのか?という意見も当然あり得るところだろう。

ただ、「唇寒し・・・」で、なかなか官邸主導の施策にモノ申しにくい今の時代には、これくらいの喝があっても良いのかもしれないな、とも思うところ。

中長期的な視点で言えば、これからますます「黙っていても優れた人材をふるいにかけられる」という時代ではなくなっていく以上、大学が「学生の質」で競争しようと思ったら、小手先の入試改革では到底対応できず、大学の方から積極的に中高年代の生徒にアプローチして早めにフラグを立てて引っ張ってくる、という時代が遅かれ早かれ来るとは思うので*3、”その他大勢”のための入学試験は、むしろ「偉大なるマンネリ」で良いような気もするのだが、今は、この頓挫劇から、誰がどういう方向に議論を走らせていくのか、ということに注目しながら、これからの動きを見守っていくことにしたい。

*1:その意味で、この種の選抜試験を突破するためには「運」も不可欠の要素というほかない。

*2:受けたことのある人間ならわかると思うが、あの試験は単純な暗記だけで高得点がとれるような試験ではなく、最低限の思考力、判断力の有り無しは十分に判断できる試験だと自分は思っている。

*3:学生スポーツの世界で行われているようなことが、いずれそれ以外の世界でも起きるようになる、ということである。

見え始めた世代交代の息吹。

今年も遂にやってきた年末の風物詩、日経新聞法務面の「企業法務・弁護士調査」。

これで「15回目」ということだから、始まったのは2005年ということになるが、なんとも恐ろしいことに、このブログでは第1回*1から、多分一度も欠かさず、この年に一度の特集記事を取り上げている。

長年の読者であれば、自分が「調査」に対して毎年ぶつくさ言っているのは重々ご承知だと思うし、特に本来なら「コア」となるはずの本題に関しては、今年も評価できるのは2年も引っ張った「社内弁護士」ネタをやめたことくらいで、中身にコメントする気分には到底なれないのだが*2、毎年のお約束として取り上げている「企業が選ぶ弁護士ランキング(2019)」だけは、今年もやはり取り上げないわけにはいかない。

<企業法務分野>
1.中村直人(中村・角田・松本)16票
2.太田洋(西村あさひ)13票
3.野村晋右(野村綜合)11票
4.沢口実(森・浜田松本)10票
5.柳田一宏(柳田国際)9票

そう、今年も中村直人弁護士がトップの得票数で、堂々の8年連続1位を達成。

中村弁護士がこの企画で首位を奪回されたのは、それまで評判が悪かった「企業票+弁護士票」ではなく、「企業からの得票数」だけの順位を発表するようになった2012年のことだったのだが、それ以降、一度も首位を譲っていないのだから、これはもう素晴らしいというほかない*3

そして、もっと驚くべきは、今回2位に入っている太田洋弁護士も、中村弁護士が制したこの8年の間、7度の2位*4、という地位を保ち続けておられることだろう。

あたかも、V9時代の巨人と阪神の関係を彷彿させるような伝統の対決。

今思えば、過去には、中村弁護士と太田弁護士がわずか「1票」差だった*5という歴史もあるわけで、今年も前年よりは差を詰めて僅か3票差。

それでもあとちょっとのところで手が届かない、というもどかしさは、江夏豊田淵幸一の時代のタイガースファンの心情とも重なるところがあるのだが、これもまた運命、ということなのかもしれない。

・・・で。

もう何年も、このブログがこのランキングを取り上げつつ、「マンネリだなぁ」と悪態をついていたのは、皆さまご承知のとおり*6

今年も上に出てくる顔ぶれだけ見れば、同じセリフになるのかもしれない。

だが、電子版で「6位以下」の顔ぶれを見ていくと、今年事務所を旗揚げされたばかりの三浦亮太弁護士が8票獲得で6位。

さらに、ここ数年、健闘されている塚本英巨弁護士(アンダーソン毛利)、倉橋雄作弁護士(中村・角田・松本)といった30代の弁護士がランクインされたことで、これまでと比べると「可能性」を感じる結果となっているし、他の部門に目を移すと、「データ関連」で、影島広泰弁護士に続いて堂々のの2位に食い込んだ石川智也弁護士(西村あさひ)もこれまた30代。

もちろん、この世界、「経験」が醸し出す安心感、というのが、クライアントにとって非常に大きいのも確かだから、”若返り”が進めば進むほど良い、というわけでは全くないのだが、10年前、20年前に「新進気鋭の若手・中堅」だった先生方がそのまま持ち上がって、紅白歌合戦の最後の1時間の枠を独占し続けているような状態は、もうちょっと何とか・・・と思うところもあるわけで、ちょっとずつ見え始めた変化が来年以降どういううねりになっていくか、これからじっくりと見定めていければ、と思っている。

*1:当時はまだ「企業法務・弁護士アンケート」という企画だった。日本経済新聞社「企業法務・弁護士アンケート」 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~ 元々、「日経ビジネス」誌ではこの手の弁護士ランキングの企画が時々行われていて、久保利英明弁護士の独壇場、と言わんばかりの世界になっていたのだが(ご本人の著書の中にもその辺の歴史は出てくる)、ちょうど”世代交代”的な雰囲気になっていたところで新聞紙上での企画が始まり、その流れで「四大」のスター弁護士たちの名前が次々と紙面を飾るようになった、ということで、今思えば、この企画の始まりが一つの時代を作った、と言えるのかもしれない。

*2:だって、メインテーマが「米中貿易摩擦」だから・・・。アンケート回答企業に大手製造業が多く、調査対象の弁護士にも渉外系の事務所に所属する弁護士が多いため、だとは思うが、法務業界全体の関心事からは、やはりちょっとズレているような気がする。

*3:しかも、電子版に掲載された「総合」ランキング(弁護士票を合算したランキング)でも、中村直人弁護士は堂々の首位である。www.nikkei.com

*4:唯一の例外が2016年で、この年2位に食い込んだのは野村晋右弁護士だった。そして、今年も波乱なき年の瀬。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*5:2014年のランキング、年の瀬にようやく出た弁護士ランキング。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

*6:特に悲嘆に暮れていたのは、2年前のことだっただろうか。「クボリ伝」を読んだ直後だった、ということの影響もたぶんにあったのだが・・・。マンネリ化した余興とそれに踊らされる人たち? - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~

またしても獲れなかったタイトル。

いよいよ残すところあと3週、今年のラストスパートに差し掛かっている中央競馬

この2日間の間に、岩田康誠騎手が1600勝、幸英明騎手が1400勝、坂井、武藤、横山武といった若手騎手たちが次々と100勝を挙げ、さらに藤田菜七子騎手も中央+地方で100勝、そして、今年デビューの小林凌大がようやく初勝利、と、いろいろ節目の出来事もあった。

で、そういう流れになってくると、今年こそ初勝利を!ということで、メインのGⅠ・朝日杯FSでは、同レース20回目の騎乗となる武豊騎手&タイセイビジョンに期待するところ大だったのだが・・・。


結果は、見事なまでの完敗。

もちろん、同じ京王杯2歳S組でも、昨年4着に敗れたファンタジストのレースぶりに比べると、後方から直線きっちり追い込んで見せ場を作った(2着)という点で格段の良さはあった・・・が、負けは負け。

ビアンフェが作り出したハイペースを難なく追走して、直線グイグイと後続を突き放したムーア騎手騎乗のサリオスに2馬身以上ちぎられてしまった*1のだから、どうしようもなかった。

リーディング争いでは久々に100勝を突破、そして、戸崎騎手がJBC開催中に落馬負傷、福永騎手も騎乗停止を食らっていた間に勝ち星を重ねて107勝*2、全国3位と大復活を遂げている武豊騎手にしてみれば、調子が良いうちに、全てのGⅠタイトルの中で「あと2つ」だけ残された2歳GⅠレースの1つを、ここで何としても潰しておきたかったはずなのだが、そううまくは行かないのがこの世界の常でもある。

ということで、来週はもう有馬記念

カレンダーのめぐりあわせ的に、”総決算”を迎えるにしては日が早すぎて、来週あれこれ考える気分にもなれなそうではあるのだけど、過ぎていく日々を惜しみつつ、筋書きのないドラマを見届けることにしたい*3

*1:サリオスはこれで3戦3勝。勝ちタイムは先週のレシステンシアにこそ及ばなかったものの、ダノンプレミアムのタイムを更新するレースレコード(1分33秒0)となった。

*2:2015年の106勝を上回り、10年ぶりの好成績になっている。

*3:急遽参戦が決まったアーモンドアイの存在が、レースを面白くするのは間違いないだけに・・・。

結局残された「事実」の曖昧さ~リクナビ問題の余波を憂う。

前日の「7pay」と並んで、こちらも法務的には格好のネタとなってしまった「リクナビ」問題。

8月~9月にかけての「第一弾」の御沙汰が出た時にも、どうにもすっきりしなかったのだが、この度、個人情報保護委員会厚生労働省から、より範囲を広げての勧告・行政指導が出るに至り、ますますげんなり、という気分になっている。

「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が就活生の「内定辞退率」を販売した問題で、政府の個人情報保護委員会は4日、トヨタ自動車など全37社の利用企業に行政指導したと発表したリクナビだけでなく辞退率算出を依頼した側も、就活生への説明不足などの問題があったと判断した。」(日本経済新聞2019年12月5日付朝刊・第1面)(強調筆者、以下同じ)

「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が「内定辞退率」予測を販売していた問題で、厚生労働省が11日、職業安定法に基づいてトヨタ自動車などデータの利用企業に行政指導した。各社が求職者に十分に説明せずに個人データを扱ったことが、採用活動を適切に進める上でも問題になったと判断した。行政指導を受けたのはほかに、三菱商事JFEスチールなど。」(日本経済新聞2019年12月12日付朝刊・第1面)

前回同様、厚生労働省は通常の「行政指導」の扱いで、オフィシャルな形では内容を公表していない。

だが、既に報道されているとおり、個人情報保護委員会は、「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」という標題でリリースまで出してきた*1。。

しかも、勧告対象となった株式会社リクルート、株式会社リクルートキャリアだけでなく、情報を利用した、とされる企業の社名まで列挙した一覧表(別紙)付きで。

これだけ世の中を騒がせ、就職活動中の学生に不安を与えた以上、リクルートキャリアから予測データを受領した企業名が公表されるのは仕方ない、という考え方はあり得るだろうし、(自分も個人的に知りたかった、という思いがないわけではなかったので)それ自体はやむを得ないところだろうと思う。

ただ、問題なのは、前回の処分公表時と同様、個人情報保護委員会の公表資料だけでは、何がどう評価されて、こういう判断に至ったのか、ということがほとんど見えない、ということである。

リクルートキャリアの方はまだよくて、「勧告の原因となる事実」のところに書かれた以下の内容を、前回の処分公表時のプレスや、リクルートキャリア社の報道発表と合わせて読めば、「やったこと」は大体見えてくる*2

①2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりに Cookie で突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。
リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。
➁ 本サービスにおける突合率を向上させるため、ハッシュ化すれば個人情報に該当しないとの誤った認識の下、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を算出していた。ハッシュ化されていても、リクルートキャリア社において特定の個人を識別することができ、本人の同意を得ずに内定辞退率を利用企業に提供していた。
➂ 「リクナビ2020」プレサイト開設時(2018年6月)に、本サービスの利用目的が同サイト内に記載されたことをもって、サービス利用企業から提供を受けた氏名で突合し内定辞退率を、算出していた。しかしながら、プレサイト開設時のプライバシーポリシーには第三者提供の同意を求める記載はなく、2019年3月のプライバシーポリシー改定までの間、本人の同意を得ないまま内定辞退率をサービス利用企業に提供していた。
➃ 本人の同意なく第三者提供が行われた本人の数は、上記➁、➂及び前回の勧告の対象となった事実によるもの等を合わせ、26,060人となった。

だが、行政指導の対象となった37社に関しては、以下のような「評価」と「指導内容」が出ているだけで、「企業名」が書かれているスペースの方がはるかに大きい。

「本サービス利用企業に対する調査の結果、本サービスに関する利用目的の通知又は公表等が不適切であったこと個人データを外部に提供する際の法的検討ないし当該法的整理に従った対応等が不適切であった。このため別紙に掲載する企業に対し、以下の事項について適切に対応するよう指導を行った。」
⑴ 利用目的の通知、公表等を適切に行うこと
⑵ 個人データを第三者に提供する場合、組織的な法的検討を行い、必要な対応を行うこと
⑶ 個人データの取扱いを委託する場合、委託先に対する必要かつ適切な監督を行うこと

どんな会社でも、採用活動時に応募者から取得する個人情報の取扱いに関しては、プライバシーポリシー上で利用目的を明記している場合がほとんどだろうし、きちんとした会社ならそれに加えて面接の前に取扱いに関する同意を一筆取るような運用も行っているはず。そして、そういった場面での利用目的は、他の個人情報と同様に、比較的広めに書かれているのが通常で、応募者の動向分析等であれば、本来の利用目的に含まれる、という考え方もあり得るはずだ。

それにもかかわらず、「利用目的の通知又は公表等が不適切」というのであれば、どういった点がそういう評価を受けたのか、また「法的検討ないし法的整理に従った対応等が不適切であった」というからには、そこでどういう対応がなされていたのか、ということについては、ここでは全く記されていない。

そもそも手続きの中で、裁判所で争われても耐えられるレベルの事実認定と、それに対する法解釈・あてはめが行われたのかどうか、ということすら、公表された資料からは全く読みとることができない。

そうなってくると、「触らぬ個人情報にたたりなし」、ということで、どの企業でも強まるのは「忌避感」だけである。

*1:https://www.ppc.go.jp/files/pdf/191204_houdou.pdf

*2:提供元では個人識別できないCookie情報を提供する行為を「法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービス」と断定しているくだりなどは、”後付けの理屈じゃないか!”と一言二言いいたくなるところではあるが・・・。

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